上 下
11 / 50

第10話 休日②

しおりを挟む
 調べ物が終わった俺は、ギルドを出て王都中央方面へと向かった。
 途中の店などを覗きながらだったため、目的地に着いたのは一時間後だった。
 俺の目的地は、マジックアイテムを販売している商店だ。しかも、王都で最も大きな『アルヌス』という高級な店。いわゆる『王族貴族御用達の』と言うやつだな。
 冒険者でも、上位ランクしか利用していないらしい。
 当然、今の俺が買えるような品物が有るはずは無い。それでも俺がここに来た目的は、そんな凄いマジックアイテムを見るだけでも良いから見てみたい、と言う事だ。女性のウインドウショッピングのようなものだと思ってくれ。
 ただ問題は、店に入れてもらえるのか、って事。以前の、スラム民直前と言う姿では無いが、それでも、どう見てもド庶民ルック。年齢の問題もある。まあ、ダメ元ってやつだ。別に殺されたり、逮捕されたりする訳じゃ無い。よし、行こう。
 だが俺は、その高級感を前面に押し出したような店舗を見て、一瞬気圧された。……仕方が無い、前世も含めて、完全無欠のド庶民だからな。
 それでも、意を決して足を進める。
 これ位の店になると、出入り口に警備が立っている。前世の大きめの警察署前に立っているアレみたいなやつだ。ここでは、店と契約した冒険者が担当している。多分、3級以上の冒険者だろう。
 そんな警備に止められるか、と思ったのだが、意外にも止められずに入ることが出来た。
 店内に入ると、入り口以外の壁面全てがガラス張りの棚で埋め尽くされており、中央部分は腰高の陳列棚がロの字に設置されている。
 そんな配置のため、入って直ぐに店内全部が見渡せる訳だが、それは、そのまま店員からも入ってきた俺が見て取れるという事でも有る。
 その時、店内には二組の貴族らしい者が居て、店員からそれぞれ接客を受けていた。
 俺は、接客を行っていない50歳ぐらいの執事のような雰囲気を持つ店員の元へと向かう。この時、一瞬、店内に居る警備の冒険者が反応したが、それ以上動くことは無かった。
 そして、その店員さんもの元に着いた俺は、若干おどおどしつつ話しかける。
「すみません、私は駆け出しの冒険者なのですが、後学のために御店のマジックアイテムを見学させて頂きたいのですが…よろしいでしょうか」
 あとでガタガタ言われることが無いように、最初に確認するのは大事なことだ。なにせ、場違いなのは自分でも承知している。駄目なら駄目で良い。問題はトラブルになること。それだけは避けたかった。そう思っての行動だ。
 俺が話しかけた、執事風の店員は、以外にも笑顔で「どうぞ。ごゆっくり」と言ってきた。
 少なくとも、嫌な顔はされることを覚悟していた俺としては、思いっきり意外だった。
 一応、そんな内心を表に出さないように努力しつつ、礼を言ってから店内のショーケースを一つ一つじっくりと見て回る。
 この店は、中古品は一切置いていないようだ。全て新品。当然価格は高い。いや、バカっ高い。いわゆる『目が飛び出る程』ってやつだ。
 俺は、自分の立場を考え、現在貴族が接客されている二カ所へは近づかないようにして、他の場所を回っていく。そして、今日一番見たかった物の所へと来た。『魔法の袋』のコーナーだ。
 そこに置かれていたのは、複数のデザインのポシェット型、ポーチ型、鞄型、リュック型だ。一番安いポシェット・ポーチ型でも、1万ダリ。日本円に無理に換算すれば100万円~200万円ほどに成るか。軽自動車が新品で買える値段だ。しかも、かなり良いやつが。
 ポシェット型の説明文を読むと、約1立方メートルの亜空間が固定してあるらしい。たった1立方メートルで1万ダリ……。
 そして、肩掛け、手持ちなど複数のタイプがあるバッグ型で安い物が100万ダリ。固定されている亜空間は一辺が3メートルの立方体だ。27立方メートルだな。27倍で値段は100倍。日本円換算で1億円~2億円……。
 更に高い物は、固定されている亜空間が一辺5メートル。すなわち125立方メートル。値段は1000万ダリ。日本円換算で10億円~20億円……。
 これらの商品は、それぞれデザインの違うものがあるのだが、そのデザインによる値段差は、完全に性能に関わる値段に吸収されてか、同額となっている。
 俺は、いろいろな意味で溜息しか出ない。
 出来れば、一番安いポシェット型・ポーチ型位は買えるようになりたい。まだまだまだ先の話ではあるが……。
 そんな、決意とも言えないような思いを胸に抱きながらその場を離れ、他のショーケースを巡って行く。
 そして、一通り回ったのち、あの執事風の店員の元へ行き、礼を言ってこの店をあとにした。
 俺は、今回のことで、この手の店に対するイメージが変わった。なんとなく、京都の老舗のように、一見の客は入れないと言うイメージだったんだよ。『ここは、お前のような貧乏人が来る所じゃないんだ、帰れ帰れ、帰らないと衛兵を呼ぶぞ』とか言われて蹴り出されるイメージ。う~ん、俺の思い込みだったのか? それとも、この店がが特別だったのか?
 そんなことを考えながら歩いていると、「あれ、ロウ?」と言う声が掛けられた。
 その声の方を見ると、五人組の冒険者だった。そして、その中の二人は知り合いだ。
 アルオスとトルト、同じ南エリア孤児院で育った者で、転生者でもある。他の三人も多分新成人だろう。以前の想像が当たっていれば、この三人も転生者の可能性が高い。
「誰だ?」
「ほら、前話したアヤノと一緒だった」
「ああ、孤児院の」
 彼らの会話で、三人がやはり転生者であることが分かった。
「ロウ、お前、今どうしてるんだよ。アヤノ…ティアと二人でやってんのか?」
 そう聞いてきたのはトルトだ。特段の感情も無く、あっけらかんと訪ねてくるトルトに若干イラッとする。一応、顔には出さないように努力はするさ。
「ティアとあと二人、よその孤児とかと組んでやってるよ。そっちは、その五人でか?」
「おう、前世がらみでな、って言ってもロウには分かんね~か」
「ティアの知り合いか?」
「アヤノの知り合いは、河島だけか? 二人はクラスが違うし」
 ……河島、河島優吾か。俺と同じモブ夫の一人だな。……こいつら全員笹山北校生か。
「そーいや聞いたぞ。アヤ…ティアのやつ、ずっと唄ってるって。大丈夫か? ショックでおかしくなったんじゃないのか?」
「違うよ、スキルだよ。歌を介した付与スキル」
「なんだそのスキル? なんのJOBだ?」
「歌姫、スキルは歌唱」
「「「「「歌姫!?」」」」」
 アルオスとトルト以外の三人の転生者の声までハモった。
「聞いたことが無いぞ、そんなJOB」
「ってか、アヤノにはドンピシャだな。顔がアレじゃなきゃ」
「顔がアレじゃ~な~」
「つーか、本当にアレ、アヤノか? いくら何でも、アレは無いだろ」
「でも、ティアは確かに歌はうまかったんだよな。歌に関しては、アヤノだって言われても納得するぐらいには、さ」
「でも、あの顔じゃ~な~」
「あの顔じゃ、アヤノとは言えねーって」
 アルオスとトルトも含めて、全員が勝手なことを言ってやがる。天川に感じた殺意程では無いが、十分な怒りがわき上がってくる。
「そ~いや、お前のJOBは?」
 アルオスが聞いてきた。JOBはともかく、『スティール』に関しては言わない方が良さそうだな。
「盗賊。攻撃スキル無しの遊撃職。素早さと器用さ特化」
「「盗賊!?」」
「あ~、アレだろ、ダンジョンとかで罠見付けたり、解除したり、宝箱開けるヤツ」
「「あ~っ」」
「って言うか、この世界、ダンジョン無いじゃん」
「そ~言や、そ~だ。って事は、完全な遊撃オンリー?」
「「「「うわぁ~」」」」
 ハイハイ、好き勝手言っときな。好都合だよ。
「で、お前達は?」
「俺は、見ての通り剣士! 大崎…アルオスは拳闘士だな。あっちの三人は、ファーマーと大工と薬剤師だ」
 三人は生産系か。まあ、JOB比率的には生産職の方がかなり多いから、当然か。
 って言うか、『ファーマー』って『農夫』のことか? あと、『大工』も『木工師』で、『薬剤師』も『薬師』の事か? ……トルトが不勉強な可能性も有るが、この世界のJOB数の多さからすれば、本当にそんな名称のJOBが有る可能性も否定できないからな…… まあ、どうでも良い事ではあるけど。
「やっていけてるのか?」
 一応、元家族として、尋ねてみた。
「あったり前だろ。うまやはとっくに脱出済みだぜ!!」
 アルオス、それ、自慢げに言う事か? あっ、ギャグのつもりか。……あれ、他の四人もドヤ顔で胸を張っている。無茶苦茶自慢げだ。
「で、そっちはど~なんだよ。まだ厩か?」
 小鼻を膨らませ、トルトが聞いてくる。あのな、トルト、今の俺の服装を見て分からないのか? お前らが装備の下に来ている孤児ルックとは違うだろうが。そもそも、冒険者なのに、この時間帯に平服で出歩いている時点で、生活に余裕がある事に気づけよな。
「なんとか、な。俺とティアは攻撃スキルは無いけど、あとの二人が攻撃スキル持ちなんで、助かってるよ」
「へ~、良いの見付けたな」
 ああ、本当に良い二人に出会えたよ。……って言うか、トルトとアルオスが、剣士と拳闘士って事は、俺達が最初の予定通りに組んでいたら、結構良いパーティーになっていたんじゃ無いか? まあ、今更だし、シェーラとミミの方が良いし。
「ところで、天川…ロムン王子から、アヤノ…なんつったっけ? あ、それ、ティア、そのティアにあの後接触無いのか?」
 そう聞いてきたのは、トルトとアルオス以外の転生者の一人だった。他のメンツも興味があるようで、全員がこっちを見る。
「無いよ、全く」
 俺の答えは、彼らの予想通りではあったようだが、落胆もしていた。
「チッ、マジかよ」
「ま~、そうだろうな」
「アレで、やっぱりやり直そう、って成る訳無いよ」
 こいつらの魂胆は分かっている。あわよくば、ティアを通して天川と接触しよう、と言うものだろう。
 仮に、ティアに天川からの接触があったにせよ、あれだけボロクソ言っていたこいつらを紹介する訳は無い。アホかよ。
 そして、もう用はない、とばかりに三人の転生者はその場を離れる。アルオスとトルトも、「じゃーな」とだけ言って彼らの後を追った。
 アルオスとトルトとの関係も、これで終わりだな。孤児院時代は、あんなじゃなかったはずなんだが……。前世の記憶の影響か? だけど、俺やティアは別段性格が変わった感じは無い。ひょっとして、自分では気づいていないだけとか……。こればかりは、自分では分からないからな。まさか、ティアに聞く訳にも行かないし。まあ、考えても仕方が無いことだから、考えないでおくさ。
 『アルヌス』で若干上向いた気持ちが、トルト達に会ってダウンな方向へと向いてしまった。宿に帰るまでには気持ちを切り替えないと。
 気持ちの切り替えが、思った以上にうまく行かなかったことも有り、遠回りした関係で『熊々亭』に着いた時には、完全に夕方になっていた。
 部屋には、もうティアが帰ってきており、笑顔で「おかえりー!」と迎えてくれる。
「早かったな。孤児院の方、どうだった?」
「うん、お菓子、喜んでくれてたよ!」
 ティアは、孤児院の様子を、身振り手振りで俺に伝えてくる。久しぶりに見る、本当の満面の笑みだ。
 だが途中で、その笑顔が消え、若干申し訳なさそうな顔になった。
「あのね、タルト君とネルちゃんが少し具合が悪そうだったから…回復薬使っちゃったの、ごめんね」
 タルトとネルは、孤児院の子供で、確か6歳と5歳だったはず。
 俺達が使っている『低級回復薬』だが、これは基本的にはケガを治すマジックポーションなのだが、細胞を活性化する働きがあるようで、ある程度は病気にも効果がある。
 元々薬など飲み慣れていない子供だけに、普通以上の効果を発揮したのだろう。前世の南米等の未開部族に、ただのビタミン剤が劇的に効果を上げたのと同じだな。
「ああ、全然問題ないぞ。って言うか、今度、二、三個渡しとくか?」
「え、良いの!? あ、……でも、職員の人が売ってパンに換わりそう」
「あり得るな……」
「うん」
 南部エリアの孤児院は、スラムに隣接している関係で、他の孤児院より収容している孤児の数が多い。だが、孤児院に与えられる予算は他と同じであり、その分のしわ寄せが食事等に来る訳だ。
 だから、ポーションなどを渡したら、多分間違いなく売り払って、運営予算にしてしまうだろう。あそこは、そういう所だ。そして、あそこに勤める職員も、そういう者たちだ。
 それはともかく、タルトとネルは、あっという間に元気になって、走り回っていたらしい。取りあえず、一安心という所か。
 その後もティアは、他の子供達のことなどを楽しそうに話した。
 俺は思うんだが、ティア、立花綾乃の天職って、歌手じゃなくって保育士なんじゃ無いかと思う。孤児院でも、年長組では一番年少組の面倒を見てたし。前世でも、高校そばの保育園に下校時に良く寄ってたからな。
 この世界のJOBに、『保育士』って無いのか? ……仮にあったとしたら、スキルは何になるんだろう……。
「ロウ、ご飯は?」
「いや、まだだけど、ティアは?」
「食べたよ。シェーラと一緒に」
「ミミは?」
「ミミちゃんは、私たちが食べ終わるのと入れ替わりで帰ってきてたよ」
 そっか、じゃあ、ミミでも誘って食ってくるか。
 と言う事で、隣の部屋をノックする。
「俺だよ。飯まだなら一緒に、って思ってさ」
「だ、だ~れぇ~」
 声を掛けると、なぜか、意味不明な上、やたらとけだるげで間延びしたミミの声が帰ってくる。
「だから、俺だよ!」
 若干大きめの声を返すと、扉が開き、なぜか不満げな顔のミミが居る。なんだ? タイミングが悪かったか?
「そこは、『警察だ! ここを開けろ!』っしょ!、じゃないと『え~、ここは、けいさつじゃ、ないよ~』って返せないっしょ!」
 ……なんだそれは?
「ティアは、ちゃんとやってくれたのに!」
 ……ティア。
「あのな… それ、多分、前世のネタだろ、俺が分かるか!」
「あ~、だったやね~」
 って言うか、俺の前世知識にもね~よ!
 溜息をつく俺を、ミミと同室のシェーラが苦笑いで見ていた。シェーラ、こんなやつと同室でごめんな。いや、マジで。
「で、飯は?」
「行くに決まってるっしょ!」
「ハイハイ、じゃ、行くぞ」
 ただ、飯を誘うだけで、なぜか疲れてしまった。ま、良いか、取りあえず飯を食おう。腹へったし。
 この時間帯は、夕方ではあるが、食事には若干早い時間帯だったこともあって、席の空きは十分だった。ここの宿泊者の大半を占める冒険者は、現在ギルドで絶賛換金中だからな。
 ミミは、そんな食堂内を見渡すと、食券を俺に押しつけ一番奥の席へとさっさと行ってしまった。俺に、飯を運ばせる気らしい。まあ、良いけどさ。
 この宿の食堂は、いわゆるセルフ方式だ。食券を出して、その場で食事が乗せられたトレイを受け取り自分の席へと持って行く。食後も、トレイごと返却だ。
 食事は基本日替わり定食。それ以外が欲しければ、別途お金を払って注文する。飲み物も同じ。
 俺達のような日替わりオンリーの者は、スープ類以外の準備が終わっているトレイにスープを注ぐだけなので直ぐだ。
 俺は、二人分のトレイを持って、ミミがいる一番奥の席へと向かう。一応ミミのヤツは、水は二人分持ってきてはいた。
「うむ、ご苦労」
 うむ、じゃね~よ。偉そうにすんな。と、まあ、いつものごとくで、食べ始める。
 ミミのヤツは、ミニマムな身体の割に結構食う。と言うか、この世界の者は、貴族や大富豪を除いて、ダイエットなどする者は居ない。特に、俺達のような孤児や、ミミのようなド貧乏人は、『食える時に食え!』が見に染みついて居る。いや、身に刻みつけられている、の方が正しいか。だから食う。
 そもそも、俺達はダイエットなんか気にする必要がない位動き回っているから、心配する必要はないんだよ。毎日10キロ以上を歩き、『角ウサギ』などの結構な重量のある獲物を運んでるし、な。体脂肪率? サッカー選手並な自信があるぞ。……まあ、欠食児童状態が完全に改善していないだけ、って事も有るけど。
 食事は、ゆっくりかんで食べる。貧乏人のクセであり、少しでも栄養を吸収するための本能でもある。そして、空腹感を満たすためでも。そのクセは、十分な食事が出来るようになった現在でも換わらない。刻み込まれているからな……。
 俺達の、そんな長めな食事が終わった段階でも、まだ食堂内には空席が目立っていた。だから、急いで席を空ける必要もなかったので、水を飲みながらミミとだべり出す。
「あ~、知識チート行っちゃうんだ(笑) トーシローが手を出すと痛い眼見んよ(笑)」
 ロミナスさんから聞いた天川の件を話すと、ミミはニヤニヤ顔でそう言ってきた。
「トーシローって、おま……」
「ま、お手並み拝見と行きましっしょい!」
 ミミは終始笑顔だ。ニヤニヤ顔の。
 そんなミミが、そのニヤニヤ顔を止め、俺の方に顔を近づけて来た。そして、それまでと一転、小声で無し掛けてくる。
「今日聞いたんよね、ティアの事。って言うか、託宣の儀であの後有った事」
 ……多分そうだとは思ってはいたが、やはりミミはあの場には居なかったんだな。で、問題はここからだ。俺は、あの日心配した事を再度考えた。
 だが、その心配は杞憂だった。
「あの糞王子、殺す?」
 ……と言うか、一歩斜め上だな。
「ロウ、隠密持ってるっしょ。あれ極めれば城内侵入でけるんじゃね? サクッといっとく?」
 ……え~っと、なんだろう、このホッとしつつも引きつる感覚。
「……あのな、ヤルのはマズイって。一応王子だからな」
 思いっきり小声になる。
「じゃあ、半分プチ殺そう。主に股間を重点的に」
「まあ、それなら」
「決定!!」
 ……決定してしまった。とは言え、実際ヤルかどうかはともかく、やれるかどうかと言う問題があるけどな。
 取りあえずは、ミミと俺の気持ちが一緒で有るという事が分かった事は大きい。俺の心配事の一つ、しかもかなり大きな心配事が解決した事になる。
 パーティーがうまく機能していただけに、この事は心配だったんだよ。その結果としてのティアの精神面もな。
「で、隠密、現在どんなもん?」
「気配察知に集中してたからな、スキルレベルはまだ1のままだよ。経験値バーも、やっと半分ってとこか。先に言っとくけど、当分は気配察知を優先するぞ。死活問題だからな」
「うみゅ~、そりゃ~、しゃ~ないやね。まあ、ゆっくりでいっか。ど~せ、自爆すんだろ~し(笑)」
 自爆とは、『前世知識チート』の事だろう。
「自爆って、どれ位ダメージ受けるレベルだよ」
「う~ん、あれでも一応王族だかんね、金銭的なダメージはそれ程でもないんでね? 後は、立場かな~」
「立場って?」
「ほり、第三王子って元々立場微妙っしょ。ここの王家って、側室とか居なくって王妃様は一人だから、王子・王女全員同腹なんよね~。腹違いだと、その母親側の親族がバックに付いて権力闘争を、ってのが良くあるパターンなんだけどさ、同腹だとね~。上の兄弟がよっぽどボンクラじゃなきゃ、ただの政略結婚の駒っしょ。ま~、だから焦って前世知識チートなんかに手を出したと思うんよ。だ~か~ら~、それが自爆すれば、立場は更にドーン!って事。わかりる?」
 ……ミミが言う事が、全て正しいのかは分からない。ただ、間違っているようにも思えないのは確かだ。
「で、その兄二人はどうなんだ?」
「皇太子は、良くも悪くも普通。特に噂無し。二番目は、完全な体育会系やね~。シェーラと同じで大剣士。将来は騎士団長だろ~って話。あ、皇太子のJOBは宰相。国王になってもJOBは宰相のまんまってのが、微妙~に笑えるけど」
 イヤイヤイヤ、皇太子、全然普通違うだろ。『宰相』って完全に国を治めるJOBだろ! 完璧に皇太子じゃん! ……なるほど、これは、天川の出る幕はないな。そして、何かやらかせば、立場が一気に失墜って可能性も高いか。
 あ、そういえば……
「なあ、ところで、肝心のプチ殺しターゲットのJOBはなんなんだ?」
「う~ん、そりがね、噂も出回っちょらんのよ。もちっとすれば、流れてくるんじゃね?」
 噂が流れていないって事は、それ程特殊なJOBじゃなかったって事じゃないか? それとも、天川にとっては不都合なJOBだったとか。
 『宰相』だの『賢者』とかだったら、嬉々として自ら吹聴しまくると思うんだよ、ヤツなら、な。絶対に。
「多分、お前とティアが目を付けられるって事はないとは思うけど、一応は気をつけろよ。って言うか、ティアの事、他の件も込みで気をつけていてくれ」
「OK、OK。言われるまでもないっちゅーの」
 返事は軽いが、いつもの事だ。問題ないだろう。多分。……頼むぞ、ミミ!
しおりを挟む

処理中です...