アヤノ ~捨てられた歌姫は骨を拾われる、のか?~

momomo

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第17話 応援

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 村へ帰ると、村人達が温かく迎えてくれた。常駐冒険者達は、村長やギルド職員へ現状の説明を行っている。
 俺達は別段関係ないので、自分たちの事を行う。俺的には、宿屋へ直行したい所だが、重い足を引きずって鍛冶屋へと行く。
 村の鍛冶屋は、村外れにあった。多分、騒音の問題故なんだろう。
 俺達がこの鍛冶屋に来たのは、シェーラ用に『闇の双剣』の鞘を作ってもらうためだ。さすがにシェーラでも、『闇の双剣』を片手に持ったまま、あの大剣を片手で振り回すのは無理だ。持ち替えが必要になる。
 だが、今日のように、一回一回ティアの所に取りに行くのでは効率が悪すぎた。だから、鞘を作り、携帯可能にするって事だ。
 当初、普通の剣のように、腰に下げるタイプを考えていたのだが、シェーラからダメ出しが出た。
「動きを阻害する」
 シェーラは、俺以上に全身を使って剣を振る。そのため、腰に剣をいた状態では、邪魔になると考えたようだ。元々『素早さ』に難のある彼女としては、僅かでも影響が出るのは許せなかったのだろう。
 そんな訳で、現在背負っている大剣用の鞘にくっつける形で、『闇の双剣』の鞘を取り付ける事になった。
 そして、その鞘を作ってもらう際、二騒動が発生する。
 一つ目は、鍛冶師が『闇の双剣』の性能に気付き騒ぎ出した事。
 二つ目は、シェーラの大剣自体の惨状に鍛冶師が騒いだ事だ。
 『闇の双剣』』については、取りあえずなだめすかすしかなかった。あとで面倒な事にならない事を祈るしかない。
 シェーラの大剣については、鍛冶師が騒ぐのも仕方が無い。なにせ、刃の半分以上が潰れていて、中央部に至っては大きく欠けていたのだから。
 完全にボロボロの状態だ。これは、『黒死鳥』戦によって生じたもので、大きな刃の欠けは、翼の骨を折った際に発生したものらしい。異常に硬かったからな……。
 その事を説明すると、鍛冶師は、今度は『黒死鳥』の事でも騒いでいた。面倒くさかったよ……。
 そんな無駄な騒動はあったものの、鞘は問題なく作られ、大剣の鞘に取り付けられた。これで、明日以降は今日より効率が上がるはず。
 シェーラの大剣については、出来る範囲で研ぎをしてもらった。大きな欠けに関しては、どうしようもないのでそのままだ。一応、『闇の双剣』をメインに使うか?と確認したのだが、『ゾンビ』が相手なら切れ味は不要という事で、そのまま大剣を使うとの事。シェーラも直接戦闘より『地裂斬』がメインだし、問題ないかな。
 
 鍛冶屋から戻る途中、俺達はカルトさんに捕まり、『解毒薬』を供出させられた。
 その際、このポーションが間違いなく『解毒薬』である事も、村の『鑑定』持ちによって確認されている。そして、他の『スティール』品同様に、一般の市販品より効果が20%程高い事も確認された。
「多分ね、このポーションの効果が本来の性能だと思うのよ。市販品は、意図的に性能を落としてあるか、技術的に未熟だからでしょう。多分、前者だと思うけどね……」
 『スティール』品と市販品の効果の差について、カチアさんが考察していた。なんとなくだが、カチアさんの言っている事は正しい気がする。使用上問題が無いのであれば、効能を落とし、その分生産量を増やすか製造単価を落とすってのは、定番だからな。
 この『解毒薬』だが、一応一本10ダリで買い取ってもらう事になった。俺的には、本当に『供出』でも良かったのだが、ギルド的にいろいろ問題があるとの事で、買い取りという形を取った。まあ、買い取り価格を見てもらえば分かるとおり、市販価格の1/3以下なので、本当に形だけだ。今日も、他の冒険者達にはただで渡していたし。
 買い取り手続きが終了したあと、カルトさんからお願いの形で、『解毒薬』について頼まれる。
「明日も、ロウさんは出来る範囲でかまいませんから、解毒薬を盗ってください。ゾンビ戦には解毒薬はいくらあっても足りませんから。お願いします」
 王都だと、『低級解毒薬』の在庫は多いのだが、低級の付かない一つ上の『解毒薬』の在庫は少ないそうだ。王都周辺には、『解毒薬』でなくては効果が無い毒を持つ生き物がいないから、在庫の必要性がないって事だな。
 『ゾンビ』戦用としての在庫はないのか、と思うかもしれないが、『不浄の泉』の発生自体が早々有る訳で無く、更に、湧く『アンデッドモンスター』が『ゾンビ』とは限らない、と言う問題もある。他の『アンデッドモンスター』は同様の毒は持っていないのだから。
 そんな訳で、『解毒薬』の在庫は少ないと言う事だ。だから、俺はカルトさんからの頼みを、即了解した。
 その後、やっとの事で宿屋へ着き、食事と入浴をとっとと済ませ、寝た。何はともあれ、寝たかった。
 今日一日、大量の『ゾンビ』を殺しまくったはずだが、『黒死鳥』戦で上がったレベルの関係で、全員レベルアップには至っていない。
 経験値バーを見ると、大分溜まっているので、明日中、ひょっとすると午前中にはレベルアップするかもしれない。
 スキルに関しては、俺の『スティール』がレベルアップし、レベル4となった。さすがに、250回以上実行すれば、スキルレベルも上がろうと言うもの。
 俺にとっては、この『ゾンビ』戦は、上げづらい『スティール』の経験値を入手する絶好の機会だと言えるかもしれない。出来れば、あと2つ位は上げたいな。
 それと、ミミは、森で上げづらかった『ファイヤーストーム』の連発できたため、スキルレベルを5まで上げている。同様の理由で、シェーラも『地裂斬』のスキルレベルが5に上がっていた。
 ミミとシェーラのスキルレベルも、明日以降でまだまだ上がるだろう。
 ……ティアの『歌唱』は上がっていない。スキルレベル3のままだ。ただ、経験値バーを見ると、9割以上に達しているらしく、それ程時を必要とせずスキルレベル4に上がるはず。
 
 そして、夜が明けた。
 俺達は朝食などを済ませたあと、昨日の冒険者達と合流して、『ゾンビ』の群れへと向かった。
 昨日、『解毒薬』をただで提供していた事もあって、この村の冒険者達との関係は良い。ミミの言動にも、大分慣れたようで、スルーしたり流してくれている。……同じ意味か。
 そして、『ゾンビ』が見える地点へと来た。
「チッ! 思った以上に進んでやがる。それに、村側にも広がってるぞ。オイ! 王都の連中が来るまでに、出来るだけこっちに引きつけるぞ!!」
 村の冒険者のリーダー格であるケンタさんが叫ぶ。
「うっしゃ~! 汚物は消毒だ~!」
 ミミが相変わらずな事を言うが、唯一の転生者である(事になっている)ティアは元ネタを知らないのか気付かなかったのか、スルーしている。反応が帰ってこない事に、若干寂しげなミミが哀れだ。
 ネタに生きるミミの件はともかく、俺達はケンタさんの指示に従って戦列を組み、昨日と同じ形で戦闘を開始する。
「ひゃっは~! 汚物は消毒だ~!」
 懲りずに再度言いながら、『ファイヤーストーム』を放つミミ。そんなアホな掛け声はともかく、やはり、ミミがこの戦列最大のダメージディーラーなのは間違いない。一つの『ファイヤーストーム』で10匹以上の『ゾンビ』をほふって行く。
 ミミは、とにかく『ファイヤーストーム』連射だ。そしてMPが切れたら後方に下がり、回復を待つ。1秒に1ポイントのMPが回復するミミであれば、戦列復帰は早い。
 ティアは、ミミが攻撃中は『魔女っ子ソング』を中心に唄い、ミミのMP回復時間にシェーラに『天元を突破する曲』や『くろがねな城の曲』を、俺には『ラッキーソング』を唄っている。
 俺は、ティアの『ラッキーソング』が無い時は、自力で『スティール』三昧だ。『魔石』を引く数も多いが、『解毒薬』も十分に引けている。問題ない。引いた『解毒薬』は一旦腰に付けた小袋に入れ、それがいっぱいになったらティアに袋ごと渡している。村の冒険者達は、毒を受けた時は、ティアの元に行って彼女から『解毒薬』を受け取る流れになった。
 この『解毒薬』の件と、ミミの火力の件もあり、昨日と違って俺達のパーティーが、戦列の中央に位置している。そして、両翼は魔術師を擁するパーティーが担っている。
 位置は違うが、俺達のやる事に変わりは無い。昨日と同じだ。『ゾンビ』の群れを少しずつ削って、囲まれそうになったら後退。それを繰り返すだけ。
 完全なルーチンワークとなり、若干緊張感が薄れがちになるのを、相互に注意し合いながら戦い続ける。
 そんな状態が二時間程続いた頃から、ミミの挙動が若干不審になってきた。ティアもそれに気付いたようだが、歌を歌い続けている関係で、問いかける事が出来ずにいた。こう言う時は『歌唱』と言うスキルは不便だと思う。と、言う事で、俺が確認する訳だ。
「ミミ、どうかしたのか? 挙動不審だぞ。不審者だぞ」
「不審者ちゃうわ~!!」
「じゃあ、どうした?」
「うみゅ~、ロウは火炎旋風って知っちょる?」
「火炎旋風?」
 ……何か聞き覚えがあるような気はするんだが、違和感もある。俺は、複数の意味で首をひねった。
「やっぱ知んないか。ま、炎の竜巻みたいなモンよ。自然現象」
 ……ああ、アレか。火事だか空襲だかから川沿いに逃げたら、川の冷気と火事の炎で炎が渦を巻いて、その場にいた大勢の避難者を焼き尽くしたってやつ。……火炎…旋風だったっけ? 違和感が……。まあ、良いけど。
「で、その火炎旋風が、どうした?」
「その、自然現象をさ、再現でけへんかな~って思って、いろいろやっちょる訳よ」
「出来るのか?」
「うみゅ~、原理は解っちょるんよ、原理は。風魔法か、冷却魔法があれば簡単なんよね~。でも無いっしょ。だから、炎魔法だけで何とかでけへんかな~って、試行錯誤しちょる訳よ。んで、魔法って、少しの範囲ならコントロールできる事が解ってきたんよ。ほり、ファイヤーアローってホーミング出来っじゃん。んじゃ、他の魔法もいけるんじゃね?って思った訳。つ~訳で、やってみると、ほんの少しだけだけどコントロールできたんよ。てことで、今は、そのコントロールをもっと出来ひんかやっちょる最中。もちっとコントロールできれば、火炎旋風はいけると思うんよ」
 ミミの言うコントロールが、どの程度のものなのかは解らない。だが、ゲームの魔法のように融通が利かないこの世界の魔法スキルを、ある程度コントロールできるとなれば、それはかなり凄い事かもしれない。本人は、全く無自覚だが……。
「分かった、戦闘の邪魔にならない範囲でな」
「アラホラサッサ!」
 ……。
 まあ、殲滅も普通にやってるし、問題ないだろう。ティアも、話を聞いていて、ミミの身体に問題が無い事が分かったのか、安心して唄っている。
 
 そして、それから40分程して、ミミ言う所の『火炎旋風』(違和感あり)と言うものを目撃する事になった。
 それは、ミミが円を描くように放った6発の『ファイヤーストーム』を元として現れる。
 6ヶ所で猛威を振るう『ファイヤーストーム』が少しずつ繋がって行く。
 全ての『ファイヤーストーム』が細くはあるが繋がり、完全な輪を描いた。
 炎の輪は繋がった時の動きを高めるように、少しずつその回転を早めていく。
 炎の輪の回転速度が一定に達した時、炎が輪の内側に吸い込まれるように動き出す。
 輪の中心方向に吸い込まれた炎は、炎の輪の回転と共に渦を巻きつつ上空へと伸び、逆さまの竜巻を象る。
 それは、完全な炎の竜巻だった。直径は、60㍍に若干足りないぐらい。その範囲を炎の渦が埋め尽くしている。
 その外周にいる俺達にも、その輻射熱がガンガンと当たり、サウナどころでは無い暑さだ。
 更に、周囲から炎の竜巻に向かって、強風が流れ込んで行く。周囲の草の切れ端だけで無く、小石などまでも吸い込まれて行く。
 そんな、災害級な炎の竜巻は、最初に放たれた『ファイヤーストーム』の位置から薄くなって行き、全ての『ファイヤーストーム』が消滅した段階で消え去った。あとに直径60㍍程の焼け野原を残して……。
「マジカ────────!!」
 やった本人もビックリだ。周りの者に関しては、それ以上にビックリだが……。
「オイ!! おチビちゃん!! 何やった!!」
 二つ隣のパーティーから、ケンタさんが怒鳴るような口調で聞いてくる。ティアもさすがに『歌唱』を止めていたため、その声は、驚く程大きく響いた。
「ミミちゃん…… レベル上がったよ」
 ティアに言われて、俺もやっとそれに気がついた。目の前の現象が、あまりにもアレだったので、通常ならハッキリ分かるレベルアップの感覚すら分からなくなっていたようだ。
 今、俺達の目前には、『ゾンビ』のいない直径80㍍程の空間が広がっていた。だから、時間的余裕はある。取り急ぎ、SPの振り込みをしよう。
 俺は『スタミナ』へだ。長期戦が目に見えているこの戦いを見据えて、だな。+1ポイントでも、少しは楽になるはず。昨日は、ホントに辛かったから……。
 あ、今回は、レベル19という事で、初期補正値ゼロの値にも+1入る回だった。つまり、俺の『スタミナ』にはその分の+1も入るという事だ。合計+2。これは、実感できるレベルのはず。良し!。
 
   ロウ  15歳
  盗賊  Lv.19
  MP   164
  力    9
  スタミナ 7
  素早さ  40
  器用さ  40
  精神   6
  運    12
  SP   ─
   スキル
    スティール Lv.4
    気配察知  Lv.7
    隠密    Lv.3

  ティア  15歳
  歌姫   Lv.19
  MP   400
  力    8
  スタミナ 21
  素早さ  16
  器用さ  7
  精神   64
  運    ─
  SP   ─
   スキル
    歌唱   Lv.3

  ミミ   15歳
  炎魔術師 Lv.19
  MP   550
  力    9
  スタミナ 9
  素早さ  22
  器用さ  7
  精神   63
  運    ─
  SP   ─
   スキル
    ファイヤーボール  Lv.4
    ファイヤーアロー  Lv.5
    ファイヤーストーム Lv.5

  シェーラ 15歳
  大剣士  Lv.19
  MP   168
  力    42 +4
  スタミナ 40
  素早さ  13
  器用さ  12
  精神   6
  運    ─
  SP   ─
   スキル
    強力ごうりき   Lv.6
    加重   Lv.3
    地裂斬  Lv.5
 
 ティアは今回もSPは『精神』へと振った。『歌唱』の底上げだな。
 ミミはMP700を目指すために『MP』へと振っている。
 シェーラは、今回も『器用さ』へだ。
 レベルアップが発生した俺達は、身体の感覚のズレが発生している。それを修正するのに少し時間が必要だ。ただ、肉体的な動作を行わない、ティアとミミは取りあえずは大丈夫だろう。
 俺とシェーラは、身体の動きと感覚の違いに注意しながら、目前の焼け跡に集い始めている『ゾンビ』に対峙する。
 ……。
 ……え~っと、やっぱり無視できないな。しょうがない、説明に行くか、俺が。
 と言う訳で、未だに騒いでいるケンタさん達に、今の現象の説明をする。
「魔法じゃ無いのか!?」
「いや、魔法を使った自然現象ってやつらしいです」
「いや、それ、魔法だろ!」
「いや、魔法は切っ掛けだけで、あとの竜巻は自然現象(?)って事らしいですよ」
「……?」
「いや、まあ、魔法を使って、それ以上の効果を出せるって事で、理解しておいてください」
「……解っ……た」
 ……多分、間違いなく理解してないな。まあ、帰ってから説明するさ、ミミが!!。
「うっしゃ~!! 美少女魔法使いミミちゃんの、炎魔法無双伝説の始まり始まり~~~!!」
 そんな事を言い放ったミミのヤツは、ティアの手を引いて、戦列を横に移動して、次々にその先々で『火炎旋風』(違和感…ってもう良いや)を発生させていく。
 当然ミミのMPは直ぐに枯渇する。だが、自然回復を待って、また、だ。
 ミミの『火炎旋風』は各『ファイヤーストーム』を繋ぐ形で発生し、その『ファイヤーストーム』によって囲われた円内も焼き尽くす。エネルギー効率で言えば、多分、3倍以上だと思う。
 その範囲は、ミミが『ファイヤーストーム』を設置できる距離、すなわち、現在の射程距離+効果範囲の半径分なので、実質60㍍から70㍍程だ。半端ではない広範囲と言える。
 MPの関係で無尽蔵に連発は出来ないが、それでも、その殲滅力は格段だ。
 この場所は、この『火炎旋風』を使うのにも適している。そして、『ゾンビ』と言うモンスターの特性も、それを手助けしていた。
 視界が広く、遠くを見渡せる草原地帯。一度焼き尽くして、その熱がまだまだ残っているにも係わらず、全く気にせずその焼け跡に侵入してくる『ゾンビ』達。大きな横移動をしなくても、少し時間をおくだけで十分効率的な殲滅が可能だ。マジで、ミミ無双だな。
 この『火炎旋風』無双に問題点があるとするならば、それは一度に広範囲が殲滅されるため、『魔石』の回収が出来ない、と言う事だ。
 『魔石』は、それまでも半分も回収できていなかったのだが、『火炎旋風』跡に関しては、1/10も回収できていない。
 炎魔法の跡は、当然ながら熱い。炎そのものは魔法力の消滅と共に消え去るが、その熱によって熱せられた大気、地面は直ぐに冷える事は無い。
 前世のおぼろげな記憶では『火炎旋風』の炎は鉄を溶かす温度にまで達するとか。その熱によって熱せられた地面や大気の温度も、当然それに準じる訳で、人間が近寄れる訳がない。
 だが、『ゾンビ』達は関係ない。その熱によって自然発火しようがお構いなしに入っていく。(まあ、その結果、何もしなくても20匹位は自滅してくれるんだが……)
 焼け跡に直ぐに侵入されれば、そこに落ちている『魔石』を拾う事など出来るはずも無い。時間がある程度経過して、温度が問題ない状態になったにせよ、だ。その時には『ゾンビ』の群れに覆い尽くされているのだから。
 一度に100匹以上を殲滅して、手に入れられる『魔石』が10個程となれば、ミミで無くとも不満にはなる。
 ただ、その代わり、と言う訳ではないが、「魔石がー!」「魔石が~!!」と叫ぶミミを見てか、『解毒薬』をもらいに来る冒険者達が、ティアに拾った20個の『魔石』を渡すようになった。
 通常、このアンデッド狩りでは、冒険者は1ポイント魔石を集める事は無いらしいのだが、ミミの言動を聞いていて、こんな『魔石』でもほしがっている、と思っての行動らしい。
 いろいろ思う所はあるのだが、収益的には十分な額が稼げている事になる。まあ、良いか。
 
 その後も、『火炎旋風』を組み込んだ殲滅戦をやっていると、ティアが『魔女っ子ソング』を停止して声を上げる。
「王都からの応援が来たよー!!」
 『スティール』中だった俺は、目だけをそちらに向けると、応援の冒険者達は北門側から来たようで、俺達の右手、東側からやって来ていた。
 村の冒険者達から歓声が上がる。そんな、歓声に応えるように、駆けつけた冒険者達が随時『ゾンビ』へと攻撃を掛けていく。
 応援に来た冒険者達全員が、戦列を組み終わったのは、それから30分程経過したあとだった。
 応援に来た冒険者達は、『ゾンビ』に対して南北の戦列を築き、俺達の東西の戦列と繋いだ。まあ、実際は、直線同士では無く、曲線に近いので、若干折れ目のある弧を描いている。
 そして、彼らが来た事で、それまで後退に次ぐ後退だったのが、初めて戦線が前に進む事になった。
 王都から来た冒険者パーティーの数は、多分500組は超えているだろう。全員が攻撃にあたる訳では無いが、今までとは桁の違う戦力だ。
 無数の攻撃スキルが放たれ、魔法が炸裂する。スキルレベルの高い者も多いので、広範囲に影響を与えているのが見て取れる。
「凄まじいな……」
 初めて見る光景に、シェーラも思わず呟いている。
「うっしゃ~! 私らも負けてらんないよ~! ヒャッハー! 汚物は消毒だぁ~!!」
 いつもの戯れ言付きで、ミミが『火炎旋風』を発生させる。
 そして、その数瞬後、戦線で魔法使いの攻撃が途絶えた……。

 俺達のパーティーの周辺は、戦闘を放棄して集まってきた魔法使い達でカオスな状態と化していた。
「てな訳で、やっみたら出来たんよ! 多分、皆、やれば出来るんちゃう?」
 説明するミミは相変わらず軽い。だが、それを聞く魔法使い達の目は血走っている。彼らは、ミミに、何度も細かな所まで質問していく。特に、ミミと同じ『炎魔法使い』は、執拗とすら言えるくらいに、だ。
 ミミは「だ~か~ら~」を繰り返す事になる。
 結局、その臨時強制説明会は、各魔法使いのパーティーメンバーが、彼らを強制連行するまで続けられた。
 そして、その後、40分程が経過した頃、ミミ以外の『火炎旋風』が見られるようになる。
「チッ! もうモノにしちょるやん!」
 ミミの舌打ちが聞こえた。さすがは、4級になり立てのミミとは違い、これまでの経験量が桁違いなだけは有るって事だろう。ミミの試行錯誤の時間より、遙かに短い時間で出来るようになっている。
 そんな、複数の『火炎旋風』が貢献したのだろう、戦線の押し上げられる速度が速い。ほとんどの冒険者が1ポイント『魔石』を放置しているのもその原因だろう。
「もったいないオバケが出んぞ~!!」
 『魔石』を一顧だにしない冒険者達を見て、ミミが叫んでいた。
 
 この日は、昼を過ぎた時間に、村の者達が軽食と水を持ってきてくれたので、かなり助かった。
 俺達の『魔法のウエストポーチ』にはトイレ用の組み立て式衝立ついたてが入れてあり、それが容量を喰らっているため、水などを多く入れられないないんだよ。
 でも、女性が多いパーティーとしては、野外で用を足すには、この衝立ついたては必須だから、仕方がない。
 その後は、ティアの『歌唱』がレベルアップし、レベル4になった以外には特に変わった事もなく推移した。
 戦線自体も格段の問題もなく、確実に押し上げ続けている。それでも、見渡す限りの草原は、『ゾンビ』で埋め尽くされているのだが……。
 昨日程ではないが、今日も疲れた。
 アンデッド討伐戦を経験した事がある冒険者が言うには、多分、あと三日程で『不浄の泉』が見える所まで行けるんじゃないか、との事。
 彼の言う事が正しかったとしても、あと三日は同じ事が続くという事だ。……先は長い。 
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