17 / 50
第16話 不浄なる者
しおりを挟む
『黒死鳥』だが、殺したあと、その死骸はギルドに売却する事になった。魔法を霧散させる効果は死後もある程度残っており、更にあの硬さの体毛はそのままらしい。防具関係にいろいろ使えるとの事。
買い取り価格に関しては、あとでの相談と言う事になった。
そして、あの死体に関しては、カルトさんが持っていた例の1000万ダリの『魔法のバッグ』にあっさりと入ってしまった。翼長20数㍍とは言え、身体だけで言えばそれ程は無いので問題なく入ったようだ。
ミミがまた、「ぐぬぬぬぬぬぬぅ……」とかなぜかうめいていたが、意味不明である。
『黒死鳥』はその体毛の関係もあって、俺達が簡単に解体できる訳もなく、『魔石』の確認が出来ないため、現時点ではレベルは分からない。カルトさんいわく、多分、レベル35~40程ではないかとの事。
それ程のレベルだけあって、俺達のレベルも驚くほど一気に上がった。後半、全く戦闘に参加していなかったミミも、パーティー効果なのか、最初の戦闘に参加したからなのかは不明だが、同じように経験値が入っていた。
上がったレベルは7レベル分。レベル11からレベル18に、だ。
こう言う事は、王族や貴族がパワーレベリングする時以外は、普通はないそうだ。冒険者は、技術が伴わなくなるため、パワーレベリングは事実上禁止してるしな。
まあ、自力で、レベル差が20以上あるモンスターを殺す事が出来るケースなんて、そうそう有るはずが無い。
俺達の場合は、飛行系モンスターを地上に縛り付ける事に成功したからこその結果だ。それすら、『闇の双剣』という『斬』値が異常に高い剣の存在と、いくつかの偶然がなせた技に過ぎない。実力によるものでは無い。絶対に。ここで思い上がると、直ぐに死ぬ。ミミには言い聞かせておかねば……。
ロウ 15歳
盗賊 Lv.18
MP 158
力 8
スタミナ 5
素早さ 38
器用さ 38
精神 5
運 12
SP ─
スキル
スティール Lv.3
気配察知 Lv.7
隠密 Lv.3
ティア 15歳
歌姫 Lv.18
MP 380
力 7
スタミナ 20
素早さ 15
器用さ 4
精神 60
運 ─
SP ─
スキル
歌唱 Lv.3
ミミ 15歳
炎魔術師 Lv.18
MP 510
力 8
スタミナ 8
素早さ 21
器用さ 6
精神 60
運 ─
SP ─
スキル
ファイヤーボール Lv.4
ファイヤーアロー Lv.5
ファイヤーストーム Lv.4
シェーラ 15歳
大剣士 Lv.18
MP 162
力 40 +4
スタミナ 38
素早さ 12
器用さ 10
精神 5
運 ─
SP ─
スキル
強力 Lv.6
加重 Lv.3
地裂斬 Lv.4
今回は、スキルは全く変わっていない。
SPについては、俺は初めて『運』以外にも振った。『MP』を150台にするために+2だ。これでやっとMPの自然回復速度が20秒毎に1ポイントに上がる。長かったな……。
あと、今回の『黒死鳥』戦で、『力』の必要性にも思い至った事もあり、『力』に+3してある。そして、いつもどおり『運』にも+2だ。『運』は今後も、毎回とは行かないが、確実に上げていくつもり。
ティアは『素早さ』と『精神』に+3ずつと、『スタミナ』に+1した。今回初めて『精神』に振っているのだが、付与効果を高めるためだそうだ。『歌唱』の効果は、スキルレベルと『精神』値両方が影響しているからな。
ミミは、『MP』を大台の500にするために+3し、ついに1秒に1ポイントMPが自然回復するようになった。一分間に60ポイント回復する訳だ。そして、『素早さ』に+1、『精神』に+3だ。ミミも、『精神』へ振ったのは初めてだな。やっと、『精神』にも振れるぐらいに他のパラメーターが上がってきたと言う事なのかもしれない。
シェーラは、『力』と『器用さ』に+2ずつ。そして、『素早さ』に+3だ。全体的な、肉体能力の底上げだ。『力』が強力のパッシブ効果分も入れて44。俺の5倍以上だ。絶対に怒らせないようにしよう……。
今回のレベルアップで、一番大きなのは、やはりMPの自然回復速度の上昇だろう。全員が、一段階上がっている。今後は、スキルの使用が大分楽になってくるだろう。
その日の夜、俺達は宿屋の一室に集まっていた。勿論、カルトさんとカチアさんはいない。
「あの光は、絶対レアもの以上だった!! 間違いない!!」
ミミが隣の部屋に漏れそうな声で訴える。ど~ど~、落ち着け。
「牛扱いすな~!!」
まあ、俺達もその事を否定する気は無い。あの光は、間違いなく『闇の双剣』が出た時より強い光だった。
「つ~事で、コレは『超レア品』という事だ~!」
そう言い放つミミに、シェーラが追加補足する。
「それだけではないぞ。スティールの対象がかなりの高レベルだという事もある」
「お~! そりがあったか~! これは良い物だ!」
ミミは、小型の楯を顔の位置に掲げて、そんな事をほざく。ミミは、反応がない事に、若干ショックを受けていた。ざまー。
「まあ、どっちみち、トマスさんに見てもらうまではポーチに入れたままにするしかないけどな」
「だよね。他の鍛冶師さんに見てもらうのは、止めといた方が良いよね」
「モチのロンよ! ど~んなトラブルに巻き込まれるか、分かったもんじゃないかんね!」
「信用のおけるトマス氏に確認してもらうのがいいだろう」
今までの付き合いで、トマスさんの事は信用できる人だと分かっているが、他の鍛冶師の事は全く分からない。今回は、特に物が物だけに、嘘を言って安く買いたたかれたり、その情報を他の者にリークしたりされる可能性が有る。
この世界…この国の治安はそれ程良くはない。何が起こるか分からないって事だ。用心に越した事はない。
「でも、やっぱりレア品の上があったね。超レア品の上もあるのかな?」
……なんか、『超レア品』で名称が決まった感じになってる。まあ良いけど。
「ゲームとかだと、○○級系なら、伝説級、神話級なんちゅうのがあるんよね」
「伝説級に神話級か。しかし、そんな物をモンスターが持っているのか?」
シェーラの突っ込みに、ミミは返答に詰まった。かく言う俺も答えられない。
だから全員、
「無いよね」
「無いか」
「無いな」
「ウガァー!!」
となった訳だ。
だが、『闇の双剣』レベルの品でも、モンスターが持っている(モンスターから盗める)事が変なんだが……。
それでも、『伝説級』だの、『神話級』なんて物は無理だろう。
……あれ、『草薙剣』って、素戔嗚尊が八岐大蛇の体内から見つけ出したような……。外国の神話にも似たような話が有ったような気が……。有るのか?
まあ、今回の『超レア品』ですら、奇跡のような確率のはずだから、仮にそんな物が存在したとしても、期待するだけ無駄だろう。
可能性が有るとしたら、俺の『スティール』がカンストして、ティアの『歌唱』もカンストした上で、レベルも『精神』と『運』も高い状態で『ラッキーソング』付きで実行した時ぐらいだろう。そして、その状態でも、多分、それなりの回数実行してやっと、と言う確率で。
取りあえず、目標に出来る値ではないし、それにかかる年数を考えると全く現実的ではない。考えるだけ無駄。現状でも可能性は無い事はないが、それは、天文学的数字分の1な確率。通常、確率ゼロで考える値。期待するだけ馬鹿を見る。
いろいろと濃い日の翌日は全く問題なく進み、俺達はこの依頼最後の日を迎えた。
予定では、昼前に最後のウマン村へと巡って、夕方には王都へと帰り着く事になっていた。
だが、俺達の初依頼での騒動はまだ終わっていなかった。
最後のウマン村へたどり着いたのは午前10時頃だった。ティアの『歌唱』効果で、馬が気持ちよく走った結果だ。
「これなら昼過ぎには、王都の外門はくぐれそうですね」
この時はカルトさんも、そんな事を言っていたんだよな。
俺達がウマン村の外門へたどり着くと、そこにいた門番が異常なまでの喜びで俺達を迎えてくれた。
「ギルドの馬車だ!! ギルドの馬車だぞ!!」
「もう来てくれたのか!!」
その時、御者台にいた俺は、クロさんと顔を見合わせて首をひねっていた。
「もう来てくれた? 買い取り品がだぶついていて、買い取り資金が枯渇していたのかな?」
俺も、ティアと同じ事を考えていた。と言うか、それ位しか考えつかなかったし。
そして、いつにない騒がしさに、カルトさんが馬車の小窓から顔を出した。
「どうしました? 何か問題でも起きましたか?」
カルトさんの声を聞いた門番の二人の顔が、一瞬驚いた顔に変わる。そして、二人が顔を合わせたあと、年配の方の門番が息せき切って話し出した。
「ゾンビが出たんだ! 不浄の泉だ!! 今朝だ!! 王都へは連絡もした!! だから来てくれたのかと思ったんだ!! 違ったのか!?」
『ゾンビ』と言う名を聞いた瞬間、馬車の全員が息をのんだ。あのミミですら軽口を叩く事がない。
「ゾンビの数は!? おおよそ何日前ですか!?」
カルトさんの声は『黒死鳥』の時と同じで、かなり慌てていた。
「昨日通ったやつらが、姿を見ていないって言ってたから、多分一日経っていないと思う!」
「位置は!?」
「村の北西! ここの反対側だ!」
「……ウマン村の北西と言うと、枯れ谷や草原がある所ですか?」
「そうだ! 枯れ谷と原っぱの間にいるのが発見されたんだ!!」
カルトさんは門番二人から、少しずつ詳細な情報を聞き出していく。
それを聞きながら、俺達は全員で顔を見合わせた。
『ゾンビ』、言わずと知れた『動く死体』だ。前世では、某ハリウッドドラマによって人気が爆発したアレだな。まあ、あのドラマ以前から、一定期間ごとに映画などに出てくる人気キャラ(?)ではある。ゲームでも、古典的なやつからバイオなやつまで多種が出演していた。
この世界の『ゾンビ』もほぼアレと同じだ。ただ、バイオなゲームに出てくる、犬などの動物タイプは存在しない。全て人型だ。
そして前世では、ゾンビの原因は何であれ、死体ないし生き物がゾンビ化するのが定番だが、この世界では違う。湧くのだ。
ゲームやラノベで良くあるモンスターの『湧き』だが、この世界においてはモンスターは基本『湧く』事はない。人間や動物同様、生殖によって生まれ、食物連鎖の一部をに成っている。
だが唯一違うのが、『アンデッドモンスター』と言われるモンスターだけは『湧く』のだ。
ただし、ゲーム同様に、不特定の場所でむやみやたらと湧く事はない。特定の場所のみで湧く。その湧く場所が『不浄の泉』と呼ばれる存在だ。
この『不浄の泉』は、不特定の場所に、ある日突然発生する。その発生原因は現時点では不明だ。そしてこの泉は、存在する間、ずっと『アンデッドモンスター』を発生させ続ける。一日当たり万の単位に達しかねない数を、だ。
カルトさんが日数を確認したのは、このためだな。
この湧きだし数だが、『不浄の泉』が発生た直後は特に多く、その日一日で5万以上が湧き出すと言われている。その後安定して、一日当たり1万程度になる。
……つまり、現時点でも最低でも5万の『ゾンビ』がいると思って対処しなければならない。そして、今もなお増え続けている、と言う事でもある。
この『不浄の泉』及び『アンデッドモンスター』に関しては、冒険者にとっては必須の知識だ。なぜなら、アンデッド討伐は、実質冒険者の義務となっているからだ。
『アンデッドモンスター』は前記の通り、植物連鎖から外れた存在。そんな存在が大量に野に放たれれば、自然環境は壊れ、人間の生活にも致命的な影響を及ぼす。
モンスターという、ある意味天然資源を糧とする冒険者には、死活問題である。まあ、それ以前に、一日当たり一万近い数が湧くのなら、人間の町も生命的な意味で死活問題なんだよ。
と言う訳で、冒険者は『アンデッドモンスター』を討伐する必要があるって事だ。当然、俺達もその事は知っているし、理解している。
「マジかー、黒死鳥の次はゾンビかー、ティア、影でこっそり山田君の不運ソング歌ってないよね」
ミミがアホな事を言い出す。当然そんな事がないのは分かってはいるんだが、そう言いたくなる程に『不運』が続いてはいるけどな……。
それはともかく、ミミの頭をペチッと叩いておいたのは言うまでもない。
「浄化師が来るまで、出来るだけ削るしかない」
「だやね……」
シェーラの言う『浄化師』とは、真に対アンデッド専用職と言えるJOBで、『浄化』と言うアンデッド及び『不浄の泉』を消滅させるスキルを持つ。
その『浄化』スキルは見た事がないのだが、多分、範囲攻撃魔法などと同じだと思う。
俺達冒険者は、この『浄化師』が来るまでに被害を抑え、その上で『浄化師』が『不浄の泉』へ行く道を切り開くのが仕事となる。
そんな俺達の会話を聞いていたカチアさんが、「浄化師か……」と呟くのが俺の耳に入った。その言い方が気になった俺は、カチアさんへと確認する。
「浄化師に何か問題があるんですか?」
「えっ、あ、ロウ君は知らないのか……。あのね、今この国にいる浄化師は、72歳のお爺さんなの。以前はスキルレベルも高かったんだけど、歳を取って下がってるし、体力の問題で直ぐに出馬って訳にもいかないと思うの」
「ホエッ? そのじじい以外いないの?」
……じじい言うな、じじい! って、それはともかく、俺も同じ事を思った。
「浄化師って、レアJOBなのよ。各国で融通し合うレベルでね。……で、一応もう一人いるにはいるのよね。ただ、あなた達と同じ新成人で、スキル経験値ゼロ、当然スキルレベル1のド素人なの。まあ、それ以外にも問題あるんだけど……」
「マジかー、ロウのスティールと同じで空打ちでけへんタイプかー、多分、威力は『精神』依存で、範囲とMP効率がスキルレベル依存っぽい。……JOBレベル上げてても、微妙~に使えんぞ、そんなん!!」
「ミミちゃん、それ正解。JOBレベルだけはパワーレベリングで20位まで上げてたはずだけど、大切なのは効果範囲だから、最後の不浄の泉を消滅させる時以外は、普通の攻撃系魔法使いにも遙かに及ばないでしょうね」
「オーマイガァ!! ……んで、カチアさん、そのじじいの方、スキルレベルはなんぼまで下がっとる?」
「ハッキリは断言できないけど、スキルレベル10以下には下がってないと思う」
「おっ! じじい頑張ってるじゃん! エライ!!」
じじい言うな!じじい!!
ところで、この世界のレベル及びスキルレベルは、鍛え続けなくては下がる。まあ、当然と言えば当然の事だな。頭も身体も、使わなければ鈍る。レベルもスキルレベルも同じだ。
ミミの言うとおり、その『浄化師』の爺さんは、72歳でスキルレベルを10以上に保っているって事は、本当に凄い事だと思う。
しかし、『浄化師』がそんな状態だとすると、多分出馬は大分遅くなるだろう。その間、俺達が少しでも数を削って、被害を抑えないとな。大変だぞ、これは……。
「門番の方の話では、朝早い時間帯には王都へ早馬を送ったそうです。多分、明日の昼頃には王都の冒険者達が集まるでしょう。それまで、申し訳ありませんが、皆さんには頑張って頂く事になります」
カルトさんが、申し訳なさそうではあるが、それでいて決然とした態度で言ってきた。
「あのー、冒険者の皆さんが来るのは明日の昼なんですか?」
質問したのはティアだ。言われてみれば、確かに遅い気がする。この村までの移動は、半日で着くはず。今日の夕方に来てもおかしくない。
「時間的に考えて、知らせ自体は今日の昼前には十分に届くはずです。ですが、その時間帯には冒険者は郊外に出ていてほとんど街中にはいません。指示が出来るのは今日の夕方という事になります。
王都周辺とは言え、さすがに夜間の移動は出来ませんので、出立は翌日早朝となる訳です。ですが、ギルド側は本日中に物資等の準備を行えますので、この時間が完全に無駄になるという訳ではありません」
確かに、多くの冒険者を派遣するとなれば、それに必要な物資は膨大な量になる。間違っても、この村や周囲の村からかき集めて足るとは思えない。なんと言っても、『アンデッドモンスター』の駆除は、数日がかりの長期戦なのだから。
……食料やポーション類だけでなく、冒険者達が寝泊まりする施設と言うか道具類も必要だな。マジで大量の物資が必要だ。ギルドも大変だぞ。
……あ、そう言えば、冒険者達だけでなく、騎士団も来るはずだ。国家間の戦争が絶えて久しい現状では、騎士団の存在意義はこのアンデッド戦なのだから。
となると、ギルトは、冒険者の面倒を見るだけでなく、騎士団との橋渡しや、騎士と冒険者間のトラブル解決も仕事になるのか? ご愁傷様です……。
「ミミ君の炎魔法には期待していますよ」
「うっしゃ~! 炎魔法無双を見せちゃるけんね~!!」
カルトさんの激励に意気込むミミ。
実は、大多数の『アンデッドモンスター』へ特効なのは『浄化師』の『浄化』スキルだが、その次に効果があるのは炎魔法だった。
場所も草原地帯と言う話なので、山火事等の延焼をそれ程気にする必要がないため、正にミミが活躍するにはうってつけの場だと言える。
俺達は一旦、本来の目的地である、この村の冒険者ギルドへと向かい、そこのギルド職員から情報を収集したのだが、門番達から聞いた以上の話は聞けなかった。
「皆さんは現場に向かってください。皆さんは4級に成り立てですから、無理をする必要はありません。ミミ君が遠距離から炎魔法を放って、他の方々はその間ミミ君をガードする形で十分です。
ゾンビは特殊な毒を持っています。低級解毒薬では一つでは効果がありません。明日届けられる荷物にあるはずですが、今日は手持ちの物でまかなえる範囲で対処してください。
絶対に接近戦は駄目ですよ。この村に常駐している冒険者達が数名程度ではありますが先に行っているはずです。彼らと共に、身の安全を第一にしなからで良いので、少しでも削ってください。よろしくお願いします」
カルトさんは、噛んで含めるように言って来る。それだけ俺達が不甲斐ないって事だ。弱々って事だ。
俺達は、アルトさんの言葉を胸に刻みつつ、現場へと向かった。
現場までの道筋はギルド職員に聞ていた。幸い、現場の更に奥には、『枯れ谷』と呼ばれるポーション用のキノコが群生している所があるらしく、そこへ行くために人の歩みによって出来た道がしっかり刻まれているので、迷う事はない。
そして、俺達が現場にたどり着いたのは、村の外門を出て30分程だった。かなり急いだとは言え、村に近すぎる。
「臭!!」
現場に近づいた段階でのミミの第一声がそれだった。
「マスク!マスク! 活性炭入りのマスク! 米軍用のガスマスクでも可!!」
そんなん、あるかー!と叫びたくなったが、喋ればそれだけ息を吸い込む必要があるため、それを断念する。
実際、臭い。とにかく臭い。風向きが急に変わり、匂いがこっちに流れてきた途端、これだ。気持ち悪くなった。ただ臭いのではなく、胸の奥からこみ上げてくるような気持ち悪さのある匂いだ。
ティアは勿論、シェーラも眉間にしわを寄せている。
その匂いの根源は、俺達から100メートル程離れた位置にいた。いや、100メートル離れた位置を埋め尽くしていた……。
「ねぇ、ミミちゃん、あれ、絶対5万じゃないよね」
「絶対ちゃう!!」
俺も同感だ。シェーラも、「倍とは言わないが、かなりいるな」と言っている。
そんな、草原を埋め尽くすようにいる『ゾンビ』を前にして、8組と思われる冒険者達が戦っていた。二人程攻撃魔法職の者がいるようで、時折雷と光が煌めくのが見える。
彼らは、俺達から見て左手側に列を作って戦っているようだ。
「あちらに誘導するつもりのようだな。私たちも向こうへ回ろう」
モンスターは、一部を除き人間を見ると襲ってくる。そのため、今回のような場合、考えて攻撃を仕掛けないと、村の方へと誘導してしまう事になる。彼らは、村のない南の方へと『ゾンビ』を誘導するつもりのようで、南側に戦列を組んでいた。
俺達は、息を切らさない範囲で急いで戦列へと向かった。
「おっ! 応援か!! って、オイ!! ガキが出てくんじゃねぇ!! 駆け出しは引っ込んでろ!!」
俺達が戦列へとたどり着いた時に掛けられた第一声がそれだった。
まあ、仕方がない。俺達は新成人組だと一目で分かる者達ばかりだ(シェーラを除くが……)。
声を荒げた冒険者も、悪気があった訳ではない。俺達の事を心配して、だろう。そして、足手まといになって戦列が崩れるのを恐れて、だ。
「ういっ~す! え~、火炎魔法のご用命はありゃ~せんか~? レベル18の火炎魔法のご用命はありゃ~せんか? スキルレベルは4だけど~」
ミミのやつが、またアホな事を言い出したが、直ぐに戦列内の冒険者が食いついた。
「炎魔法使いがいるのか! なら、一番左を頼む! あっちは魔法使いがいねぇから!」
シェーラと同じ大剣を持つ冒険者が、振り向きながら叫んでいた。
ミミは「了解、了解」と軽く応えると、俺達を誘って戦列左端へと向かう。
「大丈夫か!?」
「どこの冒険者だ!」
途中、冒険者達から声が掛けられるが、ミミがサクッと応えていた。
「どもども、不幸にして、さっきこの村に護衛依頼で来たばかりの4級成り立てで~す。どぞよろしく」
なんとも適当な答え方のようだが、俺達が見た目はともかく、間違いなく4級冒険者である事を『護衛依頼』と言う言葉でダメ押ししつつ、現状の説明も加えられている。まあ、言い方が言い方ではあるが……。
そして、戦列の左翼に着くと、戦闘中の男性5人組パーティーに簡単な挨拶を行い、攻撃を開始する。とは言っても、ティアが『魔女っ子ソング』メドレーを唄い、ミミが『ファイヤーストーム』を連発するだけなんだが……。
俺とシェーラは現状待機。……いや、違った、周囲のパーティーにティアの『歌唱』の説明をする役だったよ……。
ミミの『ファイヤーストーム』はその相性も合って、かなりの効率で『ゾンビ』を消滅させていく。
……そう、『ゾンビ』は、いや『アンデッドモンスター』は、死ぬと消滅するんだよ。
「ムッキー!! 本当に魔石は1ポイントじゃん!!」
消滅した『アンデッドモンスター』は、どの種類でも1ポイントの『魔石』を消滅と同時に残す。ゲームのドロップアイテムさながらに。
ミミは、当然『ゾンビ』がドロップする『魔石』が1ポイントなのは知っていたはずだが、それでも腹が立ったらしい。
まあ、ミミの気持ちも分からなくはない。なぜなら、『ゾンビ』自体のレベルは13~15程だと言われている。その『魔石』が1ポイントなのは納得いかん、と言う訳だ。
『不浄の泉』から湧き出す『アンデッドモンスター』は、一律全て、死ぬと消滅し、1ポイントの『魔石』だけを残す。『不浄の泉』騒動が、ただでさえ不条理なのに、この事が更に輪を掛ける要因になっている。
この『魔石』に関してはアレだが、死ぬと死体が消滅すると言う事に関しては、有り難い事でもある。なにせ、10万匹近いモンスターの死体が残されれば、それはそれで別のバイオハザードの要因になるからだ。
俺とシェーラは、当面は攻撃を行わず、カルトさんの指示どおりミミとティアの防御に徹していたが、『ゾンビ』の動きが思った以上に鈍い事と、その行動パターン等が分かってくると、二人顔を見合わせ、打って出る事にする。
『ゾンビ』を物理攻撃で殺す方法は二つだ。某バイオなゲーム同様に、身体を徹底的に破壊するか、頭を破壊するかしかない。
シェーラは、例の『大剣にも程がある』と言う大剣を使用して、その長いリーチで一撃の下に2~3匹を同時に屠っていく。
俺の武器はショートソードである『闇の双剣』なので、『ゾンビ』に肉薄する必要がある。動きの鈍い『ゾンビ』とは言え、ダメージを受ける可能性が有るって事だ。
「ロウ気をつけて!」
『歌唱』の合間にティアが叫んできた。そのティアの両手には『初級解毒薬』が握られている。誰かが…多分俺が、『ゾンビ』の毒を受けた際に即座に使用できるようにだろう。
「ロウ! スティールもよろ!」
ミミのヤツがMP回復の合間に、そんな事を言ってくる。
……あの、腐った身体に触れってのか!? そう思っていると、ミミのヤツが革製の水袋を掲げて見せる。……どうやら、汚れたら水で手を洗え、って事らしい。
ハイハイ、分かりましたよ! やりゃー良いんだろ!やりゃー!!。
どうせやるなら、徹底的にやってやる。ミミが休憩中なら、ティアも手は空いているしな。
「ティア! ラッキーソング頼む!」
そして、いつもの演歌調なラッキーソングが流れ出す。勿論、曲冒頭の語り部分もだ。歌詞自体は日本語なので、周りの冒険者達には理解できないが、その曲調の気が抜ける感は分かるようで、先ほどの『魔女っ子ソング』メドレー以上に唖然としている。
たとえ、冒頭の語りに不運な描写があろうとも、その部分で既に俺の『運』には+16の補正値が入っている。歌詞そのものが重要ではなく、曲に対するティアのイメージが影響を与えているという証拠だ。
ティアの『精神』は7レベルアップ分にSP2つ分が加えられている。『黒死鳥』戦前とは大分違う付与値だ。
俺も、『運』を12まで上げているので、合計28の補正値という事になる。ここまで来て、クズドロップの『魔石』を引くという確率はほぼ無いと言って良い。
と言う事て、タイミングを計って『スティール』を実行。輝く光は一般光。その光の中に現れたのはビン。多分ポーション。
その小瓶を手にしてみると、ビンの中の液体は青色だった。青色のポーション、つまり『解毒薬』の一種だと言う事だ。
俺は、そのポーションをミミに投げ渡す。ミミのやつは、若干ワタワタとお手玉してから、何とかキャッチする。
そして、ミミが判断したのは、
「多分、解毒薬! 低級が付かない一個上の!!」
だった。
まあ、青色の濃度からして、多分そうだろうとは思った。とは言え、これはあくまでも、色と濃度から想定しただけで、『鑑定』を実行するまでは分からない。
「ロウ! 盗って盗って盗りまくれ~!!」
ハイハイ、言われんでも、そのつもりだよ。
そして、俺は攻撃はMPの回復(吸収)の手段として、それ以外は全て『スティール』を実行し続けた。
ティアがミミのために『魔女っ子ソング』を唄う際は、『ラッキーソング』無しになるが、素で『運』の補正値が高くなっているのもあり、『魔石』を引く確率はそこまで高くはない。
シェーラは、MPがなくなると、俺の『闇の双剣』の片割れを使い、『ゾンビ』がらMPを吸収して、『地裂斬』を使うと言うローテーションを行っていた。その間、シェーラが使う『闇の双剣』の片割れは、ティアに預けてある。必要な時に受け取って使う訳だ。
……面倒くさそうだな。今度、シェーラ用に『闇の双剣』の鞘を作ってもらうか。その方が良さそうだ。
この俺達が参加した戦列だが、俺達を入れても9パーティーに過ぎない。当然、戦線を維持するなんて無理だ。戦列全面はともかく、その横側からは幾らでも回り込んでこられる。なんせ、『ゾンビ』は数だけは膨大にいるのだから。
そこで俺達は、前線を随時下げながらの戦闘となる。横から回り込まれない早さでバックしながらだ。それ故に、戦列の位置を村側に向けなかった訳だ。
俺達は、午前11時頃から午後4時頃まで戦い続けた。無論、横のパーティーと交互に休憩を取るようにしてだ。
俺は、『スタミナ』補正値に関しては、実はこのパーティーでは最弱だったりする。実際は、肉体自体が持つスタミナに関しては、ある程度あるため、そこまで大きな差は無い。とは言え、長期戦が苦手なのは間違いない。……しんどい。
それでも頑張ったぞ。なんせ、『解毒薬』を200本以上『スティール』したんだからな。十分な頑張りだろう。
ちなみに、あの『青色ポーション』は『解毒薬』である事が確定した。
それは、隣のパーティーの者が『ゾンビ』の毒にやられた際、彼らの『低級解毒薬』の在庫がなかったを見た悪魔が囁いた訳さ。
「ダンナ、良い薬が有りやすぜ♥」
と……。
実は、その際、俺達はまだ『低級解毒薬』の在庫を大量に持っていた。それなのにだ。悪魔である。
そんな、悪辣な生体実験によって、かのポーションが『解毒薬』である事が彼の無事と共に確定した訳だ。
「よっしゃ~!! ロウ! 量産! 量産!!」
その生体実験結果を見た、悪魔は、そう言って喚いていたよ。ホントに悪魔である。
……『量産』って、俺が生産している訳じゃないんだどな。まあ、『スティール』はやったよ。その結果が、さっき言った200本オーバーと、疲労困憊って事だ。
そして、この戦列の、と言うか、この村の冒険者のまとめ役から撤収指示が出された。
「オイ! 撤収だ! 今日はこれで終わる! 大回りして帰るぞ!」
その掛け声と共に、疲労困憊だった俺は、更なるマラソンをする羽目となった。直線で30分の距離を、大回りすると50分近く掛かる。外門から街中までも入れると、一時間近い時間だ。疲労困憊が疲労困憊する。いや、意味不明だけど、それだけ疲れたって事。
今日一日で、俺達のパティーが殲滅し『ゾンビ』の数は、700匹は楽に越えているだろう。回収できた『魔石』だけでも437個、437ダリ分だった。
これ以外に、20本以上消費した上で、まだ191本残っている『解毒薬』もある。そう考えれば、かなりの収益だと言えるかもしれない。
まあ、今はそんな事はどうでも良い。今は、ただ休みたい。疲れたよ、マジで。
買い取り価格に関しては、あとでの相談と言う事になった。
そして、あの死体に関しては、カルトさんが持っていた例の1000万ダリの『魔法のバッグ』にあっさりと入ってしまった。翼長20数㍍とは言え、身体だけで言えばそれ程は無いので問題なく入ったようだ。
ミミがまた、「ぐぬぬぬぬぬぬぅ……」とかなぜかうめいていたが、意味不明である。
『黒死鳥』はその体毛の関係もあって、俺達が簡単に解体できる訳もなく、『魔石』の確認が出来ないため、現時点ではレベルは分からない。カルトさんいわく、多分、レベル35~40程ではないかとの事。
それ程のレベルだけあって、俺達のレベルも驚くほど一気に上がった。後半、全く戦闘に参加していなかったミミも、パーティー効果なのか、最初の戦闘に参加したからなのかは不明だが、同じように経験値が入っていた。
上がったレベルは7レベル分。レベル11からレベル18に、だ。
こう言う事は、王族や貴族がパワーレベリングする時以外は、普通はないそうだ。冒険者は、技術が伴わなくなるため、パワーレベリングは事実上禁止してるしな。
まあ、自力で、レベル差が20以上あるモンスターを殺す事が出来るケースなんて、そうそう有るはずが無い。
俺達の場合は、飛行系モンスターを地上に縛り付ける事に成功したからこその結果だ。それすら、『闇の双剣』という『斬』値が異常に高い剣の存在と、いくつかの偶然がなせた技に過ぎない。実力によるものでは無い。絶対に。ここで思い上がると、直ぐに死ぬ。ミミには言い聞かせておかねば……。
ロウ 15歳
盗賊 Lv.18
MP 158
力 8
スタミナ 5
素早さ 38
器用さ 38
精神 5
運 12
SP ─
スキル
スティール Lv.3
気配察知 Lv.7
隠密 Lv.3
ティア 15歳
歌姫 Lv.18
MP 380
力 7
スタミナ 20
素早さ 15
器用さ 4
精神 60
運 ─
SP ─
スキル
歌唱 Lv.3
ミミ 15歳
炎魔術師 Lv.18
MP 510
力 8
スタミナ 8
素早さ 21
器用さ 6
精神 60
運 ─
SP ─
スキル
ファイヤーボール Lv.4
ファイヤーアロー Lv.5
ファイヤーストーム Lv.4
シェーラ 15歳
大剣士 Lv.18
MP 162
力 40 +4
スタミナ 38
素早さ 12
器用さ 10
精神 5
運 ─
SP ─
スキル
強力 Lv.6
加重 Lv.3
地裂斬 Lv.4
今回は、スキルは全く変わっていない。
SPについては、俺は初めて『運』以外にも振った。『MP』を150台にするために+2だ。これでやっとMPの自然回復速度が20秒毎に1ポイントに上がる。長かったな……。
あと、今回の『黒死鳥』戦で、『力』の必要性にも思い至った事もあり、『力』に+3してある。そして、いつもどおり『運』にも+2だ。『運』は今後も、毎回とは行かないが、確実に上げていくつもり。
ティアは『素早さ』と『精神』に+3ずつと、『スタミナ』に+1した。今回初めて『精神』に振っているのだが、付与効果を高めるためだそうだ。『歌唱』の効果は、スキルレベルと『精神』値両方が影響しているからな。
ミミは、『MP』を大台の500にするために+3し、ついに1秒に1ポイントMPが自然回復するようになった。一分間に60ポイント回復する訳だ。そして、『素早さ』に+1、『精神』に+3だ。ミミも、『精神』へ振ったのは初めてだな。やっと、『精神』にも振れるぐらいに他のパラメーターが上がってきたと言う事なのかもしれない。
シェーラは、『力』と『器用さ』に+2ずつ。そして、『素早さ』に+3だ。全体的な、肉体能力の底上げだ。『力』が強力のパッシブ効果分も入れて44。俺の5倍以上だ。絶対に怒らせないようにしよう……。
今回のレベルアップで、一番大きなのは、やはりMPの自然回復速度の上昇だろう。全員が、一段階上がっている。今後は、スキルの使用が大分楽になってくるだろう。
その日の夜、俺達は宿屋の一室に集まっていた。勿論、カルトさんとカチアさんはいない。
「あの光は、絶対レアもの以上だった!! 間違いない!!」
ミミが隣の部屋に漏れそうな声で訴える。ど~ど~、落ち着け。
「牛扱いすな~!!」
まあ、俺達もその事を否定する気は無い。あの光は、間違いなく『闇の双剣』が出た時より強い光だった。
「つ~事で、コレは『超レア品』という事だ~!」
そう言い放つミミに、シェーラが追加補足する。
「それだけではないぞ。スティールの対象がかなりの高レベルだという事もある」
「お~! そりがあったか~! これは良い物だ!」
ミミは、小型の楯を顔の位置に掲げて、そんな事をほざく。ミミは、反応がない事に、若干ショックを受けていた。ざまー。
「まあ、どっちみち、トマスさんに見てもらうまではポーチに入れたままにするしかないけどな」
「だよね。他の鍛冶師さんに見てもらうのは、止めといた方が良いよね」
「モチのロンよ! ど~んなトラブルに巻き込まれるか、分かったもんじゃないかんね!」
「信用のおけるトマス氏に確認してもらうのがいいだろう」
今までの付き合いで、トマスさんの事は信用できる人だと分かっているが、他の鍛冶師の事は全く分からない。今回は、特に物が物だけに、嘘を言って安く買いたたかれたり、その情報を他の者にリークしたりされる可能性が有る。
この世界…この国の治安はそれ程良くはない。何が起こるか分からないって事だ。用心に越した事はない。
「でも、やっぱりレア品の上があったね。超レア品の上もあるのかな?」
……なんか、『超レア品』で名称が決まった感じになってる。まあ良いけど。
「ゲームとかだと、○○級系なら、伝説級、神話級なんちゅうのがあるんよね」
「伝説級に神話級か。しかし、そんな物をモンスターが持っているのか?」
シェーラの突っ込みに、ミミは返答に詰まった。かく言う俺も答えられない。
だから全員、
「無いよね」
「無いか」
「無いな」
「ウガァー!!」
となった訳だ。
だが、『闇の双剣』レベルの品でも、モンスターが持っている(モンスターから盗める)事が変なんだが……。
それでも、『伝説級』だの、『神話級』なんて物は無理だろう。
……あれ、『草薙剣』って、素戔嗚尊が八岐大蛇の体内から見つけ出したような……。外国の神話にも似たような話が有ったような気が……。有るのか?
まあ、今回の『超レア品』ですら、奇跡のような確率のはずだから、仮にそんな物が存在したとしても、期待するだけ無駄だろう。
可能性が有るとしたら、俺の『スティール』がカンストして、ティアの『歌唱』もカンストした上で、レベルも『精神』と『運』も高い状態で『ラッキーソング』付きで実行した時ぐらいだろう。そして、その状態でも、多分、それなりの回数実行してやっと、と言う確率で。
取りあえず、目標に出来る値ではないし、それにかかる年数を考えると全く現実的ではない。考えるだけ無駄。現状でも可能性は無い事はないが、それは、天文学的数字分の1な確率。通常、確率ゼロで考える値。期待するだけ馬鹿を見る。
いろいろと濃い日の翌日は全く問題なく進み、俺達はこの依頼最後の日を迎えた。
予定では、昼前に最後のウマン村へと巡って、夕方には王都へと帰り着く事になっていた。
だが、俺達の初依頼での騒動はまだ終わっていなかった。
最後のウマン村へたどり着いたのは午前10時頃だった。ティアの『歌唱』効果で、馬が気持ちよく走った結果だ。
「これなら昼過ぎには、王都の外門はくぐれそうですね」
この時はカルトさんも、そんな事を言っていたんだよな。
俺達がウマン村の外門へたどり着くと、そこにいた門番が異常なまでの喜びで俺達を迎えてくれた。
「ギルドの馬車だ!! ギルドの馬車だぞ!!」
「もう来てくれたのか!!」
その時、御者台にいた俺は、クロさんと顔を見合わせて首をひねっていた。
「もう来てくれた? 買い取り品がだぶついていて、買い取り資金が枯渇していたのかな?」
俺も、ティアと同じ事を考えていた。と言うか、それ位しか考えつかなかったし。
そして、いつにない騒がしさに、カルトさんが馬車の小窓から顔を出した。
「どうしました? 何か問題でも起きましたか?」
カルトさんの声を聞いた門番の二人の顔が、一瞬驚いた顔に変わる。そして、二人が顔を合わせたあと、年配の方の門番が息せき切って話し出した。
「ゾンビが出たんだ! 不浄の泉だ!! 今朝だ!! 王都へは連絡もした!! だから来てくれたのかと思ったんだ!! 違ったのか!?」
『ゾンビ』と言う名を聞いた瞬間、馬車の全員が息をのんだ。あのミミですら軽口を叩く事がない。
「ゾンビの数は!? おおよそ何日前ですか!?」
カルトさんの声は『黒死鳥』の時と同じで、かなり慌てていた。
「昨日通ったやつらが、姿を見ていないって言ってたから、多分一日経っていないと思う!」
「位置は!?」
「村の北西! ここの反対側だ!」
「……ウマン村の北西と言うと、枯れ谷や草原がある所ですか?」
「そうだ! 枯れ谷と原っぱの間にいるのが発見されたんだ!!」
カルトさんは門番二人から、少しずつ詳細な情報を聞き出していく。
それを聞きながら、俺達は全員で顔を見合わせた。
『ゾンビ』、言わずと知れた『動く死体』だ。前世では、某ハリウッドドラマによって人気が爆発したアレだな。まあ、あのドラマ以前から、一定期間ごとに映画などに出てくる人気キャラ(?)ではある。ゲームでも、古典的なやつからバイオなやつまで多種が出演していた。
この世界の『ゾンビ』もほぼアレと同じだ。ただ、バイオなゲームに出てくる、犬などの動物タイプは存在しない。全て人型だ。
そして前世では、ゾンビの原因は何であれ、死体ないし生き物がゾンビ化するのが定番だが、この世界では違う。湧くのだ。
ゲームやラノベで良くあるモンスターの『湧き』だが、この世界においてはモンスターは基本『湧く』事はない。人間や動物同様、生殖によって生まれ、食物連鎖の一部をに成っている。
だが唯一違うのが、『アンデッドモンスター』と言われるモンスターだけは『湧く』のだ。
ただし、ゲーム同様に、不特定の場所でむやみやたらと湧く事はない。特定の場所のみで湧く。その湧く場所が『不浄の泉』と呼ばれる存在だ。
この『不浄の泉』は、不特定の場所に、ある日突然発生する。その発生原因は現時点では不明だ。そしてこの泉は、存在する間、ずっと『アンデッドモンスター』を発生させ続ける。一日当たり万の単位に達しかねない数を、だ。
カルトさんが日数を確認したのは、このためだな。
この湧きだし数だが、『不浄の泉』が発生た直後は特に多く、その日一日で5万以上が湧き出すと言われている。その後安定して、一日当たり1万程度になる。
……つまり、現時点でも最低でも5万の『ゾンビ』がいると思って対処しなければならない。そして、今もなお増え続けている、と言う事でもある。
この『不浄の泉』及び『アンデッドモンスター』に関しては、冒険者にとっては必須の知識だ。なぜなら、アンデッド討伐は、実質冒険者の義務となっているからだ。
『アンデッドモンスター』は前記の通り、植物連鎖から外れた存在。そんな存在が大量に野に放たれれば、自然環境は壊れ、人間の生活にも致命的な影響を及ぼす。
モンスターという、ある意味天然資源を糧とする冒険者には、死活問題である。まあ、それ以前に、一日当たり一万近い数が湧くのなら、人間の町も生命的な意味で死活問題なんだよ。
と言う訳で、冒険者は『アンデッドモンスター』を討伐する必要があるって事だ。当然、俺達もその事は知っているし、理解している。
「マジかー、黒死鳥の次はゾンビかー、ティア、影でこっそり山田君の不運ソング歌ってないよね」
ミミがアホな事を言い出す。当然そんな事がないのは分かってはいるんだが、そう言いたくなる程に『不運』が続いてはいるけどな……。
それはともかく、ミミの頭をペチッと叩いておいたのは言うまでもない。
「浄化師が来るまで、出来るだけ削るしかない」
「だやね……」
シェーラの言う『浄化師』とは、真に対アンデッド専用職と言えるJOBで、『浄化』と言うアンデッド及び『不浄の泉』を消滅させるスキルを持つ。
その『浄化』スキルは見た事がないのだが、多分、範囲攻撃魔法などと同じだと思う。
俺達冒険者は、この『浄化師』が来るまでに被害を抑え、その上で『浄化師』が『不浄の泉』へ行く道を切り開くのが仕事となる。
そんな俺達の会話を聞いていたカチアさんが、「浄化師か……」と呟くのが俺の耳に入った。その言い方が気になった俺は、カチアさんへと確認する。
「浄化師に何か問題があるんですか?」
「えっ、あ、ロウ君は知らないのか……。あのね、今この国にいる浄化師は、72歳のお爺さんなの。以前はスキルレベルも高かったんだけど、歳を取って下がってるし、体力の問題で直ぐに出馬って訳にもいかないと思うの」
「ホエッ? そのじじい以外いないの?」
……じじい言うな、じじい! って、それはともかく、俺も同じ事を思った。
「浄化師って、レアJOBなのよ。各国で融通し合うレベルでね。……で、一応もう一人いるにはいるのよね。ただ、あなた達と同じ新成人で、スキル経験値ゼロ、当然スキルレベル1のド素人なの。まあ、それ以外にも問題あるんだけど……」
「マジかー、ロウのスティールと同じで空打ちでけへんタイプかー、多分、威力は『精神』依存で、範囲とMP効率がスキルレベル依存っぽい。……JOBレベル上げてても、微妙~に使えんぞ、そんなん!!」
「ミミちゃん、それ正解。JOBレベルだけはパワーレベリングで20位まで上げてたはずだけど、大切なのは効果範囲だから、最後の不浄の泉を消滅させる時以外は、普通の攻撃系魔法使いにも遙かに及ばないでしょうね」
「オーマイガァ!! ……んで、カチアさん、そのじじいの方、スキルレベルはなんぼまで下がっとる?」
「ハッキリは断言できないけど、スキルレベル10以下には下がってないと思う」
「おっ! じじい頑張ってるじゃん! エライ!!」
じじい言うな!じじい!!
ところで、この世界のレベル及びスキルレベルは、鍛え続けなくては下がる。まあ、当然と言えば当然の事だな。頭も身体も、使わなければ鈍る。レベルもスキルレベルも同じだ。
ミミの言うとおり、その『浄化師』の爺さんは、72歳でスキルレベルを10以上に保っているって事は、本当に凄い事だと思う。
しかし、『浄化師』がそんな状態だとすると、多分出馬は大分遅くなるだろう。その間、俺達が少しでも数を削って、被害を抑えないとな。大変だぞ、これは……。
「門番の方の話では、朝早い時間帯には王都へ早馬を送ったそうです。多分、明日の昼頃には王都の冒険者達が集まるでしょう。それまで、申し訳ありませんが、皆さんには頑張って頂く事になります」
カルトさんが、申し訳なさそうではあるが、それでいて決然とした態度で言ってきた。
「あのー、冒険者の皆さんが来るのは明日の昼なんですか?」
質問したのはティアだ。言われてみれば、確かに遅い気がする。この村までの移動は、半日で着くはず。今日の夕方に来てもおかしくない。
「時間的に考えて、知らせ自体は今日の昼前には十分に届くはずです。ですが、その時間帯には冒険者は郊外に出ていてほとんど街中にはいません。指示が出来るのは今日の夕方という事になります。
王都周辺とは言え、さすがに夜間の移動は出来ませんので、出立は翌日早朝となる訳です。ですが、ギルド側は本日中に物資等の準備を行えますので、この時間が完全に無駄になるという訳ではありません」
確かに、多くの冒険者を派遣するとなれば、それに必要な物資は膨大な量になる。間違っても、この村や周囲の村からかき集めて足るとは思えない。なんと言っても、『アンデッドモンスター』の駆除は、数日がかりの長期戦なのだから。
……食料やポーション類だけでなく、冒険者達が寝泊まりする施設と言うか道具類も必要だな。マジで大量の物資が必要だ。ギルドも大変だぞ。
……あ、そう言えば、冒険者達だけでなく、騎士団も来るはずだ。国家間の戦争が絶えて久しい現状では、騎士団の存在意義はこのアンデッド戦なのだから。
となると、ギルトは、冒険者の面倒を見るだけでなく、騎士団との橋渡しや、騎士と冒険者間のトラブル解決も仕事になるのか? ご愁傷様です……。
「ミミ君の炎魔法には期待していますよ」
「うっしゃ~! 炎魔法無双を見せちゃるけんね~!!」
カルトさんの激励に意気込むミミ。
実は、大多数の『アンデッドモンスター』へ特効なのは『浄化師』の『浄化』スキルだが、その次に効果があるのは炎魔法だった。
場所も草原地帯と言う話なので、山火事等の延焼をそれ程気にする必要がないため、正にミミが活躍するにはうってつけの場だと言える。
俺達は一旦、本来の目的地である、この村の冒険者ギルドへと向かい、そこのギルド職員から情報を収集したのだが、門番達から聞いた以上の話は聞けなかった。
「皆さんは現場に向かってください。皆さんは4級に成り立てですから、無理をする必要はありません。ミミ君が遠距離から炎魔法を放って、他の方々はその間ミミ君をガードする形で十分です。
ゾンビは特殊な毒を持っています。低級解毒薬では一つでは効果がありません。明日届けられる荷物にあるはずですが、今日は手持ちの物でまかなえる範囲で対処してください。
絶対に接近戦は駄目ですよ。この村に常駐している冒険者達が数名程度ではありますが先に行っているはずです。彼らと共に、身の安全を第一にしなからで良いので、少しでも削ってください。よろしくお願いします」
カルトさんは、噛んで含めるように言って来る。それだけ俺達が不甲斐ないって事だ。弱々って事だ。
俺達は、アルトさんの言葉を胸に刻みつつ、現場へと向かった。
現場までの道筋はギルド職員に聞ていた。幸い、現場の更に奥には、『枯れ谷』と呼ばれるポーション用のキノコが群生している所があるらしく、そこへ行くために人の歩みによって出来た道がしっかり刻まれているので、迷う事はない。
そして、俺達が現場にたどり着いたのは、村の外門を出て30分程だった。かなり急いだとは言え、村に近すぎる。
「臭!!」
現場に近づいた段階でのミミの第一声がそれだった。
「マスク!マスク! 活性炭入りのマスク! 米軍用のガスマスクでも可!!」
そんなん、あるかー!と叫びたくなったが、喋ればそれだけ息を吸い込む必要があるため、それを断念する。
実際、臭い。とにかく臭い。風向きが急に変わり、匂いがこっちに流れてきた途端、これだ。気持ち悪くなった。ただ臭いのではなく、胸の奥からこみ上げてくるような気持ち悪さのある匂いだ。
ティアは勿論、シェーラも眉間にしわを寄せている。
その匂いの根源は、俺達から100メートル程離れた位置にいた。いや、100メートル離れた位置を埋め尽くしていた……。
「ねぇ、ミミちゃん、あれ、絶対5万じゃないよね」
「絶対ちゃう!!」
俺も同感だ。シェーラも、「倍とは言わないが、かなりいるな」と言っている。
そんな、草原を埋め尽くすようにいる『ゾンビ』を前にして、8組と思われる冒険者達が戦っていた。二人程攻撃魔法職の者がいるようで、時折雷と光が煌めくのが見える。
彼らは、俺達から見て左手側に列を作って戦っているようだ。
「あちらに誘導するつもりのようだな。私たちも向こうへ回ろう」
モンスターは、一部を除き人間を見ると襲ってくる。そのため、今回のような場合、考えて攻撃を仕掛けないと、村の方へと誘導してしまう事になる。彼らは、村のない南の方へと『ゾンビ』を誘導するつもりのようで、南側に戦列を組んでいた。
俺達は、息を切らさない範囲で急いで戦列へと向かった。
「おっ! 応援か!! って、オイ!! ガキが出てくんじゃねぇ!! 駆け出しは引っ込んでろ!!」
俺達が戦列へとたどり着いた時に掛けられた第一声がそれだった。
まあ、仕方がない。俺達は新成人組だと一目で分かる者達ばかりだ(シェーラを除くが……)。
声を荒げた冒険者も、悪気があった訳ではない。俺達の事を心配して、だろう。そして、足手まといになって戦列が崩れるのを恐れて、だ。
「ういっ~す! え~、火炎魔法のご用命はありゃ~せんか~? レベル18の火炎魔法のご用命はありゃ~せんか? スキルレベルは4だけど~」
ミミのやつが、またアホな事を言い出したが、直ぐに戦列内の冒険者が食いついた。
「炎魔法使いがいるのか! なら、一番左を頼む! あっちは魔法使いがいねぇから!」
シェーラと同じ大剣を持つ冒険者が、振り向きながら叫んでいた。
ミミは「了解、了解」と軽く応えると、俺達を誘って戦列左端へと向かう。
「大丈夫か!?」
「どこの冒険者だ!」
途中、冒険者達から声が掛けられるが、ミミがサクッと応えていた。
「どもども、不幸にして、さっきこの村に護衛依頼で来たばかりの4級成り立てで~す。どぞよろしく」
なんとも適当な答え方のようだが、俺達が見た目はともかく、間違いなく4級冒険者である事を『護衛依頼』と言う言葉でダメ押ししつつ、現状の説明も加えられている。まあ、言い方が言い方ではあるが……。
そして、戦列の左翼に着くと、戦闘中の男性5人組パーティーに簡単な挨拶を行い、攻撃を開始する。とは言っても、ティアが『魔女っ子ソング』メドレーを唄い、ミミが『ファイヤーストーム』を連発するだけなんだが……。
俺とシェーラは現状待機。……いや、違った、周囲のパーティーにティアの『歌唱』の説明をする役だったよ……。
ミミの『ファイヤーストーム』はその相性も合って、かなりの効率で『ゾンビ』を消滅させていく。
……そう、『ゾンビ』は、いや『アンデッドモンスター』は、死ぬと消滅するんだよ。
「ムッキー!! 本当に魔石は1ポイントじゃん!!」
消滅した『アンデッドモンスター』は、どの種類でも1ポイントの『魔石』を消滅と同時に残す。ゲームのドロップアイテムさながらに。
ミミは、当然『ゾンビ』がドロップする『魔石』が1ポイントなのは知っていたはずだが、それでも腹が立ったらしい。
まあ、ミミの気持ちも分からなくはない。なぜなら、『ゾンビ』自体のレベルは13~15程だと言われている。その『魔石』が1ポイントなのは納得いかん、と言う訳だ。
『不浄の泉』から湧き出す『アンデッドモンスター』は、一律全て、死ぬと消滅し、1ポイントの『魔石』だけを残す。『不浄の泉』騒動が、ただでさえ不条理なのに、この事が更に輪を掛ける要因になっている。
この『魔石』に関してはアレだが、死ぬと死体が消滅すると言う事に関しては、有り難い事でもある。なにせ、10万匹近いモンスターの死体が残されれば、それはそれで別のバイオハザードの要因になるからだ。
俺とシェーラは、当面は攻撃を行わず、カルトさんの指示どおりミミとティアの防御に徹していたが、『ゾンビ』の動きが思った以上に鈍い事と、その行動パターン等が分かってくると、二人顔を見合わせ、打って出る事にする。
『ゾンビ』を物理攻撃で殺す方法は二つだ。某バイオなゲーム同様に、身体を徹底的に破壊するか、頭を破壊するかしかない。
シェーラは、例の『大剣にも程がある』と言う大剣を使用して、その長いリーチで一撃の下に2~3匹を同時に屠っていく。
俺の武器はショートソードである『闇の双剣』なので、『ゾンビ』に肉薄する必要がある。動きの鈍い『ゾンビ』とは言え、ダメージを受ける可能性が有るって事だ。
「ロウ気をつけて!」
『歌唱』の合間にティアが叫んできた。そのティアの両手には『初級解毒薬』が握られている。誰かが…多分俺が、『ゾンビ』の毒を受けた際に即座に使用できるようにだろう。
「ロウ! スティールもよろ!」
ミミのヤツがMP回復の合間に、そんな事を言ってくる。
……あの、腐った身体に触れってのか!? そう思っていると、ミミのヤツが革製の水袋を掲げて見せる。……どうやら、汚れたら水で手を洗え、って事らしい。
ハイハイ、分かりましたよ! やりゃー良いんだろ!やりゃー!!。
どうせやるなら、徹底的にやってやる。ミミが休憩中なら、ティアも手は空いているしな。
「ティア! ラッキーソング頼む!」
そして、いつもの演歌調なラッキーソングが流れ出す。勿論、曲冒頭の語り部分もだ。歌詞自体は日本語なので、周りの冒険者達には理解できないが、その曲調の気が抜ける感は分かるようで、先ほどの『魔女っ子ソング』メドレー以上に唖然としている。
たとえ、冒頭の語りに不運な描写があろうとも、その部分で既に俺の『運』には+16の補正値が入っている。歌詞そのものが重要ではなく、曲に対するティアのイメージが影響を与えているという証拠だ。
ティアの『精神』は7レベルアップ分にSP2つ分が加えられている。『黒死鳥』戦前とは大分違う付与値だ。
俺も、『運』を12まで上げているので、合計28の補正値という事になる。ここまで来て、クズドロップの『魔石』を引くという確率はほぼ無いと言って良い。
と言う事て、タイミングを計って『スティール』を実行。輝く光は一般光。その光の中に現れたのはビン。多分ポーション。
その小瓶を手にしてみると、ビンの中の液体は青色だった。青色のポーション、つまり『解毒薬』の一種だと言う事だ。
俺は、そのポーションをミミに投げ渡す。ミミのやつは、若干ワタワタとお手玉してから、何とかキャッチする。
そして、ミミが判断したのは、
「多分、解毒薬! 低級が付かない一個上の!!」
だった。
まあ、青色の濃度からして、多分そうだろうとは思った。とは言え、これはあくまでも、色と濃度から想定しただけで、『鑑定』を実行するまでは分からない。
「ロウ! 盗って盗って盗りまくれ~!!」
ハイハイ、言われんでも、そのつもりだよ。
そして、俺は攻撃はMPの回復(吸収)の手段として、それ以外は全て『スティール』を実行し続けた。
ティアがミミのために『魔女っ子ソング』を唄う際は、『ラッキーソング』無しになるが、素で『運』の補正値が高くなっているのもあり、『魔石』を引く確率はそこまで高くはない。
シェーラは、MPがなくなると、俺の『闇の双剣』の片割れを使い、『ゾンビ』がらMPを吸収して、『地裂斬』を使うと言うローテーションを行っていた。その間、シェーラが使う『闇の双剣』の片割れは、ティアに預けてある。必要な時に受け取って使う訳だ。
……面倒くさそうだな。今度、シェーラ用に『闇の双剣』の鞘を作ってもらうか。その方が良さそうだ。
この俺達が参加した戦列だが、俺達を入れても9パーティーに過ぎない。当然、戦線を維持するなんて無理だ。戦列全面はともかく、その横側からは幾らでも回り込んでこられる。なんせ、『ゾンビ』は数だけは膨大にいるのだから。
そこで俺達は、前線を随時下げながらの戦闘となる。横から回り込まれない早さでバックしながらだ。それ故に、戦列の位置を村側に向けなかった訳だ。
俺達は、午前11時頃から午後4時頃まで戦い続けた。無論、横のパーティーと交互に休憩を取るようにしてだ。
俺は、『スタミナ』補正値に関しては、実はこのパーティーでは最弱だったりする。実際は、肉体自体が持つスタミナに関しては、ある程度あるため、そこまで大きな差は無い。とは言え、長期戦が苦手なのは間違いない。……しんどい。
それでも頑張ったぞ。なんせ、『解毒薬』を200本以上『スティール』したんだからな。十分な頑張りだろう。
ちなみに、あの『青色ポーション』は『解毒薬』である事が確定した。
それは、隣のパーティーの者が『ゾンビ』の毒にやられた際、彼らの『低級解毒薬』の在庫がなかったを見た悪魔が囁いた訳さ。
「ダンナ、良い薬が有りやすぜ♥」
と……。
実は、その際、俺達はまだ『低級解毒薬』の在庫を大量に持っていた。それなのにだ。悪魔である。
そんな、悪辣な生体実験によって、かのポーションが『解毒薬』である事が彼の無事と共に確定した訳だ。
「よっしゃ~!! ロウ! 量産! 量産!!」
その生体実験結果を見た、悪魔は、そう言って喚いていたよ。ホントに悪魔である。
……『量産』って、俺が生産している訳じゃないんだどな。まあ、『スティール』はやったよ。その結果が、さっき言った200本オーバーと、疲労困憊って事だ。
そして、この戦列の、と言うか、この村の冒険者のまとめ役から撤収指示が出された。
「オイ! 撤収だ! 今日はこれで終わる! 大回りして帰るぞ!」
その掛け声と共に、疲労困憊だった俺は、更なるマラソンをする羽目となった。直線で30分の距離を、大回りすると50分近く掛かる。外門から街中までも入れると、一時間近い時間だ。疲労困憊が疲労困憊する。いや、意味不明だけど、それだけ疲れたって事。
今日一日で、俺達のパティーが殲滅し『ゾンビ』の数は、700匹は楽に越えているだろう。回収できた『魔石』だけでも437個、437ダリ分だった。
これ以外に、20本以上消費した上で、まだ191本残っている『解毒薬』もある。そう考えれば、かなりの収益だと言えるかもしれない。
まあ、今はそんな事はどうでも良い。今は、ただ休みたい。疲れたよ、マジで。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる