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第41話 赤

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 『低級MP回復薬』を127本使用し、やっと全ての『スティール』を終了した。
 クソロムンを除く13名の騎士達からは、各自3個ずつの『実』が手に入っている。
 通常モンスターからの『スティール』は、一体に付き一回しか出来ない。『魔石』を引いた場合には、それ以降はは何も盗めず、手応え自体がなくなる。
 だが、騎士達の場合は違った。一つの『実』を『スティール』した騎士に、誤って再度実行してしまった際に『手応え』がある事に気付いた。
 その結果、『スティール』に2時間以上の時間を費やす事に成った。そして、40個の『実』を入手している。クソロムンからは1個だけだ。
 クソロムンからは1個で、他の騎士達からは3個ずつの『実』。騎士のJOBによって共通する外見の『実』が出ている事、何より、クソロムンが一個だけである事を考えれば、ある可能性が思い浮かぶ。
「スキルの実、だよね。この人達が持っていたスキルの……」
 ティアの言葉に、全員が頷いていた。あ、ネム以外だ。
「そうなのですか?」
「そ、なんでスティールでけたか、っちゅう問題もあっけどさ、こりが普通の人にも出来るっち成ったら不味いやね」
「……ロウが不必要に警戒されるように成るな」
 一応、通常モードに戻ったシェーラも深刻な顔で頷いている。
「えっと、ロミナスさんに相談する?」
「そうするしか無いだろうな」
「人事のように言うな!!」
 ミミから足を蹴られた。いや、だって、現状じゃそうする以外ないだろ。
「ミミちゃん、この盗賊どうするですか?」
 ……そうだった、その問題も残ってたんだった。定期的な『スパーク』で無力化されてはいるが、レベル30代の騎士13人だ。街へ連行するだけでも簡単ではない。
「ここでプチッと殺しとくんが、いっちゃん楽なんよね」
 そう言ってミミが騎士達を見回すと、彼らの顔におびえが走る。猿ぐつわをしたクソロムンが、必死に成ってティアに何か訴えかけていた。まあ、仮に言葉がまともに聞き取れたにしろ、今のティアがそれに従うとは思えないけどな。
 その後、いろいろ話し合った結果、俺が街まで行き、荷馬車を二台借りてくる事に成った。
 その間ミミが、『双魔掌』を使って、騎士達に『スパーク』を駆け続ける、と言い張ったが、却下してやった。ヤツらが装備している精神攻撃耐性アイテムを奪った上で、ティアが『子守歌』を唄えば済む話だ。ミミのヤツは、『双魔掌』が使ってみたいだけに過ぎない。サイズが合わなくって、ブカブカのくせに。
 俺は、最小限の装備だけ残して、それ以外を全て『魔法のウエストポーチ』へと収納し身軽に成った上で街へと走った。スピードはともかく、長距離走は『スタミナ』少ないからキツいんだぞ……。
 俺が向かったのは西ギルドだ。衛士詰め所とかは、いろいろと面倒な事に成りそうなので、一番話が通りやすい西ギルドにした。
 ギルドでは、ロミナスさんに一通りの事を話し、荷車を二台借りる。そして、その二台をロープで連結して、俺が引いていく。馬車が無かったので、仕方がないんだが、更に疲れる事に成る。
 『スタミナ』の許す範囲で、出来るだけ急いだんだが、それでも往復では1時間半程が経過してしまった。
 移動中、彼女達の事が心配だったのだが、それは杞憂だったようで、数匹のモンスターに襲撃された程度で、特に問題は無かったらしい。
 ティアの『子守歌』で眠り続ける14人を、起こさないように荷車に積み込み、ロープで縛る。落とさないようにと言う意味と、目を覚ましても身動きが出来ないようにと言う意味がある。
 全員を二台に分乗して積み込み、ゆっくりと街へと向かって引いて行く。無論、引くのは俺とシェーラだ。
 ティアは道中、ずっと『子守歌』を騎士達に対して歌い続けた。前世や今世の子守歌メドレーだ。この時、ティアが荷車に縛り付けられているクソロムンを見る目は、悲しげだった。ただ、それは、ヤツの不幸を思ってでは無く、ヤツの愚かさを思っての悲しみだろう。
 シェーラは、あの後は特に何も言わず、行動に移すような事も無かった。彼女の思いは、俺には推し量る事は出来ない。所詮俺は、どちらの世界でも17年程度しか生きていない若輩者だ。人生経験など無いに等しく、他人を導けるような事など言えるはずも無い。出来る事と言えば、僅かばかりのフォローだけだろう。後は、彼女自身で解決して、復活して貰うしか無い。シェーラなら大丈夫なはずだ。
 眠っているヤツらを起こさないように、荷車はゆっくりと進んで行った。そのため、街に着いたのは昼をだいぶ過ぎた時間となっている。朝一に出て、森に行かずに、今だ。……無駄な時間を掛けさせてくれるよ、まったく!。
 俺達が外門に達すると一騒動が起きる。門番の衛士が、クソロムン達に気付いたからだ。
「リンネント男爵!? えっ! ロ、ロムン殿下!! クワトレイアー殿にカドモス殿!! おい! 貴様ら! これはどういう事だ!!」
 西外門の門番を担う衛士は、この国の兵士でもある。騎士のように貴族に準じる身分では無いが、国に仕える者だ。そのため、俺達平民と違い、騎士や貴族を目にする機会も多い。二人の衛士は、荷車の騎士達のほぼ全員の名前ないし家名を知っていた。
「ど~したも、こ~したも、こいつらが襲って来たから、ペチッと潰してふん縛って、現在連行中~」
 自分達から槍を突きつけられた状態で、のほほ~んと喋るミミに、衛士は戸惑っている。
「襲われた、だと!? なぜ殿下方がお前達を襲う必要がある!! 嘘を吐くな!!」
「嘘ちゃうよ。つーか、こいつら、王子や騎士ちゃうし。似てるけんど別人。おっちゃんが言うとおり、王子達が私ら襲う訳無いし。大体、王子や騎士がこんな格好しちょる訳が無いっしょ。べ~つ人」
 ミミの話に、納得出来る点があるので、二人の衛士に戸惑いが広がる。
「だが……似すぎだろう……」
「どう見ても本人です……」
「ま、ど~でも良いんよね。私らにとっては。身分がど~あれ、盗賊は盗賊だかんね。弱々だったから、殺さんでふん縛っただけ。後は、街の衛士詰め所に連れて行くだけだかんね」
「……弱々」
「盗賊……」
「つー事で」
 混乱している衛士を余所に、ミミは門をくぐっていく。俺とシェーラも後について荷馬車を引いて行った。
「お、おい、待て!!」
 慌てる衛士を無視して俺達は進む。
「詰め所に行くなら……」
「いや、だが!」
 後方で、衛士二人が言い争う声が聞こえるが、俺達には関係ない事だ。
 しばらく進んでいくと、後方から馬に乗った衛士が来て、俺達の横を通り越して行く。
「詰め所へと向かったか」
 シェーラの呟きを聞きながら、俺達は走り去る衛士を追う形で街へと向かって進んでいった。
 俺達の存在は、普段以上に目立っていた。内門までの間も、通行人や両サイドに有る畑で働く農家の者達から好奇の目を向けられていたが、内門をくぐり街へと入れば尚更だ。
「どうした、そいつら」
 当然ながら、荷車の者達の事を聞いてくる者も多い。なんと言っても、この通りは俺達のホームグラウンドだ。知り合いや顔見知りも多い。この通りに住む者、この通りに出店している者で、俺達(主にティア)を知らない者はいないと言って良いだろう。だからこそ、気軽に問いかけてくる者が多い。
 ミミは、問いかけられるたびに、簡単な説明をしている。
「盗賊。森の手前で襲われたんで、返り討ちにしてやったんよ」
 そんな中、目ざとい者が荷車に縛られた者の中にクソロムンを発見して騒ぎ出した。
「良く似たそっくりさんっしょ。いくらアレな王子でも、冒険者の格好をしてまで、歌姫と浄化師が居るパーティー全員を殺そうとは、しないっしょ」
 ミミは、フォローのふりをしながら煽っている。当然、周囲の騒ぎは拡大して行く。
「何だと! 殺そうとしただと!?」
「あの第三王子なら、やりかねないんじゃない?」
「いや、あれ、違いなく王子だぞ。スラム騒動の時、顔を見たからな」
「俺も見た! あれは絶対ロムン王子だ! 他にも、騎士団で見た顔が何人も居る! 絶対間違い無い!!」
 ミミの計画通りに、騒ぎは拡大の一途たどっている。一人ほくそ笑むミミ。悪魔である。
 そんな騒ぎを引き連れた俺達が、ギルド前まで来た時には、ギルド職員の半数近くが通りに出ていた。ロミナスさんには、クソロムンの事を言ってあったので、それが他の職員にも伝わったのだろう。
 カーニバルの山車のように、人を引き連れた俺達の元に、ロミナスさんが人の波をかき分けてやって来た。
 そして、荷車を一瞥いちべつすると、眉間に深いシワを作る。
「他人のそら似、って訳にはいきそうに無いね」
 そう呟いたロミナスさんは、ギルド入り口にたむろする職員に向かって声を上げる。
「カチアを連れて来な! 早馬!鳥!どれを使っても良いよ! 大至急だよ! 急ぎなね!!」
 そんなロミナスさんの声と、ほぼ同時に、街の中心方向から荒げた声が聞こえて来た。
「退け──!! そこを退け──!!」
「詰め所の衛士達だな」
 シェーラの声で、ティアも『子守歌』を止めたため、喧騒の中に一瞬の静寂が生まれる。そんな静寂を割って衛士達の駆る馬蹄の音が響き渡った。
 十名を超える衛士が、全員騎乗して駆け込んでくる。騎士と違い、パワーレベリングを行っていない衛士の場合は、短距離でも自分で走るより馬を使った方が早いと考えたのだろう。ただ、人でごった返す街中では逆効果だ。障害物が多すぎるからな。そんな当たり前な事も考えられない程、慌てていたと言う事だろう。
「退け! 退けと言っている! 退け!!」
 人波を蹴散らすようにして駆け込んできた衛士達は、荷車に縛られて未だに眠ったままの者を見て絶句する。
 そして、隊長格と思しき衛士が、馬から落ちるように下馬すると、クソロムンの元へ行き、縛ってあるロープを切ろうとした。
 俺は、その剣をガントレットで弾く。
「貴様何をする!」
 その隊長格の衛士が、俺に食って掛かってくるが、無視する。俺は、体を滑り込ませ、荷車と衛士の間に入った。
「あにするって、そっちこそ、あにすんの」
 喋り担当のミミがすかさず声を掛ける。
「ロムン殿下をお救いするに、決まっているだろうが!」
 長剣を抜剣して、それをミミに向ける隊長格に合わせて、他の衛士も抜剣した。そんな緊張した状況だが、ミミは相変わらずの、のほほん口調だ。
「そいつら、ロムン王子ちゃうよ。盗賊。盗賊を衛士が助けちゃ不味いっしょ?」
「盗賊だと! バカを言うな! 殿下達が盗賊な訳ないだろう!!」
「つっても、森に行く途中、14人に囲まれて、その王子そっくりなヤツが、全員殺せー、とか言って、一方的に攻撃して来たんよ。私ら、な~んもしちょらんのに、ね。スキルの実を寄こせ、とかも言っちょったし、殺してから奪えば良い、とかも言っちょったから、完全な盗賊っしょ。これが盗賊でなくって、何が盗賊なん?」
「嘘だ!!」
「嘘ちゃうよ。大体、この盗賊が、ロムン第三王子で、こっちが元黒竜騎士団副団長カドモス氏で、こっちが現蒼竜騎士団で元白竜騎士団副団長リンネント男爵だったとしたら、なして、こんな冒険者然とした装備を身につけちょる?」
 盗賊の自己紹介も兼ねたミミの問いに、衛士達は言葉を失う。
「……演習だ。演習に違いない!」
 例の隊長格らしい衛士が、絞り出すようにして言った。後半は、自分の発言を信じ込もうとするように。
 だが、ミミは容赦しない。
「ほー、へー。このバラバラなメンツで? 騎士団をクビ…辞した元騎士八名と、現役騎士五名、更に、ここん所、ず~っとアンデッド戦に顔を全く出していない浄化師殿が、冒険者用の防具を着て? それって、どんな演習? 教えてくれる? ま、あくまでも、この盗賊達がおっちゃん達が言うように王子様達だったら、だけんどね~」
 周囲の衛士達を見ると、大多数の衛士は、状況をまともに認識しており、今の状況が不味い事も理解しているようだ。
 衛士は、国に仕えてはいるが、大半はあくまでも一般人に過ぎない。故に、ベースとなる考えは俺達と同じだ。ただ、立場的に、それを認める訳にいかないって事だ。
 衛士の中でも、貴族に係わる者はおり、そう言った者は事の是非より自分が仕える貴族や、関係のある貴族を優先するきらいがある。だが、それでも尚、ミミの問いには答えるすべはなかった。
 沈黙が支配するその場を破ったのは、隊長格の衛士だった。それは言葉ではなく、行動でだ。しかも、剣を使っての。
「妨害するなら、切る!!」
 ミミに剣を突きつけ、そう宣言し、他の衛士に指示を出して荷車をクソロムン達が縛られたまま奪い取っていった。
 今度は、俺達は全く抵抗はしない。
「ま、良いけどね。元々、衛士の詰め所に連行する予定やったし。あ、その悪逆非道な盗賊どもはど~でも良いけんど、荷車とロープは返してね。荷車は西ギルドの、ロープは私達の物やからね。返さんと『赤』付くかんね。ってか、盗賊の片棒を担いだ今の時点で、盗賊の赤称号が付いてる可能性もあっけどね~」
 ミミの言う『赤称号』の下りで、全衛士が固まる。自分たちの行いに疑問を持っていた大半の衛士は特にだ。
 衛士に『赤称号』は鬼門だ。どのような『赤』であろうと衛士の資格を失う。そのため、定期的な『赤称号』チェックが行われている程だ。まあ、治安を守るべき者に、犯罪者がいたら意味がないから、当然の処置だろう。
 ちなみに、貴族や王族の場合は、『赤称号』は無視される。誰も、王族や貴族の『赤』をチェックしないからだ。
 『赤称号』とは、この世界の神的存在が付けたレッテルである。だが、それはただのレッテルであり、それ自体に何の効果もない。無論罰なども無い。よって、その存在を持って罰する者がいなければ、ただのステータス状の文字列に過ぎない。だからこそ、この世界では、王族貴族が好き勝手出来る訳だ。
 そんな『赤』におびえる部下達を、隊長格が怒鳴って連れて行った。
「ミミちゃん、本当に赤付いたの?」
 ティアがなぜか心配そうに、去って行く衛士達を見ながら聞いている。
「付かないんでないかい。この世界の赤称号ってさ、よっぽどじゃ無いと付か無いんよね。物を一・二回盗んだぐらいじゃ窃盗って付かないし、詐欺も一回ぐらいじゃ付かない。ま、あれは脅し。イヤミ」
「そっか」
 ティアは、ホッとした顔をしていた。
 そんな俺達を余所に、周囲にいた者達の騒ぎは最高潮に達していた。
「あんた達、来なね」
 そんな騒動の中、ロミナスさんが俺達に声を掛けてくる。そして、連れて行かれたのは、いつもの応接室。
「で、詳しく話しなね」
 着席と同時に言ってきた。だから、本当に詳しく話したよ。事細かくね。
 そして、机に突っ伏すロミナスさん。一応、30秒程で復活した。そして、若干重い足取りで部屋を出て行く。
 いつものごとく連れてこられたのは、主任鑑定士のおっちゃん。応接室に入ってくる段階から、溜息を吐いている。
 そして、全ての『実』を『鑑定』して貰うと、『実』は全て『スキルの実』だった。ただ、『巨大アンデッド』から『スティール』した物と違って、スキル名が明記された『スキルの実』だった。
「つまり、浄化スキルの実を使えば、消化スキルが得られるって事だね」
「そう言う事に成ります……」
 40個の『実』を前に、遠くを見る目の主任鑑定士。そんな主任鑑定士と違い、ロミナスさんは現実を見据えている。
「で、一応確認だけど、ヤツら以外からはスティール出来なかったんだね」
 ロミナスさんは、刺すような目で俺を見ながら、そう言ってきた。
「はい、俺達パーティー全員で試しました。後はパーティー外の者で試す必要がありますが」
「正しい判断だね。私と、主任で試しなね」
 勝手に言われた主任鑑定士は、一瞬ビクッと身を震わせたが、直ぐに溜息と共に受け入れたようだ。
 俺は、二人に一礼してから、順に『スティール』を実行してみたが、二人とも『手応え無し』だった。
「できないかい?」
「はい、手応え無しです。二人とも」
「そうかい……」
 場が完全に沈黙で満たされる。
 その沈黙は1分程続いた上で、ネムの腹の音によってやぶられた。
「ネムやん!」
「ごめんなさいです!。でも、お昼とっくに過ぎてるです。昼ご飯まだ食べてないです!」
 場の緊張感が、一気に無くなってしまった。グダグダである。
 結局、ティアがロミナスさんに断って、『ストレージ』からサンドイッチとサイダーを出してネムに食べさせた。あむあむと、サンドイッチを美味しそうに頬張るネムを余所に、話し合いは続く。
「ヤツらの事は別にして、問題つーか、疑問が二つあるんよね。ロウがヤツらからスティールでけた件。ネムやんの聖域がヤツらに効果を発揮した件。どっちも、現時点での検証ではヤツらにしか効果が無いんよね。ど~思います?」
「……小っこい嬢ちゃんは、何か思う所が有るんじゃないのかい?」
「……一応、有るっちゃ~有るけんど、……私らじゃ検証出来ひんのよね」
「……赤称号が原因だと思うんだね」
「そっ」
 どうやら、ミミとロミナスさんの考えは一致していたようだ。
 二人が言うには、『赤称号』を有した者は、『不浄なる者』と同一とこの世界のシステム上見なされ、それによって両スキルが効果を発揮したのでは無いか、と言う事だ。
「RPGでも、盗賊ってモンスター扱いやん。殺しまくれるやん。アイテムもドロップするやん。この世界のゲームとの類似性から考えて、そのまま当てはまるんや無い? そこら辺の判断基準ちゅうか、線引きのラインが赤称号って事」
 この世界のことわりが、前世のゲームやラノベに酷似している事は何度も語ってきた。それから考えれば、ミミの話を否定出来ない気がする。
 シェーラはRPGなどの前世用語が分からず、話の半分は理解出来ていないようだった。ネムに至っては、新たに追加されたホットドッグを食うのに必死で、話自体聞いていない。
 ティアは、前世ではRPGはあまりやっていなかったようで、シェーラに近い反応をしている。
「検証しようとすれば、赤称号持ちがいないと駄目ですよね」
「犯罪者は、衛士の担当さね。この街の詰め所の牢にに居れば良いけど、確実を期すなら、アロンゾの牢鉱山に行く必要があるね」
「っても、そっちも衛士の管轄っしょ。簡単に実験させてくれんでしょ。しかも、今日の事があったばっか、やから」
「そうなるね」
 そして、また沈黙が室内を満たす。
 この世界の諸事情をあまり分かっていない俺には、ロミナスさん達の会話に入っていく事が出来ない。曲がりなりにも会話が出来るミミは凄いのだろう。孤児と村人Dの違いなのだろうか。
 一分程の沈黙を破ったのはティア。重い空気と、沈黙が嫌いな質である。
「えっと、騎士団の事はどう成りますか?」
「どうにも成らないさね。事実がどうあれ、王族や貴族が、庶民を殺そうとした位じゃ罰は受けないさね」
「だ~ね~。それを罰してたら、1/3の貴族は、今、牢鉱山に居らないかんかんね~」
 確かに、例の『王令』にも罰則は明記されていない。それでも……。
「直接的な罰は受けなくとも、王族や貴族間での力関係というか、そう言った間接的な影響はあるはずですよね」
 それすら無いとは思えない。もしも無いようであれば、この国は終わってる。
「それは当然あるさね。貴族なんて生き物は、他人の足を引っ張って自分の地位を上げようとする生き物だからね。この件を利用しないはずは無いさね」
 貴族の生態故、か。それはそれで、どうかと思わないでは無いが、その考え自体が前世の常識から来るものなのだろう。だから、シェーラはロミナスさんの話を普通に納得している。
「王族も、なんやろうけんど、ヤツの場合は、今更にも程があるかんね~。な~んも変わらんかも」
 クソロムンは、な……。
「一番影響を受けるのは、現役騎士で襲撃に参加した5名だな、元白竜騎士団の。…………白竜騎士団まで腐っていたとは」
 苦虫を口一杯に含んで噛みつぶしたような顔で、シェーラが毒づく。俺的には、白竜だろうが騎士団全てがクズだと言うのは、既に確定事項だったので、今更驚くような事では無い。だが、シェーラは、違ったようだ。まだ確認できていなかった事なので、保留にしていたと言うか、白竜騎士団ぐらいは、と言うはかない願いと知りつつ願っていたと言うレベルではあるが……。
「あと、問題は二つだね。あの騎士達からの報復と、この『実』の処理。案は有るかい?」
 ロミナスさんが、先ほど以上に真剣な顔でミミに問う。
 非常に残念ながら、俺達のはパーティーにおけるブレーンはミミだ。遺憾ながらも、な。だから、ロミナスさんはミミに問う。
「報復は、種類によるかな~。非正規な手段やったら、対抗手段なんてないんよね。正規の手段で来れば、一応、保険は掛けちょるし、大丈夫。実はギルドに丸投げ! ロミナスさん!よろ!」
「実は、一応、王家宛で渡すのが一番問題無いだろうね。その上で、持ち主に返すかどうかは、王家に判断して頂くさね。一応、その際、坊やのスティールの件は伝えておくさね」
「うんみゅ~、浄化スキルの実も、なん?」
「そうさね。それが一番問題になるからね。王家に返さん訳にはいかないさね」
 ロミナスさんの言葉に、主任鑑定士も大きく頷いているが、俺達のパーティーの者は全員不満げだ。……ネムは除く。ネムは、焼きたてピザトーストと格闘中である。『ストレージ』様々だな。
「しかし、ロムン王子に戻されるのであれば、意味が無いのでは? 王子が今後もアンデッド戦に出張る可能性は低いと思われますが」
「そこは、王家の良識を願うしか無いさね」
「あに言ってんの! 良識無いから、今の状況になっちょるんやん! 期待すっだけ無駄!!」
 これは、100%ミミが正しい。それがロミナスさんにも分かっているので、二の句を継げない。
 だが、それならどうする?と言われても、その代案を出す事が出来ない。ギルドに丸投げを宣言した以上、その後の判断はギルドに任すしか無い。責任だけ押しつけて、文句だけ言うのは反則だろう。ミミのヤツも、そこは分かっているので、それ以上は言わなかった。
「でも、ちょびっと検証だけはしたかったんよね」
 ミミの言う検証とは、今回の『実』を俺達が使用した場合、スキルが身に付くか?と言う事と、この『実』を使用した場合に身に付くスキルのレベルはいくつになるのか、と言う事だ。
 俺達は『スキルの実』を使用しても、既に新たなスキルを得る事は出来なくなっているが、この『実』の場合も同じなのか、と言う事だ。魂の容量理論が正しければ、多分使用してもスキルは得られないとは思うが、確認はしておきたいという事だ。
 もう一つは、今回の『実』が、一定以上成長(大半はカンスト)したスキルを『スティール』した事になるので、それによって身に付くスキルは、元のスキルレベルなのか、初期のスキルレベル1として身に付くのかって事だ。
 この事は確かに確認しておきたい。俺達が使えなかったにせよ、今後の新成人の育成には使える。
 ロミナスさんとしては、その『実』の使用方法よりも、牢鉱山送りになる犯罪者から、その刑の期間スキルを取り上げる事で、鉱山での労働を円滑に出来るのでは無いか、と考えているらしい。
 現在、処刑とならない犯罪者は、逃走防止のために『スキル封じの首輪』と言うマジックアイテムを装着させられている。この『スキル封じの首輪』には副作用があり、装着者の意識レベルが低下してしまう。それ故に、ただでさえ事故率が高い鉱山作業の事故率が跳ね上がっているそうだ。
 その牢鉱山での死亡率の高さが知れ渡っているため、『牢鉱山送りになる位なら、逃げて盗賊にでも成った方がましだ』と言う風潮を作り出している。結果として、治安の悪化を招いている訳だ。
 もし、『赤称号』持ちから『スティール』によって、スキルを『実』という形で取り出す事が出来るなら、刑期が満了する間スキルを『実』という形で預かる事で、『スキル封じの首輪』を使わなくて済み、労働時の安全を高め、死亡率を低下出来る事に成る。
 また、罪と状況によっては、『スキルをとられる』という事を罰とし、牢鉱山へと送らないと言う方法も考えられる。罪の大きさに応じて、とられるスキルの数が変わる、とか。
 『赤称号』の件と『スティール』がまともに可能な『盗賊』がいる前提だが、これが普通に行えるのであれば、時代が変わる、と言うのが大げさでは無い事に成るかも知れない。
 前世の某RPGのように、店頭でスキルが買える時代が来るかも知れないって事だ。スキルレベルが元のままであれば、もっと凄い事になる。……そうなったら、俺の身の安全に注意が必要になりそうだ。出来ればハニートラップを望む。切に。
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