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第45話 合一

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 戦線へとたどり着いて、経過を報告すると、ティアから5分にわたって怒られた。鬼の形相で怒られた……。まあ、今回ばかりは俺が悪い。ティアの反対を押し切ったのも俺だ。鬼の形相に涙が見て取れれば、反論の余地なんざ無い。
 俺がティアに怒られていた間、ミミは『デュラハン』の存在及び能力を、司令部や周囲で休憩中の冒険者達に伝えていた。勿論、現時点で分かっている事は少ない。だが、それでも知っているのと知らないのでは天地だろう。
 諸々の情報を伝え終わった後、俺達はそのまま『不浄の泉』消滅を実行するために出かける事に成った。
「ロウ一人ならともかく、全員で行けば、大丈夫っしょ!」
 確かに、あの『デュラハン』は脅威ではあるが、ティアの『般若心経』やネムの『聖域』が有れば、然程問題無い。あの厄介な魔法攻撃も、多重『聖域』なら防ぐ事は出来るはず。そう成れば、後は普通の『巨大アンデッド』と変わらない。
 ただ、注意すべき点は、ヤツの攻撃が、あの三種類以外にもあるかも知れないと言う事だ。その辺りは、ある程度想定した上で掛かる必要がある。
 それに、今回の場合、『MP回復薬』が潤沢にある。『低級MP回復薬』よりも断然高い回復力があるため、使用回数が少なくて済み、その分隙も少なくなる。
 その『MP回復薬』をガンガン使用しての力押しも出来る。俺一人の時は出来なかった事だが、パーティー全員がいれば、余裕を持って使用可能だ。うん、油断やイレギュラーが無ければ、負ける要素がない。
 俺達は、『マップ』を使用して、最短コースを通って泉へと向かった。
「しっかし、デュラハンか~。スティールでけたんは蹄鉄。しかも、騎士の方から……」
 あの時『スティール』した品を確認した所、馬用の蹄鉄だった。司令所に居たギルドの『鑑定士』に確認して貰ったのだが、『馬用の、素早さ、力、スタミナ増強』と言う能力のマジックアイテムだった。増幅量は、パーセントタイプではなく、絶対量で、+12。『素早さ』『力』『スタミナ』の全ての値に+12される。
 その手のアイテムの常で、MPを消費しない事から、装着するだけでこの効果がずっと続く事に成る。その分のエネルギーは、どこから供給されているのだろうか? エネルギー保存の法則って無いのか?この世界には。まあ、ことわり自体が違う世界なので、前世の法則など無くて当たり前なのかも知れないが……。
「ロウの考えどおり、二匹で一匹やったら、馬の方から『スキルの実』が盗れるかもちゅう訳やね」
「ミミちゃん、普通反対なのです。馬から馬蹄で、騎士からスキルの実なのです」
「だ~ね~。スキルの実が盗れん可能性の方が、高いかもしんないね」
 そんな事を話しながら、周囲の『ゴースト』を消滅させつつ進んでいく。
 今回は魔法攻撃が有る関係で、今までのような高速な移動は出来ない。停止状態であれば『般若心経バリアー』が十分に射程内の『ゴースト』を消滅させてくれるのだが、高速で移動すると、前方からの魔法攻撃の場合、こちらから射程距離を詰めてしまう形になる。『スピーカー』の効果の無い斜め前からの攻撃が届く。そのため、そう成らない速度を維持して進んでいった。

 ヤツは、あの後移動しなかったようで、あの谷間に居た。俺のあの5分間は何だったんだろう……。
「うっしゃ~! ネムやん、聖域五重展開! ティア!『スピーカー』をヤツに絞って! ロウ! タイミング見てスティールよろ!!」
 谷間の川岸で、そこそこ広い場所に陣取り、俺達は戦闘態勢に入った。
 ミミとシェーラは、俺の『スティール』が完了するまでは全力で攻撃は行わない。
 ネムは、『般若心経バリアー』と同じ広さで『聖域』を展開する。その方が、いろいろと分かりやすい。ネムも成長しているようだ。
「よっしゃ~! デュラハンにも聖域効果有り! ネムやん! 十重を上限で、五重を切らないように聖域維持!! んで、余裕があったら浄化!!」
 デュラハン自身は勿論、ヤツの魔法攻撃も『聖域』を越えて侵入する事は出来なかった。それでも、他の『ゴースト』と違って、『聖域』にダメージを与え、一枚、また一枚と『聖域』を消滅させて行く。だが、一般モンスターや『赤称号付き』からの攻撃に比べれば、圧倒的にその消滅速度は遅い。クソロムン達との戦闘を経験して、成長したネムの『聖域』展開速度は何倍も速く、全く問題無く対処出来ている。
 防御が完璧なら、全体にも余裕が生まれる。だから、俺も余裕を持って『スティール』が実行出来た。
 先ずは、この個体が、あの時の個体なのか確認の意味も込めて、騎士の足に触れて『スティール』。……手応え無し。どうやら、あの個体で間違い無いようだ。
 次に、またタイミングを見計らって、ダッシュで接近し、今度は馬の足にタッチして『スティール』。輝く『超レア光』そして、その中には『スキルの実』。どうやら、俺の予想は正しかったようだ。
「うっしゃ~!!」
 後方でミミの喚声が上がっている。
 俺は、ミミ達が攻撃出来るように、直ぐに『聖域』内へと逃げ帰る。
「一匹で、二度美味しい!!」
「このアンデッド食べられるですか!!」
「そう言う意味ちゃう!!」
 ネムとミミのアホな会話に苦笑しつつ、検証が終わった俺はいつもどおりサポートへと入る。
 ネムが居なければ、勝てないどころか全滅していた戦いだが、その後5分と掛からず消滅にまで持って行けた。『聖域』の効果は絶大だ。
 この『デュラハン』に関しては、騎馬が『ファイヤーアロー』を使う事が、新たに分かった。どうやら、人馬で2つずつ、計4つの魔法を使うようだ。その魔法は、全て第二位の魔法と言う事に成る。第三位の範囲魔法が無いのはありがたい。俺達はともかく、一般の冒険者では、かなりの犠牲者が出るからな。
 俺達は、できるだけ早く『不浄の泉』を消滅させ、この『デュラハン』を探した方が良いかもしれない。その事を提案すると、全員了承してくれた。
「取りあえず、あと二匹は居てもらわんと! んで、蹄鉄を二つ手に入れてるんよ! 三つあれば、いつものギルド馬車の馬三匹に一個ずつ装備でける! 今後の移動も楽になる!!」
 普段はそんな事を言うミミに批判的なティアだが、この件に関しては賛成のようだ。『般若心経』を唄いながら、盛んに頷いている。
「まずは、不浄の泉を消滅させてからだ」
 そんなシェーラの声を合図に、移動を再開した。
 その後、『不浄の泉』までの経路に、特段の問題は無かった。しいて上げなら、ネムが『大王花蜂』の蜜を嗅ぎ付け、取りに行こうと騒いだ事ぐらいだろう。当然、取りに行かなかったぞ。
 『ゴースト』に全周囲を囲まれた状態で、そんな事が言える程、ネムにも余裕があるという事だ。
 そして、『不浄の泉』は、『浄化』と『スピーカー』付き『般若心経』で、5分と掛からず消滅させている。やはり、専用スキルである『浄化』の効果は大きい。以前の、二時間近く掛かっていた『般若心経』だけの時が、今では懐かしい……。
 今回も消滅速度が速いためか、 「巨大アンデッド』は湧き出してこなかった。ミミは若干不満げだったが、やはり不測の事態の発生する可能性は少ないに越した事はない。安全第一だ。今日失敗した俺だからこそ、そう言える。油断すれば死ぬ。それで全て終わりだ。
 『不浄の泉』の消滅を完了させた俺達は、来た時と違うコースを通って戦線へと向かう。『デュラハン』探索が目的だな。
 そして、今回は余裕があったので、その経路上でネムが嗅ぎ付けた、『アルマンの実』と言うマンゴーに似たフルーツも採取した。
「大王花蜂の蜜も取りたかったです」
 ネムは、『アルマンの実』をかじりながら、そんな事を言っている。そんな食いしん坊ネムの道草が功を奏し、もう一匹の『デュラハン』と遭遇する事に成った。
 今回は、森の中での戦闘という事で、火消しの作業が必要となり、若干時間は掛かったが、それでも6分程で消滅させることが出来た。無論、『スキルの実』と『馬蹄』は入手済み。
 その後は、ミミの願いむなしく、新たな『デュラハン』と出会う事はなく、戦線へとたどり着いた。この間、ネムの犬鼻センサーにも反応は無い。
 『不浄の泉』消滅の報に沸く冒険者達と共に、その後は夕暮れまで『ゴースト』の殲滅作業を行った。
 
 翌日には、王都方面からの応援冒険者も駆けつけ、殲滅速度は上がって行った。
 その後の三日間は、特段の事もなく、ある意味念願の『デュラハン』も現れていない。
「おにょれ~! あと一匹! あと一匹なのに~!!」
 ミミのヤツが叫ぼうが、『緑猿』のように現れてくれるはずもなく、ただ叫び声が山野にこだまするだけだった。
 この件については、ティアも残念そうにしている。基本的に物欲が少なめなディアが、品物に付いてミミに同調するのは珍しい。アンデッド騒動の時以外でもギルドの厩舎に行って、『ヒールソング』を唄ったりエサをやったりしている馬用と言う事だけに、珍しくこだわってしまっているようだ。
 俺達が来て6日目ともなると、戦線は『不浄の泉』が有った地点まで達している。残り半分という事だな。
 その日も俺達がやる事は変わらない。俺に関しては、『MP回復薬』をひたすら『スティール』する作業だ。『スティール』を行うため、ミミとシェーラの射程外で、『隠密』を起動して黙々と作業に徹している。
 俺が『隠密』を実行すると、ミミ達からも俺の存在は認識出来なくなる。彼女達は、『スティール』時に発生する出現光を目安に、俺の位置を認識する事になる。フレンドリーファイヤーだけは嫌だからな。
 この『スティール』作業は、一度『スティール』した個体からは二度は盗めないため、常に新しい固体にあたる必要がある。その関係上、常時移動を行っており、ティア達から離れてしまう事も多い。
 その時も、ティア達から800㍍程離れていた地点で『スティール』作業を行っていた。その際、『気配察知』には、『デュラハン』はおろか一般モンスターの気配は影も形もなかった。だが、視線を感知した。『スキル外スキル』の感知力でだ。
 慌てて全周囲を目視確認するが、普通の『ゴースト』しか見当たらない。
 『隠密』持ちか? 以前ミミと話したのだが、人間が持つスキルと同じものをモンスターも持っているのなら、当然『隠密』を持つモンスターもいるのでは無いか、と。
 その時の話は、その際俺達に対処出来るのか?と言う事だった。その検証のため、以前絡んできた『盗賊』にギルド経由で依頼して、『隠密』を実行させ、それを『気配察知』で確認したのだが、その際は感知出来た。ただ、その『盗賊』の『隠密』のスキルレベルが低かったため、スキルレベルが高い場合にどう成るかは不明と言う事に成る。そう言う意味で、完全な検証には成っていない。
 俺は、若干の焦りを感じながら、『気配察知』に更なるMPをつぎ込む。僅かでも能力を向上出来ないかと考えてだ。
 だが、『気配察知』には全く反応は出ない。『視線』は感知している。その『視線』の反応の方へと移動すると、間もなくその『視線』の主が判明した。
 それは『ゴースト』だった。外観上は他の『ゴースト』と全く違いは無い。ただ唯一違うのは、ヤツだけは俺を見ているという事。その視線を俺は感知していたようだ。
 俺は、念のために横に向かって移動する。その動きに完全に合わせて、ヤツも身体の向きを変えた。完全に俺を認識しているのは間違い無いようだ。
 取りあえず、『隠密』ではなかった事だけには安堵した。だが、当然疑問も湧く。ヤツはなぜ俺を認識出来ている? そして、この『視線』は何だ?今まで感知してきたモンスターの『視線』とは全く違う。敵意や害意では無い。街中で一般人から向けられる、好奇の視線などとも違う。初めて感知する『視線』だ。
 そして、何より、俺を認識しているはずのヤツが、攻撃を仕掛けてこないのはなぜだ? 全てが疑問だ。
 ヤツは、周囲の『ゴースト』がフラフラと無秩序に動くのに対して、全く動かずに俺の方へと『視線』を向けている。
 俺は、ヤツへと向かって動き出す。
 それと同時に、ヤツと俺との間に何かが繋がったような感覚が感じられた。何が、と聞かれても答えられないが、だが何かが確実に繋がっている。
 頭の隅で、精神誘導系のスキルか?と言う考えが浮かぶが、即却下した。そう言ったものでは無い事が、なぜか分かる。これまた、なぜ分かるのか、と聞かれても答える事は出来ない。分かるから、分かるとしか言えないのだ。
 俺は、ヤツを見つめたまま、ヤツの元へと近づく。一歩一歩と。
 距離が近づくに従って、ヤツとの間に繋がっている何かが、どんどんと太くなってくるのが分かる。
 そして、ヤツの目前に達した時、俺はやつしか見えなくなっている。それは、視覚的にも意識的にもだ。
 彼我の距離が30センチ程で、俺は停止しする。意識して止まった訳では無い、気が付けば止まっていた。
 俺とヤツはお互いに見つめ合う。
 その停止した状態が1分程経過した時、ヤツの目が赤から青みがかって行き、30秒程で完全な青へと変わった。
 ヤツの目が青に変わった段階で、俺達の間に繋がりが、一気に太くなる。その瞬間、俺は俺を見ていた。ヤツはヤツを見ている。お互いがお互いの目を通して、自分を見ているのが分かる。自分だけで無く、ヤツもそうだと分かる。なぜなら、ヤツは俺だからだ。俺はヤツだからだ。
 そして、俺が…いや二人が同時に動き出す。
 俺とゴーストが完全に重なる。そして、そして、……二人は一つになる。……いや、元に戻った。
 全てが分かった。全てが理解出来た。……その瞬間だけは。
 一瞬だけの全能感は、当然一瞬で消え去る。全てを理解したはずの知識も、ほぼ全てが共に消え去った。だが、言い知れない多幸感だけは残っている。
 ヤツは目前には居なくなっている。ヤツは居ない。ヤツは居る。ヤツは俺だ。俺はヤツだ。俺達は一つに成った。一つに戻った。俺が理解した(覚えている)事はそれが全てだ。
 時と共に、心を包んでいた多幸感もうすれて行く。そして、俺は完全に現実世界へと戻った。
 俺は大きく息を吐くと、気を取り直して『スティール』作業へと戻る。
 いろいろ疑問はあるが、俺が考えても答えは見つからないだろう。だから、無駄な事は考えない事にした。
 一応、ステータスを確認して、『憑依』『混乱』などのバッドステータスが無い事は確認している。今はそれだけで良い。
 二時間後、ティア達の元へと帰り、ストックしていた『MP回復薬』を渡すと、再度『スティール』を行うべく、『ゴースト』の直中へと入って行った。

 この日起こった事を、ティア達に話したのは、その日の夜、寝る前になってからだ。
「…………あくまでも、俺の感じた感覚、僅かに残った記憶だと思っているものからの考えだけどな、ヤツは俺だった。元々俺の一部だった物がゴーストの形を取って存在していた、って事だ」
「ロウさん、元モンスターだったですか?」
「違うよ。多分だが、ヤツは、俺が転生する時に失った…もしくは捨てた物、だったんじゃないか、と思う」
「うんみゅ~。ま、私らがいるから、転生つ~のは間違い無くあるんよね。んで、前世の記憶を取り戻しとらん者にも、当然前世はある訳やね。ロウと合体したゴーストが、転生前の差分?ちゅう事?」
「えっ! じゃあ! ロウも私達みたいに前世の記憶を思いだしたの!?」
「いや、残念ながら」
「ロウの感覚としては、失った自分の一部が戻った、と言う感覚なのだろう?」
「ああ、具体的に何が?と聞かれると分からないんだが、戻ってきた、と言う感覚は間違い無い」
「んで、そりが、前世の物、ちゅう訳やね」
「ああ、その事も感覚的な物だけど、間違い無いと思える。まあ、この感覚自体が錯覚って可能性もうるけどな」
「そこら辺、疑ったらキリ無いっしょ。ロウの感覚が正しいっちゅう前提でいくっきゃないって」
「ロウの感覚では、その無くした物、取り戻した物とは何だと思うんだ?」
「……言葉にするのは難しいんだが、一番合う言葉は、澱、かな」
「「「「澱!?」」」」
 全員の声がハモった。ネムの場合は、言葉の意味自体分かっていないようだが。
「しまの北…ってやつやね」
 ミミが何やら意味不明な事を呟いているが、どうせアニメか何かのネタだろう。スルーする。
「ロウが澱と感じるのであれば、それに近いものなのだろう。となれば、大丈夫なのか? 澱とは良い物とは思えんが、それを体内…か魂に取り込んで」
 シェーラの言葉で、ティアが慌てる。
「ロウ! 大丈夫!? 身体、どこか変な所無い!? ポーション飲む!?」
 慌てるティアを宥めながら、身体の状態を話す。
「大丈夫だよ。問題無い。ステータスにも変化は無いし、体感的にも変化は無い。スキルに付いても以前と変わらんし。俺はさっき、澱って言ったけど、感覚的には、浄化された澱、と言うのがより近いと思う」
「浄化されちょるん?」
「ああ」
 ミミが考え込んだ。
「浄化? どこで浄化したですか?」
「おっ! ネムやん! 良いとこ突いた! ロウの話からすると、そのゴーストは前世の澱で、転生時に捨てた物ちっゅ~事やね。んで、そいつと出会って合体した時、その澱は浄化されてきれいな状態やったと。アンデッドが不浄なる者と言われるのが、この澱を持つ…澱で出来ているから、ちゅう事なら意味は分かるんよ。だけんど、問題は、不浄なる者を取り込んだ時、そりが浄化されてた、つまり不浄なる者では無かった、ちゅう事。ロウ! 何か話しちょらん事無いん?」
 ……話していない事? 俺が転生者だという事か? いや、この場では関係ないよな。あの時の事で話していない事……。
「別に無いぞ。目の色が変わった事も言ったし。他は全部普通どおりだったぞ」
「普通って何んが?」
「いや、1ポイントの魔石をドロップしたとか」
「そりだ!!」
「はあ!?」
 ミミが、ズビシッと音が出るような速度で俺を指さす。
「前から思っちょったんよ! なしてアンデッドは消滅する時1ポイントの魔石を残すのか、ち! アンデッド討伐は本当に浄化やったんよ! 澱、不浄なる者が浄化されて変質した存在がアンデッドの魔石ちゅう事! 澱を取り除いて魔石化する事を、浄化っちゅうんよ!!」
 そう言い切るミミだったが、俺は若干疑問だ。それはシェーラも同じだったようだ。
「ミミのその考えで、アンデッドはある程度分かるが、一般モンスターはどう成るのだ?」
 そう、『魔石』は一般モンスターも持っている。アンデッドのようにドロップする事は無いが、体表面にくっ付いている。これも『澱』の変化したものだと言うのか?一般モンスターはアンデッドと違い、動物と同様に生殖によって生まれる。『澱』と、どのように係わってくるのかって事だ。
「一般モンスター? それ、関係無いんよ。魔石イコール澱の変質物ちゃうんよ。魔石はエネルギー物質。何から出来ようが魔石。一般モンスターの場合は、なんかのエネルギーが結晶化したもんで、例えば……MPの累積分とか……人間で言うSPの分とか! 魔石は魔石。何から出来るかはそれぞれっちゅう事。原子力で作ろうが摩擦で作ろうが、電気は電気。それと同じ!!」
 納得出来るような、出来ないような……。
「げんしりょくと言うのは分からんが、アンデッドと一般のモンスターでは、魔石を作る材料が違うと言うのだな」
「そそ!」
「なるほど」
 シェーラは、それで納得したようだ。
 ミミの考えは、かなりアラがあるように思える。この考え自体が、俺の『感覚』と言う、これ以上無い程いい加減なものを前提としているので、前提からしておかしい。
「ちんぷんかんぷんです」
 ネムは、そう言って、考えるのを諦めたらしく、ベッドに潜り込んでいた。
 ティアも話の半分以上が理解出来なかったようで、首は終始右に傾いたままだった。
 いろいろと疑問が駆け巡っている状態で、更にミミが混乱を助長する事を言い出す。
「今言った事が正しかったとすれば、現在の不浄の泉乱発が説明でけるんよ」
 これには、ベッドに潜り込んでいたネムからも驚きの声が上がった。
「どういう事だ?」
 俺の問いに、ミミは皆無な胸を張って答える。
「あにょね、アンデッドは澱なんよ。しかも前世の。つまり、アンデッドは前世の死者の一部つー事。ようは、どっかで大量の人が死んだ、つー事。あ、この場合のどっか、は、別の世界も含むかんね。私らの前世は別の世界やし。……多分、あれやね、どっかの世界で地球が爆発したんやない? 巨大隕石が衝突したとか。全面核戦争やらかしたとか」
 ……前提が正しいなら、確かにその可能性は有る。
「この世界ってさ、周辺世界の転生時の澱処理用に作られた世界なんでない? そのための魔石、そのためのスキル。まず、澱の浄化ありきで作ってさ、んで、それを世界のシステムに入れ込むのに、RPGシステムを持ってきた、とか。ま、ここら辺は完全に想像やけんどね」
 この世界の、前世RPGやラノベに極似したことわりに付いては、前世の記憶を取り戻して以降、ずっと疑問に思っていた。穴だらけ、アラだらけの理論ではあるが、その疑問に、ミミは一応の回答を出した訳だ。さすがに、これは検証どころか、確認すらする術は無い。
 この世界の成り立ちの件はともかく、不浄の泉多発の原因が正しいとすれば……。
「ミミが言う事が当たっているとして、どれ位の死者が出たかによって、この騒動が終了する時期が変わってくるって事か」
「そそ。前世の地球って、何十億人か居ったと思うんよ。仮に10億人いたとして、一回の不浄の泉で湧き出してくるアンデッドが、10万から20万位。多分、世界規模で発生しちょるはずやから、案外、思ったより早く終息するんやない? ……あ、一応、大量死した世界以外の澱処理もあっから、ちょいプラスやね~」
 ミミの考えが正しければ、これ以上無い朗報なのだが、これまた確認する術無しだ。
「ミミちゃん、澱って何んなです? よく分からないのです」
 俺達が考え込んでいると、ネムが今更ながらな事を聞いてくる。やっぱり理解していなかったようだ。
「あにょね、元々の意味は濁った液体の底に溜まる物、見たいなもんかな~。泥水の底に溜まっちょる泥とか。
 今回の場合は、多分、人間が死んで転生すっ時の不要物、強すぎる思いとか、歪んだ思い、歪んだ精神とか。
 ほり、時々頭おかしくなるヤツ居るやん。あんなんが、転生してもそのまんまやったらマズイっしょ。
 あとは、あれやね、罪つうヤツ。人間生きちょれば、大なり小なり罪を犯すんよ。勿論、この世界で言う赤レベルじゃ無くって、他人を悲しませたり泣かせたり、つー事。
 そんなんが、マイナスポイント的に溜まっちょる可能性がある訳よ。他人から負の感情を受けた、とかもかな~。ま、全部、私の想像やけどね~」
 ミミの話を聞いていたネムだったが、やはり理解出来なかったようで、再度ベッドに潜り込んだ。
 ミミの考えが完全に正しいとは思わないが、俺の感じた『感覚』からすれば違和感を感じない。特に『罪』という辺り。法的な意味では無く、もっと違うものだ。具体的には言えないが、『罪』と言う感覚は確かにある。
 その時生きていた世界を構築した、神的存在が定めた範囲を逸脱した分が『罪』として与えられ、それがその世界での生活影響を与え、転生時に『澱』として纏めて処理される、と言う事なのかも知れない。
 ミミが言うように、マイナスポイント的なものや、負のエネルギー的なものなのかも知れない。
 俺が分かった事は、あれが『俺の澱』であり、その『澱』は浄化されたもので有るという事。『澱』は前世からの転生時に切り捨てた物だという事だけだ。それ以上は分からない。『罪』の事も、あくまでも『感覚的に納得出来る』にすぎない。
「全ては想像だな」
 俺が、そう言うと、ミミも頷いた。
「そ。ぜ~んぶ想像! 他人に話しても絶対信じてもらえん話。だけんど、結構当たっちょる気はするんよね~」
 ミミは、一人で何度となく頷いている。
 これ以上、この事について考えても無駄だな。確認のしようが無い事を考え続けても時間の無駄だ。
 と言う事で、彼女達の部屋を出ようとした時、ティアが声を掛けてきた。
「ロウは、その浄化された澱を取り込んだんだよね。それって、身体に? それとも魂に?」
「多分、魂の方なんじゃ無いのかな。……魂と言って良いのかは分からないけど、肉体に、じゃない事は確かだよ」
「だったら、ロウの魂は、少し大きくなったんだよね」
「うんみゅ!! ロウ! スキルの実を喰え!!」
 ティアの話の途中で、ミミのヤツが急にデカい声を出す。
「うん、魂が大きくなったのなら、魂の容量も増えて、スキルの実で新しいスキルが発現するかな~って思って」
 ……そう言う事か。ティアの話で、やっとミミの言った意味が分かった。とは言え……。
「でも、魂の容量が増えたか分かんないぞ。そもそも、魂の容量説自体が俺達の想像だろ」
「四の五の言わんと、喰え!!」
 ……シェーラの方を向くと、彼女は軽く笑いながら俺を促している。メムは「ほえ?」と首を傾けてはいるが、俺が『スキルの実』を使う事自体は反対はしていないようだ。
 全く無駄になる可能性の高い検証だけに、戸惑いがあったのだが、全員が反対しないのならいいか。元々、俺達にとって『スキルの実』は、既に大した価値を持っていないからな。
 俺は、ティアが『ストレージ』から取り出した『スキルの実』を口の中へと入れた。
 そして、俺の予想に反して、新たなスキルを得ていた。スキル名は『壁走り』。名前で分かると思うが、壁を走ったりする事が出来るスキルである。
「忍者スキルゲットだぜ!!」
 ミミのヤツが、アホな叫び声を上げ、隣からうるさいと、壁ドンされた。もう夜も遅いので、静かにしよう。
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