埋(うずみふ)腐 ――警部補戸田章三の日常(仮題)

三章企画

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第三章(その3) 進捗2(津田純子)

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 五月四日、午前八時三十分。鹿箭島西署大会議室での定例捜査会議。
 出水署からは、都留警部補も出席している。都留は、眼のあった戸田に、話があると目配せを送った。
 西署長小松周三の長たらしい訓辞が終了した後、気を取り直すかのように、大きく深呼吸した野路西署刑事課長が、捜査状況の説明を始めた。
 二面のホワイトボードには、被害者津田純子の家族関係交友関係と頭部発見箇所の周辺図が描いてある。
 要約するとこうなる。

 被害者は、県立高尾野女子高三年津田純子。十七歳。血液型A。
 四月二十八日午前八時半頃、出水市T町のショッピングセンターオオセ駐車場で、出会い系サイトで知り合った男性と接触後、消息不明。
 四月三十日午前七時三十分、切断された被害者の右耳が、鹿箭島市武二丁目柳田通りで発見される。
 翌、五月一日午前六時二十分、同被害者の頭部が、鹿箭島市唐湊四丁目鹿箭島PJ女学園校門前で発見される。
 死亡推定時刻は、四月二十八日から三十日にかけて。死因は扼殺による窒息死。
 被害者は約一年ほど前から、友人河瀬奈保子とともに出会い系サイトを通じて援助交際を繰り返していた模様。
 頭部には、複数人の毛髪の細片が付着しており、それ以外の微物については現在分析作業中。遺体発見現場周辺の地取り捜査では、不審車両人物ともに目撃証言なし。
 被害者所有の携帯電話の通話記録並びに、利用したと見られる出会い系サイトのアクセスログに関しては、現在開示請求中。週明けには回答を得られる見込み。
 自宅から押収した被害者の所持品、ならびに友人河瀬奈保子から提供された所持品の解析も現在作業中だ。
 野路課長は一気に説明し終えると、全体を見回した。

「以上が昨夜八時半までに把握している状況だが、それ以外にないか」
 県警捜査一課強行係二班の堂園警部補がゆっくり立ち上がった。
「被害者と接触男性が使用したと見られる施設ならびに周辺の地取りでは、残念ながら該当者は見つかっていない。我々は地取りを継続する予定だが、なにぶん広範囲であるため、施設側から提供を受けた防犯監視ビデオの解析については、別途担当者を用意してもらいたい」
 堂園のさりげないが決めつけた視線が、ちらと戸田と瀬ノ尾に向き、瀬ノ尾のそれと一瞬絡んだ。瀬ノ尾は戸田を振り返った。戸田は……。瀬ノ尾は、小さくため息をついた。都留が立ち上がった。
「出水署の都留ですが。二十八日午前八時から九時にかけて、オオセ周辺で白のワンボックスカー、ライトバンが目撃されとります。ナンバー、車種は不明。商号等の記載はなし。スモークガラス使用で、搭乗者も確認されておりません。出水市街から南西方向へ向かったとの証言もあり、現在確認作業中です。また、被害者の当時の事情に関して、友人の河瀬奈保子から引き続き事情聴取しておりますが、報告書に上げた以外のことは把握できておりません」
 他には何も出なかった。
 各班の捜査内容は現状の継続が指示され、各自散っていた。

「戸田。ビデオテープは科捜研に持ち込んである。家出人捜索願の検索は、午前十時までに終わるだろうから、十時過ぎにはビデオの解析に当たるように」
 近づいてきた渡辺係長が、無表情に言い渡した。
「十一時きっかりには、わたしも状況を見に行く」
 瀬ノ尾は時計を見た。十時二十七分。
『やがて十時半じゃないか。それが、十時までには終わる? どういう意味だ? 嫌味か。まっすぐ県警本部に帰ったって、連休の渋滞に巻き込まれりゃ、下手すりゃ十一時だ』
「わかりました。自分の時計は安物で、しょっちゅう狂うんで、係長の時計に合わせましょう。おい、瀬ノ尾、お前の時計も合わせておけ」
 戸田は、のんびりと瀬ノ尾を呼んだ。
「読み上げるぞ。いいか、係長の時計では、現在五月四日午前七時三十八分。間違いなしと。では係長、この時計で九時半までには、所定の机に座っていますんで」
 あ?
 開いた口が塞がるにつれ苦虫を噛み潰したかの如く顔が歪んでいく渡辺係長を後に残して、戸田はさっさと会議室を出ていく。
 慌てて瀬ノ尾が続き、すぐに都留が続いた。
「いいんですか」
「瀬ノ尾、何か問題があったか? 係長の時計とは時間がずれていたようだから、時刻あわせをしただけだろ」
 戸田はとぼけている。都留が大きく首を振って笑った。
「なに、かまわん。うちらにかもうて欲しくない、係長が刺した釘を、おおげさに抜き返しただけだ」
「で、都留さん。そのライトバン。国道三号線に抜けて、水俣方面と言うことは? 選挙前日で、選挙関連の車両に気を取られて、紛れたってことは?」
「それはない。間違いなく三号線は上下線とも使ってない。白のバンは多いが、スモーク付きはそう多くないし、選挙と言っても連休初日の土曜の八時九時だ。阿久根までは、朝市がかなり出てる。見落とされることはない。三二八か堀切線を鹿児島方面に行ったきりと考える方が自然だ」
「でした。あとはまかせます」
 戸田は頷きながら、都留に催促した。
「ところで、都留さん。ほんとの用件は何です?」
「一言も、しゃべらん」
 は、と瀬ノ尾が笑い出した。
「都留警部補、質問されてそれじゃ、いくらなんでも……」
「任意じゃ強くも出れんし、お手上げだ。章さん、なんとか時間を作って出水署に来れんか。時計の大将は、うちの署長から押させるから」
 戸田は頭を掻いた。
「都留さん、それは難しい。でも、あれですか。河瀬奈保子から、津田純子の件で、まだ何か出そうなんですか」
「と思っている」
 しばらくの沈黙の後、戸田が重たい口を開いた。
「通話記録が出、所持品の解析に目処がつけば、糸口は開くんじゃないですか」
「それが来ない上に、話す相手を決め込んだ奴は、他の人間じゃ梃子でも動かん。知ってるだろ、頼まれてくれ」
 戸田はため息をついた。それが了承と言うことなのだろう。都留の声は、
「脇が固まったら、迎えをよこす」
 嬉しそうに弾んでいた。

 戸田が、寄り道をすることもなくまっすぐ本部に戻ると、応援の捜査員がふたり来ていた。戸田は、山積みされた防犯ビデオの再生デバイスのひとつを手に取って、再生デッキに入れた。
 提出された再生デバイスで、それぞれの施設で防犯機器を導入した時期がわかるのが、なんとなく笑えたが、再生する側はそれぞれの機種を使いこなす必要がある。
 ビデオテープ・コンパクトフラッシュ・スマートメディア・HDD・DVD……。
 すでに主流は、HDDに録画してパソコンで再生し、処理していく。そういう時代にな
っている。そのために、科捜研には数種類の再生機器とパソコンが用意されていた。パソコンの中には画像処理・解析用のソフトが組み込んであり、どの捜査員でも手ほどきさえ受ければ、解析作業に従事できるようになっていた。
 設置された防犯監視ビデオは、一軒の施設で平均して四カ所ほど。
 設置場所は、大まかに、駐車場から施設入り口。カウンター。エレベーター入り口、内部。の四カ所となる。これは、平均的な録画機器が四台までのカメラを同時に録画できるところから来るのだろう。
 確認する時間帯が特定されているとは言え、四月二十八日の午前九時から最大三十時間の幅で確認することになる。
 監視システムの中には、カメラの撮影範囲に対象が入れば、自動的に撮影を開始するものとそうでないものがあって、これは、ふたを開けて見ないとわからなかった。
 結局、無人の時間帯を飛ばし、人影が見えるとスロー再生し、を繰り返していく作業を覚悟しなくてはならない。再生中場合によっては拡大をかける。見落としは許されない。画質の粗い物、画面の暗いものなどは、特に神経を使う作業である。
 しかし、以前と比べれば、ここ数年で格段に楽な作業となりつつあることは確かだった。
 今回、被害者の髪型、服装が特定できていることから、判別はし易い方だったが、いかんせん数が多すぎた。現在提供を受けている施設だけでも三十数ヶ所、録画時間で延べ時間で三万六千時間分あった。百倍速で仕事しても、わずか四人では、九十時間はかかる。しかも、今後捜査範囲が広がるにつれて、増えていくはずだった。
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