埋(うずみふ)風――風が吹いたら死体が見つかり、ぼくは少女を殺す夢を見る

三章企画

文字の大きさ
11 / 33

犬と被害者と少女の夢(その4)

しおりを挟む
 仕事場に着くと、月曜日とほぼ同じ水曜日の日常が広がってきた。
 各種機械の点検をし、各ストックヤードでの発酵状態をチェックする。
 午前十時を回ると、回収業者が集積して回った生ゴミの受け入れが始まり、正午までの二時間ばかりの間に、最大で二十台ほどの生ゴミ運搬車が集積した生ゴミを搬入してくる。それぞれの運搬車を、空にしておいたストックヤードに誘導し投下させる。
 投下させた生ゴミはホイールローダーでストックヤードの奥に押し込み、次の運搬車用の投下スペースを作る。さらに誘導し投下させ押し込む。
 この単純な作業を繰り返しながら二時間ほど続け、最後の運搬車の受け入れが終わると、呑み込むようにして昼食を取り、集積された生ゴミに、バーク(粉砕した木屑や樹皮)やウッドチップを投入してホイールローダで切り返す。さらに発酵剤を投入して水分比調整をして一日が終わる。
 ひとつ違うのは、全作業終了後にミーティングを行い、土日の出勤の確認と調整することだろう。
 ぼくは、基本的に土曜が休みで日曜が隔週出勤となり、木曜日が調整日となる。
「木塚。今度の土曜出てくれないか。伐木の破砕とバークの切り返しをやって欲しいんで」
「神村産業の連中は、休みですか」
 ぼくが聞き返すと、有馬工場長は答えず
「じゃ、そういうことで。来週の木曜は休んでいいから」
 とだけ言った。既に決定事項なのだろう。ぼくにノーは言えない。

 伐木の破砕は、堆肥センターに隣接している神村産業のウッドチップリサイクルセンターで行っている。
 センターでは、建設工事や木材伐採などで発生した、木材として利用できない樹木、枝葉や根、竹や建築廃材などを破砕してチップ化し、堆肥などの土壌改良材や特定工法の資材としてリサイクルしている。
 敷地には、大型の重機と自走式の大型木材破砕機タブグラインダーが置いてあって、重機には、グラップル――くちばしのように木材を掴む仕組みのアタッチメントが取り付けてある。
 自走式木材破砕機は、幅三メートルほど、長さ十メートルほどの本体に移動用のキャタピラが着いている。むき出しの操縦席の前には、直径三メートルほどのタブと呼ばれる巨大なお椀状のホッパーが座っている。タブの下には長いベルトコンベヤーが設置してあって、チップの山まで続いている。
 深さ一メートルほどのタブの底には、半径に沿って長さ一メートル、幅三十センチほどの切れ込みがあり、粉砕用の高速回転爪(ハンマーチップ)と受け刃がついている。爪で投入された木材を破砕し、受け刃で削っていくのだが、受け刃と回転爪の隙間には頑丈な網目のスクリーンが据えてあり、特定の大きさ以下でないとタブの下に落ちない仕組みになっている。落ちた木片は、ベルトコンベヤーによって所定の位置まで運ばれる。
 堆肥用のチップは、まず二年ほど野積み――ブルーシートをかけた状態で戸外に積み置きをして腐食(堆肥化)を進める。その二年の間に、何度か切り返しをして資材の状態を均質化し、乾燥や自然発酵を促す。それを堆肥センターに持ち込んで、生ゴミと混ぜて攪拌して完熟発酵させて堆肥となる。

 工場長は、来週の木曜日は休んでもいいと言ったが、当てにはできないし、してもいなかった。大体今度の土曜日の仕事は、事実上は、堆肥センターの休日を利用して神村産業でアルバイトをすることだった。
 本来は他社の仕事だが、隣接しているし関連業務でもある。機械を動かす資格も業務の慣れの問題もあり、神村産業側はしばしば業務の委託をしてきた。
 持ち込まれた資材を粉砕して積み置きし、積み置きしたもの切り返して熟成し、配送する。日常の業務とほぼ変わらない上に、堆肥センターに較べてかなり割高の時給になったから、時間さえあえば誰も断る理由もない。
 工場長などは、夏場の陽の長い時分になると、自分から堆肥センターの勤務終了後に作業を買って出ることもあるくらいだった。
 ぼくは、わかりましたとだけ言った。

 ミーティングが終わると、予想通り甲突川切断事件の話になった。
 動機のこと、自首のこと、被害者のこと。
 全ては報道メディアから得た情報と憶測に基づくものだったが、たぶん彼らが一番聞きたくてうずうずしていたのは、ぼくの見たものについてだったろう。
「すいません。仕事が終わったら、すぐに来てくれと言われてますので」
 ぼくは、嘘をついて逃げた。
 それまで敬遠され続けていたマニアが、ブームに乗っていきなり脚光を浴びるようになったようなもの。どうせすぐに冷めるつかの間の熱。そんな雰囲気が嫌だったのかもしれない。
 案の定、水曜日早朝の犯人の自首を受けて、周囲の熱は一気に下がっていった。
 翌木曜日の帰宅時間になると、それまでゴミステーション付近に潜んでいた報道関係者も全員消えていたし、テレビの内容も犯人の報道一辺倒に変わっていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...