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ぼくが変わり、夢が変わり、少女が変わる(その4)
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ぼくは部屋に着くと、途中のドライブスルーで買ったハンバーガー片手に、壁にもたれかかった。夏至に向けて段々遅くなっていく日没の光が弱まる中、照明も点けずにぼんやりとはじまりの夢のことを思い起こしていた。
少女を、一城美奈子を殺した夢のことを。
――夏の半ば、ずぶぬれになった髪の、拭いても乾ききれない湿り気だけは、冷え切っていく体温よりも長く少女のぬくもりを保ち続けている。
「こんなでもね、髪は女の命なんだよ」
ふいに少女のことばが脳裏に浮かぶ。
どういう意味なのか考える。
そのうち少女の躯が冷たくなっていっても、髪だけは長い間暖かいままでいると知ったことを……。
その夢のことを。
――まるで土砂降りの雨に打たれたような、ずぶ濡れの長い髪……。
それは強く印象に残っている。
ぼくはハンバーガーを一口囓った。
ほとんど落ち切った陽の光が、抗うかのように黄昏の薄闇を長引かせ、ぼんやりと部屋の風景を映し出している。衣装ダンスや、床や机の上に乱雑に投げ出された本や資料の紙袋、少女の似顔絵のコピー、堆肥サンプルを詰め込んだ段ボール箱……。
そう言えば、川南さんが失踪した日も雨だった。
川南さんを除く、ぼく、広田さん、伊地知さん、工場長と、珍しく四人で呑みに出て、広田さんとぼくは、翌日早朝の配送があったため、午後十時の頃に工場に戻った。
小雨がぱらつき始め、明日の天気が気になったのを覚えている。
駐車場に川南さんの車があったから、嫌な予感がしたが、事務所の照明は消えていたし鍵も掛かっていて、川南さんはいなかった。
ぼくも広田さんも川南さんのことには触れず、馬鹿話をしてすぐに寝た。
深夜三時頃、凄まじい雷の音で目が覚めると、叩くような土砂降りになっていた。朝方になってようやく小康状態になったものの、結局雨は止まず、昼過ぎからはまた雷を伴う土砂降りになった。
予定していた配送はできず、つまり残業代も付かず、
「お前のおかげで、とんだ貧乏くじを引かされた」
広田さんから散々ぐちをこぼされた。
まだ配送先もうろ覚えの頃で、広田さんがぼくへの指導を仰せつかっていたから、言われてもしかたがなかった。ぼくが全部覚えていれば、広田さんがぼくに付き合う必要はなかったのだから。
ただ、その日から川南さんは消えた。
我に返ると、部屋は夜の闇の中にあった。
手の中には、くしゃくしゃに丸められたハンバーガーの包み紙だけが残っている。
「土砂降りの雨、雨に濡れたずぶ濡れの髪、雨の夜、失踪した男、見つからない殺された少女、か。――なにひとつ繋がりはしない」
とぼくは呟いて床にひっくり返った。
手の中の丸めたハンバーガーの包み紙を天井に放り投げる。
紙屑は、落ちてきて、掴み損ねて、部屋の隅に跳ね転んで逃げた。
脳裏に、ぼんやりと、一城美奈子の横たわった姿と、彼女の首を絞めようとしているぼくの手が浮かんだ。掌に彼女の冷たく暖かい肌の感触を感じ、指の背に触れた、彼女が横たわっている床の、なま暖かく冷たい感触が伝わってきた。
だが、何故だろう、彼女の横たわる床の固さは感じないし、目にも見えなかった。その代わり、ゆっくりとした、途切れ途切れの風が吹いてくるのがわかった。
「はじまりの風」
とぼくは呟いた。
今、ぼくの掌は、寝転がったフローリングの床の、固く冷たい感触をしっかりと握りしめている。
少女を、一城美奈子を殺した夢のことを。
――夏の半ば、ずぶぬれになった髪の、拭いても乾ききれない湿り気だけは、冷え切っていく体温よりも長く少女のぬくもりを保ち続けている。
「こんなでもね、髪は女の命なんだよ」
ふいに少女のことばが脳裏に浮かぶ。
どういう意味なのか考える。
そのうち少女の躯が冷たくなっていっても、髪だけは長い間暖かいままでいると知ったことを……。
その夢のことを。
――まるで土砂降りの雨に打たれたような、ずぶ濡れの長い髪……。
それは強く印象に残っている。
ぼくはハンバーガーを一口囓った。
ほとんど落ち切った陽の光が、抗うかのように黄昏の薄闇を長引かせ、ぼんやりと部屋の風景を映し出している。衣装ダンスや、床や机の上に乱雑に投げ出された本や資料の紙袋、少女の似顔絵のコピー、堆肥サンプルを詰め込んだ段ボール箱……。
そう言えば、川南さんが失踪した日も雨だった。
川南さんを除く、ぼく、広田さん、伊地知さん、工場長と、珍しく四人で呑みに出て、広田さんとぼくは、翌日早朝の配送があったため、午後十時の頃に工場に戻った。
小雨がぱらつき始め、明日の天気が気になったのを覚えている。
駐車場に川南さんの車があったから、嫌な予感がしたが、事務所の照明は消えていたし鍵も掛かっていて、川南さんはいなかった。
ぼくも広田さんも川南さんのことには触れず、馬鹿話をしてすぐに寝た。
深夜三時頃、凄まじい雷の音で目が覚めると、叩くような土砂降りになっていた。朝方になってようやく小康状態になったものの、結局雨は止まず、昼過ぎからはまた雷を伴う土砂降りになった。
予定していた配送はできず、つまり残業代も付かず、
「お前のおかげで、とんだ貧乏くじを引かされた」
広田さんから散々ぐちをこぼされた。
まだ配送先もうろ覚えの頃で、広田さんがぼくへの指導を仰せつかっていたから、言われてもしかたがなかった。ぼくが全部覚えていれば、広田さんがぼくに付き合う必要はなかったのだから。
ただ、その日から川南さんは消えた。
我に返ると、部屋は夜の闇の中にあった。
手の中には、くしゃくしゃに丸められたハンバーガーの包み紙だけが残っている。
「土砂降りの雨、雨に濡れたずぶ濡れの髪、雨の夜、失踪した男、見つからない殺された少女、か。――なにひとつ繋がりはしない」
とぼくは呟いて床にひっくり返った。
手の中の丸めたハンバーガーの包み紙を天井に放り投げる。
紙屑は、落ちてきて、掴み損ねて、部屋の隅に跳ね転んで逃げた。
脳裏に、ぼんやりと、一城美奈子の横たわった姿と、彼女の首を絞めようとしているぼくの手が浮かんだ。掌に彼女の冷たく暖かい肌の感触を感じ、指の背に触れた、彼女が横たわっている床の、なま暖かく冷たい感触が伝わってきた。
だが、何故だろう、彼女の横たわる床の固さは感じないし、目にも見えなかった。その代わり、ゆっくりとした、途切れ途切れの風が吹いてくるのがわかった。
「はじまりの風」
とぼくは呟いた。
今、ぼくの掌は、寝転がったフローリングの床の、固く冷たい感触をしっかりと握りしめている。
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