この気持ちは、あの日に。

篠宮 楓

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好きだから……

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 そう言って、おにーさんはベンチについていた手を外して私の眉間に指で触れた。


 そしたら。


 真っ白です。

 頭が真っ白です!!


 目をこれでもかと見開いておにーさんを凝視する私に、彼は笑みを浮かべたままもう一度告げた。


「君が、すきだよ。今も……、あの頃も」


 あの頃、も?


「嘘」

 思わず口をついた、言葉。
 おにーさんは少し目を細めたけれど、幾度か瞬きをして首を傾げる。
「なぜ、そう思うの」

 脳裏に浮かぶ、おねーさんとおにーさんの姿。
 例え恋人同士ではなくても共有していた、その感情を私には見せてくれなかった。私を心配しているのに、欠片さえ私に見せてくれなかった。
 そう伝えれば、困ったなぁと首もとを右手で押さえる。

「好きな子にさ、情けない所見せたくないでしょ。しかも俺の方が五つも年上なんだから、大人の余裕というものを見せたいわけで」
 要するに、
「見栄ですか」
「そこまでストレートに言うか」
 ――この口は。
 そう言いながら、おにーさんの右手が私の頬に触れた。


「……っ」


 ――どくり、

 鼓動が、跳ねる。


「あの日、名前を聞くつもりだったんだ。連絡先も。でも、君は帰ると言って電車に乗ってしまった。本当は引きずりおろしてでも留めようかと思ったんだけど、やめた」

 私の変化に気付かず、おにーさんは指の腹で頬を撫でる。
 どんどん、顔に血液が集まって行っているのが分かる。けれど、止められない。

「君、凄く泣きそうな表情してたから」

 それは、おねーさんとおにーさんを見て……

「それに、また会えると思ったんだ。電車を使っていれば。だって……」
 そこまで話して、おにーさんはその指を口元で止めた。
「君、俺と時間合わせて電車に乗ってただろ……?」
 一気に顔が熱くなった。
「なっ、ななななっ!」

 何で知ってるの!?
 ばれないようにそ知らぬふりしてたのに!

 焦りすぎて声にならない私。
 確かにその通りだったから。しかも、用事もないのに自習するために学校行ってましたが!

 おにーさんはそんな私を見下ろしながら、くすりと笑った。


「俺ね、君の事、知ってたんだ」


「……え?」


 知ってた?


 初めて聞く事に、私は思わず聞き返す。

「俺が話しかける前から。一人でいる時は凄く辛そうなのに、友達がいる時は綺麗に隠して笑ってる姿をみてさ、なんか……こう……」

 そこまで言って、おにーさんは口を噤んだ。

 そして目を伏せると。



「笑わせたいって、思ったんだ」



 呟いた。



「君の笑顔を、見たいと思ったんだ」



 おにーさん、笑えません。


 ……泣きそうです。


 だって、今でも……好きだから。

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