31日目に君の手を。

篠宮 楓

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アオの+α 8日目

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 大学に戻って。
 部活の皆には、怒られた。
 そりゃそうだよね、何の連絡も取らずに一ヶ月以上いなくなっていたわけだから。薄々事情を察してくれていた教授は、苦笑して……聖ちゃんを小突いていたけれど。

 そして私は一週間後に開催される学祭に向けて、準備をしている。

 ……えっと、いやあのね?
 一応、聖ちゃんと話し終えて自分の中でけじめがつけられたら、すぐななしくんに会いに行こうと思ってたんだよ。
 いやあのホント。
 なんかじとーっとした視線でみられてそうだけど、これはホント。
 ただ――


「何ぼーっとしてるの、もう時間ないんだか……らっ」
 私に声を掛けながら長机を一人で持ち上げようとした木谷さんを手伝う様に、慌ててその机に手をかけた。
「ごめんごめん、手伝うから無理しないで」
 木谷さんはありがとーと笑うと、反対側の端を持ち上げた。
「ったく、うちの美術部男子少なすぎよね」
 壁際に長机を置いて息をついた木谷さんは、腰に手を当てて肩を落とした。
「まぁ、三人ともほそっこいし。つるんでる奴らも細いから来てもらっても意味ないし。てか細い子ばっかだよ。私けんかしても負けないんじゃないかな、むしろ勝つんじゃないかな」
「木谷さん……、お疲れです」
「ははは、貫徹二日目だからってまだまだ大丈夫よ!」
「いや、駄目だと思います。寝て下さい、お願いします」
「私に敵なし!!」
 そのまま高笑いしながら教室から出て行ってしまった。

 それを見送って、思わずため息をつく。
 そのままぐるりと教室を見渡した。
 普段講義が行われてる大教室を借りて展示を行うんだけれど、その準備がまだ終わっていないのだ。

「これじゃ……無理だよねぇ」

 並べた長机に布を被せながら、私はため息をついた。
 ここ数日、朝早くから大学に来て夜遅くアパートに帰ってる。しかも大学から一番近い場所にあるからっていう理由で、私のアパートに実家通いの子とか遠い場所に住んでいる子とかが泊まって行ってるわけで。
 でも学祭まで一週間。
 今まで全く部活に顔を出していなかった私が、手伝わずに出かけるとか言い辛くて。

 布をピンやクリップで止めながら、次にやる事を頭の中で整理する。
 実際、一番動けるのは私だった。学祭に出す絵を描き上げているのが、私だけだったからだ。
 その絵は聖ちゃんが取り払った包みをもう一度かけて、教室の壁に立てかけてある。
 それに目を向けて、小さく息を吐き出した。

「……状況が許さないのが、一番の理由だけど」
 でも、それだけじゃないことぐらい、分かってる。

 ここに戻ってくるときは、聖ちゃんに対してけじめをつけようと意気込んでいた。
 ちゃんとけじめをつけられたら、ななしくんとむきあえる……そう思って。

 でも――

「でも」

 聖ちゃんへの気持ちにけじめをつけて、いざななしくんにあいに行かなくちゃって思ったら。
 ぎゅっ、と布を持つ手に力を込める。

「……なんか、怖くなっちゃったんだよね...」

 開け放った窓から、空を見上げる。
 夏の間中、ずっと見上げていた空。
 同じなのに、同じ空なのに。
 あの場所で見るのと、違って見えるのと一緒で。

 私の、非日常だった、あの場所。
 日常に戻った私を、ななしくんは受け入れてくれるのかな...。

 そんな事を考えてたら、少し、怖くなってきてしまった――


「何してるの?」
「……!!」

 突然かけられた声にびくっと体を震わせて振り向くと、聖ちゃんが後ろに立っていた。呆れた様に笑いながら、私の横に立って空を見上げる。
「どれだけ呆けてるの、まったく……って、確かに綺麗な”あお”だよね」
 まだドキドキしている鼓動を押さえる様に服の上から胸を押さえながら、空へと視線を戻す。

「……うん、奇麗だよね」
「……お前の、あの”あお”は」

 ……私のあの、あお?

 空を見上げたまま話し出した聖ちゃんに、視線を向けた。
「聖ちゃん?」
 止めてしまった言葉の先を促す様に名前を呼べば、聖ちゃんは口端を上げて目を細めた。

「何でもない。それより、体大丈夫か? こっち戻ってきてから、ずっと働きっぱなしだろう?」
 無理やり話題を変えた聖ちゃんを不審に思いながら、小さく頭を横に振る。
「大丈夫、準備頑張らないとね。学祭まで、あと一週間だもん」
微かにほっと息を吐いた聖ちゃんは、そうだな……と笑みながら頷いた。
「そうだな。一週間だけだから、がんばろうな」
 そう言って聖ちゃんは、持っていた荷物を床に置いた。
「せめて学祭に間に合うようにな」
「え、目標低くない?」
 お互いに目を合わせて笑いあう。

「いちゃいちゃしてる暇があったら、準備ーっ! 手を動かしてー!!」
 開いていたドアから駆け込んできた木谷さんが、私達を指さして叫びだす。そんな彼女に思わずという風に、聖ちゃんが吹き出した。
「頑張ろっか」
「うん」
 聖ちゃんに促されて、私も止めていた手を動かし始める。


 本当は、早く会いたいけれど。
 まだ心の準備が出来ていない私もいて。


「学祭……か」


 三和さんを、思い浮かべた。
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