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私、後釜狙ってます!
8 アオの心ななし知らず・佐々木視点
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せっかく佐々木が出てきたので、佐々木視点にしてみました(笑)
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「アーオさん」
名前を呼ぶと丁度中村医院から出てきたアオさんが、ふっと顔を上げた。
「佐々木くん、こんばんは」
ふわりと笑うその仕草は、出会ったころとあまり変わりない。いつもいつもこの人はふわりふわりと……、いろいろなものを受け流してしまう。
「で、俺が持つ荷物ってどれですかね?」
目の前に立ってアオさんを見下ろせば、曖昧に笑って自宅とは違う方へと足を向けた。
「うん、これから必要になるんだ。コンビニに行きたいから」
「コンビニ?」
「うん、明日の朝のパン、多分足りないと思うし」
そう言いながら歩きはじめたアオさんの横に並んで、手に持っていた紙袋を取り上げた。驚いたように俺を見上げたアオさんを一瞥すると、ため息をつく。
「あのね、アオさん。アオさんのそういうところ美徳なのかもしれないけど、俺が原田だったらあんまし嬉しくない気遣いかな」
「……佐々木くん」
罰悪そうに目を伏せるアオさんを促して、さっさとコンビニに入る。
こうなったら、さっさと家に戻るべきだ。
原田と困った子が二人きりでいる家に。
アオさんを待たずにいつも台所で見ている食パンを手に取ると、ちゃっちゃとレジでお金を払ってすぐに踵を返す。俺の後をぱたぱたとアオさんがついてきているのを感じつつ、早足はやめなかった。
さっきななしに話を聞いた時、思い出したことがある。
辻から聞いた、ななしの会社に仕事で行った時に見かけた光景。ななしが年下と思われる女の子に、付きまとわれていたという話。
エントランスの商談スペースで担当者を待っていたら、眉間に皺を寄せたななしに一生懸命話しかける年下の女の子がいたって。
きっとそれがさっきの彼女なんだろう。よもや、自宅にまで押しかけるほどのことになっているとは思わなかったけど。
きっぱり突き放さなかったななしが一番悪いけれど、それでもこの仕打ちはない。
何が悲しくて、自分の彼女に他の女から告白される時間を与えられなきゃなんないんだ。アオさんはきっと相手の子が可哀そうでしたことなのかもしれないけれど、それは原田にしてみたらいらない気遣い。
「ちょ、ね、ねぇ! 佐々木くん、ちょっと待って!」
くんっ、とYシャツの背中部分が引っ張られて思わず足を止めた。
顔だけ後ろを見れば肩で息をしたアオさんが、シャツを掴んだまま荒い呼吸を繰り返していて。思っていたよりもアオさんには早すぎた歩調だったと、慌てて体ごと振り返った。
「ごめん、アオさん。大丈夫?」
肩で息をしたままのアオさんに問いかければ、幾度か頷いて深く息を吐き出した。
「佐々木くん、足早いね。いつも歩調に気を使ってもらってたのが、よく分かったよ」
やっと落ち着いてきた息をもう一度吐き出して、アオさんは顔を上げた。
なんとなく罪悪感がわいて、頭を下げる。
「本当にごめんなさい」
身長差があるのだから、自分の少し早足がアオさんの駆け足になることくらい気付いてしかるべきだった。
アオさんは「大丈夫」と笑うと、小さく息をついた。
「あのね、佐々木くん。佐々木くんは勘違いしてる」
「勘違い、ですか?」
勘違いも何も、状況はそうだろう。
面倒なあの女の子は、ななしに気があるからこそ彼女と住む家にまで押しかけてるわけで。だというのに二人きりにする為に自分が外に出るとか、意味わからん。
なんでそんなお人よしなことができる。
俺があまりにもむすっとした表情を浮かべていたのだろう、アオさんは微かに笑って視線を落とした。
「あの子がななしくんを好きなのは、会ってすぐわかったよ。真っ直ぐにななしくんを見てた。うちに来たいって言い出したのも、ななしくんのことを好きだからだよね」
「そこまでわかってて、家にあげたんですか? どれだけお人よしなんですか」
「だから違うんだよ」
「何が違うっていうんです」
そんなことをされて、ななしが喜ぶはずが……
言葉を続けようとした俺は、アオさんの自嘲気味の笑いに押しとどめられた。
「あのね、一途で真っ直ぐな想いってね、結末を見ないと終われないの。終われない想いを抱いたまま、次には行けないんだよ」
「……アオさん?」
いつものアオさんじゃないような静かな声は、小さいのによく通った。。
言ってることは二十代後半の俺にとってはものすごく恥ずかしい言葉なんだけど、アオさんが言うとはまってしまうのは少し世間から離れた生活をしているからなのか。
そんなことを考えている俺に気付くこともなく、アオさんは言葉を選ぶようにぽつりぽつりと話し出した。
「私もね、そんなことがあったの。苦しくてね辛くて、そんな私を助けてくれたのはななしくんだった。助けてもらえて、とても大切な存在になって。でも、ななしくんと前に進もうと思っても進めなかったんだ」
なんでだと思う?
そう俺に問いかけるも、アオさんは俯いたままで表情が見えない。
「さっきのアオさんの言い分からすると、前の気持ちを引きずってたから……ですか?」
「うん、そう。だから前に進もうと思った時、ちゃんと終わらせにいったんだよ私」
あの頃アオさんやななしに何かあっただろうことは知っていたけれど、実は初めて聞く内容に柄にもなく動揺していた。
いつも楽しそうにふわふわしていたアオさんに、そんな過去があるとまでは知らなかった。
「だから、私は嫌な女なんだ」
「え?」
いきなりの言葉に、首を傾げる。
どこから話が続いたらそうなる?
「うちに来たいって、そこまで自分を追い詰めている彼女に、振られるチャンスをあげたんだから」
恋を終わらせてもらうように。思いを断ち切ってもらうように。
きっとそうなると分かっていながら、自宅に来るという彼女の必死の願いに頷いた。それはななしくんに好かれていると信じている、自分の傲慢。当たり前のように彼女が振られると思っているからこそ、できた行動。
「ね? 最低でしょう?」
そう言って、やっと顔を上げた。
俺を見上げる表情はいつも通りだけれど、それでも不安や切なさの入り混じった視線は隠しきれていなかった。
「……俺は当事者じゃないから言えませんけど。でも、そんな顔をして最低でしょと言われても頷くことはできませんよ」
「……ごめんね」
「いや、そうじゃなくて。最低だって言って自己嫌悪にどっぷりつかってるアオさんを、さらにその中に沈める言葉は持ち合わせてないってことです」
それだけ言うと、原田達がいる家へと歩き出す。今度はちゃんと歩調をアオさんに合わせて。
「一番の困ったちゃんは、彼女のいる男に横恋慕してちょっかい出したあの女の子ですから。まぁ、きっと今頃振られてるでしょうけど、それは自業自得で彼女自身が選んだ結果ですよ」
そう言い切ると、なぜか隣で感心したような声が上がった。
「佐々木くんて、伊達に部活の部長してたんじゃないんだねぇ。ちょっとびっくりしちゃったよ」
――ちょっと待て、八年以上俺をどう見てた……!
内心の声は言葉に出すこともなく、佐々木の中で消え去った。
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「アーオさん」
名前を呼ぶと丁度中村医院から出てきたアオさんが、ふっと顔を上げた。
「佐々木くん、こんばんは」
ふわりと笑うその仕草は、出会ったころとあまり変わりない。いつもいつもこの人はふわりふわりと……、いろいろなものを受け流してしまう。
「で、俺が持つ荷物ってどれですかね?」
目の前に立ってアオさんを見下ろせば、曖昧に笑って自宅とは違う方へと足を向けた。
「うん、これから必要になるんだ。コンビニに行きたいから」
「コンビニ?」
「うん、明日の朝のパン、多分足りないと思うし」
そう言いながら歩きはじめたアオさんの横に並んで、手に持っていた紙袋を取り上げた。驚いたように俺を見上げたアオさんを一瞥すると、ため息をつく。
「あのね、アオさん。アオさんのそういうところ美徳なのかもしれないけど、俺が原田だったらあんまし嬉しくない気遣いかな」
「……佐々木くん」
罰悪そうに目を伏せるアオさんを促して、さっさとコンビニに入る。
こうなったら、さっさと家に戻るべきだ。
原田と困った子が二人きりでいる家に。
アオさんを待たずにいつも台所で見ている食パンを手に取ると、ちゃっちゃとレジでお金を払ってすぐに踵を返す。俺の後をぱたぱたとアオさんがついてきているのを感じつつ、早足はやめなかった。
さっきななしに話を聞いた時、思い出したことがある。
辻から聞いた、ななしの会社に仕事で行った時に見かけた光景。ななしが年下と思われる女の子に、付きまとわれていたという話。
エントランスの商談スペースで担当者を待っていたら、眉間に皺を寄せたななしに一生懸命話しかける年下の女の子がいたって。
きっとそれがさっきの彼女なんだろう。よもや、自宅にまで押しかけるほどのことになっているとは思わなかったけど。
きっぱり突き放さなかったななしが一番悪いけれど、それでもこの仕打ちはない。
何が悲しくて、自分の彼女に他の女から告白される時間を与えられなきゃなんないんだ。アオさんはきっと相手の子が可哀そうでしたことなのかもしれないけれど、それは原田にしてみたらいらない気遣い。
「ちょ、ね、ねぇ! 佐々木くん、ちょっと待って!」
くんっ、とYシャツの背中部分が引っ張られて思わず足を止めた。
顔だけ後ろを見れば肩で息をしたアオさんが、シャツを掴んだまま荒い呼吸を繰り返していて。思っていたよりもアオさんには早すぎた歩調だったと、慌てて体ごと振り返った。
「ごめん、アオさん。大丈夫?」
肩で息をしたままのアオさんに問いかければ、幾度か頷いて深く息を吐き出した。
「佐々木くん、足早いね。いつも歩調に気を使ってもらってたのが、よく分かったよ」
やっと落ち着いてきた息をもう一度吐き出して、アオさんは顔を上げた。
なんとなく罪悪感がわいて、頭を下げる。
「本当にごめんなさい」
身長差があるのだから、自分の少し早足がアオさんの駆け足になることくらい気付いてしかるべきだった。
アオさんは「大丈夫」と笑うと、小さく息をついた。
「あのね、佐々木くん。佐々木くんは勘違いしてる」
「勘違い、ですか?」
勘違いも何も、状況はそうだろう。
面倒なあの女の子は、ななしに気があるからこそ彼女と住む家にまで押しかけてるわけで。だというのに二人きりにする為に自分が外に出るとか、意味わからん。
なんでそんなお人よしなことができる。
俺があまりにもむすっとした表情を浮かべていたのだろう、アオさんは微かに笑って視線を落とした。
「あの子がななしくんを好きなのは、会ってすぐわかったよ。真っ直ぐにななしくんを見てた。うちに来たいって言い出したのも、ななしくんのことを好きだからだよね」
「そこまでわかってて、家にあげたんですか? どれだけお人よしなんですか」
「だから違うんだよ」
「何が違うっていうんです」
そんなことをされて、ななしが喜ぶはずが……
言葉を続けようとした俺は、アオさんの自嘲気味の笑いに押しとどめられた。
「あのね、一途で真っ直ぐな想いってね、結末を見ないと終われないの。終われない想いを抱いたまま、次には行けないんだよ」
「……アオさん?」
いつものアオさんじゃないような静かな声は、小さいのによく通った。。
言ってることは二十代後半の俺にとってはものすごく恥ずかしい言葉なんだけど、アオさんが言うとはまってしまうのは少し世間から離れた生活をしているからなのか。
そんなことを考えている俺に気付くこともなく、アオさんは言葉を選ぶようにぽつりぽつりと話し出した。
「私もね、そんなことがあったの。苦しくてね辛くて、そんな私を助けてくれたのはななしくんだった。助けてもらえて、とても大切な存在になって。でも、ななしくんと前に進もうと思っても進めなかったんだ」
なんでだと思う?
そう俺に問いかけるも、アオさんは俯いたままで表情が見えない。
「さっきのアオさんの言い分からすると、前の気持ちを引きずってたから……ですか?」
「うん、そう。だから前に進もうと思った時、ちゃんと終わらせにいったんだよ私」
あの頃アオさんやななしに何かあっただろうことは知っていたけれど、実は初めて聞く内容に柄にもなく動揺していた。
いつも楽しそうにふわふわしていたアオさんに、そんな過去があるとまでは知らなかった。
「だから、私は嫌な女なんだ」
「え?」
いきなりの言葉に、首を傾げる。
どこから話が続いたらそうなる?
「うちに来たいって、そこまで自分を追い詰めている彼女に、振られるチャンスをあげたんだから」
恋を終わらせてもらうように。思いを断ち切ってもらうように。
きっとそうなると分かっていながら、自宅に来るという彼女の必死の願いに頷いた。それはななしくんに好かれていると信じている、自分の傲慢。当たり前のように彼女が振られると思っているからこそ、できた行動。
「ね? 最低でしょう?」
そう言って、やっと顔を上げた。
俺を見上げる表情はいつも通りだけれど、それでも不安や切なさの入り混じった視線は隠しきれていなかった。
「……俺は当事者じゃないから言えませんけど。でも、そんな顔をして最低でしょと言われても頷くことはできませんよ」
「……ごめんね」
「いや、そうじゃなくて。最低だって言って自己嫌悪にどっぷりつかってるアオさんを、さらにその中に沈める言葉は持ち合わせてないってことです」
それだけ言うと、原田達がいる家へと歩き出す。今度はちゃんと歩調をアオさんに合わせて。
「一番の困ったちゃんは、彼女のいる男に横恋慕してちょっかい出したあの女の子ですから。まぁ、きっと今頃振られてるでしょうけど、それは自業自得で彼女自身が選んだ結果ですよ」
そう言い切ると、なぜか隣で感心したような声が上がった。
「佐々木くんて、伊達に部活の部長してたんじゃないんだねぇ。ちょっとびっくりしちゃったよ」
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