31日目に君の手を。

篠宮 楓

文字の大きさ
5 / 112
3日目 アオ視点

しおりを挟む

 しばらくそうやってななしくんの頭を撫でていた私に、前髪の間から初めてみる少しへたれた眉が見えた。


 おや、いつも怖そうな眉間の皺が無くなっているよ。

 そんな事を考えていたら、ばっちり目が合った。少し驚いた表情の後、視線がうろついて、何か言いづらそうに口をもごもごさせている。何だろうと思いながら顔を覗き込めば、やっと言うつもりになったらしく口を開いた。


「あー、と。……まさかとは思うけどさ」
「んー?」


 しかし、肩幅あるな。これで制服着たりしたら、おっさんのようだ。確実私より、年上に見えるね。うん。今は夏服だからまだいいけど、冬服は学ランかなブレザーかな。ブレザーだったらおっさ……

「アオ?」
「え、学ランの方が好き」

 妄想に沈んでいた私はそのまま口に出してしまい、しまったと思いつつ、ふぃっと視線を逸らした。呆れた雰囲気を醸し出したななしくんは、いつもの口調にやや戻りぎみでため息をつく。
「お前の妄想も、好みも聞いてない。ちなみに確かにうちは学ランだけど、見せるつもりもない」
 ちなみにってちゃんと答えているあたり、可愛いなぁと思ってしまうよ。顔とのナイスギャップ!
 
 一応目を逸らしたままそんな事を考えてみましたが、それでな……と、やっぱり少し低めになった声音にその視線をななしくんに戻した。

 あ、頭に手を置いたままだった。

 間抜けな構図にその手を自分に引き戻そうとしていた私は、ななしくんが話し始めた事できっかけを失った。


「お前、まさか俺が来るの……待っててこうなったとかいう?」
「へ?」
 しかも、めちゃくちゃ意味不明。
「君が、来るのを待って、こう?」
 
 こうって、どう?

 不思議そうな私の声に、ななしくんは一気に顔を赤くした。
「違うならいいんだよ、違うならっ」
 そういうと、勢いよく立ち上がる。
「わっ?」
 まだななしくんの頭に手をのせていた私は、彼が立ち上がったその反動で体が後ろに傾いだ。
「あっ」
 焦ったような声が頭の上から聞こえてきたかと思ったら、ぐっ……とななしくんの腕が背中にまわって倒れるのを回避してくれる。セーフ、とか脳内で呟いたら、あんまりセーフじゃない体勢にふと気が付いた。

 顔の横に、ななしくんの顔がある。
 私はと言えばななしくんの頭に置いていた体勢そのまま、片手を上げたままで。


 まぬけだ。
 うん、すっごい間抜け。
 でもさ。いいと思うのよ。誰にも見られなければ。

「悪い」

 ほっとしたように息をついたななしくんの声を今までにない近さで聞きながら、私は開けっ放しの窓から見える庭へと目を向けていた。網戸があるから少し見え辛くはあるけれど、その好奇な視線はひしひしと感じる。

「……アオ?」

 何も答えない私を不審に思ったのか、ゆるゆるとななしくんの身体が離れていく。
 そして私が目線を固定しているのに気が付いて、それを辿る様に視線を動かして……

「……あいつらっ」

 そう言ってから自分の状態に気が付いたらしく、がばっと擬音を添えたい程の動揺加減で再び立ち上がった。そのまま庭へと向かって走り出そうとしたななしくんは、一瞬戸惑いながら振り返ると気遣う様に声を落した。

「具合は、大丈夫か?」

 それでも、ちらちらと庭先の方に視線を投げているのは隠せない。私は上げていた手を下ろしながら、思わず、ふ、と笑みを零した。

「大丈夫。迷惑かけてごめんね?」
「……あとで、じーさん先生が様子見に来るって言ってたから。じゃ」
 
 そう冷静に私に告げると、ななしくんは網戸をからりと開け放って縁側から飛び降りると、庭先……厳密には土手に向かって走り出した。


 目指す場所には土手にある外灯の下、こちらを興味津々に見ている男の子三人。猛然と駆け寄るななしくんに恐れを抱いたのか、ぎゃぎゃー何か言いながら走り去っていく。
 それを追いかけるように、ななしくんが走り去っていった。


「……怒涛のような、嵐のような」


 そう呟いてからななしくんが走り去った庭にいつもならない物を見つけて、思わず声を上げて笑ってしまった。帰り際、焦りながらも冷静に私を気遣っていたけれど。


「自転車忘れるとか」


 内心、かなり動揺していたらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...