31日目に君の手を。

篠宮 楓

文字の大きさ
6 / 112
3日目 アオ視点

しおりを挟む
「おーい、起きてるかい」

 ななしくんが走り去った後、しばらくしておじーちゃん先生……村山先生が顔を出した。中肉中背、のんびりとした村山先生は、私の傍に座ると体温計を取り出して差し出してくる。それを受け取る私を見ながら、まったく……と溜息を零した。

「まだここに来てから数日しかたってないのに、こんなこと要さんが聞いたら怒られるぞ」
 私は体温計を脇に挟みながら、苦笑を浮かべる。
「おばーちゃんが怒ったら怖いから、内緒にしててね」
 昔ながらの日本のおばーちゃんである要おばーちゃんは、私の母方の祖母。

 母親の弟……私の叔父さんが怪我をして、今は面倒を見にいっている。奥さんもいるんだけれど子供が小さいから、主に子守がメインだって笑ってたっけ。


「今回だけだからね? 要さんは怒らせると、私だって恐ろしいんだし。……そういえば、あの男の子はどうした?」
 きょろりと部屋を見渡したけれど、村山先生の視界には当たり前だけれど映らない。ピピッと、電子音を響かせた体温計を先生に渡して、頭を振った。
「さっき帰ったよ。迷惑かけちゃった、ななしくんには」
 体温計の数字を確認していた村山先生は、不思議そうに首を傾げた。
「ななしくん? あれ、もしかして、名前知らないのかい?」
 
 ボールペンでカルテに何かを書き込みながら、私の診察を進めていく。

「だって、一昨日あったばかりだから」
「それにしたって、名乗るだろう? まぁ、いいけど。彼の名前は……」
「あ、聞かない!」

 村山先生の声を、大声で遮る。いきなり声を上げた私に驚いたように目を見開いた村山先生は、ぱちぱちと幾度か瞬きをして息を吐いた。

「知りたくない理由は?」
「ないよ。ただ知りたくないだけ。私だって名乗ってないし」
「ふーん?」

 よくわからないという表情を浮かべたまま、私の診察を終えて安堵するように息をついた。

「まぁ、名前の件は置いといて。だいぶ落ち着いたみたいだね。ただ、今日は安静にするように」
「うん、ありがとう先生」

 持ってきた鞄に出した器具をすべて仕舞い込んでから再び私と目線を合わせると、言い聞かせるように口を開く。

「あと、ちゃんとご飯を食べてちゃんと寝るんだよ? 外にいるのもいいけど、ほどほどにね」
「……それ、ななしくんにも言われた」
 すると、ぷっ、と吹き出す声が聞こえて村山先生が立ち上がる。


「君より、ななしくんの方がしっかりしていそうだね」
「私もそー思うけど、面前きって言われるとなんかむかつきますー」
「本当の事だから仕方ない」

 一刀両断されて、まぁねーと笑う。
 確かにあの子は、高校生に見合わない感じでしっかりしてるし。

「まぁ、次に会ったらちゃんとお礼を言っときなさい。ななしくん、凄い勢いで駆け込んで来るくらい心配してたから」
 見送ろうとした私を片手で制しながら、村山先生がにやりと笑う。

「おかげで、待合室の子供たちが大泣きしたけどね」
「ぷっ」

 ……ななしくん、きっと困っただろうな


 勢い込んでお医者さんに駆け込んだのはいいけれど、子供に泣かれて焦るななしくんが想像できて先生と一緒に笑ってしまった。


 ぷぷっ。ごめんよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...