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4日目 原田視点
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あれ? なんか想像していたのと、様子が……。
「……ごめんね、ななしくん。そうだよね、甘えてるよね私。本当にごめんなさい」
「へ?」
殊勝にもいきなり謝りだされて、反対に驚く。どう考えても、綺麗に流されると思っていたのに。
顔を俯けたまま謝罪を続けるアオに、罪悪感がもたげる。
そういえば、俺の顔って真面目な顔すると怖いとか言われてたっけ?
少し前にマネージャーに指摘されたことを思い出して、原田は余計焦り始めた。
「あ、いや……。次から気を付けてくれればそれで……っ」
「あ、ホント? ありがとー」
「……」
にぱっと笑顔全開で頭を上げたアオに、軽く殺意を覚えた俺は間違ってないと思う。
ぎりぎりと歯噛みしたくなる状況だったけれど、次のアオの言葉で霧散した。
「それにしてもやっぱりご飯は甘いものに限るよね!」
……ごはん?
次のケースに手を伸ばそうとしたアオに、信じられないものを見る目を向けた。
「飯が甘いものっつーたか? 甘いものに限るっつったか!?」
思わず怒鳴った俺は、間違っていない。気圧された様にコクコクと頷くアオに、ここ最近出したことのない大声で叫ぶ。
「だから栄養不足でぶっ倒れんだろ、阿呆!」
「あ、あほって……しかもなんか阿呆って……」
驚くのはそこじゃねぇっ!
限りなく着眼点のずれているアオの腕をひっつかんで、ぎゅっと指をまわす。
「甘いものだけで、栄養が取れると思ってんのかあんたは! このほそっこい腕見て、親に申し訳ないと思え!」
「へ?」
「生んでもらった体を粗末に扱うな、この阿呆!」
「は?」
「だから……っ」
くそイライラする単語しか返ってこないことに腹をたてて……腹を……
「……」
思わず口を閉じた。
目の前では、さっきよりもまんまるく目を見張ったアオが原田を見上げている。いつの間にか膝立ちになって、原田はアオに説教していたらしい。
「あ……いや」
俺、何を力説してんの……。
ぼぁぁっと顔が熱くなる。
アオはそんな原田を、ぽかんと口を開いたまま見上げていた。原田は慌ててアオの腕を離すと、誤魔化すように口を開く。
「だから、和菓子は美味いけど……栄養が偏るというか」
がしがしと後頭部をかいて、なんとか場を取り繕うとしたけれどそれは徒労に終わり。
「だって、和菓子……綺麗、でしょ?」
どうしたらいいかと困ったようにため息をついた原田に、アオがぼんやりしたままそう言った。
「は?」
今この状況を突っ込まれても困るけど、流されるのもまた恥ずかしい。
原田は不貞腐れた様に眉根を寄せて、あぁ、と頷いた。
「だからなんだってのっ。綺麗だよな、色とりどりでっ」
しかもさっきも俺、おんなじ事言ったよなっ。
「綺麗なんだよね、うん」
なぜか確かめるようにその言葉を繰り返してじっと和菓子を見つめるアオの姿に、原田は諦めの溜息をついた。
不思議女には何を言っても無駄だ、うん。
もういいやと考えることをやめて、立ち上がった。途端、座卓に足をぶつけて揺れた湯呑がごろりと倒れる。
「わわっ」
慌てて湯呑を立てたけれど、まだ残っていた中身が座卓の上に零れてしまった。
と言っても、ほとんど残ってなかったけれど。
原田は慌てて横に置いてある鞄からタオルを引き出すと、零れたお茶の上に被せてふきあげた。少なかったこともあって、簡単に吸い込まれる。
「あー、焦った」
一安心とでもいう様に息をつくと、なぜかアオがそのタオルに手を伸ばす。
「綺麗だよね、この色」
「は?」
また着眼点ずれてる。
「あんたってホントずれてるな。この状況で気になるのはそこかよ」
呆れたような声を出せば、アオはにっこりと笑って手のひらを上にして原田に差し出した。
「ごめんね、とっさに台布巾でなくて。タオル洗っておくよ」
「え? いいよ別に。これないと困るし」
部活は汗をかくのだ、そらーもう半端なく。夏場の体育館をなめちゃいけない。タオルがないのはいただけない。
それに、ここははっきり言っておいた方がいいだろう。日みたいに、心配するのは俺が嫌だし。
俺が毎日来ると思うなよ! だからちゃんと自分の体調を管理しろ!
なんとなく言うのに戸惑いがあったけど、これもアオの為と口を開く。
「あんたに会うの面倒だし」
そう告げれば、少しだけ驚いたように目がまん丸くなる。ここまで言えば、一日中外にいるとかしないだろう。
「……まぁ、そういう事だから」
罪悪感を感じない振りをして目を逸らすと、鞄にしまおうとしたタオルを横から掻っ攫われた。代わりに真白いタオルが手に乗せられる。
「洗ったら庭先に干しておくから」
勢いでそれを受け取ってから、無意識にアオを見れば。ほわりとした笑顔が、そこにあった。
「うん。勝手に持って行ってね」
そうすれば私に会わなくていいでしょ? と言外に含まれて……少し複雑な気持ちがしたのは気のせいだと思いたい。
なんとなく寂しいと感じたのは、絶対気の所為だ! うん。
「なんだ、またおねーさんのところに寄ってきたのか?」
「うるせーなっ!」
遅刻ギリギリになったのは、確実アオの所為だけどな!
「……ごめんね、ななしくん。そうだよね、甘えてるよね私。本当にごめんなさい」
「へ?」
殊勝にもいきなり謝りだされて、反対に驚く。どう考えても、綺麗に流されると思っていたのに。
顔を俯けたまま謝罪を続けるアオに、罪悪感がもたげる。
そういえば、俺の顔って真面目な顔すると怖いとか言われてたっけ?
少し前にマネージャーに指摘されたことを思い出して、原田は余計焦り始めた。
「あ、いや……。次から気を付けてくれればそれで……っ」
「あ、ホント? ありがとー」
「……」
にぱっと笑顔全開で頭を上げたアオに、軽く殺意を覚えた俺は間違ってないと思う。
ぎりぎりと歯噛みしたくなる状況だったけれど、次のアオの言葉で霧散した。
「それにしてもやっぱりご飯は甘いものに限るよね!」
……ごはん?
次のケースに手を伸ばそうとしたアオに、信じられないものを見る目を向けた。
「飯が甘いものっつーたか? 甘いものに限るっつったか!?」
思わず怒鳴った俺は、間違っていない。気圧された様にコクコクと頷くアオに、ここ最近出したことのない大声で叫ぶ。
「だから栄養不足でぶっ倒れんだろ、阿呆!」
「あ、あほって……しかもなんか阿呆って……」
驚くのはそこじゃねぇっ!
限りなく着眼点のずれているアオの腕をひっつかんで、ぎゅっと指をまわす。
「甘いものだけで、栄養が取れると思ってんのかあんたは! このほそっこい腕見て、親に申し訳ないと思え!」
「へ?」
「生んでもらった体を粗末に扱うな、この阿呆!」
「は?」
「だから……っ」
くそイライラする単語しか返ってこないことに腹をたてて……腹を……
「……」
思わず口を閉じた。
目の前では、さっきよりもまんまるく目を見張ったアオが原田を見上げている。いつの間にか膝立ちになって、原田はアオに説教していたらしい。
「あ……いや」
俺、何を力説してんの……。
ぼぁぁっと顔が熱くなる。
アオはそんな原田を、ぽかんと口を開いたまま見上げていた。原田は慌ててアオの腕を離すと、誤魔化すように口を開く。
「だから、和菓子は美味いけど……栄養が偏るというか」
がしがしと後頭部をかいて、なんとか場を取り繕うとしたけれどそれは徒労に終わり。
「だって、和菓子……綺麗、でしょ?」
どうしたらいいかと困ったようにため息をついた原田に、アオがぼんやりしたままそう言った。
「は?」
今この状況を突っ込まれても困るけど、流されるのもまた恥ずかしい。
原田は不貞腐れた様に眉根を寄せて、あぁ、と頷いた。
「だからなんだってのっ。綺麗だよな、色とりどりでっ」
しかもさっきも俺、おんなじ事言ったよなっ。
「綺麗なんだよね、うん」
なぜか確かめるようにその言葉を繰り返してじっと和菓子を見つめるアオの姿に、原田は諦めの溜息をついた。
不思議女には何を言っても無駄だ、うん。
もういいやと考えることをやめて、立ち上がった。途端、座卓に足をぶつけて揺れた湯呑がごろりと倒れる。
「わわっ」
慌てて湯呑を立てたけれど、まだ残っていた中身が座卓の上に零れてしまった。
と言っても、ほとんど残ってなかったけれど。
原田は慌てて横に置いてある鞄からタオルを引き出すと、零れたお茶の上に被せてふきあげた。少なかったこともあって、簡単に吸い込まれる。
「あー、焦った」
一安心とでもいう様に息をつくと、なぜかアオがそのタオルに手を伸ばす。
「綺麗だよね、この色」
「は?」
また着眼点ずれてる。
「あんたってホントずれてるな。この状況で気になるのはそこかよ」
呆れたような声を出せば、アオはにっこりと笑って手のひらを上にして原田に差し出した。
「ごめんね、とっさに台布巾でなくて。タオル洗っておくよ」
「え? いいよ別に。これないと困るし」
部活は汗をかくのだ、そらーもう半端なく。夏場の体育館をなめちゃいけない。タオルがないのはいただけない。
それに、ここははっきり言っておいた方がいいだろう。日みたいに、心配するのは俺が嫌だし。
俺が毎日来ると思うなよ! だからちゃんと自分の体調を管理しろ!
なんとなく言うのに戸惑いがあったけど、これもアオの為と口を開く。
「あんたに会うの面倒だし」
そう告げれば、少しだけ驚いたように目がまん丸くなる。ここまで言えば、一日中外にいるとかしないだろう。
「……まぁ、そういう事だから」
罪悪感を感じない振りをして目を逸らすと、鞄にしまおうとしたタオルを横から掻っ攫われた。代わりに真白いタオルが手に乗せられる。
「洗ったら庭先に干しておくから」
勢いでそれを受け取ってから、無意識にアオを見れば。ほわりとした笑顔が、そこにあった。
「うん。勝手に持って行ってね」
そうすれば私に会わなくていいでしょ? と言外に含まれて……少し複雑な気持ちがしたのは気のせいだと思いたい。
なんとなく寂しいと感じたのは、絶対気の所為だ! うん。
「なんだ、またおねーさんのところに寄ってきたのか?」
「うるせーなっ!」
遅刻ギリギリになったのは、確実アオの所為だけどな!
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