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8日目~11日目 原田視点
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もやもやしながら部活に出た原田は、とりあえずアオの食事の概念を変えさせなきゃいけないと思い至った。
自分がアオから解放されるには、それが一番だ!
きっと可哀想な子だから、自分で言うのもなんだけれど世話焼きの性格が放っておけないだけなんだと、懸命に言い聞かせながら。
あえて言うならそう考えている時点ですでに頭から離れないくらいアオの事を考えているという事なんだけど、今の原田にはそこまで考えが至らなかった。
「……最中、ねぇ」
美味そうに懐中最中を食べていた姿が、脳裏に浮かぶ。
甘いものを飯だと認識している時点で間違ってるんだが、それをどうやって気づかせるか。怒っても言い聞かせてもわからない、年上には見えない外見……いや内面も詐欺のアオに。さすがに毎日飯を差し入れするわけにはいかない。
昨日の事もあって今日は持って行ったが、毎日続くだけの金がない。
バイトする時間も今はねぇし……。
通っている高校も家の方針もバイト禁止ではなかったが、バレーボール部という体育会系な部活に所属している原田にはそんな時間を取る事は難しいのだ。
一番稼げるのは長期休暇なのだろうけれど、ほとんど部活でつぶれているのが現状。それでも冬休みや春休みを利用して稼いだバイト代を、なんとかやり繰りしているのだ。
親に一言いえば、ここ数日飯を食わせてもらっていたアオの為に幾ばくかの援助はしてもらえるだろう。
現に、母親は菓子折りでも持っていかないと……と言っていた。
全力で阻止したが。
現状を言えば、朝食代くらい出してくれるかもしれない……。
「いや駄目だ」
それは自分の矜持が許さない。アオの為にする事に、他人の手を借りるのは……
「ん……?」
はたと、思考を止める。
今、俺何考えた?
記憶を巻き戻して同じ言葉をつぶやいた途端、原田は驚愕の声を上げた。
「はぁっ?」
なんで俺が、アオの為にこんなこと考えなきゃなんねーんだよ!
そうだ、パンだから金がかかるんだ! 明日はコンビニでおにぎりでも買えば、そんなに金はかからないはず! そうすれば、他人の力は借りない……
「違う! 突っ込みどころはそこじゃなくて!」
思わず拳を握りしめた所で、背中を景気よく叩かれて前に突っ伏した。
「いてぇっ」
なんとか顔面着地だけは免れた原田が頭を上げると、そこには部員達の姿。
何事? と、ぐるりと視線を巡らせれば、ほとんどの部員達が周りに立って原田を覗き込んでいた。
来ていないのは、一年生くらいだ。
とたん、どすんと背中を押さえられて再び上体が床と仲良しになる。
「何すんだよ、佐々木!」
かろうじて顔を逸らして上にいるのだろう奴に、目を向けた。
「何すんだじゃねーだろ。突っ込みどころしかない原田」
案の定、佐々木が背中に足をのせているのが見える。けれどどかせというには、周囲の雰囲気がそれを許さなかった。
微妙な、空気。
少なくとも辻が佐々木の行動を止めていないという事は、俺に非があるのか?
周りの空気で少し冷静になってきた原田は、助けを求めるように副部長である辻を探して見上げた。
「怖いよ、原田」
「……は?」
辻は苦笑いのまま、俺を見ている。
「朝から何を考えてるの。ずーっと眉間に皺よせてだんまりのままやってるかと思えば、いきなり叫ぶし」
え、何?
「喋ってなかったっけ?」
あれ? そういえば、俺、アオの家を出てから誰かと話したっけ?
言われてみればずっと自分がだまったままだった事に今更気が付いて、二重の意味で愕然とした。
最後の大会に向けて集中しなきゃいけない時に、他の事で頭がいっぱいだった事。
何よりも、その他の事がアオの事だってことだ!
「違う! 違うんだ、俺はっ!」
「はい、違くない違くなーい。悶え苦しむのは休憩中のみでお願いしまっす」
いつの間にか背中から足をどけていた佐々木が、さっきとは打って変わった茶化すような笑みを浮かべて体育館の出口へと歩き出した。
「はい休憩~♪ 皆、原田の威圧光線にやられただろうから、延長含めて三十分なー」
そう部員たちに指示すると、そのまま体育館から出て行ってしまう。原田は一瞬呆けた意識を切り替えると、その後ろを追った。
集中しなければならない時に、していなかったのは自分。
それは謝罪するべき事だから。
自分がアオから解放されるには、それが一番だ!
きっと可哀想な子だから、自分で言うのもなんだけれど世話焼きの性格が放っておけないだけなんだと、懸命に言い聞かせながら。
あえて言うならそう考えている時点ですでに頭から離れないくらいアオの事を考えているという事なんだけど、今の原田にはそこまで考えが至らなかった。
「……最中、ねぇ」
美味そうに懐中最中を食べていた姿が、脳裏に浮かぶ。
甘いものを飯だと認識している時点で間違ってるんだが、それをどうやって気づかせるか。怒っても言い聞かせてもわからない、年上には見えない外見……いや内面も詐欺のアオに。さすがに毎日飯を差し入れするわけにはいかない。
昨日の事もあって今日は持って行ったが、毎日続くだけの金がない。
バイトする時間も今はねぇし……。
通っている高校も家の方針もバイト禁止ではなかったが、バレーボール部という体育会系な部活に所属している原田にはそんな時間を取る事は難しいのだ。
一番稼げるのは長期休暇なのだろうけれど、ほとんど部活でつぶれているのが現状。それでも冬休みや春休みを利用して稼いだバイト代を、なんとかやり繰りしているのだ。
親に一言いえば、ここ数日飯を食わせてもらっていたアオの為に幾ばくかの援助はしてもらえるだろう。
現に、母親は菓子折りでも持っていかないと……と言っていた。
全力で阻止したが。
現状を言えば、朝食代くらい出してくれるかもしれない……。
「いや駄目だ」
それは自分の矜持が許さない。アオの為にする事に、他人の手を借りるのは……
「ん……?」
はたと、思考を止める。
今、俺何考えた?
記憶を巻き戻して同じ言葉をつぶやいた途端、原田は驚愕の声を上げた。
「はぁっ?」
なんで俺が、アオの為にこんなこと考えなきゃなんねーんだよ!
そうだ、パンだから金がかかるんだ! 明日はコンビニでおにぎりでも買えば、そんなに金はかからないはず! そうすれば、他人の力は借りない……
「違う! 突っ込みどころはそこじゃなくて!」
思わず拳を握りしめた所で、背中を景気よく叩かれて前に突っ伏した。
「いてぇっ」
なんとか顔面着地だけは免れた原田が頭を上げると、そこには部員達の姿。
何事? と、ぐるりと視線を巡らせれば、ほとんどの部員達が周りに立って原田を覗き込んでいた。
来ていないのは、一年生くらいだ。
とたん、どすんと背中を押さえられて再び上体が床と仲良しになる。
「何すんだよ、佐々木!」
かろうじて顔を逸らして上にいるのだろう奴に、目を向けた。
「何すんだじゃねーだろ。突っ込みどころしかない原田」
案の定、佐々木が背中に足をのせているのが見える。けれどどかせというには、周囲の雰囲気がそれを許さなかった。
微妙な、空気。
少なくとも辻が佐々木の行動を止めていないという事は、俺に非があるのか?
周りの空気で少し冷静になってきた原田は、助けを求めるように副部長である辻を探して見上げた。
「怖いよ、原田」
「……は?」
辻は苦笑いのまま、俺を見ている。
「朝から何を考えてるの。ずーっと眉間に皺よせてだんまりのままやってるかと思えば、いきなり叫ぶし」
え、何?
「喋ってなかったっけ?」
あれ? そういえば、俺、アオの家を出てから誰かと話したっけ?
言われてみればずっと自分がだまったままだった事に今更気が付いて、二重の意味で愕然とした。
最後の大会に向けて集中しなきゃいけない時に、他の事で頭がいっぱいだった事。
何よりも、その他の事がアオの事だってことだ!
「違う! 違うんだ、俺はっ!」
「はい、違くない違くなーい。悶え苦しむのは休憩中のみでお願いしまっす」
いつの間にか背中から足をどけていた佐々木が、さっきとは打って変わった茶化すような笑みを浮かべて体育館の出口へと歩き出した。
「はい休憩~♪ 皆、原田の威圧光線にやられただろうから、延長含めて三十分なー」
そう部員たちに指示すると、そのまま体育館から出て行ってしまう。原田は一瞬呆けた意識を切り替えると、その後ろを追った。
集中しなければならない時に、していなかったのは自分。
それは謝罪するべき事だから。
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