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「桜子……の?」
思ってもみなかった言葉に、蓮は戸惑った。
葉月の目を見れば、嘘を言っているようには思えない。けれどそれは自分の願望が、そう見せているだけなのかとも思えてしまう。
「そう、桜子さんの」
「なら、なぜ葉月が持ってる?」
言い逃れは許さない。
そう力を込めて葉月を見れば、葉月はまるで子供を見るように微笑んで蓮の頬に掌を添わせた。
「桜子さんに、プロポーズをしたいそうよ。加藤さん」
「それと、その指輪を葉月に渡すのと何の関係があるんだよ」
間を開けずに問い返せば、葉月はその指輪に視線を落とした。
「ほら、加藤さんって……あまり強気じゃないでしょ?」
「へたれだな」
即答すれば、葉月は困ったように笑う。
「桜子さんとの付き合いも、彼女が主導権を握っている方が多いらしくてね。せめて、プロポーズだけは、格好良く決めたいって」
「……かっこよく……、ね」
そこまで言われて、やっと蓮も理解できてきた。
「でも、桜子さんの指輪のサイズを知らないらしくて。それとなく買い物の時とかに探ってるらしいんだけど、”貧乏人から金は巻き上げない”って一刀両断」
桜子らしい、気の遣い方だ。
いくら仕事のできる編集者と言えど、人気絶頂にいる桜子の収入より多いわけがない。多分彼女は、それを気にして断ってるのだろう。
男として、かなりプライドを傷つけられる断り方だが。
「だから、この三つの指輪を私のってことにして、左の薬指のサイズを確認して欲しいって言われたのよ」
「なら、なんで断ってたんだよ。おかしいじゃないか、あんな会話」
「あんな会話?」
蓮と桜子がリビングに入ろうとしていた時に、聞こえてきた会話。それを葉月に言えば、理解したという風に頷いた。
「そっか。あれを聞かれてたのね。だからこの状況、か」
困ったように自分の体勢を確認する葉月の背中に腕をまわして、ぐいっと抱き起した。ソファの背もたれに凭れかかった葉月は、ありがと、と小さく礼を伝えてくる。
「桜子さんにサイズを測ってるってばれないように、さりげなくとか言われて」
「あー、無理だなきっと。桜子はあんなんだけど、洞察力と推理力は長けているから」
「だよね? でもそれ以上にもっと難題があって」
「難題?」
それは何だい? とかくだらない事を言いだしそうになって、蓮は口を噤んだ。
とりあえず葉月が加藤とどうこうなってるってわけじゃないことに安堵した蓮にとって、加藤のプロポーズなんてどうでもいい方に仕分けされている。
葉月は少し上目づかいに蓮を窺ってから、小さく溜息を零した。
「蓮にばれないようにやって欲しいって、言われたのよ」
「俺に?」
なんで。
別に桜子がどこに嫁に行こうが、へたれがへたれ的にプロポーズを敢行しようが俺には関係ないけど。
意味が分からない加藤の条件に首を傾げる蓮に、葉月は小さく息を吐き出した。
「ねぇ、蓮。約束して欲しい事があるんだけど」
いきなり話が変わったことに驚きながらも、約束? と問い返す。
「昨年、加藤さん達の事お話にして書いたでしょう? あんな事、絶対しないって」
「あー? そんな事もあったな」
そういえば。
バレンタインの時の腹いせに、桜子と加藤をモデルにした恋愛小説をかいて加藤の会社から出版してやった。
当然だろう。
俺のプロポーズを邪魔しやがったんだから。
復讐するは我にありってな。
「……本?」
そこまで考えて、一瞬にして理解した。
「あー、なるほどね。なるほど」
思わず独りごちる。
「蓮?」
「そんな楽しい計画を俺が知ったら、また小説にされると思ったわけか。へたれ加藤は」
ぐっと押し黙った葉月の頬を、ゆっくりと指先で撫で上げる。
「で、葉月は俺にばれないようになんて出来ないから断ったわけ」
「……そう。だから、蓮にお願いしてって言ったの。だって桜子さんと二人で会う事なんて無いもの。絶対に蓮がいるでしょ? そんなところで私がおかしな行動してたら……」
蓮が怒ると思ったし、そう葉月は小さく呟いた。
「あぁ、俺を怒らせるとどうなるかわかってるもんねぇ。葉月は」
「……」
「昨年のバレンタインで、よく理解してるよねぇ」
「っ、だから私断って……!」
「でも、すでに俺を怒らせたよ?」
とんっと肩を押して、葉月の上体をソファに押し付ける。
「え、ちょっと待って……? 誤解、解けたよね……?」
驚いたように見上げる葉月に、目を細めて笑い返す。
「解けたとしても、さっき俺に抱かせた感情が簡単に消えると思っちゃいけないな。そんな事、葉月もとっくにわかってるだろう?」
口端を上げて微笑む蓮は、その後、昨年のバレンタインの夜を再現してくれやがりました。
「加藤さんに巻き込まれた!!」
思わず叫んだ葉月のその言葉に余計妬心を擽られた蓮によって、その再現は何倍にも増幅された……みたいです←書き手の説明
あーあ
思ってもみなかった言葉に、蓮は戸惑った。
葉月の目を見れば、嘘を言っているようには思えない。けれどそれは自分の願望が、そう見せているだけなのかとも思えてしまう。
「そう、桜子さんの」
「なら、なぜ葉月が持ってる?」
言い逃れは許さない。
そう力を込めて葉月を見れば、葉月はまるで子供を見るように微笑んで蓮の頬に掌を添わせた。
「桜子さんに、プロポーズをしたいそうよ。加藤さん」
「それと、その指輪を葉月に渡すのと何の関係があるんだよ」
間を開けずに問い返せば、葉月はその指輪に視線を落とした。
「ほら、加藤さんって……あまり強気じゃないでしょ?」
「へたれだな」
即答すれば、葉月は困ったように笑う。
「桜子さんとの付き合いも、彼女が主導権を握っている方が多いらしくてね。せめて、プロポーズだけは、格好良く決めたいって」
「……かっこよく……、ね」
そこまで言われて、やっと蓮も理解できてきた。
「でも、桜子さんの指輪のサイズを知らないらしくて。それとなく買い物の時とかに探ってるらしいんだけど、”貧乏人から金は巻き上げない”って一刀両断」
桜子らしい、気の遣い方だ。
いくら仕事のできる編集者と言えど、人気絶頂にいる桜子の収入より多いわけがない。多分彼女は、それを気にして断ってるのだろう。
男として、かなりプライドを傷つけられる断り方だが。
「だから、この三つの指輪を私のってことにして、左の薬指のサイズを確認して欲しいって言われたのよ」
「なら、なんで断ってたんだよ。おかしいじゃないか、あんな会話」
「あんな会話?」
蓮と桜子がリビングに入ろうとしていた時に、聞こえてきた会話。それを葉月に言えば、理解したという風に頷いた。
「そっか。あれを聞かれてたのね。だからこの状況、か」
困ったように自分の体勢を確認する葉月の背中に腕をまわして、ぐいっと抱き起した。ソファの背もたれに凭れかかった葉月は、ありがと、と小さく礼を伝えてくる。
「桜子さんにサイズを測ってるってばれないように、さりげなくとか言われて」
「あー、無理だなきっと。桜子はあんなんだけど、洞察力と推理力は長けているから」
「だよね? でもそれ以上にもっと難題があって」
「難題?」
それは何だい? とかくだらない事を言いだしそうになって、蓮は口を噤んだ。
とりあえず葉月が加藤とどうこうなってるってわけじゃないことに安堵した蓮にとって、加藤のプロポーズなんてどうでもいい方に仕分けされている。
葉月は少し上目づかいに蓮を窺ってから、小さく溜息を零した。
「蓮にばれないようにやって欲しいって、言われたのよ」
「俺に?」
なんで。
別に桜子がどこに嫁に行こうが、へたれがへたれ的にプロポーズを敢行しようが俺には関係ないけど。
意味が分からない加藤の条件に首を傾げる蓮に、葉月は小さく息を吐き出した。
「ねぇ、蓮。約束して欲しい事があるんだけど」
いきなり話が変わったことに驚きながらも、約束? と問い返す。
「昨年、加藤さん達の事お話にして書いたでしょう? あんな事、絶対しないって」
「あー? そんな事もあったな」
そういえば。
バレンタインの時の腹いせに、桜子と加藤をモデルにした恋愛小説をかいて加藤の会社から出版してやった。
当然だろう。
俺のプロポーズを邪魔しやがったんだから。
復讐するは我にありってな。
「……本?」
そこまで考えて、一瞬にして理解した。
「あー、なるほどね。なるほど」
思わず独りごちる。
「蓮?」
「そんな楽しい計画を俺が知ったら、また小説にされると思ったわけか。へたれ加藤は」
ぐっと押し黙った葉月の頬を、ゆっくりと指先で撫で上げる。
「で、葉月は俺にばれないようになんて出来ないから断ったわけ」
「……そう。だから、蓮にお願いしてって言ったの。だって桜子さんと二人で会う事なんて無いもの。絶対に蓮がいるでしょ? そんなところで私がおかしな行動してたら……」
蓮が怒ると思ったし、そう葉月は小さく呟いた。
「あぁ、俺を怒らせるとどうなるかわかってるもんねぇ。葉月は」
「……」
「昨年のバレンタインで、よく理解してるよねぇ」
「っ、だから私断って……!」
「でも、すでに俺を怒らせたよ?」
とんっと肩を押して、葉月の上体をソファに押し付ける。
「え、ちょっと待って……? 誤解、解けたよね……?」
驚いたように見上げる葉月に、目を細めて笑い返す。
「解けたとしても、さっき俺に抱かせた感情が簡単に消えると思っちゃいけないな。そんな事、葉月もとっくにわかってるだろう?」
口端を上げて微笑む蓮は、その後、昨年のバレンタインの夜を再現してくれやがりました。
「加藤さんに巻き込まれた!!」
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