醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ

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うらやましさと美しい手

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「あ、これも礼拝堂れいはいどうにって言われてたな」

 赤毛の男性は大きな花束を木箱から取り出すと、不味いという顔をしながら言った。

「私が持っていきますよ」

 赤毛の男性は、今いる食糧庫から礼拝堂に、他にも荷物を持っていく。だから荷の整理をしていたけれど、手伝えるならばと申し出た。
 赤毛の男性は嬉しそうに笑った。

「悪いね」

 赤毛の男性はそう言いながら、大きな花束を渡してきた。私はなんとか両手で抱えながら、礼拝堂に向かって歩いた。
 祭壇の右後ろの扉から、静かな礼拝堂に入る。すると、正面の入り口の近くで、楽しそうに話をしている、アンスガーとベルタがいた。
 嬉しそうに微笑むベルタは美しく、心から羨ましいと思った。ベルタならば何もおくすることなく、アンスガーの隣に並ぶことができるだろう。
 私の胸はじくじくとまた痛みだした。

「あの2人、本当にお似合いだよなあ」

 後ろから荷物を持って続いてきた赤毛の男性が、小さな声で言った。私ははっとして後ろを振り返った。

「ええ……とても」

 小さく答えると前方にある祭壇に視線を移した。そして近寄ると、そっと花束を置いた。実際、あの2人はとてもお似合いだ。
 私は目の前にある、美しい大きな花束を見る。アンスガーとベルタはこの花束みたいだ。美しくて華やかで、そこにいるだけで価値がある。
 あの2人が花束ならば、私は一体なんだろうか。見ているだけで不快にさせる存在は、道端に落ちている石ころ以下だろう。
 自嘲気味に小さく笑うと、スカートの袖を誰かに引っ張られた。

「おねえさん、しらないひとだ」

 かけられた幼い声に、驚いて下を向いた。痩せた女の子が、私をじっと見上げていた。

「ほんとだあ……」
「だあれ?」

 あと2人、小さな男の子と女の子もいた。2人も質素な服を着て痩せている。

「お、敷地内にある孤児院の子達だ」

 赤毛の男性は荷物を置き、笑いながら言った。そして小さな男の子をひょいと抱き上げる。

「おねえさん、えほんをよめる?」

 最初に声をかけてきた女の子が、ぼろぼろの絵本を持って聞いてきた。

「待ってろ、今日は絵本も何冊か持ってきたんだ。今とってくるよ」

 赤毛の男性は小さな男の子をつれたまま、元来た扉に向かっていった。

「ごめんなさい! こら、いきなり話しかけちゃびっくりするでしょう」

 いつの間にかアンスガーとベルタが近くまで来ていた。アンスガーは微笑を浮かべ、ベルタは困ったように笑っている。

「いいの……気にしないで。ただ近くに子供がいなかったから、なれてなくて……」

 私が言うとベルタは目を見開いた。
 そんな姿を横目に見ながら、私は女の子の目の前に屈んだ。そっと絵本を受けると、中を見てみる。この国の共通語で書かれており読むことはできる。

「読んであげてくれないかな」

 アンスガーの言葉に、私は視線を上げた。アンスガーは優しく微笑んでいて、勇気をもらった私は一つ頷くと、女の子に向き合った。

「下手だけど、良いかな?」

 女の子は嬉しそうに笑ってくれた。
 私が礼拝堂の硬い長椅子に座ると、二人の女の子は素早く隣に座った。

「じにゆびをさしてほしいの」

 女の子の申し出に頷くと、私は絵本の文字の下に指を置いた。

「わあ、きれいなゆび」
「おきぞくさまみたいだね」

 両脇の女の子は、可愛らしい声で言った。私は驚いて2人を交互に見てしまう。
 女の子達は私の顔をじっと見ると、満面の笑みを浮かべた。

「おはだもきれいだね」
「かみも! つやつやしてる」

 女の子達の褒め言葉に、なれない私は、頬を赤くしてしまう。

「そ、そんな……私なんて」

 思わず本気で照れてしまい、顔の火傷に手を当てた。それを見た最初に声をかけてきた女の子は、笑いながら、おもむろに上半身の服をめくった。

「わたしもあとがあるんだ」

 女の子のお腹にはひどい火傷の跡があった。私はなにも言えなくて、目を見開いたまま、固まってしまった。

「これはね……おうちがもえたときについたの。おかあさんとふたりだったんだけど……おうちがたおれてきたときに、おかあさんがぎゅうっとしてくれたんだ! だからこれだけですんだの!」

 そこまで元気に言っていた女の子は、急にぽろぽろと涙を流し始めた。

「でもおかあさんは、いなくなっちゃったの。わたしのせいなの」

 私は胸が締め付けられて、女の子の痩せている手を握った。もう1人の女の子も心配そうに見ている。

「ゼルマ……」

 近くにいたベルタが、女の子の名前を呼び、ぎゅっと抱き締めた。私はそんなベルタの美しい横顔を、神妙な表情で見ることしかできない。
 そして近くで見るベルタの髪は痛み、指もあかぎれができ、皮がめくれていることに気づいた。私はそっと視線を反らす。すると女の子の手を握っている自分の指が見えた。
 白くつるつるとしていて、たしかに、何も知らない美しい手だった。
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