9 / 24
うらやましさと美しい手
しおりを挟む「あ、これも礼拝堂にって言われてたな」
赤毛の男性は大きな花束を木箱から取り出すと、不味いという顔をしながら言った。
「私が持っていきますよ」
赤毛の男性は、今いる食糧庫から礼拝堂に、他にも荷物を持っていく。だから荷の整理をしていたけれど、手伝えるならばと申し出た。
赤毛の男性は嬉しそうに笑った。
「悪いね」
赤毛の男性はそう言いながら、大きな花束を渡してきた。私はなんとか両手で抱えながら、礼拝堂に向かって歩いた。
祭壇の右後ろの扉から、静かな礼拝堂に入る。すると、正面の入り口の近くで、楽しそうに話をしている、アンスガーとベルタがいた。
嬉しそうに微笑むベルタは美しく、心から羨ましいと思った。ベルタならば何もおくすることなく、アンスガーの隣に並ぶことができるだろう。
私の胸はじくじくとまた痛みだした。
「あの2人、本当にお似合いだよなあ」
後ろから荷物を持って続いてきた赤毛の男性が、小さな声で言った。私ははっとして後ろを振り返った。
「ええ……とても」
小さく答えると前方にある祭壇に視線を移した。そして近寄ると、そっと花束を置いた。実際、あの2人はとてもお似合いだ。
私は目の前にある、美しい大きな花束を見る。アンスガーとベルタはこの花束みたいだ。美しくて華やかで、そこにいるだけで価値がある。
あの2人が花束ならば、私は一体なんだろうか。見ているだけで不快にさせる存在は、道端に落ちている石ころ以下だろう。
自嘲気味に小さく笑うと、スカートの袖を誰かに引っ張られた。
「おねえさん、しらないひとだ」
かけられた幼い声に、驚いて下を向いた。痩せた女の子が、私をじっと見上げていた。
「ほんとだあ……」
「だあれ?」
あと2人、小さな男の子と女の子もいた。2人も質素な服を着て痩せている。
「お、敷地内にある孤児院の子達だ」
赤毛の男性は荷物を置き、笑いながら言った。そして小さな男の子をひょいと抱き上げる。
「おねえさん、えほんをよめる?」
最初に声をかけてきた女の子が、ぼろぼろの絵本を持って聞いてきた。
「待ってろ、今日は絵本も何冊か持ってきたんだ。今とってくるよ」
赤毛の男性は小さな男の子をつれたまま、元来た扉に向かっていった。
「ごめんなさい! こら、いきなり話しかけちゃびっくりするでしょう」
いつの間にかアンスガーとベルタが近くまで来ていた。アンスガーは微笑を浮かべ、ベルタは困ったように笑っている。
「いいの……気にしないで。ただ近くに子供がいなかったから、なれてなくて……」
私が言うとベルタは目を見開いた。
そんな姿を横目に見ながら、私は女の子の目の前に屈んだ。そっと絵本を受けると、中を見てみる。この国の共通語で書かれており読むことはできる。
「読んであげてくれないかな」
アンスガーの言葉に、私は視線を上げた。アンスガーは優しく微笑んでいて、勇気をもらった私は一つ頷くと、女の子に向き合った。
「下手だけど、良いかな?」
女の子は嬉しそうに笑ってくれた。
私が礼拝堂の硬い長椅子に座ると、二人の女の子は素早く隣に座った。
「じにゆびをさしてほしいの」
女の子の申し出に頷くと、私は絵本の文字の下に指を置いた。
「わあ、きれいなゆび」
「おきぞくさまみたいだね」
両脇の女の子は、可愛らしい声で言った。私は驚いて2人を交互に見てしまう。
女の子達は私の顔をじっと見ると、満面の笑みを浮かべた。
「おはだもきれいだね」
「かみも! つやつやしてる」
女の子達の褒め言葉に、なれない私は、頬を赤くしてしまう。
「そ、そんな……私なんて」
思わず本気で照れてしまい、顔の火傷に手を当てた。それを見た最初に声をかけてきた女の子は、笑いながら、おもむろに上半身の服をめくった。
「わたしもあとがあるんだ」
女の子のお腹にはひどい火傷の跡があった。私はなにも言えなくて、目を見開いたまま、固まってしまった。
「これはね……おうちがもえたときについたの。おかあさんとふたりだったんだけど……おうちがたおれてきたときに、おかあさんがぎゅうっとしてくれたんだ! だからこれだけですんだの!」
そこまで元気に言っていた女の子は、急にぽろぽろと涙を流し始めた。
「でもおかあさんは、いなくなっちゃったの。わたしのせいなの」
私は胸が締め付けられて、女の子の痩せている手を握った。もう1人の女の子も心配そうに見ている。
「ゼルマ……」
近くにいたベルタが、女の子の名前を呼び、ぎゅっと抱き締めた。私はそんなベルタの美しい横顔を、神妙な表情で見ることしかできない。
そして近くで見るベルタの髪は痛み、指もあかぎれができ、皮がめくれていることに気づいた。私はそっと視線を反らす。すると女の子の手を握っている自分の指が見えた。
白くつるつるとしていて、たしかに、何も知らない美しい手だった。
64
あなたにおすすめの小説
報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?
小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。
しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。
突然の失恋に、落ち込むペルラ。
そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。
「俺は、放っておけないから来たのです」
初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて――
ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。
どうせ愛されない子なので、呪われた婚約者のために命を使ってみようと思います
下菊みこと
恋愛
愛されずに育った少女が、唯一優しくしてくれた婚約者のために自分の命をかけて呪いを解こうとするお話。
ご都合主義のハッピーエンドのSS。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?
江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。
大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて……
さっくり読める短編です。
異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。
行き遅れ令嬢の婚約者は王子様!?案の定、妹が寄越せと言ってきました。はあ?(゚Д゚)
リオール
恋愛
父の代わりに公爵家の影となって支え続けてるアデラは、恋愛をしてる暇もなかった。その結果、18歳になっても未だ結婚の「け」の字もなく。婚約者さえも居ない日々を送っていた。
そんなある日。参加した夜会にて彼と出会ったのだ。
運命の出会い。初恋。
そんな彼が、実は王子様だと分かって──!?
え、私と婚約!?行き遅れ同士仲良くしようって……えええ、本気ですか!?
──と驚いたけど、なんやかんやで溺愛されてます。
そうして幸せな日々を送ってたら、やって来ましたよ妹が。父親に甘やかされ、好き放題我が儘し放題で生きてきた妹は私に言うのだった。
婚約者を譲れ?可愛い自分の方がお似合いだ?
・・・はああああ!?(゚Д゚)
===========
全37話、執筆済み。
五万字越えてしまったのですが、1話1話は短いので短編としておきます。
最初はギャグ多め。だんだんシリアスです。
18歳で行き遅れ?と思われるかも知れませんが、そういう世界観なので。深く考えないでください(^_^;)
感想欄はオープンにしてますが、多忙につきお返事できません。ご容赦ください<(_ _)>
【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。
BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。
男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。
いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。
私はドレスですが、同級生の平民でした。
困ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる