醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ

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それぞれの生い立ちと決意

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「あれ、お嬢ちゃんだ。珍しいね」

 蔵の中にある椅子とテーブルに座っている、赤毛の男性が手を上げながら声をかけてきた。隣には寡黙な男性もいる。
 まだ陽は高いが休憩の時間なのだろう。

「ええ、夕方に運ばないといけない荷ができたとかで……」

 近寄りながら運び出す荷が書かれた紙を渡すと、赤毛の男性は手を伸ばして受け取った。しかし複雑な表情をしている。

「上に渡しておくよ」
「ありがとうございます」

 私はお礼を言うと、元来た道を帰ろうとした。

「ああ、お嬢ちゃん! 一緒にお茶でもどう?」

 赤毛の男性は言いながら、湯釜ゆがまかかげている。隣の寡黙な男性も頷いた。
 少し迷ったが、進められるがまま、空いている席に座った。

「この間はありがとうね」

 私が席に着くと、お茶を出しながら赤毛の男性は言った。なんのことか分からずに、カップを両手で持ちながら、首を傾げてしまう。

「ほら、教会に行って、子供たちの相手をしてくれただろう」

 私は火傷痕の酷い女の子、ゼルマの涙を思い出して、暗い気持ちになった。
 あの後、泣き止んだゼルマに言われるがまま、絵本を読み、一緒にごっご遊びなどをした。辛いことを話してくれたゼルマに対する対応は、あれでよかったのだろうか、と実は悩んでいた。
 だから他人にお礼を言われると、少し救われた気がした。
 私が頷くと赤毛の男性は話を続けた。

「俺もあの孤児院に少しいたんだ。すぐにここに下働きとしてきたから、1年もいなかったんだけどな。だから身内意識があってさ」

 赤毛の男性の言葉に、驚いて目を見開いた。だから赤毛の男性は教会への寄付活動に参加していたのだろうか。

「10の頃に作物が全然育たないときがあってさ。それで口減らしに捨てられたんだ。お前もだよな」

 赤毛の男性は明るい声で言うと、隣の寡黙な男性を見た。寡黙な男性も頷いている。

「そう……だったのですね」

 衝撃の事実に私が戸惑いながら返事をすると、赤毛の男性は慌てた様に口を開いた。

「あ、ごめん、いきなりこんな話をして……でもさ、女児だと労働力にならないから、産まれた瞬間に……とも良く聞くじゃん。だから10まで生きられただけでも、痛えっ」

 赤毛の男性は突然叫ぶと、寡黙な男性を涙目で見た。寡黙な男性は赤毛の男性を睨んでいる。

「あ……ご、ごめん。女の子を下にみているとかじゃないんだけど……」
「いえ、気にしないでください」

 慌てた様子の赤毛の男性の言葉に首を振った。寡黙な男性に睨まれたままの赤毛の男性は、肩を落としている。
 私は苦笑いをしていたが、自分と違う世界の当たり前の話に、胸は苦しかった。



「元気がないね」

 アンスガーが心配そうな声で言ったので、私は慌てて顔を上げた。
 久しぶりにアンスガーと2人で食事をとっている時に、思考にふけっていたのは失礼だった。

「ご、ごめんさい……少し思うことがあって」

 アンスガーはカトラリーを置くと、そっと私の手に触れてきた。私はびっくりして、フォークを持つ手に置かれている、長くて美しいアンスガーの指を凝視してしまう。

「悩みがあるなら、話した方が楽になれるかもしれない」

 アンスガーの言葉に、そっと視線を戻し、整った顔を見る。ダークグリーンの瞳が、心配そうに揺れていた。
 私はフォークを置いて、アンスガーの顔をじっと見た。そしてゆっくりと口を開いた。

「私は最初……この屋敷に来たとき、なぜ路地裏にいたのかを話せなかった。それは……恥ずかしかったからなの」

 アンスガーは目を見開いた。
 私は気持ちを口に出して、改めて恥ずかしくなった。

「けれどゼルマや商会の雇い人の生い立ちを聞いて……私の受けた屈辱は客観的にどれほどなのだろうかと思った」

 アンスガーの瞳は徐々に冷静になる。

「君は小さい頃からとても傷ついていたよ」

 アンスガーの優しい言葉に、私の胸は嬉しさと切なさで苦しくなった。

「ええ……けれど私は、自分が一番、世界で不幸だとさえ思っていた。私の世界は狭くて、そして自分より幸せな人しか、真剣に見ていなかった。自分より不幸な人のことを見て、あの人よりましだ、と考えることは浅ましいと思っていたの」

 私は一つ息を吐くと、テーブルの上の食事に視線を移した。
 食事さえまともに取れない人がいる、ということを、わかってはいても、身近に感じたことはなかった。

「……でも私の不幸を思ったときに、それでも食べることも、殺されることもなかったでしょう、ともう1人の自分が問いかけるようになった」

 繋いだままの私の手を、アンスガーは強く握った。

「辛いことは人それぞれだと思うよ。だから誰かと比べるものじゃない。置かれた立場も違うしね」
「ええ……ありがとう」

 私はアンスガーの手を強く握り返した。

「でも人の話を聞いて、辛いのは自分だけじゃないと思った。みんなも何かしら辛さを抱えているんじゃないか、と考えたの。自分だけじゃないと思って、そしたら少しだけ、自分の不幸を客観的に見れるようになった気がする」

 私はアンスガーの瞳を真剣に見つめる。

「あの日、路地裏にいた理由を聞いてくれる?」

 私の問いに、同じく真剣な瞳で、アンスガーは頷いてくれた。
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