醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ

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醜い顔と美しい顔

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「お、お姉さまなの……?」

 両親と同じように驚いた顔をしたゾフィーナが言った。

「は? まさか……」

 ブルクハルトきょうも呆けた顔をして私を見ている。そんなブルクハルト卿の姿を見て、ゾフィーナは眉を寄せた。そして私をぎろりと睨みつける。

「そんな厚塗りをして……みっともないわ」

 ぱっと見は母やゾフィーナの方が派手な化粧をしているが、確かに火傷痕は他よりおしろいを厚くしている。みっともないと感じるほどに差異があったのだろうか。思わず頬に手を当てた。

「大丈夫だよ」

 私の耳のそばに唇を寄せたアンスガーが、小さな声で優しく言ってくれた。なぜか恥ずかしくて、頬を赤くしてしまう。顔を離してアンスガーを見ると、とびきりの笑顔で微笑んでいた。
 あまりに素敵で心臓が激しくなった。

「……なによ」

 ゾフィーナの低い声に慌てて顔を戻した。氷のような無表情で私を見ている。隣に立っているブルクハルト卿も面白くなさそうな顔をしていた。

「ブルクハルト卿……公爵家に借金があると……本当ですか」

 私たちのやり取りなど気にしていなかった父は、ゆらりと立ち上がりながら言った。うつろな瞳にはブルクハルト卿しか映っていない。
 ブルクハルト卿ははっとした顔をして1歩後ろに下がった。

「なんのお話か……」

 血走った眼の父はゆっくりとブルクハルト卿に近づく。

「婿にして当主とさせるから、持参金も貰うはずだったのに……なんやかんやのばされて……」

 ただならぬ父の様子に、ブルクハルト卿は後退を続けるが、背中に扉が当たり止まる。間近まで来た父は、ブルクハルト卿の肩を掴んだ。

「お父様、何を言っているの? ブルクハルトの家は歴史が古い、立派な公爵家で……そんな家から婿を取れた私を、お姉さまより優れていると、何ども褒めてくれたじゃない……」

 必死な顔をしたゾフィーナは、父の腕を掴み、ブルクハルト卿から離そうとした。そんなゾフィーナの姿に、もしかして公爵家に借金があることを薄々気づいていたのではないか、と思った。

「うるさい! お前のせいでこうなったのだ!」

 叫んだ父はゾフィーナの手を乱暴にはがした。ゾフィーナははずみで扉に肩をぶつけ、痛そうな顔をする。しかしすぐに父を睨み、次に私に視線を移した。
 そしてつかつかと音を立てて近づき、私の肩を掴もうとした。しかし牽制するようにアンスガーが前に出てゾフィーナを止める。ゾフィーナはアンスガーを睨むが、すぐに血走った瞳で私を見た。

「ねえ、お姉さまがお金を出せば良いだけの話なの……あれから調べたら嫁ぎ先は他国に本店があるそうね。しがない商家だと思ったらとんでもない金持ちで……平民のくせに随分と良い暮らしをして、厚かましい! 不相応だわ! 私たちにお金を渡しなさい!」

 憎しみがこもった声で言われ、私はぽかんと口を開けてしまった。黙っていた母も立ち上がり、私の前にひざまずくと、猫なで声で言った。

「ねえ……貴女を産んだ時、とても大変だったわ。貴女も子供を産めばわかるでしょうけれど……だから産んだことを感謝して、子供なら親に尽くすものじゃない?」

 母のねっとりとした声色に、私の背筋はぞくぞくと寒くなった。そして確かに、産んで育ててくれた恩、というものはあるなと思った。
 私が視線をさ迷わせていると、アンスガーにぎゅっと手を握られた。

「子供が親に尽くす義務があるというならば、親は子を愛する義務があるでしょう。子にたかる親に愛があったとは思えません」

 アンスガーの言葉にはっとした私は、今まで受けた両親からの仕打ちを思い出した。あんなに辛く、惨めな思いをしていたのに、どうして忘れていたのだろう。
 母はアンスガーを睨み、私をねっとりとした瞳で見た。

「ねえ、他人の言うことなんかに耳を貸さないで。貴女の母親は私でしょう?」

 母の醜く歪んだ笑顔を見ながら、なんとか唇から言葉を吐きだす。

「……私もアンスガーと同じ気持ちです」

 言った途端に、母はぽかんという顔をした。そして徐々に顔を真っ赤にして、激高したように立ち上がった。

「この親不孝者が! そんな心だから火傷をおったのだ! お前の心根が醜いからだ!」

 唾を吐き血走った瞳で怒鳴る母を、私は信じられない気持ちで見つめる。
 逃げるように背を後ろに引くと、怒鳴る父と引き攣った顔のブルクハルト卿、私を睨みつける妹と、目の前には聞くに堪えない言葉を吐き続ける母がいる。
 まるで宗教画に描かれている地獄絵図のようだと思った。火傷痕が目立っていた頃の私より、よほど今の家族の顔の方が醜いと感じる。
 横を向いてアンスガーの顔を見ると、苦笑を浮かべていた。それでも、この中で唯一、美しい顔だった。
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