醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ

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復讐心と幸せ

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「大変だったね……」

 馬車に揺られながら下を向いていると、アンスガーに話しかけられた。顔をそっと上げて、ダークグーンの瞳を見つめる。

「ええ……でも不思議と落ち着いているわ。なんだか憑き物が落ちたみたいな心地がする」

 私は微笑を浮かべ、遠ざかるフェルステマン伯爵家のタウンハウスを見た。両親とゾフィーナに必死に引き留められたが、なんとか屋敷を出ることができた。
 きっと1人で来ていたら、軟禁されていたかもしれない。お金を出す、というまで帰れなかっただろう。

「確かになんだかすっきりとした顔をしているね」

 私は自分の頬に手を当てて、ふっと微笑んだ。

「……家族は私より絶対的に幸せだと今までは思っていたの。だからアンスガーと結婚してどれだけ自分が幸せでも、私を虐げていた家族は笑っている、と思うと復讐をしたいような、ほの暗い気持ちになっていたわ」

 アンスガーの反応を見るのが怖くて、馬車の窓に視線を移した。立ち並ぶ貴族の屋敷は立派だが、曇り空だからかどこか暗い雰囲気がある。

「でも今日の姿を見て、本当に幸せだったのだろうか、と疑問に思ったわ」
「……フェルステマン伯爵家や、ブルクハルト卿の生家の公爵家が所属している派閥は、この国の王侯貴族の中で主流派ではないんだ」

 アンスガーの言葉に、私は窓から視線を戻した。ダークグリーンの瞳は静かに光っている。
 社交の場に参加していなかった私は、領地運営のことならば分かるが、貴族の派閥には詳しくない。全く知らなかった事実に、自分の無知さが恥ずかしくなった。

「土地が豊かではないから?」

 国の南部であれば、暖かい気候から、作物がたくさん育つという。しかし北方に位置しているフェルステマン伯爵領は土地が貧しい。だから力が無く主流派に属せなかったのだろうか。

「いや、そうではない。贅沢を好む貴族の派閥、と言えばわかりやすいかな。しかし王は民の反感を恐れ、実直な貴族や軍閥を重宝している。だからフェルステマン伯爵家が所属している派閥は、現王に強く反発しているんだ」
「詳しいのね……」

 感心して言うと、アンスガーは苦笑いを浮かべた。

「商人は情報も命だからね……だから社交の場などでは、フェルステマン伯爵家やブルクハルト卿は、身内ばかりで集まり良い顔をされていなかった。お金も派手に使っていたし、使用人や平民を虐げていたからね」

 小さい頃から屋敷に集まっていた貴族たちを思い出した。皆一様に着飾っており傲慢ごうまんだった。貴族とはああいうものだと思っていたが、どうやらこの国では主流派でなかったらしい。

「だからエルヴィーラの両親は、贅沢をしつつも、どこか不安や鬱屈うっくつとした思いを抱えていたんじゃないかな」

 アンスガーの仮説に、私は一緒に過ごしていた頃の両親やゾフェーナの姿を思い出した。確かに贅沢をして楽しそうにしていたが、どこか焦りのような感情を常に抱えていて、心から穏やかで幸せそうな姿など見たことが無かった。
 不幸だからこそ、弱い立場の私を虐げ、憂さを晴らしていたのだろうか。
 私は馬車の椅子に背を預けると、ぼんやりとアンスガーの顔を見た。

「……私を虐げた分だけ家族も不幸になって欲しいと心の隅で思っていた。けれどそれでは私の心は家族に囚われていて、自分を不幸にしているだけだった。私が幸せでいること、それが真の復讐になる……それだけで良かったのね」

 アンスガーは優しい笑みを浮かべると、手を伸ばして、美しい指を私の頬にはわせた。

「エルヴィーラは、僕と居て幸せかな」

 アンスガーの言葉に、私はこれ以上ないほどの、満面の笑みを浮かべた。そしてアンスガーの美しい指に、自分の手を重ねる。

「ええ、もちろん」

 アンスガーもダークグリーンの瞳をきらきらと輝かせて、とても嬉しそうに笑ってくれた。
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