シスコンリーマン、魔王の娘になる

石田 ゆうき

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第3章 旧領へ。新たな統治

兵士募集

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 ルオフィキシラリアには、三枚の城壁がある。

 一つは、ディニッサの居城を守る高く頑丈な壁。
 二つ目は、街の創成期に建てられた古い第一壁。
 最後が、最近作られた第二壁だ。

 第一壁の内側は、魔族や大商人などが住む高級住宅街だ。
 しかしせっかくの大邸宅も、今は空き家ばかりだった。トゥーヌルの死と共に、魔族や大商人などは、そのほとんどが移住してしまったのだ。

 その高級住宅街の一角に、異色をはなつ建物があった。
 広い土地を有しているものの、中にある建物は質素で、外観より実用性を重視しているのが一目でわかる。

 その建物とは、兵士用の宿舎だった。
 建物の規模からして、往事には数千の人間が暮らしていたに違いない。
 ……いま住んでいるのは、たったの100人程度であるが。

 いつもなら閑散としているその施設に、今日は大勢の人間がつめかけていた。
 オレの兵士募集に応じて来てくれた人々だ。

「うむ。盛況ではあるの……」

「もしかして昨日のバカ騒ぎは、これが目当てでしたの? みな、あなたの話題で盛り上がっていますわ!」

 クナーが感心したようにそう言った。
 これほど兵士希望者がさっとうするとは、予想外だったのだろう。クナーは素直に喜んでいるようだ。

 しかしオレは、クナーのように諸手を挙げて喜べなかった。
 横を見ると、ノランも厳しい顔をしている。組織を束ねる立場なだけに、目の前の問題点にすぐに気づいたようだ。

 たしかに人数は多い。
 やる気がありそうな者も大勢いるし、いますぐ兵士で通用しそうな屈強な者も少なくない。だが──

「魔族はおらんようじゃな……」

 そう。集まってくれたのは、魔法を使えない平民ばかりだったのだ。
 念のため、もう一度魔力感知をしてみるが、やはり反応はない。この場にいる魔族は、オレと3人の侍女、それからノランら武官組だけだった。

 ──この世界では、戦争は魔族のみでおこなわれる。
 つまり今回の募兵では、まったく戦力が増えないということだ。

 ため息をつきたい気分で横を見ると、ノランが微妙に嬉しそうな顔をしていた。
 なんだ? 戦力補強ができないのに、何を喜んでいやがる。やっぱりノランはオレの敵なのか……?

 オレと目が合ったノランが微笑む。
 その表情で、ノランの喜びの理由がわかった。

 最初に厳しい顔だったように、ノランも魔族がいないことを残念がってはいるのだろう。しかしオレが、現状を正しく認識していることで感動したのだ。

 たしかに自分のパフォーマンスで人がつめかけたのだから、有頂天になってもおかしくはない。ディニッサぐらいの子供ならなおさらそうだ。

 だからノランの喜びもわからなくはないが、このていどで喜ぶのだから、どれだけディニッサに対する期待が小さかったのかわかろうというものだ。

「たしかに魔族がいませんの。浮かれすぎましたわ」

 クナーがしょんぼりとうなだれた。
 たぶんクナーがはしゃいだのも、オレが役に立ったということに対する驚きが大きかったのだろう。

「魔族と一般兵が戦った場合、どのていどの人数差で釣り合うのじゃ?」

 戦闘力について聞いてみることにした。
 平民を戦争にかり出すつもりはないが、万が一ということはある。それに敵が平民兵を使う可能性もゼロじゃない。ちゃんと確認しておくべきだ。

「1000人というところか。ただし全員が精鋭で完全武装しており、なおかつ決して逃げないという条件で、な」

「ふふ、私ならその条件でも軽く皆殺しにできますけど。あくまで下級魔族の話ですから勘違いしないでくださいね、姫様」

 ノランの説明についで、ユルテが補足してくれた。
 ……それは、予想を上回る答えだった。

 平民を戦争に参加させないのは、慈悲というより意味がないからのようだ。
 火器のない時代に、現代の戦車を持ち込むようなものだ。平民兵など、なにも出来ずに蹂躙されるだろう。

 敵の予想戦力が50人と聞いて笑ったが、こうなると笑ってはいられない。
 単純に換算しても5万人クラスの軍隊。しかも移動は速く、隠密行動ができ、糧食・資材はわずかでいい。

 悪夢のような軍勢だった……。
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