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京都支店
晴天
しおりを挟む「1ヶ月間、お疲れ様でした」
「こちらこそ、お世話になりました」
お互いに持っていたビールの缶をコンとぶつけ、一気に呷る。
「支店長はお2人の送別会を、ちゃんとした所でやりかったようなんですけど
本人が、どうしても抜けられない用があるとかで。
こんな形になっちゃってごめんなさいね」
「いいえ、とんでもないです。
でもこうして皆さんと飲むのも、2回目だけど最後なんですね」
終業後、北条さんと今西さんの送別会が急遽支店内で行われる事となった。
冷蔵庫に山ほど冷やされていたビールが次々と開けられ、その場にいる全員が程よく酔っ払っている。
そんな皆を見つめる今西さんは、どこかしみじみした様子で。
何となく、彼女が別れを惜しんでくれてるように見え、だとしたら明日の別れが寂しい気分になってるのが私だけじゃないのかも、と少しだけ嬉しくなる。
「今だから言えるんですけど、1ヶ月前はね結構ドキドキしてたんですよ。
本社からやってくるお偉いさんがどんな方なのかって」
「あら、私だってドキドキしてましたわよ?
お世話になるのだし、大人しくしてようとも思ってましたけど」
お互い顔を見合わせ、にんまり微笑む。
1ヶ月前にはこんな冗談を言い合えるようになるなんて、正直思ってなかった。
「本社に戻っても、また色々お世話かけると思いますけど、これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、ご面倒をおかけするかも判りませんけどよろしくお願いします」
それと…。
北条さんとお幸せに。
耳元でそう囁くと、今西さんは頬を染め嬉しそうににっこりと微笑んだ。
~吉野視点~
■□■
吉野さんと何やら話しこんでいた悠香が、不意ににっこりと微笑んだ。
その幸せそうな笑顔に目を奪われる。
「あんな綺麗な人だと、虫が寄って来るのが心配でしょうけど、独占欲も程々にしとかないと」
振り向くと、そこにはニヤニヤ笑いながらビールを煽る山田氏の姿が。
悠香との事をからかわれるのは癪だが、しかし散々世話になったので素知らぬふりもできず、仕方なく頷くと
「そうですよ、あんなん目の毒ですって」
調子にのって横から荒木が口を挟む。
「お前が言うな!」
「誰のせいだと思って…!」
図らずも息のあった所を披露してしまい、同時に突っ込んだ山田氏とニヤリと顔を見合わせる。
色々あったけれどプロジェクトの進み具合という点においても、また悠香との関係の進展という点においても、なかなか有意義な1ヶ月だった。
「一緒に仕事さしてもらって光栄でした。
こっちでの事はお任せください、キッチリ締めて行きますから」
「こちらこそ、1ヶ月お世話になりました。
これからも良い物を一緒に作っていきましたょう」
握手の代わりに、手にしていたビールの缶をカツンと合わせる。
これが京都で飲む最後のビールか…と考えながら。
~智視点~
■□■
「悠香起きて」
「……智?」
肩を揺さぶられ、薄く目を開ける。
「何…、どうしたの?」
「もうすぐ着くぜ」
その言葉に意識が覚醒する。
いつの間にか智の肩にもたれて眠ってしまっていたらしい。
頬に張り付いていた髪の毛を指先で梳き流しつつ、身体を起こす。
窓の外に目を向けると、1ヶ月ぶりに見る真っ青な空が広がっていた。
京都の空も青かったけれど、今年は梅雨入りが遅い分明けるのも遅く、こんなにスッキリと晴れる日はあまりなかった。
でも…。
空はどこでも青くて、どこで見ても太陽も月も星も同じで。
昨晩、皆で支店で飲んだ時はこれでお別れなんだと少し寂しかったけれど。
だけど、何も今生の別れだという訳ではない。
これからだって、メールなり電話なりで連絡をする事はいくらでもある。
そして、なによりも…空は繋がっているのだから。
「1ヶ月なんて…あっという間だったな」
「そうね、ホントに」
今日は直帰してよいとの連絡を受けている。 久しぶりの我が家でゆっくりしよう。
閉めきっていた部屋に風を通して、洗濯をして、晩ご飯を作って。
そんな事を考えていたら、見慣れた景色が広がってきて。
——あぁ、帰ってきたんだわ。
と実感した。
~悠香視点~
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