紅に燃ゆる〜千本桜異聞〜

吉野 那生

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終幕

桜が見せた夢

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ふと気がつくと、見慣れた景色が目に入った。



——なんか…うちに似てるかも。

そう思って目をこすりかけ…ハッと跳ね起きる。


似てるかも、じゃない!
我が家だ。

瞬きをしても、頬をつねってみても変わらない風景。

慣れ親しんだ我が家に戻ってきた。


その事実に、愕然とした。




——夢だったのかな…。


一瞬そう思いもしたけれど、腕に巻きついた調緒と、泣きすぎてズキズキ痛む頭が夢ではない事をはっきりと告げている。




——何で帰ってきちゃったんだろう。

役目が終わったから?



でも…まだあちらですべき事が、ううん、したい事があった。

義経様のその後を見届ける事もだし、何より四郎との約束を果たしていない。



…待ってるって、言ったのに。

何も言わずに…さよならさえ言えずに消えた私を怒ってるかな?

恨んだ?

それとも勝手な奴と呆れた?


もう…嫌いになった?

想像するだけで胸が痛む。



あれほど帰ってきたかったのに、今は絶望しかなかった。





あちらに行っていたのは一年とちょっと。

の筈なんだけど…。
こちらでは時間は全く進んでいなかった。


戻ってきたのはおばあちゃんの葬儀の翌朝。

つまり数時間しか経っていなかったという事になる。



それこそ狐に化かされた気分。


目が覚めるたび、見慣れた風景に落胆する日が続いた。



思えば四郎と出会って過ごしたのは、ほんの短い時間。
その僅かな時を共に駆け抜け…そして、互いを選んだ。

それなのに……。
行く時も戻る時も私の意思はお構い無し。


一体どこの誰がこんな事を仕組んだのか、と恨んでやりたくもなる。




街中で四郎と似た人を見かけると、つい目で追ってしまう。
そのたびに別人だと落ち込むんだけどね。


今となっては、調緒だけが四郎を思い出すよすが。
ミサンガのように腕に巻き、肌身離さないようにしていた。



——四郎。


彼の声を、姿を、思い出さない日はない。


——会いたいよ。




そんな辛い毎日でも、祖母が亡くなった今…一人で生きていかなくてはならない。
神社を継ぐ為には神職の資格が必要だった。


神事を執り行う人がいなければ困るのは、お世話になっている地域の氏子さん。
ひいてはこの神社の存続にも関わる問題。

祖母の想いを継ぐ為にも、喫緊の課題はそれだった。



けれど、幸いにも我が家は伏見稲荷大社の末社。

大学などに通わなくても、伏見稲荷大社で研修を受ければ最低限の資格は得られる。


早速総代さんとも相談して、伏見稲荷大社に連絡をつけてもらった。


***


キャリーバッグを引いて新幹線から降り立った京都駅。

おばあちゃんに連れられてきたのは十年くらい前…かなぁ。
あの時はおばあちゃんと一緒だったし、迷う心配もなかったけど、ここから在来線に乗り換えるのよね。



——あの時は…母様に手を引かれ、必死になって走ったな。


不意に、義経様の屋敷から伏見稲荷まで駆け抜けた事を思い出し、目頭が熱くなる。



——こんな所で泣いちゃダメ。


京都に来た事で記憶が強く揺さぶられ、涙腺が刺激される。



思い出すのは静御前と過ごした日々。

四郎との旅路、そして伏見稲荷での別れ。


あの夢のような時間が、もし巻き戻せるのであれば…。



『昔を今に なすよしもがな』

…そうよね。
時を巻き戻す術などある筈がない。

分かってる。
分かってるんだけど…。


奈良線の電車に乗り込みながら、気持ちを落ち着ける為。左手に巻いた調緒に触れる。




そして辿り着いた伏見稲荷大社は…周辺も含めて「観光地化」されていた。

お洒落なカフェや飲食店・土産物屋が増え、色んな国籍の人が笑いながら歩いている。



——平和だな。

フッと、そんな事を思ってしまう。


ここでなら、義経様も静御前も笑って生きる事が出来たのかな。

あんな時代でなければ、もっと一緒にいられたのかな。


目を瞑ると昨日の事のように思い出せるのに…。




考えても仕方ないので一つ息を吐き、本庁へ向かう。


それから十日ほどは、禅師様の地獄の特訓に匹敵する厳しい研修の日々だった。

元々おばあちゃんの執り行う神事を見ていたし、何となく分かったつもりでいたのだけど。


見るとやるのは大違い。

厳しく指導され、実技でへこみ座学でまたへこむ。


そんな日々の中、心を慰めてくれたのは稲荷大社のお山巡り。


夕暮れ時も素敵なんだけど、観光客のまだ居ない早朝の千本鳥居は、まるで異世界へ誘われるようで本当に幻想的。

四ツ辻から眺める京都の街並みも…あの頃からどれだけ変わったのだろう。



そういえば、稲荷大社の本殿までは行ったけど、お山に登る事はなかった。


——四郎と見たかったな。
 あの当時の京の街並みを。


もっと色んな話をしたかったし、聞いてみたい事もあった。

色んな所に行って、美味しいものを食べたり同じ景色を見たり、共に笑ったり怒ったり、時には泣いたりケンカしたり。

そんな、ささやかでも幸せな毎日を過ごしてみたかった。


「会いたいよ、四郎」



言葉にしたらますます寂しくなり、鼻の奥がツンとする。

感傷を振り払うよう、階段を駆け下り一気に参集殿まで戻った。





厳しかった研修も終わり、どうにか試験に合格して、明日には帰宅する事になった夕方。


伏見稲荷に来て日課となったお山巡りをすべく、夕暮れの中階段を上っていった。



千本鳥居をくぐるのも今日が最後。

明日帰宅したら、そうそう来る事もないんだろうな。


そう思いながら歩いて行くと…見覚えのある横顔が鳥居の向こう側に見えた。


「っ!」

思わず息をのみ、また人違いかと落ち込む。



それにしては…なんていうか似過ぎていた。


振り返ると、鳥居の向こう側でも振り返る人が。



「…四郎?」

「静佳?」



その瞬間、時が止まった。


絡み合う視線が、お互いを認識する。

会いたくてたまらなかったその人が、すぐそこにいる。



「静佳!そこ動くな」


吠えるように四郎が叫び、あっと思った時は抱きすくめられていた。



「やっと会えたの、我が妻よ」


今となっては懐かしい温もりに、目の奥がジンと熱くなる。


「本当に…四郎?」

手を伸ばし縋り付くと、確かな温もりが伝わってくる。


でも…どうして?


顔を上げると同時に、頬に手が添えられ唇が塞がれる。



「…っ!」


痛い程抱きしめられ、貪るという表現通り奪い尽くされた…気がした。

ようやく解放された時、息も絶え絶えな私を片手で軽々支え、四郎は晴れやかな笑みを浮かべていた。


***

 
「八百年あまり、ずっと探し続けておった。

そなたの名前以外、何も知らなんだが八百年ほど後の世から来たという事は分かっておったでな。

ならば会えるまで待とうと思ったのよ」


どうしてここに…平成の世に?
そう問いかけた私に、平然と答えた四郎。

けれどその答えに、私は言葉を失った。



「父様、母様とて千年の長きにわたって生きたのじゃ。
吾とて頑張れば、それ位」


——「頑張れば」で済むレベル⁇

とはいえ、ずっと探してくれていた。
待ってて、と言った四郎の方が私を待っててくれていた。


その事実に目頭が熱くなる。



「幸い、吾の毛を編み込んだ調緒はそなたの手元に残ったと、禅師殿より聞いておったしな」

私の左手を取り、調緒を撫でる四郎。


「そなたが元の世に戻った事は、これが伝えてくれた」

そのまま手首に口付け、腰に回された手に力がこもる。



「って!ちょっと!待ってってば」


雰囲気的にマズイ流れな気がして、四郎の膝を叩き、肩を押しやる。


そう、今私は四郎の膝の上にいる。


落ち着いて話がしたいと参集殿の部屋に戻った私は、有無を言わさず四郎の膝の上へ導かれ、そっから離してもらえなかったのだ。


「…もう十分待ったであろう?」

「何で押し倒す気満々なのよ!
ここは家じゃないし、仮にも夫になるっていうんならおばあちゃんへの挨拶が先でしょう?」


必死に言い募ると、四郎はふむと頷いた。


「一理ある」



——良かった、わかってくれたのね。
と、ホッとしたのもつかの間。


「一理あるが、ようやく会えたのだ。
それをお預けとは、我が妻はなんと酷い事を…」

お預けって…人聞きの悪い。
さっき腰が砕けるようなキスをしたのは、一体どこの誰でしたかね?



でもほっとくとさすがに拗ねそうな雰囲気を感じたので、四郎の頬に手を当て

「それよりも四郎に話したい事があるの。
お願い、聞いて」


あざとく首を傾げ、上目遣いでおねだりしてみる。

その仕草に、四郎ははぁーっとため息をつき頭をガシガシ掻きむしった。



「…なんじゃ?」
仕方なく、という雰囲気は

「初音の鼓の事」
と告げると一変した。



「禅師殿より聞き及んではおる」

そうね、あの時一緒にいたものね。

でも、自分の口からちゃんと伝えて、謝りたいの。
守りきれなかった事を。


「あの時、頼朝は私の命を助ける代わりに初音の鼓が欲しいと言い出したの。

逆らう事は…出来なかった。

でも、頼朝が打っても鼓は鳴らなくて、怒った頼朝は鼓を石に投げつけた」



「…浅はかな男よ」

「ごめんなさい。
四郎から預かった大切な鼓だったのに、守りきれなくて。
結果的に燃やされて、灰も由比ヶ浜に撒かれてしまって…。

本当に謝っても謝りきれない」


涙ぐむ私を四郎は優しく抱きしめてくれた。


「静佳が謝る事は何もない。
禅師殿が言っておった。
静佳は必死になって鼓を守ろうとしておったと。
それに、静佳が生きてここにおる。
それだけで十分じゃ」


「…だけど」


「良いのだ。
燃やされた事で父様、母様も成仏された」


死してなお、我が子を案じていた四郎の両親が成仏出来たと聞き、ほんの少しだけホッとした。



「…で、あとは何を聞きたい?」

「禅師様は?
私が突然消えた事で、何かお叱りを受けたり罰せられたりはしなかった?」


「その時の事は禅師殿より聞いた話でしか知らぬが、特に罰せられたりはしなかったようだ。
ただ、忽然と消えたそなたをどうするか、だいぶ頭を悩ませたらしいがの。

幸い、館の者も複数そなたの失踪を目にしておったので、最終的に由比ヶ浜に身を投げたという事で落ち着いたらしい」


おっと!
静御前、由比ヶ浜死亡説。

そっか、その説の出所は私だったのか…。


「それと、禅師殿より伝言ぞ。
そなたが八幡宮で舞った姿は、静殿に勝るとも劣らなかったと。

居並ぶ者全てが目を奪われ、息を詰め、見入っておったらしい。
さすがは自慢の娘だと、二人とも誇りに思うと笑うておったわ。

そして、静殿の分まで幸せになれと。
禅師殿の『母として』の願いだそうだ」



——母様!


あんな別れ方をしたのに、最後まで私の事を娘と思ってくれていたのね。



「あとで、墓参りにでも行くか」

「うん、行きたい」


どこにあるのかわからないけど…。
禅師様のお墓も、静御前や義経様のお墓も。

でもちゃんと手を合わせて、ありがとうって伝えたい。



「ところで、四郎はどうしてたの?」

「吾か、吾は国に戻ったあと嫁を取れと散々勧められたわ」


その言葉に、頭を殴られたような衝撃を受ける。



——まさか…もう結婚してるとか、言わないよね?


「そんな泣きそうな顔をするな。
もちろん断ったわ、吾の妻は既に居ると」



…良かった。

腕を伸ばし四郎の首にしがみつく。
そんな私の背を安心させるように、四郎は何度もさすってくれた。


「その事を認めさせる時間も山程あったからな。
今は一族の若い者に後を譲り悠々自適だ。

それに、これからは人として生きてゆく事になるからの」


「……え?」


不思議な声の響きに、何か決意のような物を感じ取り、顔を上げる。


「もう、置いていかれるのも、残されるのもごめんだ。
静佳が戻るまでと思い耐えてきたが、これ以上は耐えぬ。
静佳と共に老い、共に死ぬと決めたのだ」


これ以上ない愛の言葉に、涙が溢れる。



こんなにも私の事を想ってくれる人に、なんて思いをさせてしまったのだろう…。


「よいか、自分のせいなどと思うでないぞ。
今までの分、そして、生きられなかった者たちの分まで二人で幸せになる。
それだけを胸に刻めば良いのだ」

「……うん」




目を瞑ると浮かぶのは、吉野山の満開の桜。


咲き誇るそばから散ってゆく儚い命。
その花に似た一つ一つの輝きを、私達は目の当たりにしてきた。


懸命に蕾をつけ、花開き、咲き誇る。
そして時の流れに翻弄され散っていった命。

その一つ一つが愛おしく大切なものだった。


静御前

義経様

弁慶

忠信様

禅師様


あなた達の事は決して忘れないよ。



時代に抗いながら、精一杯駆け抜けたあなた達のように、私も今を懸命に生きるから。

どうぞ、見守っていてね。



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