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十話
しおりを挟む「これ底の方で水が流れてるんだけど、どうやって使うんだい? 井戸だろ?」
一人一人に部屋を割り当てた後、部屋の説明を求められた。
手の届かない所で流れる水を見て、変わった作りの井戸と勘違いして呑めないんだけど? と、困惑して俺が居る厨房までみんなでやって来ていた。
部屋の作りを見て何も気にせずに使える現代人では無かった事に気付かされて、改めて部屋の説明をする事にした。
一度全員引き連れて表に出ると、再び玄関口から中へと入る。
そのまま廊下を通って、右側の食堂へと案内する。
食堂は朝晩だけ無料で食えると伝え割符を渡した。
「この板は何だ?」
女剣士が割符を見ながら聞いてきたので、それを俺に見せれば泊り客だと分かるので、飯が出しやすいと答えると頷きながら胸の谷間へ押し込んだ。
(アニメとか映画でよく見る光景だが、女性の胸元はポケットになってるのか?)
他の方々も胸のある人は皆そこに入れていた。
男性やスレンダーな女性は脚とかに付いてるポシェットなどに入れたり、腰に付けてるバッグへ各々仕舞っている。
昼飯は前日までに申告してくれれば有料で作ると伝える。
食堂を出て廊下に出ると、突き当りまで数歩歩いて右側に曲がる。(左は倉庫)
一番手前の部屋に入る。
部屋に入ると六畳くらいの部屋になっており、右側にセミダブルくらいのベッド。ベッドの中身は藁を敷き詰めてあるのでフワフワだ。
ベッドの横に可動式の机が有って、コップなどを置けるようになってる。
(病院のベッドにある様な奴だ)
ベッドの反対側に椅子と机が有ってその横に所持品を置ける棚がある。
その奥に扉が付いたトイレとその横に水しか出ないがシャワーが付いている。
レバーを下げると水が出る。
大きさは1畳くらいの広さだ。
そのシャワーに皆さん驚いていた。
普通の宿屋にはない設備だったらしく、普段は男女共に川で水浴びや洗濯をするそうだ。
特に女性陣からは歓声があがった。
覗かれなくて安心して洗えるからだそうだ。
どこの世界でも覗きはするらしい。
次にトイレの説明をする事にして扉を開けると、そこには何とかして底の水を飲もうと頭から体半分ほど突っ込んでる細身の男性がいた。
暫くその男性が悪戦苦闘してる姿を眺めながら皆で見ていたが、諦めたのか汗だくになりながら這い出て来た。
「おい! 呑めねーじゃねーか! 欠陥品だぞ! 宿代安くしろ!」
と、怒鳴る青年を宥めて
「お客様 コレはトイレです」
そう言うと青年は固まった。
手とか顔を側面に付けていたようで、少し濡れていたからだろう。
顔を青ざめて「ひぃぃ……」と小さく悲鳴を上げていた。
「お客様、大丈夫ですよ。まだ未使用なので、汚れてません」
そう言ってニッコリと笑ってやったが、既にそこには居らず、自室に帰ってシャワーを浴びに行ったよと周りの方々が教えてくれた。
当分仲間にからかわれる事になるんだろーな。
お仲間さん達が爆笑してる姿を見て少し同情した。
皆が落ち着いて笑わなくなるまで少し待つことになったが、取り敢えずトイレの説明をし始めた。
「丸い壺みたいな物に座って用を足して下さい。そして、使用後はコチラの紙で局部を拭いてそのままツボの中に流してください」
そう言うと、トイレットペーパーを見せる。
このトイレットペーパーは勿論召喚で出したものだ。業務用と言うよりは、工場用といえば良いのだろうか?普通のトイレットペーパーと同じ幅だが、ロールしてる大きさは直径1メートルくらいある。
それを軸に嵌め込んで使うので、壁に横向きにくっついている。
その紙も珍しいので手触りが良いとか言って撫でたり、くるくると巻き取って顔を拭いたりしている。
身体を拭こうとしてる大柄な男性も居たので注意する。
「お客様、それは溶け易いので汗などを拭きますとボロボロに……」
そう言い切る前に細かいトイレットペーパーが身体に付いて、その人もまた自室へと走って消えた。
トイレに蓋があるのでそれを使い終わったら閉めるように伝えて取りあえずの説明を終わらす。
すると昨日の優しそうな男性がポケットからウニョウニョした何かを取り出して皆に配り始めた。
「お、お客様……それはなんですか?」
「ああ、これかい? スライムだよ。少年も見たことないかな? トイレの底の方で動いてるよつ」
(あれはスライムだったのか……)
俺の恐怖対象が定番中の定番モンスタースライムだった事が初めて分かった。
分かったところで気持ち悪いのにな変わりなく苦笑いしか出なかった。
そんな俺の感情なんて気付かないのか、スライムを出した理由を説明し始めた。
「この生き物ってモンスターだけど無害でね、汚い場所を好んで住んで、汚れた部分を餌にして生きているんだよ。 だからね? このトイレは確かに凄いんどけど、したあとって側面が汚れそうじゃん?」
そう言うとトイレの側面にペタッと貼り付けた。
縁の方までは来ないのか、光に弱いのか分からなかったが、より目立つ場所に蠢くスライムを俺はこれから耐えなきゃいけない。
水で流せば解決と思っていたが甘くなかったようだ。
頼みもしないまま、食堂にあるトイレにもペタッとスライムを貼ってくれた。
◇
宿に付いた御一行様は半年契約で予約していたらしく、必要な雑貨を買いに行ってくると言って、街へと出掛けた。
そんなに遅くならない予定だけど、酒も飲んてくるから晩飯は要らないらしい。
今、宿にいるのは大柄な男性と、細身の青年だ。
彼等はシャワーが気に入ったのか鼻歌を歌いながら浴び過ぎて、身体が冷えたらしく布団に入って寝てしまった。
なので、今夜は二人分の晩御飯と自分の分を作ることになる。
この街の主食はパンだったのだが、今夜は麺に挑戦しようと思う。
この街に住んでから、何度か街を探索したのだが、麺類が売ってなかった。
似たような物はあったが、麺というより水遁に近い物だった。
なので俺は麺不足に陥っていた。
頭に浮かぶラーメン、うどん、蕎麦にパスタ。
召喚で出す事は可能だったが、せっかく料理出来るのだから自分で作りたいと思ってたので、パスタを作ることにした。
パンも無いと落ち着かないかもと思ったので、食パンとは違ったコッペパンも一緒に焼く。
ケチャップを大量に使ったナポリタンを作ると、その薫りが漂ってきたのか外からも飯目的の客が入ってきて、カウンターは一杯になってしまい、裏口から表へと回ると、玄関の外にまで行列が出来ていた。
肉祭りが始まるまではノンビリする筈が、開店初日で人手と追加の部屋が足りなくて、後日募集をかける羽目になってしまった。
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