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三十一話
しおりを挟む「ほぅ……すると白銀を倒したのはその小僧なのか?」
公爵様を何時までもロビーに置いておくのは失礼だと言うことで、一旦移動して本店の商業ギルドの客間に来ている。
プリムローザとレギンスは当たり前として……
「なぜ俺も連れて来られてんだ?」
と、言っても返事はなかった。
「早く帰らないとお腹を空かせた子(メリヌ)が待っているから」
と伝えても無駄だった。
「「お前は当事者だろうが!」」
両ギルドマスターに言われて引きずられる様にして客間に通され、今は目の前に公爵様と奥様のマダムキャリーが座っている。
【因みに冒険者ギルドのマスターはプリムローザ。すべて兼任してるそうだ】
「タクミくんは凄いのよ、あなた! 樵も諦めた大木もその日に切ったし! しかもその大木を加工して住みたいなんていうのよ! 私はそれを見たくて見たくて!本当に楽しみなのよ!」
どうやら毎日毎日俺の完成報告を待っているらしい。
(すいませんマダム……全く触ってません……)等とは言えず苦笑いで押し通す。
「おお、それも聴いたぞさっき 君は魔法使いにはならなかったのかね? そんなに腕が良いなら私が雇いたいくらいだが……どうかね? 家で働かないか?」
「あ、いえ。自由にやりたいと思ってますので……」
そうやんわりと断ると妙にがっかりされる。
その横から……
『なんで断わんのよ!馬鹿なの⁉』とか
『お前公爵様の誘い断るとか何考えてんだ?』などとヤジが飛ぶ。
「うるさいなぁ……いーでしょ別に。俺の夢が荷物持ちなんだから」
『『勿体無い……』』
この二人は双子なのかと疑うほど言葉を重ねて話す。実は仲良いのか?
すると表の扉からノック音と共に執事のセイバスがソソソっとやって来てレギンスの耳元で何かを囁いた。
その言葉を聞いたレギンスは公爵と向き直り聞く
「公爵様、今回ご子息が此方に来ていますか?」
「いいや? わしの代わりに書類整理をしているはずじゃが……」
そう言うとマダムが食って掛かる
「まぁ! あなたまだあの子は学生なのよ⁉ 夏休みだからって仕事を任せ過ぎよ!」
「ああ、いやすまん」
と、平謝りで冷や汗もかいている。
どこの世界も奥様は強いらしい……
そんなやり取りを腕を組みながらまた眉間に皺を作りながら考え込んでいたレギンスは実は今しがた門の前で寝ていた五人組を捕まえたらしいと斥候に出ていた者から連絡を貰ったそうだ。
その一人が公爵家の紋章の入った盾を所持していたらしいと告げた。
流石にこの話は聞捨てならなかったようで、公爵様はお怒りになった。
この世界でも名称詐欺はあるようで、貴族の紋章を勝手に使う事は許されていなかった。
ましてや公爵家の紋章を勝手に描くなど家族ごと処罰されても仕方ないくらいの大罪で、その者達を今すぐにここに呼んで来いと支持を出した。
イライラとソファーに腰掛ける公爵様の横で優雅にお茶を呑みながらマダムが俺に尋ねる。
「タクミくん? 大木は何処らへんまでいじっているの?」
「ああいえ、すいません……全く触っていないんです……」
直接聞かれるとは思っていなかった俺は言い訳出来ずに素直に答えてしまった。
「あらぁ……そうなの? 残念ねぇ……タクミくんを見掛けたからてっきり完成報告かと思ってたのに……」
ものすっっごく残念がられて先程まで優雅に佇んで居たのに、今は項垂れてしまった。
それを見た公爵様は何故か俺を睨み
「俺の女を何泣かしてんだおい!」
と、突っかかって来てしまった。
(うわぁなんか面倒くさっ)
そんな風に思ってると扉の奥からガチャガチャと音が聞こえてきたと思ったら執事のセイバスが扉を開けた。
すると斥候の方々に腕を縛られ憤ってる青髪が見えた。
私達は貴族の令息と令嬢だよ!と、必死に言い訳を繰り返してるリュック女。
疲労が貯まっているのか項垂れてる杖男と黒髪くん。
そして先程からガチャガチャと喧しい音を鳴らしながら盾の紋章を見ろと喚くフルアーマーを連れてきた。
それを立ち上がって睨む公爵様と、いつの間にか復帰したのか優雅にお茶を呑むマダム。
なんだこの絵面……と、呆れる俺と、いつの間にか移動してフルアーマーから盾を奪ったレギンスと青髪の口を閉じさせ、物理的に黙らせてるプリムローザを見る。
(帰りたいなぁ……)と、思いながらも帰れないモヤモヤを紅茶を呑みながら誤魔化していると、マダムに微笑まれた。
(なんかこの人だけ纏ってる空気が違うんだよなぁ……)
そんな風に思いながら真似てみる。
怒るレギンスとプリムローザが盾を所持していたフルアーマーの鎧を無理矢理脱がせ、その顔を見るなりサンスベルトを呼べと公爵様が叫ぶ。
どうやら公爵様はフルアーマーの女を知っていたようだ。
フルアーマーの女は公爵様に気付くと顔を青褪めた。
他の四人も気付いたのか足がフルフルと小鹿の様に震わせている。
五分も絶たないうちに一人の騎士がやって来た。
「サンスベルト! 参上致しました!」
ピシッと音が聞こえるかの様な動きで敬礼した騎士は、目に映る五人を流れる様に見た跡驚愕し、掠れた声で短く呟いた。
「あ……アリス⁉」
「お、お父様⁉ な、何故ここに⁉」
「何故って白銀が出たのだ! だから私達は公爵様に付いて来たんだ……それよりなんでお前はここに居る⁉」
何が起こっているか理解できなくて廻りを見始めてレギンスが持ってた盾に目が止まった。
そこに描かれてる紋章を見て、全てを察したのか膝から崩れ落ちた。
「サンスベルト……貴様、子供に何を教えているのだ?」
公爵様の声は震えていた。
「申しわけ……申し訳ありません!」
そう言いながら頭を床に付けて謝るサンスベルト。
謝罪の声は涙声だった。
「サンスベルト……そなたを処分したくない……だが、大罪を犯した罪は罰せねばならぬ!」
空気が重くのしかかる中、中々処分の内容を口に出来ない公爵様と、覚悟を決めたのか涙を流しながら真っ直ぐに公爵様の目を見つめるサンスベルト。
何が起きてるのかよく分かっていない五人と、首を下げて難しい顔になってるレギンスに険しい顔になってるプリムローザ。
そして、重い空気も全く関係無さそうに俺とマダムがお茶を啜っていた。
「あ、マダムキャリーさん。 それとセイバスさんも、この前言ってたお菓子焼いてきましたよ」
俺が思い出したかの様にアイテムバッグから砂糖がけのクッキーを出す。
序に昼飯にと思って作ってきたホットドックもどきも出した。
朝しか食えてなかった事を思い出してモグモグと食べる。
「あ、このパンも美味しいので良かったらどーぞ」
と、マダムとセイバスに差し出した。
「あらまぁ! 美味しそうね! 私も丁度小腹が空いてたのよ、助かったわ!」
と、ホットドックもどきに手を伸ばす。
セイバスは焼いて来たクッキーを見ながら
「私もまだ休憩してませんでした、お茶を貰ってもよろしいですか?マダム」
「勿論よ、セイバス」
そう言うと、セイバスの目の前に湯気が立つお茶が現れた。
「相変わらず凄いですねセイバスさんは……それは魔法ですよね?」
そう俺が聞くと
「ふふふ、タクミ様。私のは魔法じゃありませんよ?訓練で培った技術です」
そうニッコリ笑って焼いて来たクッキーを一口食べた。
カッと目を見開くとサクサクサクサクと小リスの様にクッキーを平らげると次から次へと我を忘れたかの様な動きでクッキーを食べきった。
その動きに俺もマダムも目が点になる程驚いたあと、顔を見合わせて笑いだした。
場の空気が天国と地獄になってる事に五人組を連れてきた斥候達だけが知っていた。
そして目を白黒させながら冷や汗を流し、心の底から
(((帰りたいっ)))
と、思ったそうだ。
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