Shine Apple

あるちゃいる

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三十五話

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 取り敢えず俺は帰された。
 また何かあれば手伝って貰うが、今のところ得にする事は無く、斥候の報告待ちだそうだ。
 あるかどうかも分からない報告を一介の冒険者に待ってもらうのは心苦しいらしく、家で待機しててくれと言われた。

 依頼の鹿を依頼書を添えて狩猟ギルドに渡すと報酬の大銀貨5枚を受け取る。

 他にも獲り過ぎた分を売り払い、三頭の鹿と、透明の角はそのまま売らずに持って帰る。
 後日剥いだ毛皮だけ少し貰うと言って外に出た。

 透明な角は珍しく、売れば金貨に変わるらしいが、今は金には困っていないし、何かに使えるかもしれない。

 その帰り道、メリヌを預けた病院があったが、メリヌの姿は見えなかった、どうやら家に居るようだ。

 俺は鍛冶屋に寄ってから帰宅する事にした。が、鍛冶屋には誰も居なかった。

 帰ってくるのが早すぎたかと思ったが、家の近くまで来て理由が分かった。

 元気になったメリヌが鍛冶屋に寄って、鍛冶屋夫婦と一緒に帰ってきて、外に作り置いた竈に火を入れて俺の帰りを待っていた。

 鹿肉目当ての近所の方々と狩猟ギルドの新人狩人達まで待っていた。

 「「「お帰りーっ!」」」

 と、俺を見るなり全員で手を振りながら俺を迎えると、何故か拍手が起こる。

 そんな中を歩いて捌き用の吊るし棒と、内臓を受け止めるたらいを準備してある場所に向かう。

 この人数なら持ち帰った3頭の鹿も無くなるかなぁ。 もう少し持ち帰って来ればよかったと少し後悔した。

 主婦の方々の助けや狩人を引退した老人達に手伝ってもらいながら3頭の鹿はあっという間に肉塊に変わり、それを焼肉サイズに切っていく。
 一口サイズにカットした肉を大皿に盛り付け試作品だと持ってきてくれた網を竈に乗せる。

 竈の火も良い感じに燃えているし、あとは焼くだけだ。

 この作ってもらった網は、薄くした鉄板を縦になるべく細く切って隙間を開けながら編み込んだんだと奥さんに言われた。

 中々手間が掛かったので値段も高くなったかと聞くと、楽しかったから気にするなと言われた。でも、しっかり定額料金は貰っていたので流石だと感心した。

 油を表面に塗りたくって焦げ付かないように肉を乗せる。
 『じゅ~~っ』
 と、肉の焼ける音が辺りに響き。
 そこで皆が静かに見守っていた事を知る。

 表面に油が浮いて来たらひっくり返して焼いて行く。

 頃合いかと思ったら網から離し、先に出しといた焼肉のタレを付ける。

 そしてその肉をメリヌの口へ放り込んでやった。

 もぐもぐと咀嚼するメリヌを固唾を呑んで皆が見守る中、一言……

 「んまぁぁいっ……」

 その一言でどれだけ美味いかが分かったのか、元々有った竈以外に数個作っていたようで、そこに網を置いて油を引いて手に手に鹿肉を盛った大皿を用意して一斉に焼き出した。

 モクモクと上がる煙も気にしないのか、鹿肉を食べまくる人達と、口々に美味しいと呟く方々で溢れかえった。

 新人君達も喜んでくれた様で近所の方達が持ち寄った酒を飲んでは食べて、また飲んでを繰り返していた。

 鍛冶屋の親父も自分達が作った網に自信が持てたのか、後でギルド登録しに行くらしい。 屋台で網焼きを見かける日も近いかもしれない。

 「ほら! タクミも早く食べよ!」

 自分の隣の椅子をパンパン叩きながらここに座れアピールするメリヌに駆け寄り頭を撫でる。

 「背中大丈夫か?」
 「傷もなかったよ! バックラーと回復薬のお陰だね!」
 「しかしなんでバックラー背負ってたんだ? 何時もなら利き腕と逆の手で持ってたろ?」
 「あ、やっぱり気が付いてない」

 そう言うと棍棒を持ってきて俺に見せる。

 前に持ってた棍棒より一回り大きく長くなっていた。

 「気付いた? 両手に変えたのよ」

 より威力が増し、より速く攻撃出来る様に持ち替えたらしい。

 「言えよお前……」
 「気付いたら言おうと思って忘れてた」

 まぁでも、そのお陰で命が助かったのだから良いかと思い直し、これからは防具も考えないとなぁ、どんなのがいいかなぁと想像していたら口に熱々の焼きたて肉を放り込まれて悶絶した。

 メリヌが思考の海に飛び込みそうになってた俺を呼び戻した様だ。

 「考えるのは後でも出来る! 今は食え食えー!」

 生焼けの肉まで俺の口に放り込んでくる。

 「ま、まてお前! 焼けきってねーじゃんか! 突っ込むな!」
 「大丈夫だいじょーぶ! 火は通ってるって多分!」

 そう適当に言って楽しそうに笑っていた。

 久しぶりに心の底から笑顔になってるメリヌを見た気がした。
 俺も笑いながら今この時を楽しむ事にした。







 その夜、寝静まった街のギルド前でボロボロになった男が一人戻ってきた。

 昼頃に数人の護衛を連立って山の奥へ向かった集団の一人だ。

「小さいが魔素が湧いている場所があり、そこには魔素に染まった獣達がいた、群れが全部魔素に染まった茶魔森猪も居た。 帰りに白銀の群れに見付かり護衛が全員やられた、俺だけが街に辿り着けた…………すまんレギンス……先に逝く……ナターシャをた、たの……む……」
 と報告すると息を引き取ったそうだ。



 この話はまたたく間に広がり、公爵の耳にも届くと直ぐに出陣の準備をさせた。

 そして、日も登る前の明け方、小屋の戸を叩く音で目覚めると、収集命令が下ったとプリムローザが叫ぶ。

 プリムローザもフル装備で背中に大剣を背負っていた。

 メリヌの装備が整う前だったのが口惜しい。が、狩猟ギルドの誰かが亡くなったと聞いた。

 尋常ならざる自体とわかって俺もメリヌを連れて正門の前へと向かった。

 そこで亡くなった方々の詳しい話を聞く。
 亡くなったのは護衛の人かと思っていたが、昨日の山であったおっさんも亡くなったと知った。

 (おっさんの足でも逃げ切れなかったのか……)

 いや、負傷していたのかも知れない。
 報告だけして事切れた様だし……もっと色々話しておくべきだったと悔やむ。

 おっさんはサブマスターだったそうだ。

 奥さんのナターシャと小さい娘一人と、ナターシャさんの腹にもう一人いて、今月辺りに産まれる予定だったらしい。

 俺達も装備をと思ったが時間も無かったので、買えず。

 仕方なくパウダー状にした水晶の粉と魔力を込めた水玉に水晶の粉を少量混ぜ、その水を使って召喚陣を描く。

 少し前に残り少なくなった水晶の粉を苦し紛れにパウダー状にして、混ぜる水にも魔力を付けたら大量の質の良い物が召喚出来たので、今はこうしてパウダー状にしているのだ。

 そして、その真ん中に俺とメリヌが立って、アイテムバッグから金粉とダイヤモンドの様な物を取り出した。

 『メリヌと俺の装備を!』っと、心の中で叫びながら召喚陣に掌を付けて魔力を注ぎ込んだ。

 すると青白い光が辺りを包み込み、黄金のキラキラした光の粒が俺とメリヌの周りを舞う様に魔法陣から吹き上がった。

 身体にあった装備なんて出せる魔法などなかったが、魔力が強かったのが良かったのか、光の粒が無くなると鎖帷子くさりかたびらみたいな服に覆われたメリヌが現れた。
 背中に亀の甲羅の様な物も装備していた。
 俺には魔法使いの黒いフード付きの服だった。
 昔、魔女が着て居た物と何処か似ている気がした。
 一応師匠だからかなぁ……と、首を傾げた。

 装備が整ったので集合場所へ向かって走ろうとしたら、本隊が移動してて俺の前に公爵様が立っていた。

 「お、お主……なんじゃ今の魔法は!……」

 驚愕に打ちひしがれた面々が俺を遠巻きに囲っていた。

 「あ、えっと……召喚術……でっす」


 「「「「装備が出てくる魔法なんてねーよ!」」」」

 と、周りから一斉に叫ばれた。
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