Shine Apple

あるちゃいる

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五十二話

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 最近思うことがある。
 大木の家はウサギ達に譲り、他に家を建てようかと……。
 材料はあるし、蓄えもある。
 学園へ向かいがてら寄って必要な物を召喚すれば、足りなくなる事も無いだろう。

 何故こんな事を思うようになったのかというと、実は最近俺の影に入っていた妖精達は、3階の風呂や二階の寝室で寝るようになったからだ。

 ウサギに実体化する妖精共は、気が緩んでるのか慣れたのか分からないが、影に入ることを拒否し始めた。
 そして、どこに居るのかというと

 俺のベッドの上で腹を見せながら寝るラメル(黒ウサ)
 俺のベッドの足部分で2手に別れて寝るレッド(白毛赤目)ブラウン(白毛茶目)
 暖炉の中で寝るチェリー(桃ウサ)
 屋上にある観葉植物の土の中で寝るマロン(茶色ウサ)と湯船に浮かんで寝るソラ(水色ウサ)

 そして、俺が寝るまで横で寝て、寝息を立てるとベッドの下に移動して寝るメリヌ

 兎に角だね……落ち着かないんですよ。
 メリヌはいーんです……慣れたから。
 むしろ最近では居ない方が落ちつかない……。姿が見えないと心配になるし、何なんですかねぇこの感情。

 それはさておき……。
 卒業してこの学園を去る時まで大木の家はウサウサーズに貸そうかと思います。
 
 「宿でも借りるの?」
 そうメリヌが俺に聴く。

 「いや、学園の西側に森があるだろ? その手前には林があるんだ」
 「うん」
 「そこにツリーハウスとか建てて住みたくなって来た」
 「ツリーハウス?」
 「あれ? メリヌは知らないのか? 木の上に家を作って住む事だよ」
 「猿人族の様に? それとも森の人?」
 (森の人? ナ○シカ?)
 「どちらも聞いたことも無いけど、ニュアンス的に猿人族のが近いかな?」
 「ふーん」
 「ミリヌは木の上は嫌い?」
 「そんな事無いよ?」

 よし、言質は取ったと判断して学園が終わる時間になったら黒ウサに言いに行こう。






 「え、店を任せて他に住む?」
 「ああ、毎日通う事にするから召喚も出来るし」
 「……なんで? 捨てるの?」
 何故涙目を浮かべてるんだコイツは……
っと、思わず思ってしまった。
 実はペット枠なのか? と疑った。
 「捨てるんじゃないよ ただの気まぐれだよ」
 「……馬車に住めば?」
 「何であんな狭い所で車中泊なんだよ、やだよ」
 「貴方アイテムバッグの秘密に気付けたのなら、魔力車の空間には違和感を感じられなかったの?」

 そう言って魔力車の横をパンパン叩く
 (肉球に毛が絡まってほぼ無音)

 「空間に……違和感?」
 そう言われれば何となく壁から魔力が溢れて来る事はあった。
 そんな物だと思っていた為気にしてなかった。

 カチャリと扉を開けて中へと入り、壁に手を当てて目を瞑った。
 暫く手を当てて何かを感じられないかと思っていたら……
 「ん……何だこれ……魔力の固定化? で壁を作ってるだけなのか? でもただの固定化じゃないな……空間を拡張してるのか?」

 「良く出来ました! その通り! 正一が得意とする魔法の一つが空間魔法だったのよ、だからアイテムバッグや魔力車何かが造れたの」
 「へー、アイテムバッグ作ったの初代だったんだ?」

 「でもね? ヨネには出来なかったのよ」
 「ああ……だから気が付かなかったのか……」

 「……違うよタクミ。魔女ヨネは空間魔法のことは知ってたよ? ただ使えなかっただけ 因みにタクミに渡したアイテムバッグは正一のバッグよ。 現存する最後のバッグね」

 「え……」
 (……それは歴史的価値とかから換算すると値段付かないのでは?)

 そう思った。
 碌な婆ぁじゃなかったと思っていたが、もしかして俺は魔女ヨネに対して、すごい勘違いをしていたんじゃないだろうか……

 そんなことを考えている俺を察したのかラメルが言う

 「あの子(ヨネ)は己の弱さを知っていたからね……初代から受け継いだ技術の一部しか使えないといつも嘆いていたわ それでもあなたを見つけた時は本当に喜んでいたわね それと同時に嫉妬もしていたわ」

 契約時以外は影でずーっと見ていたラメルは遠い目をしたあと空を見上げて微笑んだ。
 きっと何かを思い出していたんだろう。
 何となく踏み込んではいけない気がした。

 「……shine Apple」

 唐突に呟いたラメルは俺を見ながら言う

 「あの果実のなる場所は覚えてる?」
 「ん?ああ、多分な なんで?」
 「覚えてるなら良いの いい?忘れちゃだめよ?」
 「あ、ああ……」

 それ以上は何も言わずに仕込みへと戻ろうとしたが、すぐに何かを思い出したのか振り返り、馬車を指差して
 「魔力を限界まで注ぎ込むのです」

 その時のラメルの言い方は師匠が弟子に言うような
 親が子供に言うような
 教師が生徒に言うような
 そんな言い方だった。(語彙力死亡)

 有無を言わさぬ物言いで、それに従うしか道は無い様な思いがしたので、ツリーハウスは諦めて魔力車の中へ再び入る。

 何となく中を見回して気になった場所を探ってみる。
 するとシートの下から小さな宝石の様な水晶のような物が付いているのが分かる。

 多分此処に魔力を注ぐのかなっと直感で分かった。
 だが……と、注ぎ込む前に考える。
 ただ闇雲に魔力だけを注ぎ込んでも良いのだろうか……。

 アイテムバッグの時を思い出してみよう。

 手を突っ込んだあと、魔力を注ぎ込みながら考えていた事は『広がれ!』って思いと、『ドームくらい!』という明確な広さだった。

 つまり、この魔力車に注ぎ込む魔力とイメージが大切な筈だ。
 多分全体の大きさもイメージする事によって変更出来るのかも知れない。

 「よし! 外側からやろう」

 そう告げてメリヌと共に外へと出る。
 そして、飾りと思っていたランタン横の突起物を触りながら、○BOXをイメージしながら魔力を注ぐ。

 「変われ変われ……」と呟きながら、全魔力の半分ほど注いで行った時に、目の前の馬車がぐにゃりと曲がり、一瞬グルグルっと回転したあとポンっと音がするかの様にソレは現れた。

 大きさは古代戦車見たいな、屋根付きの三輪バイク見たいな形になっていた。

 前輪にタイヤが二本、後輪に一本あり、後輪のタイヤは前輪よりふた回り程幅も大きさも違っている。

 まるで鳥○明が書く未来の三輪オートみたいな形だった。

 外から見ると運転席シートが2つ前に並び後ろは見えなくなっているが、座席は一つあるのが想像出来るくらいの空間があった。

 「随分小さくなったね?」
 入れるの?っと呟きながらコンコンと屋根を叩くメリヌ

 「まぁ、不都合なら跡で大きく変えれば良いよ」
 そう言いながら魔力回復ポーションを飲み干して使った魔力を回復させる。
 「あー、そだね。じゃあ次は中だね!」
 っと、入ろうとするので肩を掴んで止める。
 「ん?」
 「いや、お前は外で待つんだよ」
 「なんで?」
 「なんでって中で何があるか分からんのに、連れて行くわけ無いだろ」
 「むむっ……」
 ほらほらどいた退いたーっと、メリヌを横にずらし

 「待ってて」

 と言ってシートに座り、扉を閉めた。


 扉を閉めた瞬間シートがスーッと上に上がる感覚がした。
 ハンドル周辺を確認していたら、顔のすぐ下辺りにあったハンドルは腰辺りに移動していた。
 扉を閉める前は狭い2シーターの軽みたいな空間だったのに、今はバスの中のシートから真っ直ぐ立ち上がれる程のゆとりがあった。

 「ははは……コレだけでもビビるなぁ」
 何となくドキドキしながら後ろを振り返ると、一歩先辺りに扉が出来ていた。
 そこをカチャリと開けると壁に成っていて、その真ん中辺りに小さに宝石みたいな突起物がある。が、他には何も無い。

 俺はその突起物を人差し指で触りながら想像する。
 どんな広さで
 どんな空間にするか
 理想の家屋の様子を思い描きながら

 想像がある程度固まったら
 全魔力を注ぐ、倒れても良いと言う気持ちで注いで行った。
 随分と魔力が上がっていたのか中々尽きなかったが、三十分が過ぎたあたりで意識が段々遠退いて行き、ゆっくりと俺はその場で崩れ落ちた。
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