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五十三話
しおりを挟む俺は夢を見ていた。
軽トラで山道を登り、開けた場所に車を停めて、爺さんに声を掛ける。
すると爺さんは振り返り
「婆さんや林檎の実の付き具合はどうだったね?」
「中々良い具合に育っていたよ、爺さん。それと、もう直ぐお昼だろう? こっちに帰ってから食べるのかい?」
「いや、タクミ君が焼肉をしてくれるみたいだからこっちで食べるよ」
「そうなのかい、じゃあ……あたしゃ帰って林檎を見ながら食べるとしようかねぇフェッフェッフェ」
「ばぁさんや……また悪い顔しとるぞ…… いいかい? 何度も言うけどあの実の種から作った林檎だとしても例の実には成らんのだぞ?」
「分かってますよぉお爺さん。 それでもあたしゃ期待しちゃうんですよ 食べたら若返るんじゃないかってね」
そしてニヤーと笑いながら婆ちゃんは軽トラに乗って山を降りていく。
その後ろ姿を見守りながらため息を吐く爺さん。
「上村のジッちゃーん!」
と、家屋の方から爺さんを呼ぶ声がして
「今行くよーう」
と叫んで軽々とした身のこなしで凸凹の道を走って行った。
何となく懐かしいようなそんな夢
だけど目覚めたタクミは憶えていなかった。
「……み……」
「タクミ……」
「タクミってば! 大丈夫⁉ 目を開けてよー!」
俺を呼ぶ誰かの声で意識を戻すと目の前に涙で顔をクシャクシャにしながら俺を揺すり泣き叫ぶメリヌが居た。
「お……おはよう?」
「あ! 起きた⁉ よがっだぁあああっ」
力いっぱい抱きしめられて少し痛い。
だが心配をかけた様なので放っておく。
「悪い……俺はどれくらい寝ていた? てか、ここ何処だ?」
何かふわふわした場所で寝てるようだった。見たことのない天井が見える。
メリヌを宥めて起き上がるとあたりを見渡し
「ここ何処?」と改めて聞く。
「タクミが作った部屋だよ? んでベッドの上。 すごいねこれ!藁じゃないんだよ!」
そう言うと俺の横に飛び乗りポヨンと跳ねる。
はねた瞬間キシリと音がなる。
「あ……スプリング?」
俺は立ち上がり布団をめくり確かめる。
やっぱりそうだ、家で使ってた日本によくあるタイプのスプリングベッドだった。
地味に掛けてた布団も羽毛ときた。
ゆっくりと部屋を眺める
白い壁に高い天井 窓もあってそよ風で揺れるカーテン。
丸い室内で白い階段が見えたその上に扉があって、その奥はオレンジ色の灯りで部屋を照らしているようだ。
「タクミ起きたの?」
そう言いながらオレンジ色を遮ってラメルがお盆に何かを載せながら階段下りてきた。
「あなたね……魔力注ぎすぎよ。本当に倒れるまで注いでどーするのよ」
そんな説教とは言い難い口調で横に椅子を出して座ると、枕元にお盆を置く。
「……あっここ車内?」
「何……やっと分かったの?」
お盆に載せていたスープ皿の蓋を取ると、中から美味しそうな香りがし始めた。
「スープ粥よ、自分で食べられる?」
「ああ、ありがとう頂くよ」
俺はベッドに座り直しスープ粥を啜る。
「美味いなこれ……」
「魔力枯渇時に食べるチコの実を茹でて隠し味にしているのよ、後でダリルにお礼を言っときなさいよ?」
「ダリル?」(誰だ?)
「トリーユの旦那さんよ! あなたまさか知らなかったの?」
「あ……?ああ、あまり人の名前って覚えないんだよな」
「全く……しょうがない子ねぇ……それと、メリヌにもお礼言いなさいよ? 倒れてるあなたをここまで運んで、私達に知らせてくれたのは彼女なんだからね?」
「そうなのか?」
と、メリヌを振り返り見ると顔を赤らめてそっぽを向いた。
そんなメリヌの頭を撫でながらお礼を言う。
ラメルは立ち上がりそのまま隣の部屋へと向かう。
「ニヤニヤが酷いわねぇ……あんた達早く結婚しちゃいなさいよ、いい加減鬱陶しいのよ」
と、ラメルが階段を登りながら言うが
無意識にイチャイチャし始めた二人には聞こえていないようだった。
「はぁぁ……」
「食べ終わったら話あるからね、タクミ、聞いてる?」
「え?ああ、うん。大丈夫~」
(駄目ねあれ……生返事だし)
もう一度ため息を吐くと扉を閉めた。
メリヌに呼ばれて焦り、馬車を見て驚いた。
正一が作った時は箱型の馬車だった物は小さく成っていた。
二人で乗ったら多分荷物は屋根に載せて運ばないと無理だろうと思える程だった。
そんな小さな馬車から扉を開けてメリヌが手を振って立っていた。
駆け寄って聞けばタクミが倒れたと、意識がないと、顔も青ざめてると聞き急いで向かえば、ただの魔力枯渇で呆れた。
車を降りて回復ポーションを取りに行こうとしたら、ダリルとトリーユにあって枯渇ならポーションで魔力を急に上げるのは体に良く無いからといってお粥を作って持ってきてくれた。
それにしても……改めてラメルはこの車内を見渡した。
(どんだけの魔力を込めればこんな部屋になるのかしらね……)
馬車に乗り込み扉を閉めると同時に天井が高くなり、扉が出現。 その扉を開けると中は玄関になっていて幅2メートルは有るだろうかってくらい広かった。
そして奥に入ろうとすると体が動かなくなり、どこからか声がして
『靴はお脱ぎください』
と、頭の中から響くのだ。
精霊である私の頭の中から響くなんて初めてで腰を抜かすかと思った。
(私もよくやるけど、いきなり頭の中で声がすると焦るのね……改めようかしら)
そんな事を考えながら靴を消すと中へと進んでいく、変わった造りのスライドドア(襖)を開けると、何かの草で編んだ敷物(畳)が沢山引いてある部屋に出る。
その部屋には二つの似たような扉があって、正面には桃色の花(枝垂れ桜)が咲いてる木の絵が大きく描かれていて、そこもスライドドアに成っていた。両開きに開くと更に部屋が有ったが狭かった。
四角い変わったランタン(行灯)が置いてあり、中で灯りがユラユラしている。
よく分からない家具も置いてあり用途が分からないので閉める。
「あとでタクミに聞こ……」
その部屋を跡にして右側の扉を開けると、廊下があり、すぐ横は外だった……(中庭)
その外(中庭)をぐるりと囲む様に廊下が続いていたが、所々に格子状の扉(障子)が並び、一つ一つが部屋になってる様だった。
少し怖くなったので引き返して、正面にあった扉(桜の木の襖を正面に見て左側)を開くと、床板が広がっていた。
そこには食事を作る厨房(オープンキッチン)というかよく分からない物が鎮座していた。
この部屋の明かりはオレンジ色をしていて、何か落ち着く感じがする。
食事を食べる机も厨房にくっついてるようで(カウンター式ダイニング)、作ったものがすぐ食べられるような作りだった。
台所を正面に見ながら右奥が少し下がった部屋に成っていて、其処にタクミが寝ていた。
兎に角……不思議な空間だった。
もっと見たかったが
『黒ウサ? 今どこ? もう直ぐ晩御飯だよー』
というブラウンの呼び掛けがあったので帰ることにした。
きっと元気に成ったタクミが部屋の紹介してくれる筈と思いその場を跡にした。
ドア越しにメリヌにも晩御飯だよっと声を掛けてから外に出る。
月明かりの綺麗な夜空を見ながら大木の家へと歩いていった。
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