65 / 88
六十五話
しおりを挟むソフィーリアに綿飴を食べさせながら商業ギルドへと向かう。
一応お貴族様……というか王族繋がりなので、魔力車へと乗せて中を案内したらいたく気に入ったようで
「ここに住む~~!」
と、言い出し始め、権力使ってでも絶対に住むからっ!と駄々をこね始めた。
が……
緑ウサ(ペロン)赤ウサ(チェリー)水色ウサ(ソラ)やらがヒョコヒョコ現れてジーッと見つめた跡、トドメのように黒ウサ(ラメル)が出てくると土下座して震えながら謝っていた。【茶ウサのマロンは運転中】
「俺達が滞在する少しの間なら寝泊まりしても構いませんよ」
そんな彼女を見て可哀想に思ってしまい、そう伝えた。
だが恐れ多くて生きた心地がしないからと首がもげる程の勢いで横に振って断られた。
こんなに可愛いウサギなのになぁと思うけど、これがこの世界の常識なのかも知れない。
精霊様は神の御使いだとか、魔力の根源だとか書物に書かれているし、幼い頃からそう言われて育てば俺だって恐れ慄いていたかも知れない。
(その割にはメリヌは普通に接している様な……?)
少し不思議に思ったが、メリヌはメリヌだからなんだろうと無理やり納得した。
その後マロンが運転してるところを恐る恐る眺めては目をキラキラさせて窓から見える景色を眺めていたから、嫌では無いんだろうな……。
道中揺れない様に気を付けながら走ってくれていたので、酔う事も無かった。
ゆっくり走ってるからか少し時間が掛かるので、お茶にしようと誘いメリヌに二階の草原へ連れて行く様に伝えた。
そして、お茶と綿菓子と盆に乗せて俺も草原に向かう。
綿菓子を出した時点でマロン以外のウサ達も二階へと登っていった。
(ギルドに着いたらマロンだけ別にお茶と綿菓子をだしてやらんとな……)
草原の真ん中でシートを広げてそこに全員座ってこちらを見ていた時に思った。
(本当に綿菓子が好きなんだなぁ……ウサギって……)
畏れ多いと言っていた先程の態度からは考えられない程打ち解けて、綿菓子を貪り食ってる二人とウサ達を見る。
ウサギって甘いもの食べていーんだっけ……?
心の中で呟いた筈が、ウサ全員に睨まれながら
『『『精霊だからいーの!』』』
と、突っ込まれた。
俺はあまり好きじゃないので一欠片食べた跡はお茶を呑んでいる。
和やかなお茶会をしながらギルドへと着くと、魔力車の見張りをペロンに頼み、残りの者達で運転してくれたマロンをもてなす様に言って、ラメルを影に潜ませながら商業ギルド本店へ俺とメリヌにソフィーリアと入っていく。
俺の顔を知ってる者達は軽く会釈して慌てて足早に通り過ぎていく。
(なんか……避けられてるような……?)
『草原を焼いた張本人だからよ』
(さいですかー)
どうやら文句を言いたいが助けられた手前、何も言えないとか何とか
……溜息しか出なかった。
桃肉祭りが終わると一気に人も商人も減るようで、地元に住む者達しか居なかったので、宿屋の関係者だろうな。
そのまま放置する事にして周りを見渡し、ギルド員を見付けて話し掛けると、慌てて二階へと案内してくれた。
ガラス質の地面が水晶だと分かっているのかとも思ったが、どうやらソフィーリアの顔を知っているようで、どの職員も顔を見た瞬間姿勢を正して挨拶をしていた。
「なんだ、ソフィーリアって実は良いとこのお嬢様かなんかなのか?」
「ん?あれ……言ってなかったっけ? 私は山国の王妃の従姉妹って」
「ああ、それは聞いたよ」
(あの王都って山国っていうのか……初耳……山裾の街は地方都市だったのか……)
『なぜ知らんのだ……』っと、ラメルに突っ込まれた。
「うん、だからだよ」
「ふーん……どういう事?」
爵位の事はよく分からなかったので聞いてみたら……
「山国の王妃は元々この国の王族ガーディアン家の長女なのね? んーと先王の娘だから今の王様の妹さん。で、私は王様の弟の娘なのよ。まぁ、公爵家の末っ子だけどね」
つまり……
ソフィーリアの父は王弟で王妃とは姉弟……
「なぁ、ソフィーリアさんや?」
「なぁに?」
「それは王妃の従姉妹じゃなくて王妃の姪って言うんじゃないのか?」
「ん? そうなの?よく分かんないよ。
山国の王様にも、小さい頃説明されたけど良く分からないって言ったら従姉妹とでも言っときなさいって言われたし」
(……諦めたな王様)
うんまぁ俺もよく分からんから従姉妹にしとこうか……と言うしかなかった。
『諦めんな人間よ……』
(うっさい!頭がこんがらがるんだよ昔から)
そんな話をしながら案内人の後ろを付いていくと、ギルドマスターの部屋の前で止まりノックした。
「どうぞー」
と、ここでもどうぞ娘が居るようだ……。
ガチャリと扉を開けると、目の前の席には厳格な顔に少し厳しそうな淑女が窓の外を眺めていた。
どうぞーっとしか言わない娘はその淑女にカーテシーをすると、隣の部屋へと消えてった。
その淑女はソフィーリアを見ると、ツカツカと歩いてきて……
突然泣き出しながら飛び付くと
「ソフィー様!何処へ行ってらしたんですか⁉ 探しましたのよ⁉ さぁ!帰りましょう! 御父様の将軍様もたいそう心配してましてよ!」
と一気にまくしたて、抱き締めながら横抱きに抱えると部屋から飛び出していった。
ソフィーリアは一言も言えないまま……寧ろ、ここに何故あなたが⁉的な顔をしながら扉の向こうへ消えてった。
そこに残された俺達はボー然と立ち竦み、取り敢えず草原に戻ろうかどうしようか迷っていた。
すると後ろの扉から、クマ耳を携えた大男が現れた。
「あー……すまんなタクミ殿。私はこのギルドのマスターで、熊人族の長を努めてる、ベアードという。
まぁ、知ってるか……
二度ほど会ったもんな。
……取り敢えず将軍の娘は屋敷に連れ帰るそうだ。
んー……と、どうするかなぁ……
まぁなんだ、取り敢えずお茶でも呑みながら話し合おうか……」
そう言うとソファーを勧められ
お茶を頼むと言うとベアードも座る
程なくしてお茶を持ったどーぞ娘がやって来てお茶を出した跡、ベアードの後ろに立つ。
「ああ、無愛想ですまんなぁ……この子は」
「申し遅れましたサブマスターのサラと申します」
そういってカーテシーをした。
どーぞ娘では無かったようだ
「それでですなぁ……草原の事なんですが……」
少しお茶を飲み合い他愛ない世間話の跡ギルマスが話し始めた事によると
草原はガラス質を取っぱらい、早々に種を植えたいのだが、あの娘がしゃしゃり出て来て管轄が将軍へと移ってしまい、にっちもさっちも行かないんだそうだ。
草原も種を撒いたところで二年では元のようには戻らず、どんなに急いでも精々六割戻れば良い方なのだとか。
「ただし、それは今すぐ種を撒いた場合何ですよ……」
と、クマ耳を下げながら困った顔をするベアード。
「それでですね、タクミ様 クエストの依頼なのですが……」
ベアードの変わりにサブマスターが続ける。
将軍を説得して娘のソフィーリアを連れて戻り、水晶の地面を剥した後耕して欲しいと言われた。
「いや、まぁ耕すまでは一日あれば何とかしますけども……将軍を説得とは?」
(嫌な予感しかしなかったし、こういう予感は大体当たるんだよなぁ……)と、思っていると案の定で
「実はソフィーリア様を溺愛してまして、こちらの話は全く聞き入れてくれないんですよ……なので、どうにかしてくださいませんか?」
「どうにかって言われてもなぁ……ってあれ? ガラス質の地面が水晶ってことを……?」
「もちろん把握しております。優秀な諜報員もおりますから……しかし、水晶よりも草原の方が大事なのですよ、この街にとっては死活問題ですからね」
と、にこやかに言われた。
(まぁ、そうだろうな……)
『天下の商業ギルド抜け目なしね』
と、ラメルも納得していた。
因みに将軍の預かりになった理由はソフィーリアが一言
「見てみたい!」
と、言ったからだそうだ……
1
あなたにおすすめの小説
白き魔女と黄金の林檎
みみぞう
ファンタジー
【カクヨム・エブリスタで特集していただきました。カクヨムで先行完結】
https://kakuyomu.jp/works/16816927860645480806
「”火の魔女”を一週間以内に駆逐せよ」
それが審問官見習いアルヴィンに下された、最初の使命だった。
人の世に災いをもたらす魔女と、駆逐する使命を帯びた審問官。
連続殺焼事件を解決できなきれば、破門である。
先輩審問官達が、半年かかって解決できなかった事件を、果たして駆け出しの彼が解決できるのか――
悪しき魔女との戦いの中で、彼はやがて教会に蠢く闇と対峙する……!
不死をめぐる、ダークファンタジー!
※カクヨム・エブリスタ・なろうにも投稿しております。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる