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七十四話
しおりを挟む『そいしじゃあ! 浮かせるよ!』
ソラが川の水を浮かせる。
山の方から流れてくる水は一時的に凍結させて流れて来なくさせている。
草原側の水は相当量あり、浮かせる事自体が既にあり得ないのだが、流石は水の精霊である。
川全体の水が飛び散るのを防ぐのはペロンの役目だった。
吹き上がる様に跳ねる水を纏めてくるくると回しながら操っていた。
『じゃあ削るよー』
そうマロンが言った先から川底を掘り下げていく。
”ドドドドドッ‼”という音と共に削られていく川底はどんどん深く掘り下げられ、堀あげた土は対岸の壁にコンクリートの様に張り付いていく。
そこをチェリーがマグマの様に溶かした土を左官屋さんの如く塗りたくり、塗ったそばからペロンが浮いてる川の水をかけて冷やしていった。
激しく立ち上がる水蒸気は周辺を一気に曇らせて行く。
冷やす為の川の水が足らなくなると
凍結させてをおいた水を流し冷やしていった。
水蒸気が晴れる頃には谷底の様になった川が出来ていた。
山側から流れてくる川の水は滝の様に谷底へ落ちて行く。
硬い岩盤がある様で、砂は流されて岩肌が見えて来ていた。
岩に当たって流れる滝は幻想的に光を反射し、複雑な模様を描き対岸の壁に光のコントラストを生み出した。
その後、皆の力を借りて草原の水晶化した部分を剝し、アシュの持ってるバッグへと放り込んでいった。
一時間もするとすっかり剥がれた水晶部分は無くなり、跡は種を撒くだけで良くなった。
「ふう、これで何とかなるだろう」
タクミは精霊達が作業をしている最中、森の木を切って橋を作る材料を集めた。
流石に削った草原側と対岸とでは段差があり過ぎたので橋をかけなくては渡れない。
橋はそこの一本だけにした。
こうすれば橋を渡って街へと流れ込む桃魔森猪も居なくなるはず。
なので、麦畑も復活出来る筈だと考えた。
跡は街の周辺に出没する黒魔森猪を一掃すれば、出て行った街の住人も戻ってくるはず。
街の周辺に現れる黒魔森猪は、冒険者達に任せるべき事柄なので手は付けないでいた。
見掛けた群れだけを叩く様にはしているが、基本放置だ。
特に依頼があるわけでは無かったし、タクミ達以外の冒険者達には、閑散期の良い収入になっているからだ。
俺達は依頼をこなし、ギルドへ報告後そのままアシュに乗って王都の公爵家へと戻った。
日は跨いでいたが、その日の明け方近くには公爵の中庭に戻る事ができた。
一方その頃公爵家では、未だに何も知らぬまま、夜更けまでお祭り騒ぎで踊り明かしていた。
祈りの間では、精霊を象った神に祈りを捧げている信者達を残し、ナトリにも内緒でソフィーリアが旅支度を整えてアシュ達の帰りを待っていた。
魔導師はちゃんと他に居て、精霊達はただの友達だと伝えても全く聞いて貰えなかった。
そして、魔森の街の草原の事もあったので直ぐに現場へと戻りたかったソフィーリアは、精霊達の為に共に祈りたいと教会へと押し寄せてた住民を祈りの場へと誘導した後、自分の付けていたウィンプルを一人の熱心に祈る女性信者に被せて身代わりにすると旅装束に着替えた。
音も無く着地したアシュを確認したソフィーリアは、素早く教会の戸を閉めると大きな荷物を抱えながら走り出した。
もうすぐアシュの足元へと辿り着ける。
そう思った瞬間、轟音と共に空から水晶の塊が庭に落ちてきた。
流石に驚いて立ち止まると、荷物を盾にして蹲る。
その塊は中庭に積み重なる様に落ちると、地響きで建物を揺らしながら山を築き上げた。
王とその弟のガンダルフ達は、突然の地響きで一気に酔いが覚めたのか、駆け出すように邸宅から走り出し、水晶の山を確認した。
聖獣が淡く光り、その側に跪く聖女はまるで、物語の一幕にある様な富を象徴する絵画によく似ていた。
それを見た王や他の者達は更に勘違いする。
ある者は祈り、ある者は歓喜して倒れ、殆どの者がその光景に魅入っていた。
「おお……聖女様! 感謝します」
そう言って大司祭は膝まずき祈る。
「我が娘よ……」
そういうとガンダルフは誇らしげに王を見据えドヤ顔をすると、王は悔しそうに顔を背けるのだった。
王妃は予定しているパレードの後ろに聖獣が歩けばもっと映えると考え、脳内で考えたイメージを大幅に修正した。
「下にソフィーリアが居るよ?」
仕事終わりに朝飯を食べ終わり、外を眺めながら食後のお茶を呑んでたメリヌが座り込むソフィーリアに気付く。
「えー、なんで?」
『旅装束を着てるし乗り込もうとしてるんじゃないの?』
メリヌの言葉に集まってきたタクミとラメルも下を覗きながら困惑した表情で呟く。
『連れて行く用事も済んだし必要なくない?』
「まーなー……」
『……我が言って聞かせましょうか?』
管内に響く声でアシュがそれに応えると
「うーん。俺が言ってくるよ」
そういうとタクミは下へと続く階段に向かって歩き出した。
『ちゃんと断ってくるのよー?』
腕組みしながらその背中にラメルが伝えると手を振って応えて降りていく。
その後ろを走って付いていくのはメリヌだった。
「ん? 大丈夫だよメリヌ俺一人でも」
足音で振り返り俺一人でも出来るよと言うが、メリヌは首を振り
「私は出会った頃からタクミの護衛なので、嫌がられても付いてくの」
頑なに拒むと背中に腰のバッグから防具の亀の甲羅を背負う。
「そっか、じゃあ一緒に行こう」
そういってタクミはメリヌの手を繋いで階段を降りる。
「お、おう!」
メリヌはなぜ手を繋いでるのか分からなかったが、まんざらでも無いようで頬を赤らめながら一緒にタクミと並んで歩く。
腹の下から出ると、何故かソフィーリアの周りには精霊教の信者達に祈られて困惑してる姿が目に映った。
「あ! タクミ様! 魔導師様! どうか私も連れてってください!」
タクミを見付けた瞬間ソフィーリアは駆け寄ってその背に隠れる。
「いやいや、もう草原の水晶帯は剥がし終わったからソフィーリアとは此処で別れる予定なんだけど……」
背中に隠れるソフィーリアに向かってタクミが同行を断ると驚愕しながら
「剥がせたんですか?」
「うん。もう終わったよ?」
タクミの背中に縋りつくソフィーリアとの間に割り込みながらメリヌが言うと。
一歩下がって後ろにある山の様な水晶を見上げる。
「あ……もしかしてアレですか?」
「そうそう、半分はタクミの報酬だから貰った」
「ああ……そうなんですね……終わった……そうですか……」
俯きながら事実を突きつけられたソフィーリアの目から涙が溢れた。
「えええ⁉なんで泣いてるの⁉」
その涙を見たタクミは動揺を隠せなかった。
「家から離れる事が出来る口実でしたので……」
そういうとしゃがみこんで泣き出した。
それを見た信者達は護衛が聖女様を泣かしたと口々言い始め、小波のように広がると、その声は王や、ガンダルフ達の耳にまで届く事になった。
「たかが護衛の分際で魔導師兼聖女たる我が娘に何たる態度だ!」と、憤り武器を持ってこいと近衛兵達に命令し始めた。
公爵達の動きはたちまちの内にペロンにバレて脳内通信で忠告を受けた。
「何か知らないけど、公爵達がこっちに攻撃を仕掛けようとしてるみたいだから俺達はソロソロ行くよ」
また何かあったら会おうと告げて、タクミが去ろうとしたら、ソフィーリアは素早く荷物を捨て置いて出入り口へと、走って消えた。
「おーい……」
静止も出来ぬまま中に入られてしまってタクミは呆れると、その後ろを追い掛けてアシュの中へと消えた。
それを見た公爵家の兵士達が騒ぎ始め、物々しい雰囲気へと変わっていった。
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