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七十五話
しおりを挟む「聖獣よ! 我は其方の契約者の聖女の父である! 畏まって扉を開けよ! 其処に聖女の敵が入って行ったであろう!」
神獣であるアシュを公爵家の私兵達が囲む中、先頭を務める公爵が偉そうに宣う。
契約者が娘であれ、契約した者以外の事など関係無いと言うのに……。
『我の契約者は聖女では無い。 お前の事など知らぬ』
当然アシュが断ると得意げに公爵は続ける
「其方の契約者は魔導師であろう? 多くの精霊達とも契約を結んでいるのは知っている! その魔導師が儂の子なのじゃ! 分かったら早々に門を開き賊を討たせよ!」
アシュは少し考えてタクミに質問してみたが、当然親子でも何でもない赤の他人だった。
『我の契約者は確かに魔導師だが、貴様など知らんと言っておられる。 早々に立ち去られよ』
「な、なに⁉ ソフィーよ! 儂じゃ! お前の父は儂だけじゃ! 知らぬなど嘘は良くないぞ⁉」
公爵は焦りだし中に居るはずの娘に訴える。
『用がないなら我の前から去れ。 去らぬのなら力を使う事になるぞ?』
そう言うとアシュは体全体に魔力を通す。
すると、淡く光っていた身体から強烈な光りが陽の光よりも眩しく輝き始めた。
「ぬおっ⁉ 何も見えぬではないか! おのれ! 獣の分際で!生意気な! 構わぬ! 聖獣ごと弓を討て!」
前が見えないのは公爵だけではない事に気付かない公爵は弓を射よと命じるが、当然弓手も見えていなかった。
だが、命令には逆らえず取り敢えず数十人の弓手があちらこちらに弓を射つ。が、全くカスリもしなかった。
教会の中から扉を開けて見ていた信者達は聖獣に向かって攻撃を始めた事に腹を立て、軍隊の後ろから石を投げ始めた。
「貴様聖獣様に向かってよくも!」
「くたばれ! 公爵!」
ある者は棒きれを掲げ、果敢に兵士へと殴りかかる。
ある者は兵士の腕を掴んで投げ飛ばした。
前方から光の攻撃を受け、後方からは教会信者達の攻撃を受けた公爵は動揺し始めた。
聖女であり魔導師のはずの娘からは知らぬと言われ、味方と思っていた聖獣にも攻撃され、守るべき民からも攻撃された事で心が少し折れかけた。
「将軍! この場は引きましょう! このままでは……」
と言いかけた兵士も信者達の投げた石に当たり気絶した。
「おのれ! 一旦引け!」
と、号令をかけるも自身の邸宅で中庭で逃げる場所の筈の建物には信者達が居るし、何処にも逃げ場が無いことに今更気付いた。
やがて兵士達は逃げ場は柵の向こうにしか無いと分かり、石と鉄の柵を乗り越えて四方八方に散りながら逃げた。
公爵は……目がまだ元に戻らず武器を振り回しながら半ばパニックになっていたが、棒きれで殴られそのまま気絶した。
信者達に倒れた公爵と兵士達は縄で縛られ転がされた。
それを見たアシュは光るのを止めて跪く信者達に感謝した。
『親愛なる我が友よ、我を守る為に戦ってくれて有難う。 感謝する』
「なんと!もったないお言葉! 我ら信者一同は聖獣様の味方で御座います! 聖獣様の敵は我らの敵で御座います! 公爵とはいえ攻撃して当然で御座います!」
そう言って一心に祈りだした。
『そうか、ならば真実を伝えるべきであろうな。我は聖獣に在らず神獣である。 大魔導師タクミの契約者にして、盾であり矛でもある。 我を攻撃するわ魔導師と敵対する事と心せよ!』
そう言うとフワリと浮き上がり邸宅のバルコニーで観ていた王の周りを一瞬で破壊した。
王は身動きできずに立ち竦み、周りにいた王妃は立ったまま気を失い、大司祭は泡を吹いてぶっ倒れた。
辛うじてその場には誰も居なかった為に死者は出なかったが、天罰とも言える攻撃を受けた王族は大多数の国民から信頼を失うことになる。
その後わずか数年で王都は崩壊した。
ガーディアンキャッスルの国民の八割が精霊信仰だった為に、神獣様に敵対し攻撃した事はまたたく間に国中に広がる事となり、各貴族達も国民の大半が信者であった為、王を見限る者が増えた。
その多数の貴族達は山国へと助けを求め、これを承諾した山国の王は貴族達をそのままの待遇で受け入れた。
そしてさらに数年後国境は無くなり、山国がこの大陸を統一する事になるのだが、それはまた別のお話。
公爵の邸宅を破壊した跡、山裾の街へと戻る最中、ソフィーリアを如何するかで話し合いが行われていた。
ソフィーリアはアシュの攻撃で帰る家を失った。
その原因はソフィーリアにもある為強くは言えないが、面倒は見て欲しいと言い、ここに住まわせるだけで良いからと提案する。
ラメルは光の精霊二匹いる事で均衡が保たれていたのに、そこへ聖属性の神獣と聖女まで居ると、流石に力が足りないからタクミの影に引き籠もるか消滅するかしか無いと憤る。
現に話し合いの席ですら姿を現せずタクミの影に入ってる状態だった。
メリヌはタクミと部屋が一緒なら問題ないらしく、特に何も言わなかった。
アシュは自分の仕出かした事を反省してるのか、無言を貫いたままだった。
『うーん、取り敢えず黒ウサの力を強くするかしか無いよね?』
腕を組みクビを傾げながらブラウンが答えると、それに賛同しながらレッドが頷く。
『でも力をつけるには魔森の奥深くで暫く眠りに付かないと無理じゃない?』
ソラは一度魔森の奥へと足を踏み入れた事があるので、魔素の濃い場所を知ってるという。
「それは何年眠る事になるんだ?」
『少なくとも5年10年て話では無いわね……』
そうラメルが力無く答えた。
「そうなると結界はどうなるんだ?」
『無くなるよ』
『無くなるね』
精霊達は口々に同じ事を言うと腕を組んで悩む。
『既にアシュのお陰で均衡は保てていないのよね……実は』
「は?……え?……既に?」
『最近結界が薄まってるのか所々で修復する時に膨大な魔力を持って行かれてるみたいなの』
「え……いつから?」
『水晶帯を剥がして中庭に置いた辺りに気付いたのよね……だから、もしかしたらもう少し前から……かも?』
その事実には一同は絶句する事になった。
当然闇の魔力で結界を張っているので眠りにつくのは却下になった。が、魔力が薄まりつつあるのも事実で……
途方にくれて頭を抑えた時にタクミが何かを思い付いた。
「あっ! shine Apple食べたらどうなる?」
『それだと確かに強くなるけど……生ってる場所知ってるでしょ? あそこ一応神の力が残る場所だから私は入れないわよ?』
「影に入ってても?」
『入ってても無理ね』
「うーん……じゃあ何かに憑依した場合は?」
『憑依?』
「例えば獣とか?」
『うー……ん。闇属性のヤギンなら……いけるかしら?ね……』
「何ヤギンて?」
そう俺が質問すると、マロンが土塊で形を作ってくれた。
その形はまんま山羊だった。
しかもこの世界には居ない種なのだという。
じゃあ何処からとなると……地球からって事だろう……。
「うー……。 一度日本に行って買ってこないと無理だろそれは……」
タクミは自分の姿を思い出し、姿形はようやく昔の自分が高校生になったくらいである事に気が付いた。
「うーん……流石にまだ早いような……」
そこで再び唸る中、ソフィーリアが思い出した事を伝える。
「帝国には異界へと繋がる井戸があるって聞いたことあります!」
そこを通って帰ってきた帝国の魔道士が言うには、魔力を使えない者達ばかりなのと、魔法とは違う流れで進んでる世界だったそうだ。
確か教科書に載ってたんですよと、その帝国魔道士が記念品として持って帰ってきた物を念写で写し撮った物があると言うので見せてもらうとそこには……
でんでん太鼓とお手玉が写っていた。
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