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12話

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「亮介…その人参切っといてくれ」

「ほいほい」

「そっちのキャベツはざく切りで」

「りょ!」

息子の亮介と義弟の引っ越して来た村でキャンプをしている

今は晩飯の準備をしているところだ

俺は自炊もしていたのでそこそこ飯は作れるし不味くもないと思ってる

妻は社交性はずば抜けているが、家事等はまるで駄目で料理はもっぱら俺の仕事だ

ここまで来るのに何処で知り合うのかオカマバーのママと友人関係になり、車も出して貰った

別れの挨拶は息子がやれといって居たが
まさかハグまで強要してたとは思わなかった

まぁ、それで満足した妻の友人は無償で運転した上に対価も貰わずに帰ったらしい……
【ハグが対価になってるとは思ってない】

変わった人ではあったが優しい人なのだろう

当初の目的なのがこのキャンプなので失敗のない物にしなくては!

「全部切ったよー父さん」
「そしたらこっちの鍋に入れてくれ」
「んー」ボチャバチャとまな板から入れていく

熱っと指を咥えた息子の指を掴み泉の水で冷やしてやる

「鍋に入れるときはゆっくりな」お湯が跳ねて危ないからっと教えてやる

「ぅん…ありがと 父さん」そういう息子は少し笑って俯いた

最近…息子の趣味が発覚して
喧嘩して少し気不味くなっていたので
会話らしい事をしてる今がとても嬉しい

そう言えれば良いのだが…中々言えるものではなかった

そうこうしている間にカレーが完成した
飯盒のご飯ももう少しで出来る

皿を用意してスプーンを息子に渡しておく

前まで無かった石の椅子に座り
真ん中の椅子を机代わりにして飯を囲う

少し焦げが出来た米を皿に盛り
カレーを掛けた

頂きますと二人で手を合わせ
口に運ぶ息子を見ている
「美味しい!」そういって笑う息子が眩しかった

俺も食べて「うん!美味いな!」と笑うと

息子と目があった

今度は息子も目を逸らさずに俺を見ていた

二人でニコリと笑ったまま食べ続け
オカワリまでしてくれた
残りのカレーは明日にと取り置いて

食後の紅茶を息子が淹れてくれた


少しそのまま紅茶を飲んでいると
息子から語りだした


「僕の趣味は女装なんだ…可愛い服を着るのが好きなんだ…でもね父さん  恋愛対象は女性なんだ!そこはちゃんと分かって欲しい!ただの趣味なんだ!」

そう熱く語る息子はとても真剣な目で訴えた


「趣味は人それぞれだ…それは分かるんだ…」
まさかソッチの道へ進む気なのかと気になり

もしかしてお前…と言いかけたら

真ん中の椅子にグラスが2つ現れた
其処にはお酒が入っているのか少し甘い香りがした

「…亮介がだしたのか?」

「…父さんじゃないの?」

二人してジーッとグラスを見詰める

見詰めていても仕方ないと飲む事にした

「父さん?呑む気…「お前も飲んでみろ」…分かった」
食い気味になったが、グラスを鳴らして乾杯し
二人で酒を飲み交わした

その酒は多分蜂蜜酒だろう
強い…だが、美味いな…

「うん!僕もそう思う」

和やかになった二人の間には先程までの緊張感は取り払われていた

グラスの酒を飲み干し、空のグラスを見ると
再び並々と入ってる蜂蜜酒

息子の方もそうだったらしく
「この村って不思議な事が沢山あるね」

このお酒とかっとグラスを傾けながら笑う

「本当にな…」と俺も笑う

そのまま他愛ない話に笑顔が溢れ
久し振りの父と息子の語らいが続いた

真剣な話はしなかったが
何故か分かり合えた気がした

「…大丈夫だよ父さん」
「ああ…そうだな」

多分息子も同じかも知れない



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


父さんに趣味の事を説明して分かってくれた気になった


不思議な事が立て続けに起こってる気がする

ただご飯を一緒に食べて
どこからか現れた飲んだことの無い味のお酒を飲み交わしただけなのに

父さんの言いたい事が伝わった気がする

つまり父さんは僕の将来を心配しているだけなんだ

女装趣味からオカマちゃんになるんじゃないかと危惧してるだけなんだ

だから僕は言ってやった
「大丈夫だよ」って
父さんも返事したし

まぁ、これで分からなかったら仕方ない
それでも良いと思った


その男は冴えない感じの男だった
娘なのかあまり似てないが将来有望そうな可愛い娘を連れて歩いていた
犬のコスプレが皿に可愛さを引き上げていた

冴えない男はポケットから金貨を出し
幾らになるか聞いてきた
俺は此れでもコレクターだ特に金貨に掛けちゃ色々知ってる方だと思っている

だがそんな俺の知識からその金貨はヒットする事はなかった

見た事もない金貨だった
造形はもとより細工もまた素晴らしかった
ふと昔一枚だけ似た細工のコインを思い出した

そのコインの名は

【Witch GOLD Coin】

まさに文字の如く魔女の金貨と呼ばれるもので
18世紀末の公爵が1枚だけ持っていた幻のコインだ

何故魔女と呼ばれているのかは1つの細工がされているからだという

このコインに光を当てると 屈折か何かで
魔女の笑う映像が映し出される

その仕組みは未だに解明されておらず
殆どアーティファクトとして認識されがちだが
列記としたコイン枠なのである

そしてこの冴えない男が出した金貨もまた
本物かも知れない
「拝見します」といって電気を消す許可をその男から貰うと

懐中電灯を使って金貨を照らした
するとどーだ!金貨に当たった光は屈折して
奥の壁に魔女の帽子を被った女がこちらを見ながら笑っていた
ー本物だ!ー
この冴えない男は分かっているのだろうか…この金貨の価値を…希少性を…答えは否である

無造作にポケットから出して良い代物ではない

それをコイツは…まぁいい…

価値の知らない男は損をするだけだ

金の値段分で買い取ってしまおう

この金貨の重さは…まぁ、こんなもんか
金貨だしな

「50000で買い「帰るぞ」待ってください!」


ちっこの男少しは価値が分かっているようだ

引っ掛けやがったな…くそ

なら仕方ねぇ!

「10ま「帰るわ」ま、ま、まってくれ!」


「なぁ金券屋さんよ…あんたがこの金貨の価値を正しく理解してるとは思っちゃいねーけとな?」

「あんまり舐めたことしてるなら他に売るぞ?」

「さぁ正しい金額を言いな!」


「くっ…知ってたのか?」
魔女の金貨だろ?知ってるよニヤリと笑ってやる


なら!なんで持ってきた!っと怒鳴ると冴えない男はこういった


うちにパソコンが無い
あんたの所にはある
だったら借りたほうが早いだろ?っと…


クソ!オークションで良いよな!?
ああ!因みに…と言ってポケットに手を入れた男はチャラリと4枚の【魔女の金貨】を出してきたのだった


すべてのコインに懐中電灯を当てるとすべてのコインで魔女が笑った


こいつは驚いた…この五枚セットだといくらになるかだと?


5枚とも同じ仕様なだけだから1枚の値段✕5枚だろ?


なに?違うのか?良く見てみろって?


何が違うってんだ…なに?重ねろ?


「なっ!!」


重ねた5枚の金貨から映し出した魔女は笑ったあとの行動を始めた!

手を叩き…机を叩き…笑い転げ…遂には椅子から転げ落ちた…何だこのコインは!!


これが魔女の金貨の真実だと!?


こ、これはシークレット・オークションに出す!


会員制のオークションだ、石油王から独裁者それにマフィアだのがひしめき合ってるマニアックハウスだよ


ただ紛い物なんかだしたら命がいくつあっても足りない場所とだけ言っといてやる!

だが、5枚もの【Witch GOLD Coin】なんて扱った奴が居ない以上偽物と判断出来るわけでもねーか…

「1週間…いや、10日ほど待っててくれ!」


え。そんなにかかんの?直ぐに36500円必要なんだけど…


「…………………………………………ほれ前金だ」


5万円渡して帰った冴えない男は
10日後にまた来ると言って帰って行った…
俺がこのまま持ち逃げしたらどーすんだろーな…信用してないのかしてるのか分からんやつだ…


まぁ、俺もこのオークションに参加するのは2回目なんだ…楽しみであるから裏切らねーが…今回だけだ…くそめっ

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取り敢えず翅妖精にその場に残って貰って監視させた

まぁ大丈夫だろーし、税金だけは払っておかないとな!


郵便振込で36500円送金…っと


財布には13500円しか無くなった
これじゃ大したものは買って帰れないな…


何か食べたい物あるか?


「…んーっコウジが作るものなら何でも食べるよ?」


そっか…その何でもってのが一番困るんだよな
まぁ、コイツに言っても分からねーだろうけど…


スーパーに立ち寄って適当に野菜を買い
今日は帰った


※因みに兔肉の支払いは20日払いで銀行引き落としなので、現金は持ってませんでした



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