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一話
しおりを挟む閑話
馬という生き物は昔から高価な生き物でした。
現代日本に至っては未勝利の競走馬を買えば二万円くらいで買えますが、維持費を思えば高い買い物となるでしょう。
自分で牧場なり持っていれば多少違うかもしれませんが、その世話にしたって大変な労力を費やす事になります。
餌を上げたり。
放牧したり。
毎日乗ったり。
馬だけ運動したり。
体を洗ったり。
装蹄したり。
年間二回は予防接種したり。
歯だって伸びるので馬の歯医者も場合によっては頼む日が来るかもしれません。
それはもう手間隙かけてあげないと病気になったり怪我をしたり、最悪早死にしたりしてしまいます。
可愛がれば可愛がるほど手間も時間も掛かるのが馬です。
でもそれは、何も現代に限ったことではありません。
戦国時代にしても、中世ヨーロッパにしても馬番という専門職があったくらいでした。
餌にしたってただ放し飼いにして草だけ食べさせておけば良いと言う訳ではないのです。
草を食べてるだけでは力は出ませんので、麦を食わせたりトウモロコシを食わせたり、それはそれは維持費だけで赤字です。
人参だけあげる等も以以ての外です。
血がどろどろになって病気になります、あれは馬にとってデザートみたいな物なのです。
あげるなら大根でしょうか、血はサラサラになりますから一石二鳥ですね、鍼いらず。
まぁ、食べ慣れないと当然食べないので、ある程度食べてくれるまで努力が必要ですが……。
それはさておき、この物語に出てくるのは駆け出しの商人です。
行商人にしても馬を一頭連れて歩くにはそれなりの儲けが無いと維持など出来ません。
今日の売上は大して儲からなかったなんて事になると、明日食う飯も満足に食べられないばかりか、大事な馬の餌も買えなくなってしまいます。
野原や草原などに放しておけば勝手に食うだろうって? そんな事したら狼や野犬に襲われる危険性が増してしまうし、それが無くても野盗にでも盗まれかねないでしょう。
名札等付けて居るわけでもないし、盗賊にしてみれば馬を盗んで売ればそれなりの金額で売れるわけです。
護衛も居ない、人の目も少ない場所で放し飼いにされてたら喜んで盗む事でしょう。
その為に護衛を雇ったりするわけです。
何も身を守らせるだけが護衛の仕事ではないのですよ、なのであらゆるコストを考えれば、そこそこの儲けでは行商人だってやっていけないません。
だがそれは馬を連れて歩いてる場合です。
自分の足で歩く分には維持コストも護衛コストもありません。
ですが、バック一つで行商をしたところで儲けなんてその日暮しが出来るかどうかってところでしょう。
売る物にも寄りますが、駆け出し商人では高額商品など任せる問屋もありません。
◇ここから本編◇
田舎にしては少しばかり大きな村で育ち、唯一有った商人ギルドで商人登録をした少年、名はシダル。
親は両方共健在で農家を営み麦を作って売っていた。
その家の五男だったシダルは畑を貰えるわけではないし、この家に居る限り結婚も許されないので成人して15歳になると家を出た。
村には商会は無かったが道具屋はあったのでそこで見習として働きたいと言ったが、既に娘が跡を継いで婿を取って頑張ってるが、そこそこ経営は大変で、見習いなど置いておく場所は無いと断られた。
この世界では見習いを置くというのは結構大変で、飯だ住処だと色々世話をしなくては成らず、一人居るだけでも経営が厳しいと共倒れしかねなかった。
そこで村長の叔父の嫁さんの兄貴の子供の同級生のお父さんが王都の街で商会を営む人がいると聴いて、紹介状を書いて貰い、一ヶ月掛けて王都にやって来た。
だが、その紹介状は使われることは無かった。
紹介された商会は既に無く、事業に失敗して他の街へ引っ越した後だった。
王都になど知り合いも商会の伝も無かったので途方に暮れた少年は、路銀も心許なく、かと言って売る商品も無かった為、ナイフを一本片手に薬草を集める事にした。
薬草集めて露店で売る……訳ではなく、旅をする商人で護衛も雇えない者は自らを自らで守る為に冒険者にもなり、護身術を習ってから旅をする者が多かった。
ただ住んでた村には冒険者ギルドは無く、村長が率先して護身術を教えていた。
ただ我流だったのもあって生き物の討伐は不安だったシダルは、薬草採取を中心にクエストを受けようと思っていた。
なのでまだ冒険者登録はしていなかったが採取を先にしてから登録して、その後で薬草を売ろうと考えた。
露店で売るにしてもただの薬草ではギルドで卸す金額とそう変わらない。しかも、商人として露店を出せば場所代が加算され街を出るとき入る時にも税金が掛かる為、露店で売る旨味は無かったし、許可なく売れば犯罪でもあった。
これは、冒険者ギルドを守るための処置で、露店で売る方が金になると思えば誰でもそっちで売ろうとする者が増えるからだった。
そうすると、冒険者をやらずに商人登録されしまい、冒険者の新人が育たない事になる、いざという時に兵士以外で街を守る者が居なくなるのを防ぐ為だった。
なので薬草だけに限らず、肉や野菜や果物の値段は上限がある程度決まっていた。
但し決まっているのは常時系のみで、珍しい肉や薬草、野菜や果物など滅多に手に入らない物は別だった。
近隣で取れる肉として、常時討伐系で狩っても狩っても減らないウサギ肉、猪肉、鹿肉、狼肉は値段の上限が決まっていて高騰するのを防ぎ、屋台で卸せる金額以上の金額で売る事も買う事も禁止されていた。つまり、独占禁止法だった。
破った者には重罪が課せられ良くて半年分の売上没収、悪くて全財産没収の上に犯罪奴隷として働かせられるので、誰一人として破る者はいなかった。
ウサギ、鹿、猪、狼の毛色の違う亜種が混じった場合はオークション形式で取引されるので、値段の高騰に制限はない。
各肉の幼体も高値で売買された、肉が柔らかく臭みも少ないのと、親が守っていて中々市場には出回ることは無かったからだ。
買いたい人が買い、売りたい値段で売る。それでも幼体や亜種などは味が通常種とはまるで違うので、富裕層や貴族などによく売れた。
特に亜種など力も強いし、素人に毛が生えた程度の商人では捕まえる事すら出来ないし、まして討伐など夢物語だ。
元々冒険者では無く商人なので、狩れる自信も狩ろうと思う担力も無かった。
そして貧乏だった為ナイフも買えず武器と言える物も持てなかった。
このナイフもまた、どっかの誰かが投擲した物を偶々拾って薬草採取に使っているくらいだった。
実家の農家ですら鉄製品は持ってなかった
木の鍬で畑を耕し、黒曜石のナイフで麦を刈っていた。中々切れないので効率は悪かったが、親兄弟が力を合わせて何とか収穫出来ていた。
家を出ると決めた時も大反対された。
殆ど家出同然の様に家を出たので、飯が食えないからと帰ることは出来ない。
死にもの狂いで一日一日を生きなければならなかった。
薬草は加工するとポーションになる
体力回復ポーション
傷を治すポーション
毒消しポーション
その他にも、沢山の種類のポーションが作られている、その素となるのが各種薬草だった
錬金術と薬師の資格でもあれば自らポーションを作り売る事も出来ただろうし、それ専門の商人もいる。
高い金出して学校に通えればもしかしてらそういう道もあったかもしれない
だが農家の5男坊如きに金をかける親は居ない
やがて独り立ちするか、人夫として死ぬまで働かせるかくらいにしか思っていないのだから、学校なんて午後の昼から通える教会で教わる程度だった。
だが、シダルは勉強した。
その頃はまともに飯が食えるのは昼の教会で出されるパンとミルクだけだったからだ。
夜などは魚が釣れたらその場で焼いて食ったり、木の実を取って食って飢えを凌いだりした。
5男では力が足りず上の兄弟達に飯は食われてしまって毎日ひもじい思いをしていた。
余りにも腹が減って街で倒れそうになった時、たまたま着ていた行商人に飯を食わせてもらった事があった。
払える物は何も無いから自分を差し出そうとしたら、止められた。そして、対価はいらないからたっぷり食えと言われた。
その日食べた飯は屋台の串肉だった。
初めて食べた肉の味に感動して涙を流して貪るように食った。
その時からシダルは商人を目指していたのかもしれない。見ず知らずのガキに奢れるほど金を稼いでるその男の様に、自分もなりたいと思ったのだ。
だからシダルはその日から勉強をした。
積極的に教えられる全てを自分に叩き込んでいった。お陰で村の中ではそれなりに頭の良い子供と言われるまでになった。
だが勉強するシダルを快く思わない人が居た。
父親だった。
子供は力さえ強ければそれで良かった、人夫としてしか見ていないのだから当然だろう。
事あるごとにシダルから勉強を取り上げようとしたが、無駄だった。
ノートや鉛筆など高価で買ってはくれ無かったが、計算など木の棒と地面があれば大抵の授業の復習は出来たし、午前中の仕事が終わってしまえば教会に行くので、家に帰る日暮れまでは家に帰る必要は無かったから、父親からも逃げる事が出来た。
そうして成人になる年の1年ほど前から家を出る為の準備をして、森の木の虚にバッグや旅に必要な装備や変えの服なんかを集めて隠していた。
そして、成人を迎える為の祭りが村を上げて行う日の前日に、村長に紹介状を書いてもらって、その日の内に村を出たのだった。
商人ギルドの登録も成人したらそのまま直ぐに利用出来るように半年前から仮登録は済ませた。
全ては父親から逃げる為である。
そんな感じで村を捨てるつもりで家を出た。
ここで駄目なら死ぬしかないのだから、必死にもなるだろう。
明け方から薬草を集め始めて10時間程が過ぎ、風の向きが山から吹く風に変わったので、採取を止めて帰り支度を始めた。
この辺りは午後3時くらいになると風が変わるので、いつ街に行けばよいのか比較的分かりやすい気候だった。
鞄もパンパンになる程薬草を採ったシダルは落とさない様に街への入口で並び、街に入ってから冒険者ギルドへと向かった。
受付で登録を済ます(商人登録しているので、商人ギルドカードを提示するだけで登録出来る)と、買い取り窓口へ行って薬草を全て売った。
薬草10本で1束の計算で銅貨5枚になる。
各薬草一律1束銅貨5枚だった。
それが60束あって銅貨300枚
銀貨にして3枚(3万円)の稼ぎになった
まぁまぁの稼ぎだ、これでもう少し生きる事が出来た。
この国の貨幣は
半銅貨1枚=50円で黒パンが3個買える
半銅貨2枚=銅貨1枚(100円)リンゴが2個
銅貨10枚=大銅貨1枚(1000円)安宿で朝夜二食
大銅貨10枚=銀貨1枚(10000円)高級宿朝夜二食
銀貨10枚=大銀貨1枚(10万円)家族四人一ヶ月
大銀貨10枚=金貨1枚(100万円)
金貨10枚=大金貨1枚(1000万円)
大金貨10枚=黒金貨1枚(1億円)
普通の生活では金貨から上は見ることは無い
就職してれば大銀貨くらいはみる
屋台で売ってる串肉が銅貨1枚~銅貨2枚
宿で有料だが盥のお湯が1杯半銅貨1枚
家族四人で庶民なら大銀貨一枚あれば1月くらいは暮らせる
一日は24/h
一ヶ月は30日
一年は360日だが
安息日ってのが5日あって通すと365日になる
安息日には働いてはいけない日という決まりがあり、王族ですら侍女や従者を休ませる為、自分一人で躰を洗うとか服を着るとかが嗜みとして習うのが常識だった。
安息日以外で一人で服を着たりすると変な目で見られるが、安息日では一人で服を着なければ誰もやってくれないので、生きられない。
あくまでも、嗜み程度ではあるが、学園でダンスやなんかと一緒に習う。
調理等もしなければならず、それも学園で習うが
美味しい物が食べたくて嗜み程度で済まない人もたまに居る。
屋敷の料理人が居る厨房では作らず、自分の部屋に厨房を作り、調理を趣味として愉しむ者も少なからず居た。
貴族の真似事ではないが、庶民もまた料理を趣味として愉しみ、調理が得意な人も多い。
愉しむ為では無く、コストを最小限に抑える為に宿屋で飯を食わず外で調理し、飯を食う人も少なくない。
寝るだけになるが、宿賃も半額以下になったりするので旅人や冒険者は庭を借りて作ったりする、その為に庭を開放してる宿屋も多い。
宿屋で借りる事も可能だがレンタル料が発生するので高く付いたりする。
無難に飯代は払った方が懐には優しかったりするし、味付けで失敗して肥料になったなんて話も聴くので自信が無かったらやめたほうが無難だろう
趣味で調理する人がいるって事は、この世界の食事事情は比較的進んでいる。
どこの料理屋に入ってもハズレは殆ど無い。
殆ど無いっていうのは、儲ける為にコストを安くした挙句、酷い食材を使っている所もある。
当然一見さんしか来ない。が、他の店が混んでいるため流れで来る客もいる、それ狙いの悪徳な店も中にはある。
物凄く不味い為一口で食べるのを辞める。
料金は前払いなもんだから泣き寝入りだ。
その残った物も捨てるではなく再利用するもんだから、夕方や夜くらいになると温め直し過ぎた結果固くなって食べられない物体に変わる。
それを更に値段を下げて貧困層に売るってんだから……呆れてしまう。
貧困層にしてみれば腹にさえ入れば良いのかガリバリ言わせながら貪り食う。この世界、半銅貨1枚で黒パンが3個買えるのだが、この店は黒パン6個分の食料を半銅貨1枚で売ってくれるので、貧困層には大人気だった。
何をしてでも利益を出す。
そんな店が1つの街に必ずある。
まるで現代のパチンコ屋みたいなもんだ
どんな簡素な町や村でも必ず有るのがパチンコ屋だ。群馬に行ったときもコンビニも個人商店すら無い山道にポツンとそびえるパチンコ屋。最初ホテルかと思ったがパチンコ屋だった。
田舎なのに駐車場は半分以上埋まっていた。
他に店はない、食い物屋は中に備え付けてあった。客層は農家八割で長靴履いたままのオヤジやオバサンと老人。
従業員は村の番長みたいな奴だった
茶髪リーゼントとかその時初めてリアルで見て変な感動を覚えたものだ。
話が大きくそれた……閑話休題ってことで。
シダルも料理はそれなりに出来る。
家の料理は朝夜共に母親が作るのだが、五男坊の口に入る事は稀だ。
教会で作るのはシスターだ
だったら何処で作ってるのか?
晩飯と朝飯用に自分で狩りや罠を作って捉えた獲物を竈を作って調理するのだ。
香辛料は山に生えている、肉も山菜も山に行けば見付かる。果物もあるとなれば、勉強が終わったら山へ向かって晩飯を作り、序に明日の朝食も作って持って帰る。兄弟達に見つからない様にするのは苦労するが、兄達が起きる前に食ってしまえば良かったのでなんとか生きてこれた。
それ程多兄弟の家は弱肉強食だった。
もしこれが妹なら話は変わる。兄達に可愛がられ父親にも可愛がられ、飯を食いっぱぐれる事は無い
シダルの下の妹が正にそれだった。
偶にシダルへパンの欠片を持ってくる事もあったが、野良犬に下げ渡す給食の残りみたいな扱いだった。
それでも、貪り食ったのは全て村を出る為だった。
黒曜石で器用に肉を解体して、内臓は洗って腸詰めにするのに使い。
晩飯で余った肉を詰めて似たり焼いたりして、朝食になったり保存食になったりした。
燻製肉も作っていたし、ベーコンやハム何かも作れる。
村を出る半年前には干し肉を中心に作っていた。
味を濃いめにするのが多少大変だったが、概ね成功した筈だ。
片手鍋に水と山菜と干し肉を砕いて入れて、スープにして飲んだり出来るので、重宝した。
余ったら街で売れば良いので、作り過ぎたと後悔することもない。
まぁ、今日は稼げたのでそれをする事もない。
冒険者ギルドの紹介で一泊大銅貨1枚の安宿に泊まることになった。飯も付くので取り敢えず何もしなくても一ヶ月はその宿で暮らせる。
その間にクエストをやって金を貯めて武器を買ったり、保存食を増やしたりしなければならず、暇な日は1日足りとも無かったりするが、取り敢えず落ち着いて暮らせる場所を確保した事は良かった。
シダルはここに泊まりながら商いする為の軍資金と旅に必要な最低限の装備を見繕うと考えていた。
保存食等は中庭や借りてる部屋の中で作れるので買うという選択肢すら無い。
兎に角武器やコート等は買わないと無い物なのでそちらから集めようと思っていた。
流石に毛皮から服を作る技術は持っていなかった。
そこは服屋に従事しないと憶えられない事だったので、諦めた。
革製品のバッグや靴も買うしか手に入らなかった。
肉として狩った毛皮を鞣す事は出来たが、そのまま売るほうが手間暇掛けるより楽だったので、シダルは全て売り払っていた。
中には革を鞣してその素材を元に作ってもらう人も居たのだが、そこまで良い素材を取れるわけでは無かったシダルは、売り払っていた。
さすがにドラゴンやバイパーなどの高級素材が手元にあれば売らずにオーダーメイドしただろうが、生憎一般人の駆け出し商人のシダルの手には入らない物だった。
旅の寝床代わりに狼の毛皮の寝袋くらいしか作った事はない。
毛と毛を裏返して縫い付けただけの簡素な物だったが温かいので、旅のお供には欠かせない。
マントを掛けるだけって人もいるが、寝るなら寝袋が良かった。
寝袋の紐を枝に括り付けて、その中に入って寝るのが安全な寝方だった
地面に寝れるのはパーティくらいだったから
ひとり旅しかしてないシダルには出来なかっただけだが、木にぶら下がって芋虫の様に寝ると、獣に襲われないし、虫の被害も無かったので毎回快眠だった。
晩飯を食堂で食べたシダルは食後のデザートを昼間薬草と共に取ってきた蜜柑みたいな物を皮ごと食べていた。この蜜柑の名前はミナン。主に南の国によく自生していて、その花や実の香りは虫が嫌がる為よく農家等で使われていた。虫除けとして実の皮を干して寝床の藁の周りに置いておくと、ダニや他の虫が藁に入って来なくなるのだ。
実を山から取ってきておやつ代わりに中身は食べて、皮を天日干ししたら寝床に混ぜる。その仕事は主に一番下の子供の役割だった。
五男坊のシダルもその仕事はしていたが、中身は四男の腹の中に収まる為、自分で食べる分は皮ごと食べる様にしていた。
四男はミナンの皮を粗方剥いた後に食べに来るので剥く前に食べてしまえば良かった。
そのお陰で今でもシダルはミナンを皮ごと食べる癖が付いていた。
束にならなかった薬草は自分で使う為に小分けにして、すぐに使える様にしておく。ミナンをバリバリ食べながらバッグの薬箱に種類毎に別けながら仕舞い終わると。
今日の稼ぎをバッグの秘密のポケットに仕舞う。
手に持ってたり財布に入れて置くのは一部だけで、纏まった金は必ず持ち歩くバッグに仕舞っておくのだ。
道で落としたり、スリにあった時に困らない様にして置くのは旅には欠かせないスキルだった。
シダルが暮らすこの世界は剣と魔法の世界だったが、魔法となると学園に行かなければ教えてもらえるものでは無かったし、誰でも魔力を持っている世界ではあるが、使い方が分からなくては、宝の持ち腐れだった。
シダルもまた教会の神父が偶々魔法が使えたので生活魔法ではあったが、生活に困らない程度は使えていた。ただ、おおっぴらに使うと父親にも
使われる未来しかなかった為に隠蔽するのが常になった。まぁ、そのお陰もあって自然に隠蔽術が使える様になったのは不幸中の幸いといえるだろう。
隠蔽術は自分のステータスを隠す為に使う人もいるかも知れないが、シダルは主に食べ物を隠すために使っていた。
家を出た跡は財布を隠すために使っている。
なので、スリには中々会わなかったが中には凄腕もいた為隠蔽術を掻い潜り盗む奴も世間には居ない事もないので、所持金は別けて仕舞うのだ。
ベルトの裏、コートの中、靴底の中、革帽の返しの中、至る所に隠し財産を仕舞っていた。中には忘れてしまった隠し場所もあったりして、偶に見付かると臨時収入みたいで嬉しかった。
生活魔法もシダルは人とは違う形で使う事が多かった。スープを温めたりするのにも、火を付けて温める事はせず、スープを電子レンジみたいに温めることが多かった。
これは、隠し持っていた食べ物を兄達から隠しながら食べていた時に発見した魔法だった。
火を付ければその煙で食べ物を隠し持ってる事がバレて取り上げられてしまう。
だったら、火をつけないで暖められたら取られる心配も無い。そうして編み出した魔法だった。
この他にも洗濯の魔法何かもある。水と空気を丸い水玉みたいに作り、その中で服を洗い乾燥まで行った。これも、兄達から渡された服を洗う作業を素早く終わらせる為に編み出した魔法だったし。乾燥までその場でやってしまえば一石二鳥だった為だ。
干し肉の乾燥もそうだ、いくら毎日肉を捌いてその場で干し肉に加工しようとしても、森の中で一昼夜干してれば、獣に見付かり食べられてしまったからだった。捌いた先から乾燥してしまえば干す手間も掛からず、素早く出来るから。
味付けも同時にやる事で色々短縮出来たので考えついた魔法だった。
シダルが使う全ての便利な生活魔法は全て村で必要に駆られて憶えた事だった。
父親や兄達から身を守るためだけに思いつく限り作っていった魔法だった。その魔法が実はとんでもない使用方法だった事など、教えられて居ないシダルには分からなかったし、この先も誰かに指摘されない限り気付かない事だろう。
そして更にシダルは知らなかったが、村長は王都で五指に入る程の剣客で意外と強かったばかりか、王都でも剣の弟子がいるくらいだった。
そんな人に直弟子として教わっていた事など知らなかったので、自分がどれほど強いかも分からなかった。
そして、王都に置いて村長の名前は大多数の貴族も知っていたので、商人ギルドで商会の伝が無くても、紹介してほしいと頼んで別の人に書いた紹介状を見せていれば、今頃大店の商会に入れていたのだが、何も知らないシダルは鞄の奥底に仕舞い込んでいたので、誰の目にも止まらなかった。
その手紙が公になるのはもっと後になってからだった。
閑話休題
さっきから横道にそれるのは作者の性格なので気にせずに
さて、主人公であるシダルである。
半端なく薬草を小分けにしたあと、装備を確認して床についた。
明日も早くから薬草を取りに行かなければならず、早々に寝た。
◇◇
次の日の朝太陽が登る前に起き出して支度をすると、休んでる部屋に鍵をかけて出掛ける。部屋の中には金目の物は無いが、私物を置いて出ていく。万が一この部屋を借りてる間に誰かに貸せないように私物を置いてまだ借りてますよアピールをして置くのだ。この知識は村長から教わった。
村の年長者が村の若い子らに教えるモノには自分に起こったありとあらゆる経験を話して聞かせて、同じ過ちを踏ませない為の教育だったり、道徳だったりしていた。
昔話を聴かせるだけが年寄りの話では無いと言うことだ。面白おかしく自分の人生を省みながら教えていくので、話してる本人にも勉強になったのだ。
ボケ防止であったかもしれない。
年寄りと若者の触れ合いがそれだったかもしれない。現代社会に必要な事は便利だけを追求した為に置き忘れてしまった物かも知れない。今一度思い返して利用できる事を探してほしくもある。
それはさておき、宿屋の私物である。
村長が昔実際にあった事で、借りてる宿屋に追加料金を払ってあるにも関わらず、持ち物を全て持って出掛けて、鍵を宿に預けて置いたのが悪かったのか、仕事を終わらせて帰ってきたら、部屋を他の誰かに貸してしまった後だった。抗議したが、部屋は満室で他の宿も満室ときた。そして、追加分の宿賃は返して貰ったが、街にいながら野宿させられた経験を教えてくれた。
その防止をする為に、自分の私物を置いていくのだそうだ。売られても大した金額に成らないが、旅には必要な誰が見ても必要な道具を置いていく。
また貸しした店主に案内された客が疑問に思ってしまうくらいの物を置いていけば、ここはまだ人が借りてる部屋なんだと気付かせる事が出来るのだそうだ。
その教えを憶えていたシダルも同じ様に置いていくことにしたのが、自分で作った寝袋だった。
素人が加工して作った寝袋なんて売れないし、かと言って旅には必要な道具だったので、誰が見ても「ああ、人が借りてるな」と分かる。
そんな悪徳な宿屋は王都ではみた事がないが、やるだけの事はやっておこうと思ったのだ。
一応宿を出る時には鍵を渡しながら必ず帰ってくるので部屋は開けとくように託けてから出掛けるのは常識だった。
当然その託けを伝えて、尚且つ私物を置いていくという徹底ぶりである。
シーツを取り替えに来た客室係の宿屋の娘も見慣れたもので、特に気にせずシーツを取り替えていった。同じ村出身者に多いので、村の名前を言うと大体当たっている。
シダルと同じ村出身で村長の話を鵜呑みにする者達は意外と多いのだ。
外の世界を知る術は年長者の話だけだった世界の話なので、皆やる事は同じなのは当然だった。
遠出する時には寝袋とは別の物を使ったりする。
寝泊まりしなきゃならない様なクエストはパーティーで請け負う様になっているが、中にはレイドの様な個別で集めて団体で動く事もある冒険者ギルドは寝泊まりする機会も多かった。
シダルは基本が商人なので、そんなクエストは受けなかったが、珍しい薬草を取らなければならない時もあるので、寝袋は必須だ。
マントを布団代わりに木の上で寝るのはかなりの負担だった。寝返りの度に落ちる可能性が高かったのだ。此れでは熟睡できない、熟睡出来ないということは疲れが取れない事になり、疲れが取れないという事は、仕事に差し障るのだ。つまり良い仕事は出来ないと言うことだ。
良い仕事ができないという事は、クエスト失敗にも繋がるし、成功だったとしても報酬が下がったりするのだ。金稼ぎにクエストしてるのに本末転倒である。
ただ寝るという行動だけでも結果的に大きく変わるのだ。何でもない事など1つもないのだ。
さて、今日の仕事であるが常時依頼に証明書は無い。全て現物交換である。
その都度ギルドカードに功績として残すのでランクアップは出来る。どこの街へ行ってもその人の功績などが分かるようになっているので、常時依頼は特定の街で無くてもギルドがある村や街なら何処にでも同じ値段で引き取ってくれる。
とても便利なカードなのだ。
夜明け前から宿を出て、暗い内から街の門を通っても門番が24時間見張っているので安心だ。
賊も魔物も狼やなんかも全て門番が対処する。
腕妻ぷしだけでもそこ等の冒険者より強いのが門番をやっていた。街の花形でエリート職でもあった。
学生時代顔が悪くて女性とマトモに話した事もない奴が門番になった瞬間女からモテ出すという現象は春先になると良く見かける。
因みにシダルの顔はイケメンと呼ばれる部類ではなく、庇護欲が沸くような童顔だった。
マダムには人気の顔で、実に商人向きであった。
露店等で店を開けば奥様方が囲んで買っていく事だろう。
同年代からは避けられるか、弟扱いだ。
実の妹からも弟扱いされていたくらいだから、相当な童顔だった。
背も割と低いし、声も女の子みたいだった。
それでも15歳で成人してるというのだから笑えてしまう。
本人に聞かれたらグーで殴られるのでこの辺でやめておこう。
閑話休題
顔見知りにはなってない門番に手を振ってギルドカードを提示したあと森への道を歩いていく。
そんな遠くない場所に薬草が取れる場所もあるのだが、そこでは採取しない。そこは、街の人が取りに行く場所で取れる量も決まっていた。そこで取るくらいなら、森の奥へと入っていき根こそぎ取っても怒られない場所で採取した方が実入りは多いのだ。
まぁ、そんな場所には付き物の魔物や狼等の危険な生き物も多く潜んでいるので、注意が必要だったりする。
細心の注意を払っても匂いでバレるので、隠蔽術を、駆使して自分を森に溶け込ませるのだ。
これもまた、シダルオリジナル魔法だった。
匂いでバレても姿が見えなければ襲われない、すぐ真横を狼が歩いていても匂いだけなので残り香と思い込んで居なくなる。これも、経験してきた事だった。
森に入る前に自分に隠蔽術を施す。
この時側に居れば、その魔法が無詠唱だった事に気付くだろう。
シダルの魔法の全ては無詠唱だった。
スープを温めるときも詠唱など唱えた先から兄に見付かって奪われてしまう恐怖から憶えた事だった。
そしてこの世界で無詠唱とは高度な技の一つだった。宮廷魔道士のエリートが出来るかどうかっていうくらいの事だった。
当然シダルには知り合いにそんなエリート等いる訳もなく、教えてくれる人も居なかった。
辛うじて教会の神父がシダルが魔法を使う所を見ていたが、神父もまた無詠唱だった為に不思議に思う事が無かったのだ。
◇◇
自分の躰を隠蔽したシダルどんどん森の奥へと歩んでいった。時折コボルトなる犬の魔物に遭遇して鼻をクンクンされる事はあったが、特に何もないまま通り過ぎていった。
途中で兎の魔物で無害の【綿毛兎《わたげうさぎ》】に出会った。この兎は肉の部分が極端に少なく、食用には向かない生き物だった。主に使われるのはその毛にあった。この【綿毛兎】は成長する度に脱皮する生き物だった、その脱皮した毛は中に綿や布を詰めて縫い閉じてアクセサリーに加工する。
若い女性に人気のアイテムだった
ただし、人気なのはあくまでも脱皮した毛だった
テイムでもしない限り、この綿毛兎を狩ることは嫌われるていた。無害なのに狩るなんて鬼か悪魔かと後ろ指差される事にしかならなかった。
とある商人がこの【綿毛兎】を生け捕りにして脱皮した皮を大量に養殖しようとしたが、それさえも悪魔の所業と言われて叩かれて、結局すべて逃がすこととなり、赤字で犯罪奴隷になったと言う話もあるのだ。なので、冒険者でも生きてる綿毛兎には極力近付かない。
人懐こくも無いので近寄っても来ない。筈なのだが、昔からシダルには綿毛兎から近寄ってくる。
目の前で脱皮した事もあった。その脱皮した皮はそのまま妹の誕生日にアクセサリーに加工してプレゼントした。
その日だけはシダルもちゃんと晩御飯が食べられた。
さて、場所が村の森から王都の森に変わっても【綿毛兎】に人気なのは変わっていなかったらしく、隠蔽術を施していても近付いてくる綿毛兎を背中に乗せながら薬草をナイフで集めていた。
実はあまり知られていない事実だが、綿毛兎が多く集まる場所には薬草の群生地がある。
この事実は本当に知られておらず、森の人と言われるエルフですら、一部の者しか知らない事だった。そんな事実を何故シダルが知っていたのかと言うと、村の森で会う綿毛兎に教わったのだ。
その綿毛兎は長年生きた生き字引で、片言だったが人の言葉を使えたのだ。
何故か綿毛兎に人気のシダルが気になった生き字引が話し掛けて、仲良くなって毎晩一緒に晩御飯を食べていた。そして村を出る最後の日に教えてくれたのだ。
『薬草取りに行くなら綿毛兎の跡を付けろ』
そう一言告げてシダルの元を去ったのだ。
最初は何のことか分からなかったシダルだったが、先日その意味が分かった。
大量の薬草の束が取れたあの日も実は森で綿毛兎の跡を追ったのだ。そこで見付けた薬草の群生地。
その稼ぎが銀貨三枚の大儲けだった。
普通に薬草を集めても多くて五束も取れれば大量と言われる。それを、シダルは60束持ってきた。
最高採取量を大きく更新したのは言うまでもない
そして今日もまた再更新になるだろう事は明らかだった。
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だがここで採取するのは取りやめる事になった。
目の前に綿毛兎の亜種が出て話し掛けてきたからだった。
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