行商人

あるちゃいる

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十話

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 意志の疎通が出来ればきっと仲良くなれるし快適になる。
 同じ人類で意志の疎通が出来て言葉も交わせるのに仲良くなれないというのに、異種族でしかも方や馬でもう一方はソレを従えあまつさえ紐で縛って重いものを運ばせているのに、なぜ友達になれると思うのか、本当に不思議だった。
 絶対必ず文句言うはずだ。
 ペットもそうだ。
 もし奴等の言葉がわかってしまったら、もう優しくなんて出来ないだろう。
 言葉が通じない状況でソレでも我儘し放題なのに、言葉が通じたら更に我儘は加速するはずだ。



 「従馬との間に意思の疎通は不要なんですよ」

 そう王様に伝えた。
 すると王様はそれは違うと反論し
 「馬よりも力は強いし行き先を伝えれば思考して目的地まで運んでくれるだろう?
 魔獣や野盗に襲われても抵抗するし、そこらの兵士よりは強いのだから戦力にもなるだろう?
 蜥蜴の返品などせずに誤解は話し合えば解ける筈だ、だからもう暫くタップと共に旅を続けたらどうだろう」

 そう言って説得してきた。
 問答無用で剣を抜いて切りかかって来る相手とどうやって意志の疎通を測れば良いのか。全く持って分からなかった。
 同じ種族の人類ですら、問答無用で切りかかって来たら、当然問答無用で切り捨てるだろう?
 仲間の振りして近付いてきた野盗だって世の中には居るんだから。
 ほんの少し前まで全くの他人な上に、一方的に自分を下にして扱うやつなんだぜ?
 日頃の鬱憤が溜まってる所に殺傷能力のある物を向けられたら、身の危険だと判断するだろう?
 そんな時に話し合いだと?
 できる訳が無いだろう。
 普段ですら出来なかったんだから。
 だから
 「従馬に意思はいりません」
 交わす言葉が無いのなら、お互い優しくなれるんですよ。

 王様は「そうか」と一言言って横たわるタップを自分の馬車のもう一頭の蜥蜴の横に繋いだ。
 元々この二頭が王の馬車を引いていたらしい
 だから違和感なく帰ってきた同僚を労ってから意識を刈り取った俺を睨む。
 タップの意識が戻ってから共に城に戻るらしい。

 「そういえば君を奴隷の様に扱う奴が居たらしいが誰だね?」
 意識が戻るまでお茶でもどうぞとサリーが王達を誘った。その席にマダムタッソーも呼ばれシダルも一緒に座る

 サリーとマダムタッソーを見ながら聞いてきたので蜥蜴を指差して言った

 「ソイツです」
 「……真《まこと》か」
 王は蜥蜴を見て額を抑えた

 「シダル様が馬車を引き、蜥蜴が御者台に乗って動かなかったら鞭で叩く予定だったとか聞きましたけど?」
 王女の横に座り世間話をしていたが、奴隷扱いの話を聞いて王の質問に混じってきたサリーが答える
 「……まことか」
 力無く再び同じ台詞を繰り返したあと
 王は額を抑えたまま空を見上げた
 その後蜥蜴を馬車から外して首に縄を括り外せない様に縛った跡、馬車の後ろに繋いでそのまま引き摺るように城へと帰っていった。

 扱いが同僚から犯罪者になり、意識が回復する前に城に向けて歩き出した。

 跡にはサリーとマダムタッソーと俺だけが残り、馬車はシダルが引いてサコラが浮かせながら重さを無くす事になった。
 他人が見てもわかる様に馬車は地面から30センチ高く浮かせる事になった
 誰でも引けると思わせれば、奴隷が引いてるとは噂されないだろうって理由からだった。
 どこかの村に入ったら馬を買おうと思ったが、この手の馬車を引くには4頭居ないとキツイらしい。
 サコラが常に浮かせて重さも無くせば一頭のロバでも蜥蜴と同等のスピードで走れるが、負担は著しく増えて、旅の途中で寝込んでしまう可能性がある。なので、それは却下した。
 馬車に重さ軽減の魔法を常に掛け続ける事が出来れば可能かもしれない……
 そう思った俺は寸胴鍋に使ったやり方を思い出した。
 妹が産まれて風を引いたときや怪我をした時などは、母親が必ず娘の面倒を見るので、男共の餌作りはシダルがやっていた。
 当然農業以外の他の作業もシダルがやっていたので、かなり仕事は逼迫ひっぱくした状況に落ち込んでいた。
 その頃ようやく生活魔法の【土】と【木】を使って壁と屋根を同時に直す事が出来るようになった頃だった。
 むしろ屋根には壊れたら自然に直す自動魔法の構築こうちくに成功していた。ほぼ魔力を使わない術式を屋根に組み込んだお陰で、一月に一度魔力を充電するだけで、ひび割れた程度の屋根の破損は直せていた。
 壁を直す術式は備蓄びちくする魔力に限界があった為に諦めたが、屋根のヒビくらいなら大丈夫だった。
 その応用で寸胴鍋の底に重さを無くす術式をほどこした事があった。
 10歳くらいの時に妹が骨折からの熱で寝込んでしまった時があった。傷口からばい菌が入り少し大きめな町に行って治療する事になった。
 往復で10日程家を開けるので餌を頼むと言われた。
 なのでスープを作ったのだが寸胴鍋にたっぷり作ったら持ち上がらなくなったのだ。
 その時は一番上の兄と二番目の兄が二人で持ち上げて何とか事なきを得たが、毎回は困るから何とかしろと怒られた。
 なので、神父様に理由を言ったら重さ軽減の魔法を教わった。魔法はどの道使えないので、術式にして書いてもらった。
 それを元に鍋の底にその術式を描いていった。
 魔力は刻む文字や線に馴染ませながら刻み入れる
 そのお陰もあって無事に餌作りを熟した。
 ならば、もう少し大きな力を使える様に、何かに魔力を蓄積させて馬車の重さを軽減すれば良いって事でそんな物が巷に売ってたりしないかマダムタッソーとサコラに聴いている所だ。
 マダムタッソーは知らないといった
 なべ底に刻んだ術式も昔大賢者が使って城の開閉扉に施したことがある程度でそこ迄普及はしていないらしい。
 サコラに聞いてみると一つあった。
 それがダンジョンコアだった。
 ダンジョンコアは魔力溜まりから魔力だけを何年も掛けて吸い込み、貯めてその力を使ってダンジョンを大きくしたりするらしく、削り取った跡でも魔力を溜め込む性質は残るらしい。
 それを聞いて材木をくり抜きダンジョンコアを埋め込み固定すると、其処に魔力を注いでいった。
 ある程度注いだら、その上の馬車の床板を剥がしてその下の板に重さ軽減の術式を焼きながら刻んでいった。
 その後床板を貼り直し発動してみた。

 「サリー少し押してみて」
 「はい!」

 サリーが片手で馬車を押してみた、するとほとんど抵抗なく馬車がスススっと動いた。
 馬車の中にはマダムタッソーとシダルが居てお茶を飲んでいる。
 どうやら上手く出来たらしい。
 では早速とばかりにサコラを肩に乗せて馬を扱う牧場へと向った。
 その牧場には馬は居なかった。
 シダル達が来る前に大きな商隊が根こそぎ買っていったらしい。ついてない時はこんなもんだ。
 次の村にならあるかなぁっと考えていたら、馬意外でも良いなら居るよ?と案内された場所が山羊ヤギだった。山羊でも力の強い種らしく、後ろ脚よりも前足が異常に発達して、【※前輪駆動のトラックみたいな感じ】スピードは無いがパワー重視なのだそうだ。
 パワーは必要としてないと伝えると、ならコイツだっと案内されたのはオコジョだった、口元から腹を通って真っ白な毛に覆われて、その他は茶色い毛並みをしている。二足歩行で走るだけなら王城が誇る蜥蜴より早いらしい。
 ただ力は無いから精々女、子供が乗って走る事くらいしか出来ないらしい。
 っことで買ってきた。
 早速馬車を引くのに必要な腰装備をササッと作り装備させる。その後馬車の留具を固定してみた。
 意外とすんなり装着してくれた。
 暴れたらどうしようかと悩んでいたのでよかった。
 で、馬車の中にはシダルとマダムタッソーが乗り込み、御者台にはサリーが、たまに走りながらマダムタッソーと入れ替わるらしい。
 御者台の後ろに横に動かす引き戸を付けて出入り出来るようにした。
 さて試乗って事でサリーに任せて重さ軽減した馬車をオコジョが引くという、前代未聞の試みに村の人たちが見に来ていた。
 そして、皆が見守る中オコジョが馬車を引いた
 全く問題なく最初の一蹴りからトップスピードになる迄三秒くらいだった。
 人を載せたときよりも速かった。
 大歓声を背中に浴びながらそのまま旅を続ける事になった。
 Uターンしようとしたが、全く戻ろうとする意思は見受けられなかった為だった。
 一応言葉が分かるのか謎だったが、二時間ほど走った時に休憩しようかっとオコジョに伝えたら減速を始めて休憩広場に入っていったから全く問題ないと結論付けた。
 オコジョの餌は何を食べるのかと、馬車の中でマダムタッソーと話していると何かの獣が馬車の前を横切ろうとした。
 が、オコジョに捕まってそのまま食べられた。
 「は?」
 っと思って暫く走るオコジョを見守っていたら、意外と多くの獣が馬車の前に現れる謎の現象が起こっていた。
 すると、サコラが何かに気付いた。
 サコラが言うには走ってる時のオコジョから微力な魔力を感じたらしい。
 その魔力は魅力の魔力らしく、オコジョに無意識で近づいて行く様になってるらしく、その獣達を食べながらオコジョは走ってるらしいという。
 実際に見ていると確かにフラフラとオコジョに引き寄せられる様に獣が近付いてるのが分かった。
 「人や何かが横に居たら不味くないか?」
 『意志のある生き物には通用しないくらいの微弱の魅力チャームだから心配ないのじゃ。寧ろアレに惹かれる奴が居たらソイツは多分人では無いのじゃ』

 人じゃない人の様なヒトモドキっていう魔獣も居るらしい。
 人の振りして休憩広場に現れて、人の様な言葉を使って食べ物等に集るらしい。
 断ると謝罪を要求してくるのだそうだ。
 その正体を見破る術はあまりないらしく、人に著しく似すぎている為、対処し辛いらしい。見間違いで集ってきた乞食を殺してしまったなんて事もあってか、中々判断が付かないのだそうだ。
 なんて厄介な生き物がこの世に居るんだろうと憤って見ても無意味だから止めろと言われた。
 ヒトモドキに対して1番友好的な方法は完全無視らしい。
 すり寄ってきても無視
 集ってきても無視
 怒っても無視
 そうしてると、次の獲物に向かうらしい。
 根本的な解決にはならないが、一番無難なんだそうだ。
 だが、オコジョを連れていると違うらしい。
 微量のチャームに引き寄せられたヒトモドキはそのままオコジョの餌になる。
 食べられる瞬間に「イゴー」と鳴くらしい。
 「一度オコジョの団体を連れてヒトモドキの一斉駆除でもやればいーんだよ!」

 っとマダムタッソーは怒っていた。
 だが、オコジョの数がだいぶ少なくなって今回もたまたま居ただけでかなりレアなんだそうだ。

 ヒトモドキを排除出来ると思ってたマダムタッソーは「本当に残念だ……」と悔しがっていた 
 
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