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十三話
しおりを挟む久し振りに会ったお陰か昔話に花が咲き、今宵の晩飯は史上稀に見るほど楽しい夕食になった。
マダムタッソーだけは始終口と目が開きっぱなしで少し怖かったが、一応咀嚼してたから顎は外れていなかったんだろう。
それでも村長と聖女の出会いの馴れ初めは神父様も初めて聞く話だった様で、マダムと同じ様な顔で口と目が閉じれなくなっていたようだ。
英雄と聖女の馴れ初めは別の話なので割愛するが、それはそれはピュアっピュアし過ぎて途中でサリーですら背中がむず痒くなった様でモゾモゾとしていた。
その跡はタッソーの質問攻めが小一時間続き、いい加減にやめろ!っと恥ずかしくて涙声のカリムの言葉でようやく止まった。
シスターの顔は耳まで赤くなり、村長ですら頬がほんのり赤くなる程恥ずかしかったのか、俯いたまま顔を逸らしていた。
サリーはすでに部屋から居なくなっていた。
話は終わったから探しに行こうとしたら扉を開けた直ぐそこで蹲りながら顔を赤くし耳を塞いでいた。
たしかに話は八割下ネタだったがそこまで照れるのか……
そういえば公爵令嬢でしたっけ……
結構厳しい物言いの事務長だと思っていたが、この旅でシダルの目にはサリーがとても可愛い人に見えていた。
耳を塞いで目も瞑っていたので肩を軽く叩くとガバッと起き上がって此方を見た。
「恥ずかしい話は終わりましたか!?」
どうやら聴くだけでも耐えられない羞恥だったらしく、躰がフルフルと震えていた。
中々立てない様子だったので肩を貸してやって取り敢えずサコラ経由でオコジョに連絡を取り、教会の出入口の真横に来る様に頼んだ。
程無くして馬車が来たのでサリーを抱き上げ馬車の中に座らせて、もう少しで話は終わらせるから少し待っている様に伝え、中に戻っていった。
帰ってくると今度はゼリスを交えて三人の英雄を下ネタ攻めにし始めたマダムタッソーはノッリノリで三人を痛ぶり始めていたので、一言断ってここで泊まるように促し、返事を聞かぬまま置いていくことにした。
酒が体に入ると頭のネジが元からなかったかのようになるとは知らなかった。
弾け飛んだマダムの理性は無くなり、訴えられたら百%負けるってくらいの勢いで下ネタに走っていたのだ。
このまま連れて帰ったらサリーが泡吹いて倒れてしまうと判断したシダルは三英雄にマダムを勝手に任せてスタコラサッサと教会を跡にした。
だが実りの祭り豊潤祭が終ったばかりだったらしく、宿屋には余韻を楽しむ商隊やらが商談途中の商会やらで空き部屋はなかった。
「麦の収穫に合わせて来たけど間違いだったなぁ、村にいながら野営は流石に嫌だし……仕方無い」
そう言ったシダルを見ながらサリーは首を傾げた。
「他に宿屋があるんですか?」
「宿屋では無いが……次男の家に行く」
「長男でも良かったけど部屋を作れと依頼を出す程子沢山なら、寝るスペースは無いだろう?その点次男なら多分……微妙だけど一応向かおう」
オコジョ馬車はカラコロと軽い音をさせながら村の中央広場を横切って少し高台にある家屋を目指して走っていく。
「あの手前の家ですか?」
「いや、あそこは違う。あそこは知らない家」
「ですか」
古ぼけて屋根やなんかも誰も直さないのかボロボロで雨でも降ったら雨漏りで酷いことになるだろうと予想されるひび割れた屋根を横目にしながら通り過ぎる。
すれ違いざまに部屋の一角しか明かりが灯って無いことを確認した。
壁もあちこち穴が空いていて誰も修繕していない事も解るし、寝屋だった場所も既に灯りは無く、湿気で腐る柱等が根本から無くなって寒々とした穴が開いていた。
四男が結婚した話は聞いた事がないから、まだ家に住んでる筈だが、まさか何も修繕しないまま住んでるとか言わないよな?ははは、まさかな。
そんな元実家を通り過ぎると、その上ら辺に子供の騒ぐ声と叱る声とが聴こえてきた。
普通の一般家庭ならこんな音がするだろうと予想できる音だった。
「この家ですか?シダル様と似た声がしますし」
「そんなに似てるかい?一応一番歳の離れた兄弟なんだけど……」
「一番……ですか、ここは長男様のお家ですか」
「そこは明日尋ねるから今は良いよ」
そう言ったのだが、コチラは意図していなくても、玄関を開けて子供が飛び出して来るとか予想外だった。危うく引くところを流石オコジョである。急ブレーキでシダルはサリーの太腿へと顔を埋めた。
あまりの突然の事だったのでサリーは叫ぶ事も出来ずに固まった。
急いで退いたがサリーの顔は真っ赤だったし、口元はワナワナと震えてヤバイと咄嗟に思ったシダルはカチャっと馬車の扉を開けて、オコジョの足元で転んでる子供とオコジョを見て目を白黒させる長男を見た。
少しというか大分老け込んではいたが、シダルが二十歳前後なので妥当な年齢だろうか、10歳ほど離れた年齢なのでまともな会話をしたのは数えるほどだった。
「や、やぁ元気?」
「……おま、シダルか!?何その馬車お前の?てか馬じゃないのな都会はやっぱり変わってんなぁ」
「馬車の存在を知っていたのか?」
と、馬鹿にしてる訳ではないが、クソ親に村から出ない事を前提にして麦畑を譲り受けた長男が外の世界の事を知っていたのに驚いたのだ。
「ああ、奥様から色々教わったんだ。お前の事もな!王国の棟梁様だって?やっぱりお前は大工になったんだなぁ!商人に成るなんてなんの冗談かと思ったもんなぁ」と、声を上げて笑う。
「商人だよ!一応な!商会だって立ち上げたんだぞ?」
「ははは!別に馬鹿にしてるわけじゃないから、そんな嘘を付かなくたっていーんだぞ?お前が自立して立派にやってるのは俺も次男も認めるんだから」
嘘じゃないと反論しようとしたら後ろからサリーが出て来て
「嘘じゃありませんよ?シダル商会で事務長を担っている私が保証します」
突然出てきた貴族風のお嬢様に声をかけられ完全に思考が停止した長男。
全く話が出来なくなった長男に訝しげな視線を送るサリー。暫く傍観してると長男がカクカクと動き始めた、その動きが余りにも可笑しかったので笑わない様にするのに苦労してると、カクカクしながらも奥方に助けを求めた様だ。
奥さんの背中に隠れている長男と固まりそうな奥さんを見て、サリーには奥へ行ってもらいシダルが声をかける
「始めまして王都でしがない商会の長を勤めさせて貰っています。弟のシダルと申します。初めましてお義姉さん」
と、営業スマイルのマダムキラーをふんだんに使った美少年の微笑みを使ったあざとい攻撃が今長男の嫁に突き刺さった。クリティカルだったようで
「まぁまぁ!聞いたことありますわ!遠くから態々お疲れ様で御座いますぅ♡」
っと、目がハートマークになりながら一段上の馬車に立つシダルを抱き締めた。
一段上に居るのに胸に顔が埋まりそうに成るのは何故なんだろうとサリーは抱き着かれるままにしてる姿を後ろから冷ややかな視線を使って眺める
意外と背は低いがサリーと同じくらいの背丈の筈なのになぁ?と見てみると、奥様の背丈がデカかっただけだった。
そんな二人に嫉妬した長男が怒り出して包容は解かれたが、こんな夜分に何しに来たんだ?と問い詰められ宿屋が一杯だから泊まれる部屋を探しに来たと答えた。
まぁ予想通り長男家は既に一杯で無理だったが、次男の家ならまだ空き部屋もあると聞いて向かうことにした。
そして去り際に
「実家にも顔を出したのか?」
「出すわけ無いでしょ?」
「あー、まぁそうだけどな。一応気が向いたら行ってやってくれ」
「……屋根壁柱の修繕ならやりませんからね?」
「ははは……バレたか」
「四男がいるでしょ?アレにやらせろよ」
「いやあいつは今動けないからさ」
「怪我でもしてるんか?」
「いや太り過ぎて……」
「絶対に行かない!」
「妹が不憫だろ?」
「俺に妹は居ませんよ?」
何を突然言い出すのかと思ったら不憫な妹が寒い思いをしてるから助けろという
そりゃね長男からしたら可愛い妹なんだろうけどさ?俺にしてみりゃ碌でも無い長女だったよ?
「え。いや、長女は長女だけど年齢はお前のが上なんだから妹だろう?」
「何を言ってるんですか?長女なら立場的に向こうが上だったんだから俺のが下でしょ?」
「え?立場……?いや何それ」
「わからない人だな……」
多分永遠に理解はされないのかも知れない。
家族順位と言うものが世の中にはあって、家族だからと平等では無いのだよ。
一番下でしか分からないのかも知れないが、早く生まれた順で上下されると考える長男や次男
扱いの差で上下してると思ってる末っ子達
どんなに早く産まれようと、毎日母親が作る温かいご飯が食べれなかった自分の順位はとことん低かったのだ。
それを説明し始めると、長男も奥様も顔を顰め始めた。
「少なくとも私はそんな事しない!子供に順位を付けるなんてゲスのやる事だ!」
そう言って憤った。
「そう言えば朝、晩の飯時にシダルの事を見た事が無かったな……」
「気付かなかったんですか!?あなた!」
思い出した長男と信じられないと一歩長男から遠ざかる奥様。
慌てて長男が
「一度聴いたんだよ?父親になぜ一人いつもいないのかって!そしたら勉強が忙しいから食いたくないと聞いたって言ったんだよ!だから僕はっ……」
「それ以上追求はしなかった……んですね?」
サリーが横から付け足した
「ああ、そうだ……そんな筈無いのにな……すまなかったシダル……僕は駄目な兄だったな……」
「気にしないでよ、少なくても俺は気にしてないんだからさ?」
そう言ったが場の空気は重かった。
取り敢えず夜も遅いから次男の家も訪ねなくては成らず、一旦話は終わりにしてその場を跡にした。
◇
立ち去る馬車を見ながら奥さんは旦那様に聴いてみた
「いつからシダル君は食卓に来なかったんですか?」
「多分最初から?」
「は?最初からって……どういうことですか?」
「離乳食を食べてる時は母親が付きっきり世話をしていたんだよ、妹が産まれて二年か三年は同じ部屋で暮らしていたはずなんだ、そこから3歳か4歳には壁を修繕していた記憶はある」
「まってください!シダル君は三、四歳の頃には働いていた事になるんですけど!?王国法では早くても教会で勉強し始めてからってなってますよね?」
「今にして思えば可笑しい話だったんだよな、四男がオカズを上げる代わりに仕事は五男がやるからって言い始めた時に疑っていれば……」
そう言って悔しがった
おかずを上げる代わりに……?
一度も食堂で見た事すら無かったシダルがオカズを貰っている所すら見た事なかったのに。
母親の手の離れた子供は誰が面倒を見るか、それは兄弟達だろう。それなのに、シダルを見かける時は必ず何かしらの仕事をしていた、だから声を掛け辛かった。っていうのは言い訳だろう。
人の子の親になり初めて気付いた自分の親達の行いに吐きそうになった長男だった。
「家族順位……か……」
ガンッ!と地面を殴って悔しげな旦那を慰めるかのように支えると長男夫婦は部屋へと帰っていった。
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