行商人

あるちゃいる

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十二話

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 父親のカーズはこの村から一度も外に出た事はない。村の外に出た事では無く、自分の息子のシダルの様に他の街や村に住んだ事も無ければ旅行に行ったり、都会に行って買い物したりと言うこともしたことが無い。
 
 カーズの兄弟も多かったが、出来た父親と優しい母のお陰でスクスクと育ち。
 農家の中でも何不自由無く暮らしていけた家だった。
 昔から住んでいた事もあり、発言権もある家だった。なので、兄弟以外にも他の村から父親を訪ねてきて、弟子にしてくれと頼まれたら断らずに部屋を与えて共に農作業を頑張っていた。

 カーズは下から二番目に生まれ上に兄弟が五人居る七人兄弟だった。
 カーズの子供達の中で、よく似た性格といえば四男だろうか、兎に角頼まれ事は全て末っ子に流す男だった。そのお陰で末っ子はシダルに似てとても良く働く男に育っていった。要領が良いのか教えられたら教えられてない事まで出来てしまう男だった。
 勤勉だった事もあり、自分でアレンジした農作業をしていた。その後勉強しまくって成績も良かったことから王都の学園にも通わせて貰っていた、それが実を結び卒業論文を書いた、それが【連作農業による被害と改善案】についての論文で王様にも認められた、その論文がこの村よりも大きな地主の目に止まり、逆玉の輿しとなり、成人式もソコソコに村を出ていって隣の領地で大成した。
 今じゃ中々の名士になって、その土地の領主の娘とカーズの弟の息子が結婚すると手紙が送られてきた。
 それを読んだ生前のカーズの父親も大喜びだったそうだ。そして、カーズは嫉妬した。

 カーズの上の五人もそれぞれ家を出て商会に入ったり、冒険者になってソコソコ有名になったり、他の町娘と結婚したとか何とか手紙が届く。その全てがおめでたい話ばかりだった。その都度カーズは嫉妬していった。
 自分だって他の街に行けばそれくらい出来る。
 自分だって勉強してれば論文だって書ける。
 自分だって自分だってとそればかりだった。
 何の努力もせずに他人を羨み妬みを繰り返していた。
 父親もそんなカーズが心配になり、この村の畑をくれてやった程だ。
 なんの取り柄も勇気も無かったばかりに村で一生を終える事を望んだのだ。
 カーズの兄弟達も村から一歩も出ないカーズを心配して、嫁の世話もしてやった。
 子供が出来れば奴も変わるさ。
 そう思っていたが、性格はそこまで変わらなかった。
 自分の長男次男を誘導して、この村で生きる事を望ませた。
 三男とはあまり仲良くなかったので特に関わってはいない。
 末娘が生まれた事はとても喜んだし、蝶よ花よと可愛がった。
 五男を特に嫌っていた父親。
 自分の弟と重ねていた。
 コイツに学問を学ばせたら駄目だと本能的に分かっていた。第二のアイツになってしまうのが嫌だった。
 だから四男を使って嫌がらせの限りを尽くさせた。
 だが結局五男は出ていった。
 頭の回転は良かったのか頭は悪くなかった。
 それゆえに、学園にも通わせてやらなかったのに。
 まともな勉強をさせてやらない。
 其処だけは譲らなかった。
 また論文なんて書かせねーからなっ
 常に敵意を向けていたにも関わらず、監視もしていたのに逃がしてしまった。
 農家の奴隷として一生こき使ってやる!そう思っていたが叶わなかった。
 五男のシダルが村を出てからカーズは酒をよく飲むようになった。
 そして体を壊すまでは結構あっという間だった。
 その頃からカーズは畑仕事もしなくなった。
 長男に麦畑を譲り毎月小遣いを貰っている。
 次男には土地だけを与えて自分で開墾しろと伝えた、その後次男は果樹園を開きソコソコ儲かっていると聞いたので小遣いをせびることにした。
 三男もシダルが村を出ていった次の日には居なかった。
 風のうわさで冒険者になったと聞いた。
 四男はデブり過ぎて動けなくなった、動けなくなったのは親父の言う命令を聞いていたからと言い始め、親父の家に住み末娘に世話をさせている。
 我儘だけを教育したような娘に育った末娘は、何処にも貰い手が無く、四男を世話する代わりにともに住むことを許している。
 母はカーズと離婚して今は隣の領地に住んでいる。村長の紹介でカーズの弟の仕事先で働いているらしい。



 村長の家で粗方取引の話は終わった、1軒だけが売るのに条件を付けてきたが、他の麦畑農家から買い取れたので概ね成功だった。
 残りの一軒はシカトしてとっとと帰ろうとするシダルの首根っこを掴み、その条件だけでも読んで行けと凄まれ手紙を渡された。
 渋々その条件を言ってきた農家が出したという手紙を読んでいると。

 「何だよ、長男宅で子供部屋が足りないから増築してくれっていう依頼じゃねーか!」
 今回は金を払うと書いてあった。依然家を立てたときはくれなかったしな、少しは成長したのか?
 あまり兄弟家族とは会いたくなかったシダルだったが、ここは仕方なく受けることにした。
 でも金は貰う!キッチリと。

 村を出る時に挨拶に来いという村長の言葉に軽く了解と伝えて村長宅を跡にした面々は、外に出ようとするシダルの首根っこを掴み神父様の部屋を訪ねる筈だったよな?っと、凄んでくるマダムタッソーに付き合うかの様にコンコンコンと扉を3回ノックした。

 程無くして「開いてるよー」っという懐かしい声を聞いて、シダルも会いたくなり中に入って挨拶を交わした。

 「神父様久しぶりー!」
 そう言ってハグをするシダル。
 何故か神父様はシダルと会う時は必ずハグを要求する
 「シダルは変わらないねぇ」
 シダルの顔を見ながらニコニコと笑うと頬ずりし始めた。
 「神父様も変わらいねぇ頬ずりする癖」
 ほほほっと笑い何となく顔が赤かった。
 酒でも飲んでたのか?まぁ夜だしな。と納得したシダルだったが、ドアから覗くマダムタッソーに気が付いて(またかよ)と呆れた。
 村長の部屋でも何時もの様に喋るでもなくソファーに座ったまま顔が笑顔の形で固まっていた。
 まるで借りてきた猫のようだった。
 仕方なく神父様にマダムタッソーを紹介したら、案の定知り合いだった。

 「タッソー?久し振りだね~本当に久し振りだ。もう何年になるかねぇ、今なら君の追撃を交わす日々も良い思い出だね」
 と、楽しそうに笑った。
 「何追撃って……なにされたの?」
 不穏な言葉が出て来たので聞いてみた



ー30年前ー(ゼリスの回想)

 「大賢者ゼリスよ本当になってくれるのか?」
 「私の女神(である聖女リアン)の為になるのなら」
 「では、この聖杯を盃にして、女神の伴侶となる事を誓い、いつ如何なる時も側に仕える使徒とならん事を」
 「誓おう」


 戦争が終わり、カリオは王都を去るという
 無茶な戦いで傷付いたドラゴニュートのタップは暫く王宮で休むらしい。
 一目惚れした私の女神であるリアンは教会に戻り、聖女として暮すと聞いた。
 聖女である限り普通に結婚も出来ないリアンと何時までも隣に立つために私は大賢者である事を辞めて、教会の女神で唯一神の伴侶となる為の儀式を執り行った。
 愛し合う未来は無くなったが、常に隣に立てる権利は貰えた。
 この王都で私は永久の愛を手に入れたに等しい。
 あとはこの思いを聖女リアンに隠しとおすだけだ

 「では神父ゼリスよ新しい聖女を紹介する」
 「……は?」
 (何を言っているのだこの男は?新しい聖女だと?どういう事だ?)
 突然変な事を語りだした教皇は丁寧に説明する様に咳払いをしてから語った
 ずっと愛し合っていた二人の物語を……
 
 「~~そして遂に聖女リアンは英雄カリムと婚姻したのだ、そして今日共にこの王都を跡にした、なので新しい聖女を……おい!?待て!!どこへ行くのだ!?」

 「私の女神は去った……私はもうここに居る必要が無くなった……」

 そう言って教皇の前から姿をけしたゼリス。


(ぜリス回想終わり)



◇(此処からシダル達にマダムタッソーとの出会いを語った話)


 暫く冒険者ギルドの食堂で泥酔してばかりいた
 「どうせ俺なんかよぉ……ヒック」
 それをチャンスと見たタッソーは猛烈アタックを繰り返した
 「ぜリス様!人妻なんて忘れて私と一緒になりましょう!」
 そう言って泥酔してるゼリスに寄り添い、時には強引に添い寝したり、好きあらばキスをしようとしたり、ストーカーまがいの事を散々やり通したタッソー。

 そのうち既成事実を作ろうとしてるタッソーに恐怖して何処かへ行ってしまったゼリス

 やり過ぎたと落ち込むタッソーに寄り添いウッカリ寝てしまった結果今のギルマスと既成事実を作ってしまって結婚した。

 「そうかアイツと結婚したのかぁ良かったなぁ」
 「良くないですよ!あなたの為に用意してた準備をアイツに使ってしまったばっかりに言い逃れのできない既成事実を作ってしまったんですから!」
 そう言って残念がるマダムタッソーと
 何をしたら言い逃れのできない既成事実が作れるのか聞きたいけど聴きたくないみたいに成ってる神父様をなんとも言い難い目でみていたシダル

 (女って怖いなぁ……)
 っと思っていると
 「私もそう思うよシダル」
 何も言わなかったのに合意する神父様に
 シダルはまた心の声がダダ漏れだったとため息を吐いた。
 すると扉から2回ノックのする音が響いてガチャリと扉が開いた、そこに立っていたのはシスターだった。
 「神父様スープが出来上がったのでカリム様と一緒に……って、シダル?あなたいつの間に帰ってきてたの?もう、教えなさいよゼリスったら!シダル、スープ飲んでいくでしょ?」

 そう一気に話してシダル達の分のスープを用意するわねっと、いそいそと食堂へと戻っていったシスター。

 「じゃあ御相伴に預かろうか」っとサリーと、マダムタッソーを見て言ったが、マダムタッソーの様子が可笑しい。ここに来てからずーっと可笑しかったが今は扉の方を見ながら口をあんぐりと開けたまま目は見開き、そのまま固まっているかのようだった。

 「マダム?」
 っと声を掛けても反応しないなぁ?と、目の前に手を振って反応を見てみたりしたが、反応は無い……サリーと二人で首を傾げていると

 「あ、そっかこれも知らなかったのかタッソー」
 照れた感じで神父様が頭を掻いていた。
 それを見たシダル達は二人で頭にハテナマークをくっつけて首を傾げていると、それに気がついた神父様が答えを言う前にタッソーが言った

 「何で元聖女リアンまで居るのよ!?」

 そこで初めてゼリスが語ったのがカリオとリアンの恋物語だった。
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