纏まった金が出来たので無人島を買いました。

あるちゃいる

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12話

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 「こんにちは~」

 田中と電話で話、ほっと安堵していたのはついさっきの事だ。
 ほんと数十分前なのに、漁船の外から沙月の声が聴こえる。

 最初こそ幻聴だと思っていた。
 悪魔から逃げ出したいと思うあまり、天使の様に思える沙月の声を聴いたと思ったからだ。
 そもそも飛行機で飛んで来るならこの時間でもおかしくはない。
 電話した直後に飛びだす必要あるってだけだけど。

 それなのに声が聞こえるのだから普通に考えて幻だと思うだろう。

 だが再び声が聞こえるのだから、焦るのは仕方ない事だと思う。

 「隆さーん? 美琴ー? 居るんでしょー?」

 その声は確かに沙月の声だった。

 俺は急いで部屋の扉を開けて外へと出る。
 階段を下って港に降りると周りを確認したが、沙月の姿は見えなかった。

 やはり幻聴かと思った矢先……海側の方から声が聞こえる。

 俺は再び漁船へと掛かる階段を登り、反対側の海がある方へと急ぐ。

 すると其処には丸太の上に立ってる沙月が手を振っていた。

 「あ! 隆さん! よかったぁー 縄梯子ってありますか? 流石に登れないんで」と、あっけらかんとしてそんな事を言う。

 「は?……えと?……何で丸太……?」

 と、疑問の声を出すと詳しくはここでは言えないと言う。
 俺は声だけでなく沙月事態が幻だと思い、何度も目を擦るが、何度見ても沙月が丸太の上に立っている姿しか見えなかった。

 俺がなかなか動いてくれないので、苛つかせたのか、沙月が怒鳴りだして漸く目を擦るのを止めて、縄梯子を備え付けの箱から取り出すと、放り投げる。

 「もう! 結構疲れるんですよ? ずっと立ってるのって!」そう怒る彼女を宥めながら、海に浮かぶ丸太を見ると、そこにあったはずの丸太は既に無くなっていた。

 「あれ? 丸太が……」

 どこを探しても丸太の「ま」の字さえ浮いてなかった。

 「何してんですか?」

 そんな俺を訝しく思ったのか、沙月も船の縁に手を付いて海を眺める。

 そして、一言……。

 「ここ迄運んでくれてありがとー! 私はこの漁船で帰るからねー!」と、何も無い波に向かって手を振っていた。

 「なに……してんの?」
 「え?あー……んーと……美琴と居るときに話しますね」

 そう言うとスタスタと漁船の内部をキョロキョロと見渡し、嬉々として歩き廻る沙月。
 その時、隆には沙月の目が光った気がした。

 再び海をチラリと見ると、魚の鱗がチラリと見えた気がした。
 随分大きな魚だった気がする。
 こんな港にも居るんだなぁ……。としか、この時の隆には思えなかった。

 沙月が階段を登って上にある操舵室へと向かっているのを目撃すると、隆も急いで階段を登って沙月の後ろをついて行った。

 「美琴‼」

 そう叫ぶと操舵室の奥で机に突っ伏している美琴に声を掛ける。

 一瞬顔を上げて沙月の顔を見るが、そのまま教科書に目を戻した瞬間、再び沙月を見る美琴。
 俗に言うニ度見である。

 「え? 沙月? いつ来たの?」

 「今……かな? お父さんが三十分前くらいに隆さんから電話を貰ったのよ」

 そう言いながら美琴の側に寄ると、美琴の手から教科書をふんだくる。

 「何何? 外洋にでも出ようとしてるの?」

 そう聞く沙月に驚きながらも答える。

 「違うよ、ただ見てただけよ? そんな事より! 貴女如何やって来たのよ? 飛行機?」

 「丸太」
 「……は?」
 「丸太だって」
 「何いってんの?」
 「だから丸太よ」
 「だからなんの話よ!」
 「如何やって来たかって言うから、丸太に乗って来たのよ!」

 美琴には沙月が何を言ってるのか理解できなかった。

 あの島からこの沖縄まで来るには、結構な時間が掛かるのだ。
 飛行機で飛んで来て三十分過ぎくらいだ。
 船で来るとしたら、もう少し掛かるだろう。
 だから丸太で来れる訳がないのだ。
 寧ろ、丸太に乗って漕いでくるなんて原始人みたいな発想はそもそも無いのだ。
 現実的にもありえないので、沙月が何を話してるのかさえ理解できなかった。

 「貴女頭でも打ったの? それとも私が可笑しいの? 勉強し過ぎたのかしら……」

 そう言って頭を擦る。

 「沙月の言ってる事は本当だぞ? 俺が見た時丸太に乗ってたしな」

 頭を擦る美琴に隆が声を掛ける。

 「……隆さん。貴方も可笑しくなったのね……ごめんなさい、私のせいですよね?」
 私が隆さんに恩を売ってその見返りに夢だった物を買い占めたから頭が壊れてしまったのだと美琴は思った。
 ここはもう仕方ない。
 隆と結婚して全財産を貰った後に隆の面倒も見なくては!
 美琴はそう思った。

 「隆さん!意識が残ってるうちに結婚しましょう! それしか私のできる事は無いわ!」

 そう言うと、懐にしまっていた婚姻届を出すと、名前をかけと迫る。

 「は⁉ なんでそんな流れになんだよ⁉ てか、なんでそんなもん持ってんだてめぇ⁉ つか!迫ってくんな‼」

 沙月をほっぽりだしてイチャコラと始めた二人を呆れた目をして眺めると、ため息を吐いて美琴を止める沙月。

 「貴女もいい加減にしなさい!」と、美琴の頬を叩く。

 「ちょ⁉ 痛いわね! 何するのよ! あ!さては嫉妬ね? そうなのね? 何よ素直に言いなさいよ! 別に沙月なら譲ってわ! ほら、コレはあなたにあげる!」

 そう言うと美琴は婚姻届を沙月に押し付けた。

 すると、沙月はサラサラと自分の名前を書いて隆に渡す。
 それに驚くのは隆である。
 「何してんの⁉」と言う隆に怯むことなど沙月には無いのか、更に押し付ける様に婚姻届を渡すと言う。

 「取り敢えずそこに名前を書いてから、私の話を聞いてください!」

 鬼気迫る勢いでそんな事を話しだした沙月に目を丸くして驚く隆と美琴は、固まる。

 隆は婚姻届に躊躇なく書いた沙月に驚き。
 美琴は自分の気持ちを素直に認めて婚姻届に名前を書いた事に驚いていた。

 そして、このままでは話にならないからと、再び隆に名前を書く様に迫る美琴。

 「え、ちょっと待って⁉」
 と、喚く隆。

 「待てない!早く書け!この野郎!」と、まるでヤクザが素人に契約書を書かせるかの如く脅し始めた美琴と沙月。

 そんな二人に脅かされては逃げ場など存在しなかった。

 泣く泣く隆は婚姻届に名前を書くと、沙月に取り上げられた。

 「それでは話をする前に、私が此処にどうやって来たかの説明をするね」

 そう言うと一枚の青味がかったエビせんを出す。

 「これに見覚えは……あるよね?」
 そう言って出したエビせんを机に乗せる。

 「実はすべての起こりはそれから始まってるの」

 そう言うと、疲れた様に椅子に腰掛ける沙月は、事の起こりを話しだした。

 

 

 
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