生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第1章 紅峠

第2話 新たな日々

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日が沈み、取り敢えず男女に教室を分け、寝る準備を始める。
気候は元と変わらず、熱帯夜。当然エアコンは付かない。風邪は引かなくとも、寝苦しいのには変わりない。

屋上の貯水タンクを確認がてら、鍵の掛かった扉をぶっ壊す。のではなく、職員室からマスターを拝借して屋上に出た。
夜風が気持ち良い。
「タッチー。君ってそんなアクティブだったっけ?」
「特に気にしてないから」
「気にしてないの?」
「気にしてもしゃーなし。僕。明日の朝。このまま何も起きなければ、旅に出るよ。食料少しだけ貰って。渡さないって言われたら・・・ペットの水だけでも」
「出てくの?委員長とかに反対されないかな?」
「留まっても食料の奪い合いになるよ、絶対。殺し合いは嫌だよ」
「・・・」
リアルな殺し合いが始まる前に旅立つ。
「誰かが来るまで待つのも自由。出てくのも自由でしょ。近くに生き物が居なかったら、どの道死ぬからさ。餓死で」
全員スマホは圏外で。バッテリーももうすぐ切れる。留まっても意味を感じない。
「おれも、付いて行っていい?」
「外にも何も無ければ、結局死ぬけど?」
「いいよ。クラスの人たちと殺し合うくらいなら」

翌朝。特にイベントも起きず、僕たちは2人だけで旅立った。
リュックにキャンパスノートと筆記具。ペットボトルの水と板チョコを詰め込んで。
みんなには黙って出発した。
ガード付きの果物ナイフ。体育館の竹刀をそれぞれ持って。
「戦えるの?魔物とか出たら」
「いやー死ぬでしょ。どっかの兵隊さんとか盗賊とか出ても同じ。チートなんて貰えてないし。誰にも勝てる気がしない。こんなの気休めさ」
「なら、何で行くの?」
「何処まで行けるか。どうせ死ぬなら、試してみたい感じ?」
「・・・」
太陽が昇り始めた方角へ。山しか見えない荒野で、目印はそれしか無いから。
目印が蛇行してたり、2つあったらお終い。
暫く無言で、一番近くの山を目指した。

「ステータス・オープン!」
叫んでみたが、特に何も起きず。やっぱチートは無いのねぇ。
「ステータス・オープン・・・」
「虚しいね。現実は」
「そう、だね・・・」

おー凄え。野生の野ウサギ。超速え。
振り回す竹刀が掠りもしない。逆に噛付いて来るから、避けるのに必死。
竹刀を噛ませて、果物ナイフを顎の下から突き刺した。思ったよりも入らない。
辛い現実と腕力の無さ。
2人で1匹がやっと。複数で来られたら、死んでいたのはこちら側。
肩で息を切らしながら、後ろ足で吊って血抜きをする。
「うっ」ヒオシが後ろで嘔吐いていた。僕も気持ち悪いんですけど・・・。
サバイバルの心得。無駄な殺生はしない。
木々の合間の広がりを利用して、枯れ木を組んでライターと雑誌の切れ端で火を起こした。
「凄いなタッチー。サバイバルの本読んだ?」
ウサギの皮を剥いで、串刺しに。組んだ枝木に乗せて丸焼きにした。
「全部ラノベ知識。これくらいは勘で行ける」
しっかり焼けた部分を枝で刺し直して、食べてみた。
「塩と胡椒くらい持ってこれば良かったね・・・」
「取りに戻る?」
不味くもなく、美味くもない。奪った命は大事に頂こう。残さずに。
ライターや紙にも限度はあるので、次は素で火起こしに挑戦だ。
排便は離れた場所で。ちり紙の代わりは何かの葉っぱで充分。毒があったら死んじゃうかもね。

一日一匹。木に成る木の実やら、桃っぽい果物で食いつなぐ。
歯磨き粉無しで歯を磨く。何もしないよりはマシ。虫歯で死にたくない一心で。
4日目の朝にはペットボトルの水は尽きた。
ペットは捨てずに半分に切り分け、傘と受け皿を作成。貯めて置く用に空の2本をストック。
今日も野ウサギを狩り、見つけた小川の辺で川水を割り砕いた石の器を火に掛ける。蒸発させた水蒸気を傘で受けて、只管水滴を集めた。
多少お腹が緩くなったが下痢まではしなかった。
源流を目指す。水源であれば、浄水しなくて済むから。
火起こしには大分慣れて、2人で交代で火を起こせるようになった。
元の世界を思い出し。親兄妹の話をしてちょっと泣いた。
誰も見てないからワンワン泣いた。
梟らしき鳴き声を耳にする。どうやら鳥も普通に居るようだ。
思わず抱き合ってしまったが、その一線だけは越えまいと固く誓い合った。
川辺を上流に向かって歩き、時々休んでは冷たい川水にタオルを浸して身体をゴシゴシ拭いた。
でも1週間近く風呂にも入ってない身体は、自分でも臭かった。
原始の人たちは、苦労したんだろうなぁ。
石鹸類は持って来なかったので、揉むと割と良い香りのする草を偶然に見つけ脇や背中に擦り付けた。
「タッチー。愛が芽生えそう」
「止めろよ。何も生まれないし、誰も喜ばねぇよ。絶対町や村には女の子居るって」
僕たちはイケメンではない。
動物が普通に居る。人間か、それに近しい知性を持つ生命体が居るはず。
人間と同じ、生殖機能を持っている事を切に願う。
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