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第1章 紅峠
第4話 出発
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それから3ヶ月程が経過。居候させて貰う事になった。
人間死ぬ気になれば、新たな言語も覚えるもので。ヒオシはお隣に住む、ターニャと言う娘さんにゾッコン。
恋の力は絶大で。どんどんじゃんじゃん、ここの言語を吸収して。僕も負けじとガリガリ覚えた。
最初の1ヶ月くらいで、言葉が聞こえるようになった。
最近では何とか話せるようになり、少しは文字も書けるようになった。
毎日の食事をご馳走になる代わりに、畑仕事を手伝い。たまに狩りも手伝った。
2人とも棍棒を振り回して、獣を追い立て回す役目。
肥だめ上にあるボットン便所にも慣れた。尻吹きはやっぱり大きめの葉っぱ。
最初使った時は抵抗あったなぁ。臭いし、蠅はウザいし。それもこれも慣れって奴で。
お風呂は共同で週一回。行水に近い物だけど、これまでに比べれば。
「ヒオシ。村長さんたちに恩返し出来たら、温泉郷でも探しに行く?」
「ターニャと離れたくないけど・・・。温泉も捨て難い」
ターニャちゃんは2つ下。不軽は買ってないけど、傍から見てる分には片思いっぽい。
親友が傷付くのは忍びないので黙って見守る。
「ごめんなさい。嫌いじゃないけど、お兄ちゃんて感じ」
切ねぇーーー。
玉砕してしまった友の背中を、ポンポン叩いて慰めてやった。
「タッチー。いつか。温泉、目指そうか」
「おう」
歳の近そうな女の子は少ない。小さな子供かおばさんばかり。
男女友に16歳で成人。適齢を向かえた女性は大概都入りするそう。
国があり、王都があるらしい。このサイカル村から更に東。ツーザサという少し大きな町の先。
馬車で一月くらい行った所に、クイーズブラン王国の首都。王都センゼリカが在ると聞いた。
残念な事に、そちら方面に温泉街は無いそうです。
年齢だけを見れば、僕らは大人。男も都会を目指す者と村に残る者とに別れる。
最初に出会ったおじさんがゴルザさん。でその娘さんがターニャ。ターニャも都会に憧れているので、来年には血涙を流しながら送り出す事でしょう。
月一くらいのペースで村を訪れる、馴染みの商隊の人に王都へ連れて行って貰うらしい。
お父さんは村の守衛の仕事から離れられないから、見送れないのを今から悔やんでいる。
ちょっと気が早くない?
娘を想う親心か。解らないけどね。
ターニャの美貌ならば、きっといい男が見つかるさ。
出て行った人たちも何割かは帰って来るそう。ゴルザさんはそれに期待している節が丸見え。性根が顔に出易い人。隠せていると思っているのは自分だけだったり。
村の名産は農産物よりも、武具の販売。2つの工房が毎日稼働中。
国では結構有名だそうで、腕の良い職人が打つ武具を目当てに商隊が来る。
鍛冶師は2人しか居ないので、数は打てないがとても質が良いとの評判。
毎日のように通い詰めて、馴染んでからは見様見真似で屑鉄を打たせて貰う日々。
炉の火を落とす寸前でしか空かないからしゃーなし。
前に一度。フル鉄鋼の中剣を持たせて貰った事がある。
「ぬ、ぬぉぉぉ」
真面に持ち上がりゃしねぇ。リアルぅー。あんなん片手で振り回すとか(笑)
ゴルザさんに武芸一般の稽古を付けて貰ってるけど、本気で身体から作り直さないと。無理!
ヒオシも頑張ってたけど、僕と同じ位しか上がらなかった。同じく両手にて。
無理矢理持ち上げると、自重で潰れて怪我をすると止められた。
そうさ僕らは一般人。
鍛冶師はスウィードとムウィードの兄弟。仲が悪い訳じゃなく、炉を2つにして効率化しただけ。
それぞれにお手伝いさん兼弟子が付いていてサポートしている。
彼らも練習するので、運が悪いと炉が使えない事も結構あるある。
こちらも本気で取り組まないと、斬れる武器なんて打てやしないって。
打つのも使うのも中途半端。でも折角だから旅もしてみたい。
責めて自分たち用の短剣でも造れるようになったら。
「タッチー。この村出るの?」
「ヒオシは留まる?僕は何処まで行けるか、試してみたいんだ」
「うーん。おれも行くよ。新たな出会いを求めて。折角言葉も覚えたし」
この世界には、盗賊も魔物とかも居るらしい。
幸いサイカルの人たちは他よりも強い人が多く、盗賊たちからも敬遠されている。
この辺境一帯は魔物も居ない。比較的平和な土地。
安全に暮らすならば、留まるのも悪くはない。でもそれで良いのかなと思う。
僕らと学校に残った人も含め、多くの者で召喚転移させられた。その意味を考える。
何かの神様には会えなかった。
商隊の人たちに話を聞いても、王都で誰かを探してる集団が居るとかの話も無かった。
もしかしたら。この転移は偶発的、自然発生的な物の可能性がある。
誰かがやった事でないのなら。誰か犯人が居るのでないなら。
僕らは普通に生きて行くしかない。殺伐としたこの世界を。
この何時死ぬかも解らない人生を。
それは元の世界でも変わらない。誰かが毎日何処かで死に。新たな命が生まれている。
何かを変える使命も無い。何処へ行こうと自由。なら行くしかないでしょ。
王都では色々なギルドが在り。そのどれかに認められれば民間証も貰える。
更に2ヶ月が流れた。
身体作り、鍛冶職の手伝い、言語の成熟。毎日が充実していた。
「2人とも。いい顔付きになったな。初めて出会った時は弱々しくて。どうすりゃいいのか本気で悩んだぞ」
「ゴルザさんに射られなくて良かったですよ」
「おれも。言葉も剣や弓の指南も。本当にお世話になりました」
並んでゴルザさんに向かってお辞儀する。ターニャちゃんも、少し残念な顔をしていた。ちょっとは泣いてやってよ、ヒオシの為に。本人笑ってるからいっか。
村長宅にも挨拶に行く。
「もう、行くと決めたのじゃな」
「はい。決めました」
「お世話になりました。おばさんもお元気で」
「寂しくなるわねぇ。このナイフは?」
初めて村に訪れた日に、没収された果物ナイフ。半年程経った今でも、刃毀れ一つせず綺麗なままだった。
結構粗く使っていたのに。元世界の税金の賜。調理器具に金掛かってる何て、今まで考えた事もなかったなぁ。これって鍋の蓋とかも、ちゃんと盾として使えたかも・・・。
「その2本はこれまでのお礼です。ただ余り表には出さないほうがいいですよ」
「それ、半分盗品なんで。でも心配なく。おれらにも所有権はあったので」
「そう?よく解らないけど。頂いておくわ」
「これは、村からの餞別じゃ。大事に使いなさい」
ズシリと重い、布袋。一人に対し、銀貨15枚と銅貨30枚が入っていた。大金だ。
「こ、こんなにも。貰えません」
「大して働いてもないのに。恩を受けてばっかだったのに・・・」
「よいよい。若いもんが旅に出るんじゃ。婆さんも逝き、馬鹿息子も山で死んだ。残念ながら恵まれなかった孫のようなもんじゃて」
「トバさん」サイカル村の村長の略名。正式にはトルルバ。どうも呼び辛くて略させて貰ってる。
「私にとっても。2人は息子みたいなもんさ。最後に、抱き締めさせておくれ」
「フィーネおばさん」トバを心配して、家に残ってくれた息子さんの嫁。それがおばさん。
膨よかな胸が肩に当るのも構わずに。エロではなく、とても安らいだ。
お母さんって呼べば良かったかな。そう呼んでしまうには、まだ若くて綺麗で躊躇われた。
2人が玄関先まで見送りに出てくれ、手を振っている。
何度も何度も振り返り、深々と頭を下げた。
「「ありがとう、ございました!」」
いつの日か。帰って来ようと、誓い合う。
最後に工房を訪れた。
「こいつは、俺たちからの餞別だ。ガツンと男上げて来い!」
兄のスウィードが僕の肩をバンバン叩きながら渡してくれた物。
銀鉄鋼で出来た短剣。村で最高級品として取引される逸品。
短剣と言っても刃渡りは30cmはある。扱える腕も無いのに、持ち腐れ。
遠慮したいのに。師匠や兄弟子たちの目は、返すなと訴えている。
「・・・い、いざって時に使わせて頂きます!」
「す、凄い。しっかり芯は太いのに、この軽さ」
「手入れは、自分たちでな」
弟ムウィードさんも言葉少なに、エールをくれた。
「「はい!」」
忙しい合間に時間を取らせてしまった。師匠兄弟が揃っているのを初めて見た。
兄弟子の一部が見当たらないのは、ムウィードの工房の炉の番をしているから。
これ以上時間を無駄にさせてはいけないと。僕らは別れを告げて旅立った。
商隊の荷馬車に相乗りさせた貰った。ツーザサまではタダで。そっからが本当の旅の始まり。
全部自分たちの力で、判断で進まなくては。
離れ行くサイカル村を。天幕を少しだけ開き、見えなくなるまで眺めた。
「タッチー、泣いてんじゃん・・・」そう言うヒオシも。
「お互い様だろ」
子供みたいに泣いたって、誰にも咎められたりしないけど。嗚咽を漏らし、鼻水を啜って我慢し続けた。きっとこれから先のほうが、もっと辛いだろうから。
あいつら、元気でやってるかな。
ちゃっかり残留組はチート貰ってたり、神様と出会ってたり、王宮にお呼ばれしてたり、勇者とか呼ばれたり、何処かの魔王と戦う羽目になったり。又は全員帰還してたり。
考えたって切りは無く。だからって学校へも戻りたくない。
「生きてりゃ、きっと何処かで会える。そんな気がする」
「そうだといいね」
久し振りに日本語に戻して話をした。
「帰ってなければ」
「・・・」
馬車は街道をひたひた走る。尻に伝わる振動は、長い旅の始まりを告げていた。
人間死ぬ気になれば、新たな言語も覚えるもので。ヒオシはお隣に住む、ターニャと言う娘さんにゾッコン。
恋の力は絶大で。どんどんじゃんじゃん、ここの言語を吸収して。僕も負けじとガリガリ覚えた。
最初の1ヶ月くらいで、言葉が聞こえるようになった。
最近では何とか話せるようになり、少しは文字も書けるようになった。
毎日の食事をご馳走になる代わりに、畑仕事を手伝い。たまに狩りも手伝った。
2人とも棍棒を振り回して、獣を追い立て回す役目。
肥だめ上にあるボットン便所にも慣れた。尻吹きはやっぱり大きめの葉っぱ。
最初使った時は抵抗あったなぁ。臭いし、蠅はウザいし。それもこれも慣れって奴で。
お風呂は共同で週一回。行水に近い物だけど、これまでに比べれば。
「ヒオシ。村長さんたちに恩返し出来たら、温泉郷でも探しに行く?」
「ターニャと離れたくないけど・・・。温泉も捨て難い」
ターニャちゃんは2つ下。不軽は買ってないけど、傍から見てる分には片思いっぽい。
親友が傷付くのは忍びないので黙って見守る。
「ごめんなさい。嫌いじゃないけど、お兄ちゃんて感じ」
切ねぇーーー。
玉砕してしまった友の背中を、ポンポン叩いて慰めてやった。
「タッチー。いつか。温泉、目指そうか」
「おう」
歳の近そうな女の子は少ない。小さな子供かおばさんばかり。
男女友に16歳で成人。適齢を向かえた女性は大概都入りするそう。
国があり、王都があるらしい。このサイカル村から更に東。ツーザサという少し大きな町の先。
馬車で一月くらい行った所に、クイーズブラン王国の首都。王都センゼリカが在ると聞いた。
残念な事に、そちら方面に温泉街は無いそうです。
年齢だけを見れば、僕らは大人。男も都会を目指す者と村に残る者とに別れる。
最初に出会ったおじさんがゴルザさん。でその娘さんがターニャ。ターニャも都会に憧れているので、来年には血涙を流しながら送り出す事でしょう。
月一くらいのペースで村を訪れる、馴染みの商隊の人に王都へ連れて行って貰うらしい。
お父さんは村の守衛の仕事から離れられないから、見送れないのを今から悔やんでいる。
ちょっと気が早くない?
娘を想う親心か。解らないけどね。
ターニャの美貌ならば、きっといい男が見つかるさ。
出て行った人たちも何割かは帰って来るそう。ゴルザさんはそれに期待している節が丸見え。性根が顔に出易い人。隠せていると思っているのは自分だけだったり。
村の名産は農産物よりも、武具の販売。2つの工房が毎日稼働中。
国では結構有名だそうで、腕の良い職人が打つ武具を目当てに商隊が来る。
鍛冶師は2人しか居ないので、数は打てないがとても質が良いとの評判。
毎日のように通い詰めて、馴染んでからは見様見真似で屑鉄を打たせて貰う日々。
炉の火を落とす寸前でしか空かないからしゃーなし。
前に一度。フル鉄鋼の中剣を持たせて貰った事がある。
「ぬ、ぬぉぉぉ」
真面に持ち上がりゃしねぇ。リアルぅー。あんなん片手で振り回すとか(笑)
ゴルザさんに武芸一般の稽古を付けて貰ってるけど、本気で身体から作り直さないと。無理!
ヒオシも頑張ってたけど、僕と同じ位しか上がらなかった。同じく両手にて。
無理矢理持ち上げると、自重で潰れて怪我をすると止められた。
そうさ僕らは一般人。
鍛冶師はスウィードとムウィードの兄弟。仲が悪い訳じゃなく、炉を2つにして効率化しただけ。
それぞれにお手伝いさん兼弟子が付いていてサポートしている。
彼らも練習するので、運が悪いと炉が使えない事も結構あるある。
こちらも本気で取り組まないと、斬れる武器なんて打てやしないって。
打つのも使うのも中途半端。でも折角だから旅もしてみたい。
責めて自分たち用の短剣でも造れるようになったら。
「タッチー。この村出るの?」
「ヒオシは留まる?僕は何処まで行けるか、試してみたいんだ」
「うーん。おれも行くよ。新たな出会いを求めて。折角言葉も覚えたし」
この世界には、盗賊も魔物とかも居るらしい。
幸いサイカルの人たちは他よりも強い人が多く、盗賊たちからも敬遠されている。
この辺境一帯は魔物も居ない。比較的平和な土地。
安全に暮らすならば、留まるのも悪くはない。でもそれで良いのかなと思う。
僕らと学校に残った人も含め、多くの者で召喚転移させられた。その意味を考える。
何かの神様には会えなかった。
商隊の人たちに話を聞いても、王都で誰かを探してる集団が居るとかの話も無かった。
もしかしたら。この転移は偶発的、自然発生的な物の可能性がある。
誰かがやった事でないのなら。誰か犯人が居るのでないなら。
僕らは普通に生きて行くしかない。殺伐としたこの世界を。
この何時死ぬかも解らない人生を。
それは元の世界でも変わらない。誰かが毎日何処かで死に。新たな命が生まれている。
何かを変える使命も無い。何処へ行こうと自由。なら行くしかないでしょ。
王都では色々なギルドが在り。そのどれかに認められれば民間証も貰える。
更に2ヶ月が流れた。
身体作り、鍛冶職の手伝い、言語の成熟。毎日が充実していた。
「2人とも。いい顔付きになったな。初めて出会った時は弱々しくて。どうすりゃいいのか本気で悩んだぞ」
「ゴルザさんに射られなくて良かったですよ」
「おれも。言葉も剣や弓の指南も。本当にお世話になりました」
並んでゴルザさんに向かってお辞儀する。ターニャちゃんも、少し残念な顔をしていた。ちょっとは泣いてやってよ、ヒオシの為に。本人笑ってるからいっか。
村長宅にも挨拶に行く。
「もう、行くと決めたのじゃな」
「はい。決めました」
「お世話になりました。おばさんもお元気で」
「寂しくなるわねぇ。このナイフは?」
初めて村に訪れた日に、没収された果物ナイフ。半年程経った今でも、刃毀れ一つせず綺麗なままだった。
結構粗く使っていたのに。元世界の税金の賜。調理器具に金掛かってる何て、今まで考えた事もなかったなぁ。これって鍋の蓋とかも、ちゃんと盾として使えたかも・・・。
「その2本はこれまでのお礼です。ただ余り表には出さないほうがいいですよ」
「それ、半分盗品なんで。でも心配なく。おれらにも所有権はあったので」
「そう?よく解らないけど。頂いておくわ」
「これは、村からの餞別じゃ。大事に使いなさい」
ズシリと重い、布袋。一人に対し、銀貨15枚と銅貨30枚が入っていた。大金だ。
「こ、こんなにも。貰えません」
「大して働いてもないのに。恩を受けてばっかだったのに・・・」
「よいよい。若いもんが旅に出るんじゃ。婆さんも逝き、馬鹿息子も山で死んだ。残念ながら恵まれなかった孫のようなもんじゃて」
「トバさん」サイカル村の村長の略名。正式にはトルルバ。どうも呼び辛くて略させて貰ってる。
「私にとっても。2人は息子みたいなもんさ。最後に、抱き締めさせておくれ」
「フィーネおばさん」トバを心配して、家に残ってくれた息子さんの嫁。それがおばさん。
膨よかな胸が肩に当るのも構わずに。エロではなく、とても安らいだ。
お母さんって呼べば良かったかな。そう呼んでしまうには、まだ若くて綺麗で躊躇われた。
2人が玄関先まで見送りに出てくれ、手を振っている。
何度も何度も振り返り、深々と頭を下げた。
「「ありがとう、ございました!」」
いつの日か。帰って来ようと、誓い合う。
最後に工房を訪れた。
「こいつは、俺たちからの餞別だ。ガツンと男上げて来い!」
兄のスウィードが僕の肩をバンバン叩きながら渡してくれた物。
銀鉄鋼で出来た短剣。村で最高級品として取引される逸品。
短剣と言っても刃渡りは30cmはある。扱える腕も無いのに、持ち腐れ。
遠慮したいのに。師匠や兄弟子たちの目は、返すなと訴えている。
「・・・い、いざって時に使わせて頂きます!」
「す、凄い。しっかり芯は太いのに、この軽さ」
「手入れは、自分たちでな」
弟ムウィードさんも言葉少なに、エールをくれた。
「「はい!」」
忙しい合間に時間を取らせてしまった。師匠兄弟が揃っているのを初めて見た。
兄弟子の一部が見当たらないのは、ムウィードの工房の炉の番をしているから。
これ以上時間を無駄にさせてはいけないと。僕らは別れを告げて旅立った。
商隊の荷馬車に相乗りさせた貰った。ツーザサまではタダで。そっからが本当の旅の始まり。
全部自分たちの力で、判断で進まなくては。
離れ行くサイカル村を。天幕を少しだけ開き、見えなくなるまで眺めた。
「タッチー、泣いてんじゃん・・・」そう言うヒオシも。
「お互い様だろ」
子供みたいに泣いたって、誰にも咎められたりしないけど。嗚咽を漏らし、鼻水を啜って我慢し続けた。きっとこれから先のほうが、もっと辛いだろうから。
あいつら、元気でやってるかな。
ちゃっかり残留組はチート貰ってたり、神様と出会ってたり、王宮にお呼ばれしてたり、勇者とか呼ばれたり、何処かの魔王と戦う羽目になったり。又は全員帰還してたり。
考えたって切りは無く。だからって学校へも戻りたくない。
「生きてりゃ、きっと何処かで会える。そんな気がする」
「そうだといいね」
久し振りに日本語に戻して話をした。
「帰ってなければ」
「・・・」
馬車は街道をひたひた走る。尻に伝わる振動は、長い旅の始まりを告げていた。
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