生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第1章 紅峠

第5話 醜き人々

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人間とは熟々醜い生き物だと思う。
転移してから2日目に消えた2人。今にして思えば、彼らのほうが正解だった。

俺は峰岸 鏡野。(ミネギシ キョウヤ)

このクラスの委員長を務めるだけの普通の高校生。どこかで委員長をやれば内申点が良くなるだとかは大昔の話。

誰もやりたがらなかったから、先生に言われるままに半ば無理矢理やらされているだけ。成績優秀だとかしょぼい理由を付けられて。

何か突出して良い訳でもなく。満遍なく良い点数が取れる。
選べる大学の幅が増える。それだけの理由で勉強を頑張ってきた。

ここでは何の意味も持たない。

1週間が過ぎた辺りの事だった。
食料の在庫も少なくなって、いよいよ外へ出ようと残ったクラスのメンバーに問い掛けた。
「1週間が過ぎた。神様も人間も、誰も迎えには来ない。だから俺も無能君たちのように外へ行く事に決めた。誰か一緒に来る人は居ないか?」

静まり返る教室。みんなどうしていいかが解らないようだった。

「私たちは、どうなるの?見捨てるの?」
副委員長の斉藤 祐子。(サイトウ ユウコ)
何を言ってるんだ、こいつは。

ウンザリしていた。班分けをしたいだの。分配は平等にだとか。薬の類いはどうしようだとか。
そんなの勝手にしてくれよ。
料理も碌にせず、食材も放棄。何か簡単な事を頼んでも体調が悪いとか言い訳をする。
炊事については男子のほうが上手いくらいだ。

自分で考え、自分から行動しない。口を開けば不平不満。

結局誰も手を挙げなかった。黙っていれば俺が何とかするとでも?馬鹿馬鹿しい。
だから、俺は言った。
「好きにしろ。自販の水だけ3本貰ってく」
男たち皆で各階と食堂脇の自販機を倒して壊し、飲料水を確保した。
飲み物だけは割りに豊富にあるが、底は見えている。この期に及んで味の好みとかをほざく奴らが多すぎる。
「そう言って、飯持ってく気だろ!」吠えるだけの不良。梶田 伸介。(カジダ シンスケ)
キャンキャン五月蠅く吠える割に、こっちのお願いは聞きもせず。
クラス1の鷲尾 我孫子。(ワシオ アビコ)に何かと絡み、先日レイプ紛いの行為をした。
運良く柔道部のエース。山査子 楓子。(サンザシ フウコ)に助けられ、事なきを得た。

全力で叫べば、誰かに聞こえただろうに。彼女はそれをしなかった。

国体選手とは言え、女子にボコボコにされたヤンキーなんて。
「俺が出て行くまで見てればいいだろう。梶田君」一応吠えるので「君」は付けてやった。
「アンダト!!この俺に命令するな!!」
どうせ梶田は右足首を捻挫していて動作が鈍い。言動だけ傲慢でも怖くない。
寧ろ今まで苛められていた側の、藤原 道真。(フジワラ ミチザネ)君や
城島 蒲生。(キジマ ガモウ)君たちの標的となり、他のみんなのストレスの捌け口に成り下がっていた。

同情はするが、俺も内心これまで助けてあげられなかった贖罪の意味も含め、拍手喝采で笑っていた。

自分も含めて、人間は汚いな。

最低限の荷物を纏め、掛けられる声を無視して外へ出た。

清清した。そう、思っていたのに。

何故か数名のクラスメイトが後を付いて来た。
「峰岸君・・・」
振り返らない。先に出た2人の痕跡を入念に探した。
残る4つの足跡。雨にも負けずに残っていてくれた。2人が今でも生きて居れば、俺が生き残る道もそっちに在る。そっちに賭けるしかない。

昼前に出て、夕暮れまで歩いた。
続いていた荒野も、途切れ途切れになり。林を抜け森に入ると小川にぶち当った。
川に顔を着け、満足するまで飲んだ。

案の定、腹を下した。脱水しようが構わない。水は際限なく在るのだし。
死ぬのが先か、胃腸が慣れるのが先か。

俺を真似した数名も下痢になったらしい。
女子が置いてかないでと叫んでいた。知るかよ、そんなもん。嫌なら何も無い学校帰れ。

学校内の食料は尽きる寸前。残ってたとして、餓死するのは目に見えていた。
こんな事もあろうかと、テンショナー付きの釣り具を拝借してきたのが幸い。
岩場のミミズを針に付け、川辺に垂らした。

虹鱒に似た川魚が釣れる釣れる。カッターナイフで腹を割き、綺麗に洗い流し、貴重な塩を軽めに振って落ち枝で串刺しにする。下拵えは終了。

川から離れ、森の中の少し開けた場所に焚き火の跡を発見した。
やはり2人は生きて居ると確信に変わった。そして進むべきルートも見えてきた。
そこの川を上流方面に向かっている。

残った炭を土台に、枯れ木と草や葉に着火剤を塗してライターで火を着けた。
拵えた魚を火回りに立てて焼けるのを待った。

俺も上流へ向かう。2人の痕跡を探しながら。今後の方針は決まった。
「で?残ったのは?」
物欲しそうな顔で焼けた魚を眺めている奴らを、初めて振り返った。

「5人だよ。峰岸君」
副委員長の斉藤。吹奏楽部の岸川 紀子。(キシカワ ノリコ)
女子バスケ部の鴉州 大退。(カラス オオノギ)の女子3名。
空手部の小心者、桐生 内蔵。(キリュウ ナイゾウ)
特別印象は無い、城島 蒲生。(キジマ ガモウ)

焼き終わった魚は3匹。全部自分用。捌いてない魚が丁度10匹。
「ちょっとは自分たちで考えろよ。俺がやってたの見てただろ!日が暮れる前に、自分の分は自分で用意しろ。焼きたいなら火の管理も忘れるな。動けよ!!」
こいつらイラつくわぁ。何時まで甘えてるんだ。こっちだって一杯一杯なんだよ。

桐生以外は使い物にならない。護身的な意味で。

久々に腹を満たされ、大木の幹に凭れて眠った。あちこち羽虫が這い回っていたが、振るい落とす気力すら無かった。

俺、虫苦手だったのになぁ。もう何か、どうでもいいや。
翌朝。隣で斉藤が眠っていた。なんでだ?

身体の露出部を手で探る。虫除けスプレー位、持ってこれば良かったと。今更ながらに後悔したのは言うまでもなく。

他の5人共、近場でそれぞれ眠っていた。普通、こう言う時は交代で眠るもんだと。心でツッコミつつ、見渡した。

虫に喰われてるの・・・、俺だけ???何でだよ!

この時点で、もしも自分のステータスを見る事が出来ていたなら。この奇妙で憂鬱なスキルを、こう称していただろう。

スキル【虫キング】と。正式には蟲王だと、かなり後になって判明した。ま、どっちでも同じだよな。
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