生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第1章 紅峠

第6話 ある国の崩壊

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「貴様らは。己が何を垂れているのか。本当に解っているのだろうな」
段下で臣下の者たちが頭を下げている。

謝って済む話ではない。

此度の召喚に、どれだけの財と生贄と稀少な魔術師を集めて来たと思っているのだ。
忌々しい。

発動と共に、魔術師の半数も死んだ。質の悪い奴隷を集めても、穴埋めも出来ない。
奴隷は兎も角、一般民を搾取すれば王家も失墜する。
魔術に長けた者など簡単には見つかりはしない。
再度の召喚には満たない。不可能だとの神官たちの見立て。
神をも越える所業。神すら欺こうとした罰。この戯れの結果が、罰。

「この国も、ここで終わりか・・・」
王国再興。大陸中央部に位置する小国、ゴーウィン。
昔から小国だった訳ではない。隣接国家に言い様に操られ、少しずつ削り取られた結果。
小さくなった。なってしまった。

虐げられた国。との侮蔑もある程。弱り切った弱小国家。
もう国家と呼ぶには程遠い。人口流出による減少、農産業の衰退、側近たちの離反や裏切り。
起死回生の最大一手。それが此度の異世界召喚。

出来るだけ多くの強者を。
出来れば人間種の男女で。
出来れば御し易い、若い者たちを。

望みが多過ぎたのかも知れぬ。少人数であれば、これ程の対価や犠牲も必要なかった。
「王よ!対象者の座標が割れました!」
伝令兵が玉座の間に、急ぎ駆け込んで片膝を着く。
「何処だ」
「クイーズブラン国・・・だそうです・・・」
「ハハッ・・・」

思わず失笑してしまった。クイーズブランと言えば、大国を2つも挟んだ先の、東方の強国。
敵ですらない強国に、私は態々塩を送ってしまったのだ。
これ程の喜劇。これ程の茶番があろうかと。

私は玉座を立ち上がり、片手を揚げて宣言した。
「今、この時を以て。我らがゴーウィンは、国家解体を宣言す!!」
場に居合わせた全員が狼狽え、響めいた。
為す術も、翻す武も全てを失った。

何をせずとも、崩壊は時だけの問題。少しだけ早まっただけの話。

「隣国に伝えよ。同時に、召喚に纏わる方術、方法、魔道書の全てを焼き払え。生き残った魔術師たちを封じろ。それが貴様らの最後の奉公だと心得よ。善いな!!」

最後に、自らの斬首刑を付け加えた。

世界の歴史に、狂王だと名を残す。太子たちの行く末だけは、少しだけ気になった。願わくば真っ当に生きて欲しいと願う。

召喚に関する情報は、口伝で広まってしまうだろう。しかし、詳細を知る者は私と魔術師たちだけである。何をしたのか、結果だけが残る。それがクイーズまでに伝わるには、まだ多くの時間が掛かるはず。

召喚までの道筋だけはくれてやるものか!

召喚された者たちが、どの様な世界から来た者たちなのか。こちらの世界に適合出来たのか。幾つかの興味は湧いた。それを知りたいと思うのは、傲慢が過ぎると言う物。

恐らくは、何処ぞの神の。逆鱗にでも触れてしまったのだろう。この小さき命だけで賄える物ではないとは解っている。

私の神に対する謀反は、失敗に終わった。

こうして人知れず、狂王の手に依りゴーウィンの国は世界地図から姿を消した。
何処かの世界の片隅で。有り触れた日常のように。

-----

私は鷲尾 我孫子。変わった名前だとよく言われて弄られる。
このクラスには変な名前の人が多い。それを言ったらあなたもでしょ。
自分の容姿には自信があって、ブスと並ぶと際だって軽い優越感で気持ちが良かった。

でも。ここでは何の役にも立たなかった。
可愛い可愛いと持ち上げられたのは、前の話で。どんなに可愛くても、無くなってしまったご飯は沸いて来る事はない。お腹が空いた。昨日から何も食べてなくて。

甘いミルクティーの缶だけで水分を補給した。
缶もペットも残り少ない。

2日目の朝。無能君と來須磨君が居なくなった。
8日目の昼。委員長の峰岸君が出て行った。斉藤さん、鴉州さん、岸川さん、桐生君、城島君が付いて行ってしまった。

残り続けるメリットが全く無くて。誰も引き留める事が出来なかった。
元の世界では男子のほうから構ってくれて、何もしてなくてもモテたのに。
誰からも声は掛からない。

梶田の塵にレイプされそうになった時も、誰かが助けてくれるだろうと思い上がっていた。
今まで頭の中で見下していた山査子さん・・・。楓子ちゃんに救われていなければ、今頃どうなっていた事か。前から仲は良いほうだったけど、あれからは頭が上がらず。感謝して心からの友達だと思うようになった。

これまでの蟠りを本人にぶつけると。
「そんなの、前から知ってたよぉ」楓子は怒りながら笑っていた。
女子にはバレバレだった事に、ちょっと驚いた。嫌いだった体育会系のノリも、追い込まれた今では心地良い。心強い。

学校に残るのは、私を含めて23人。12日目の朝には遂に食料と呼べる物が底を突いた。

もう直ぐトイレの水も無くなる頃。長い髪の毛も根元からボサボサ。頭皮も痒い。けどシャンプーなんて以ての外。

水の要らない洗髪料は早々に消えて無くなり、私は決心して手動バリカンで丸坊主にしてみた。思いの外爽快でスッキリした。

女子だけを集めて、丸刈り大会。他の子はみんな泣きながら。
「髪の毛なんて、また勝手に伸びるでしょ」
そんな些細よりも、今は食料と水の入手が先決。

「私もここを出るね。楓子も一緒に行かない?ハッキリ言って、残るメンバーで一番強いのは楓子だから完全にアテにしてるよ」
「ぶっちゃけるなぁ。でも返ってスッキリしたよ。私もアビちゃんと一緒に行く。期待に応えたいトコだけど、外にはどんなのが居るか解らないから、過信しないでねぇ」
覚悟はしてる積もり。自分の身は自分でとは言えない。出来る限りは努力する。

他の女子はここに残るらしい。
糖分の多そうなドリンク数本。生理用品。教員用のロッカーから、替えの用の下着。
クラスの担任のロッカーからは、スタンガンとロープ・・・。
「うわぁ・・・。知りたくなかった・・・」
「キモ、とか言うレベルじゃない・・・」
他にもデジカメが入っていた。のは見なかった事にしてそっと扉を閉めた。自分たちの着替えとかが写ってたら、トラウマで眠れそうにないし。

あとは体操着。着火剤にライター。チョコレート菓子数種。護身用の文化包丁。新品の歯ブラシ等を厳選する。
包丁はそれぞれの制服(上)でグルグルに巻いて、リボンで結ぶ。コレを使う機会が来ない事を祈らずには居られない。
着火剤とライターは、先行組の真似。
そう言えば、無能君たちはノート数冊も持っていった様子。何に使うんだろう・・・。
1冊くらいなら大した荷物でもないので、売店に在った残りを楓子と分け合い、ボールペン数本と一緒にリュックに詰め込んで赤ジャージの上から背負った。重い・・・。

隣の楓子は平然としてる。足だけは引っ張らないようにしよう。
「私がダウンしたら、置いて行っていいから」
「そうならないように、頑張ろうー」惚れる!女子にしておくのが勿体ない!
とっくにバッテリーが切れてたスマホをゴミ箱に叩き込んで、私たちは出発した。

「後悔してる?峰岸君に付いて行かなかった事」
楓子が訪ねて来た。
「後悔?後悔なら・・・、ムノウ君のほうかな。こうなる事を一番に見抜いてたと思うし。ちょっとだけ、好きだったかも」
「へぇー。意外だわぁ。で?ドコら辺が?」
一枚の板チョコを囓り合いながらの女子トーク。
「うーん。何も無さそうで、一番安全そうなトコ?」
「好みは・・・、それぞれだよねぇ」
ちょっと引き気味の楓子に何か言ってやろうかとも思った、その時。晴れ渡る上空で、何かの気配を感じた。

近くにあった大木の陰に隠れて、様子を伺った。
「「!!!」」悲鳴を上げそうになった互いの口を塞ぎ合う。

風を打ち付ける羽音。遠目でも解る漆黒の羽根。頭から尻尾までを覆い尽くす、真っ黒な鱗状の何か。
それは、たった今、私たちの上空を通過した。
その姿は有名過ぎて、ラノベじゃなくても数多のファンタジー物の代名詞。

ドラゴン。この世界での正式名など知るワケないし、知りたくもない。

だけど・・・。ここは。この場所は。この世界は。

日本でも外国でもなく。地球でもないんだと、実感させられた。
目を覚ますのも、覚悟を決めるのも遅すぎた。何もかも手遅れに思う。だって・・・

黒い高速移動体が、学校の在った方向に、向かって行ったのだから。

その方角から爆炎が上がった。大きな爆発音と共に。
学校から離れ、もう見えない位置に居るのに衝撃の波はここまで届いた。
周囲の木々も大きく揺れている。

息を呑む。全身の毛穴から嫌な汗が出た。震えが止まらない。
どうしても残ったクラスメイトたちの顔が脳裏に浮かんでくる。

強引にでも連れ出していたら。ここにもっと大勢で居て、もし見つかっていたら。
矛盾を通り越して思考が追い付かない。

楓子も同じイメージを持ったのか、同じようにガタガタと震えている。お互いを慰め合い、気持ちを落ち着ける為に、暫くの間キツく固く抱き締め合った。
「アレは、無理」楓子が震え声で泣いていた。
「あんなの、誰でも無理よ。見つかったら、潔く諦める」

ぼっちじゃなくて良かった。2人だけで良かった。大勢でなくて、良かった。
無能君。君は、こんなのも居ると解っていて飛び出して行ったの?
聞いてみたい。聞かせて欲しい。ただ普通に会いたい。

今更。追い着けるのかな・・・


脱出組。総勢10名。
残留組。21名。彼らの命運が大きく分かれたのは、転移から12日目の昼だった。
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