生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

文字の大きさ
14 / 115
第1章 紅峠

第14話 絶望

しおりを挟む
保健室。誰に運ばれるでもなく、1人で這い回りながらやって来た。
「クソがっ!」
虚しく響く、俺だけの声。

「今に見てろ。足が治ったら・・・。全員殺してやる」
言葉の返りは期待してない。

藤原や城島に蹴られた怪我は大した事はない。非力だったし。
山査子のデブにやられた足首の治りが悪かった。恨みが募る。

山査子は、前々から狙っていた鷲尾に付いて行った。
俺の復讐を恐れてか。城島は、峰岸たちと共に。

学校に残っているのは、ブスと雑魚ばかり。正直襲う気にもならない。

残り僅かな湿布薬を貼り直して包帯を巻き直す。

優等生に付いて行く気は無かった。
怪我さえなければ、1人で出て行ったのに。

突然の爆発音。同時に大きな地震が起きた。

耳鳴りが鼓膜を破り、脳みそまで震わせる。
「な・・・、なんだ?」

天井まで亀裂が入って、身の危険を感じた俺は、右足を引き摺りながら保健室を飛び出して窓の外を見た。

反対側の校舎が消えている・・・だと。
俺のクラスが在って、1階には食堂が在ったはず。

爆発事故でも起きたかのように、黒煙が立ち籠め、各所に真っ赤な火の手が噴き出している。

窓を開けて身を乗り出して周囲を見渡した。

そして、あいつと目が合った。
「なん・・・だよ、コレは・・・」

太い首を擡げ、首を捻ってこちらを見ていた。
全身が黒い鱗に覆われ、反対側からも見える尖った背鰭。
足を着いた状態で、残る校舎よりも優に背が高い。

恐怖の余りに、全身硬直して動かない。動けない。

バカな俺でも知っている。こいつは、ドラゴン。黒いドラゴン。
早く逃げろと、心臓が爆音を立てて警鐘を鳴らしている。

ドラゴンの口が大きく開き、深い喉奥に真っ赤な光が見えた。

逃げる、逃げる、逃げる、いったい何処へ。

-スキル【ド根性】緊急措置として強制発動します-

身体の硬直が解かれ、動けるようになった。
「いってぇー」
右足首が治った訳じゃない。

-スキル【痛覚無効】緊急措置として強制発動します-

急に痛みを感じなくなった。これなら走れる。

-スキル【神速】緊急措置として強制発動します-

今までに無い程、速く走れた。息も切れない。これが鍛冶場のクソ力なのか?

場を離脱した瞬間に、背後を熱線が通過した。一目振り返ると。
後ろの校舎が消し飛んでいた。

残る建物は体育館しかない。何か、何か武器になる物は・・・。

-スキル【知略】緊急措置として強制発動します-

そうだ。野球部の部室があった。文字通りに鉛玉食わしてやるよ。
どうせ逃げたって焼かれるか食われるかで死ぬ。どうせ死ぬなら一矢報いてやる。

-スキル【不屈】緊急措置として強制発動します-

人間様を嘗めるなよ、空飛ぶ蜥蜴野郎。
俺は部室のドアを蹴破り、金属バットとボールを袋詰めにした物を掴んで館外に戻った。

あいつは飛ばずに、同じ場所で待っていた。
嬉しいねぇ。さぁ、来いよ!

再び開く、ドラゴンの口。その喉を狙ってボールをバットで打上げた。

肩を壊して辞めちまったが、中学までは野球部でそこそこ有名だった。
打撃なら今でも充分やれる。

-スキル【フルスイング】緊急措置として強制発動します-

現役の時よりも振れる。早く振り抜ける。これなら世界の4番も夢じゃねぇ。
面白いように大口の中にボールが吸い込まれ、10球を超えた辺りから変化が訪れた。

喉の赤色が収まり、口を閉じて悶えている。ざまぁ、苦しんでやがる。
身体よりも一回り大きな羽根までバタつかせ、周囲に突風が乱れる。
小さな俺の身体では、受け切れずに荒れ果てた地面を転がった。

球の鉛の含有量なんて知らねぇ。でもそれが、こっちの世界でも猛毒だってのは見るからに明らかだ。バカな俺でも・・・うっせぇよ!

散らばったボールを掴んで立ち上がる。
バットのほうが堪え切れずに、くの字に折れていた。
取りに戻ってる暇は無い。「気合い入れろや!このボケぇ!!」

-スキル【闘魂注入】緊急措置により武装に転嫁されます-

かけ声が効いたのか、折れていたバットが元通りに戻った。
何でもありだな。流石やり放題。この大蜥蜴を何とか出来たら、人間なんて目じゃねぇ。

世界征服を阻害する高い壁。黒ドラゴン。それが今、翼を広げて飛び立とうとしていた。
「なんだ?逃げんのか、このクソ野郎!」

ボールを放り、全開のフルスイング。治りきっていない右足も何のその。全体重を乗せて打ち上げた。2発、3発。球はまだ在る!

近くには。

「そらそらどうした!ビビってんのか!」
ドラゴンの広げた翼に小さな穴が空いていく。分散していた打撃を一点に集中させる。
「飛ばすワケがねぇだろ」

次のボールは2歩分先に在った。取りに行こうと、打撃を中断したその瞬間。

「あぁん??」突然視界が真っ暗になった。

腕の露出部にネバネバした何かが絡み付く。しかも臭い。ウンコみてぇな臭いだ。臭ぇ。
ここがドラゴンの口の中だと気付くまで数秒。

「出せやコラァ。俺なんか食っても美味くねぇだろが!!」
足場が蠢き、身体や砂利を引き摺り込む吸引力が生まれた。
抗う術も無いまま、飲み込まれて行く。腹いせに何かの丸い物をバットでぶっ叩いた。

食道に入り込む間際に、一瞬だけ輝きが見えた。あれが炎袋だな。

胃の中に落ちるまで2秒程。

「あちゃーーー」熱い、熱い、痛くはないのに尚熱い。
顔や手や服がドロドロに溶けて爛れて行く。手の甲が透けて骨まで見える。気がする。
でも全然痛くねぇ。それよか熱い!マジで溶かされてる。

-スキル【冷熱感知無効】緊急措置として強制発動します-

急に熱く無くなった。でも確実に溶けてる。何となく、そんな気がする!
だったら一か八か。バットを両手持ちしての全力スイングを敢行。

空振り。何度振ってもバットは空を切った。しかし彼はすでにバットの先端が溶けている事に気付かない。

「気合い入れろやボケェ」
本日2度目の雄叫びが木霊する。
これにより、バットの先端が鋭利な形へと変化していた。奇しくも彼が本能的にイメージしたのは日本刀。極めて薄い日本刀の仕上がり。

もしも。通常の武器であり、通常の日本刀であったなら。ドラゴンの分厚い胃壁は破られなかっただろう。残念な事に、彼が手にしていたのは芯を除けば、薄い金属が巻かれた金属バット。

本来の刀となるには、材料が不足していた。

「うぉりゃーーー」盛大に斬り刻まれた胃壁はあっさりと貫通した。

突然天地が逆転し、開けた穴から胃液と一緒にダイビング。
暴れてるなぁ、へへ。胃に穴空くと凄ぇ痛ぇんだってな。死んだじいちゃんが言ってたぜ。

何かの柔らかい臓物の上に着地する。
「馬のレバ刺しって美味ぇよなぁ。てめぇのレバーはどんな味だ!!」

-スキル【悪食】緊急措置として強制発動します-

「美味ぇ!!!こんなに美味けりゃ、身体も元通りになりそうだ」

-スキル【超回復再生】緊急措置として強制発動します-

本当に身体が戻っているとも知らず、彼は満足するまで貪り食った。何の臓器かも解らぬまま。

ドラゴンの腹の中で、梶田は眠りに落ちた。ドラゴンが何処に向かっているかも、何をしようとしているのかも知らず、スヤスヤと子供のように。


-----

スキル発動個数。発動限界まで残り、11個。

彼に、もう少しだけ異世界の知識があったなら。
彼に、もう少しだけ思い遣りの心があったなら。
きっとこの世界は・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。  選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。  だが、ある日突然――運命は動き出す。  フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。  「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。  死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。  この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。  孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。  そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...