生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第1章 紅峠

第17話 越峠

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集会所の玄関前に並べられる盗賊たちと、裏切った護衛隊のメンバー。
生存確認が取れた者だけが、転がされていた。

その殆どの目が僕らを射貫いていた。激しい恨みが籠もった目だ。
逃げてはいけない。全部受け止めなくちゃいけない。

「貴様らが、この私を裏切るとはな・・・。残念だよ」
「こ、これは何かの間違いです。我らは奴らの隙を突いて奇襲を掛けようと・・・」
「ふざけるな!おめぇが王子が乗った隊列がここを通るから襲えと誘ってきたんじゃねぇか!今更無関係をほざいてんじゃねぇ」

「決まりだな。その2人以外を打ち首にせよ。私は血など見とうない。奥の部屋で待つ」

実に偉そうな奴だ。実際に偉いんだろうけど。

自分の言いたい事だけを残し、踵を返そうとした彼の肩をヒオシが掴んで止めた。

「な、何をする!」
「見たくない?自分ではやらない?自分で言った事の責任は取らない?君、何様?」

うん。多分、王子様だね。第3だけど・・・。
ヒオシが珍しく激高している。あんなに怒ってるの久々だな。
僕も内心煮えくり返ってる。

「き、貴様。誰に向かって」

あいつが振り向いた所に、ヒオシの軽めの平手が炸裂した。流石に拳は避けたのね。
怒ってるけど、意外に冷静。

尻餅を着いた彼の髪の毛を鷲掴みにして、捕虜の方へ向かせる。

「見届けろ。自分が言った言葉の責任を。耳を塞ぐな。自分が断罪を言い渡した者たちの、最期の言葉を残らず聞け」
「い、痛い。止めろっ」
「逃げるな!何れ人々に上に立つ人間になるのなら!なぁ、王子様」
「わ、解ったから。手を、離せ。・・・離してくれ」

王子は立ち上がり、鼻を垂れ、涙を流しながら。
次々に刎ねられる者の姿と断末魔を聞いていた。全身を震わせながら。目を逸らさずに。

最後までベテラン冒険者さんが執り行い、損な役回りは僕らには回って来なかった。

「アムール様・・・。ご立派です」
いつの間にか復帰した爺やが、テラスから状況を見詰めていた。
「爺。・・・私が巡業の旅になど出なければ。誰も裏切ったり、死んだりはしなかったのだろうか?」

「さて。そうやも知れませぬな。ですが。勇気を持ち外へ出たからこそ、ここの方々に助けて頂き、謀反の芽を潰され、膿を洗い流す事が適ったのです。王道とは厳しい決断の連続です。人々を見極める目もまた必要。此度の件は、良い経験と為されませ」

「・・・道理で。私は兄上に、馬鹿だ馬鹿だと言われる訳だ。私は、何も見ていなかったし、何も聞いていなかったのだな・・・」


場が落着いて、解散した後。僕らは白髭を蓄えた、戦士系の冒険者の人に声を掛けられた。

「坊主、と言って悪かったな。君たちは若い。未来もある。気負うな。自分たちだけで背負うな。筋は認める。虚栄も慢心も善いだろう。しかし・・・、場に居る仲間。初めて会う者たち。共に戦う相手を、もう少しだけ頼りなさい」
あの忠告をしてくれた人だ。この人が。

「ご助言、有り難う御座いました」
「・・・はい」
僕らは一礼を返して、皆それぞれの宿へと向かった。

漂う血の臭いが、僕らの胸を突き刺すように離さなかった。


-----

翌早朝。
馬車の荷台に乗り込み、宿場町を出発。したまでは良かった。

「で。何コレ」
「知らない。今日はくじ引き無かったし」

本日の乗り合いも、王子様と爺やとご一緒。

「私が命じたのだ。喜べ」
「すみませぬのぉ」
2人とも笑ってる。何だか怖い。
「はぁ・・・」

「今日こそは、私の話を聞いて貰うぞ。それで私への不敬は不問としてやる。そして・・・」
「何ですか?」

「君たちの話を聞かせろ。いや、聞かせてくれ」
拒否権は・・・、無いようです。
知ってる町や村も2つしか無いのに?
「どうせ面白くないですよ?」

「良い良い。昨夜は駆出しの冒険者とは思えぬ働き振りであった。さぞ色々な経験をして来たのだろ?それを聞かせて欲しい」

えーマジでかぁ。ヒオシと顔を見合わせ、暫し項垂れた。

切替えて話始める。これまでの事を。西の森林地帯に入ってからの話を。
そこまでの記憶は2人とも、仲良く無くなった事にして。

森や山の中を彷徨い歩いた事。野ウサギの丸焼きを主食としていた事。火の起こし方だとか。

サイカル村に辿り着いてからの事。親切な村の人々の話。この銀鉄鋼の短剣は誰が打ってくれた物で、自作の短剣は残念な仕上がりになった話。ヒオシの玉砕失恋話。

ツーザサに移ってからの、内容の濃い数日間の話。ビッグベアーを前にしてチビった時の話を。

アムールも爺やも。時に大声で笑い。時に関心し。驚いたり、頷いたり。
ちょっとエロい話で、アムールが鼻血を出しそうなったり。
詳細に盛って話して鼻血を出させたり。

それからの毎回。王都に到着するまでの間。ずっと僕らが話のお相手をしてた。
9割方。王子の自慢話を聞いてるだけだったけどさ。楽だった。けど絶望的に眠かった。

大半が同じ話の繰り返しだったから。

しかしその無駄話の中でも、ちゃんとした貴重なお話が聞けた。

この世界には大きく分けて5つの大陸が在ると言う。
ここ中央大陸グラテクスを中心に。極東の諸島連合アジサイ。南の大陸ホエラベプナ。

西の果てに在るキルヒマイセンは、大陸全域が魔族領で不干渉。年中荒れ狂う海域に隔てられ交易は無いらしい。当然全容は不明。戦争も起きようはずも無く。
西海岸を占めるドーバンと言う名の中立国家が、放置&監視を続けているそう。

一説に依ると、黒竜は魔族領から来たのではと推測されている。

北のエイラー大山脈を越えた先。そこには人類未到の大陸が存在する。とされている。

険しい山脈も去ることながら、そこに住まう大狼フェンリルが気高い壁となっていて、未だ誰も見た事がないと言う。

誰も知らない楽園がありそうだとか。神々が住んでいて、誰かが訪ねて来るのをずっと待っているだとか。嘘かホントかは、神のみぞ知る。

北極しかなさそう・・・、とは突っ込まなかった。人類の夢、勝手に壊しちゃ可哀想でしょ。
行きたい人たちだけで、どーぞご勝手に。誰がフェンリル倒せるん?

なんて余裕こいて聞き流していると、最も大切な話が飛び出した。

フェンリルを倒すべく、廃国ゴーウィンが異世界からの召喚を行い成功させた。
その内の6名が、友好共闘国家のベンジャムが保護したらしい事。

生き残った人が居る。あの状態から6人も。僕らよりも多く山を越え、クイーズを抜けてベンジャムまで。凄いガッツだ。そっちに付いて行けば、今頃こんな苦労は・・・。

2人で喜びを噛み殺し。顔で平静を保ち、小さくガッツポーズをし合った。
会いに行こう。でも僕らの身元もバレたら、討伐に参加させられそうだから慎重に。

と思いきや。近々センゼリカに修行がてら来るってさ。上手い事やれば会えるだろう。
王都の更に東側のダンジョン群を解放するとも言ってたので、そこに潜り込めれば。

6人が誰なのか。余りにも身勝手な妄想を浮かべてしまったので、淡い期待に留めます。
どちらでも受け入れる覚悟で。

北の大地は各国共通の悲願らしく、その覇権と優先を争い、度々戦争が各地で起きていると。とても悲しい話も聞けた。

そんな夢物語の為に、僕らは巻き込まれた。

滅びたゴーウィンは、いったい何を期待して僕らを召喚したのだろう。
とても討伐の為だけとは思えなかった。


お前たちだけに特別に話してやると、自慢気に話をする王子の隣では。爺やが青い顔をして呼吸が止まりそうだった。

爺やの寿命を心配しつつ、僕らはお話を頭に刻み込んだ。

この時は未だ、僕らは。生き残った召喚者たち全員に、この世界の命運が握らされている事を気付かずに居た。

変わらず揺れる馬車は進む。王都までの最後の峠を越える。
夕日の紅に染まる、王都センゼリカの姿が見えてきた。

「おー、見えてきたよ。ヒオシ」
「へぇー。でっけぇなぁ」
「そうだろう。そうだろう。ようこそ、我がセンゼリカへ」
ヒオシがアムールの額にデコピンをお見舞いした。

「いたっ。何をする。友連れとは言え、余り調子に乗るな!」
「こっちの台詞。そういうのは、この国の王様になってから言え」
アムールの振り上げた拳が降ろされる。
「アムール様・・・。王道は、険しいのですぞ」
「解っておるわ!」


馬列の人々は。それぞれの想いを抱き、希望を胸に前へと向かう。

国のため、家族のため、友のため、恋人のため。愛し想う者のために。
数々の犠牲と、紅峠を越えて。
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