生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第2章 再会、集結

第3話 モンスター

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「下で掲示板見てますねー」
若い2人が。異世界からの召喚者たちが、元気にロビーへと向い降りて行く。

「ちょいとお待ち!後で案内してあげるから、下で待ってるんだよ」
「「はーい」」
外に遊びに出る子供のような返し声。余りにも普通な光景に思わず絶句してしまう。

執務室に残る3人で軽く頭を抱えた。

私たちの主な仕事は財務管理。報酬金、報奨金の指針を決定するだけの。

依頼書の発行。初期の割り当て選定。依頼等級の管理。
ギルマスと言っても、殆ど書類整理に追われ、1日のノルマを達成するまでは帰れない。

人手が全く足りない。娘も冒険者を辞めてまで手伝ってくれている。それでも足りない。
なのにだ。

凡そ2ヶ月程前になる。突然の急報。
ベンジャムで保護された異世界からの召喚者たち6名を、こちらに暫く預けたいとの依頼が国から降りて来た。常日頃から面倒事を押し付けるのが大好きな奴らだ、仕方ない。

聞けば、6人は成人したばかりの若者だと言う。

その未来ある若者を、死地へと送り出してしまう。
本来なら我らが負うべき責任を、何も関係が無い彼らに押し付けてまで。

右膝の古傷が疼く。感じるのは不甲斐ない自分自身への怒り。
私は彼らに何も出来ない。助けてはやれない。守ってもやれない。
なら責めて、今出来る事を。

「ジョルディ。あれをロンジーさんに」
「あれを?そう、ですね。私たちよりも、彼らにこそ必要な物ですものね」
「アレ、とは何だい」

ジョルディは一枚の紙をロンジーへと差し出す。最重要機密書類を。
彼女はそれを一瞥すると、折り畳んで懐に仕舞った。
「こんな重要書類。紛失してもいいもんかねぇ」

「燃やして捨てたと言ってやりますよ」

「悪い子だねぇ、あんたも。潔いのも、背負い込み過ぎる癖も大概にしときな。それじゃ、ジョルディが何時まで経っても、嫁に行けやしないじゃないのさ」
「ロンジーさん。それは、大きなお世話です」

「ほー、言うじゃないか。ならこの8人は、私が預かる。全員纏めて叩き直してやるよ」
「・・・いいんですか?先日は、面倒だからと断っていたのに」

「男のクセに細かいねぇ。前は前。ここまで関わっちまったからには、後には退けないねぇ。ジョルディ。あの子にも連絡をお取り。この際使える手は何でも使う。私情を挟んでる場合じゃないさ。あの子の説得も任せるよ。私の言葉なんざ聞きゃしないんだから」
薄い眼鏡の奥が、少しだけ滲んで見えた。

「はい、了解しました。お役目は、必ず」
「フンッ。頼んだよ」

彼女が向けた背を見送りながら、私は思う。
私たちは、またしても彼女に救われる。血染めのロンジー、元A級冒険者に。
これ程の無責任があろうかと。

あの日。8年前のあの日に。
当時のギルドの見立ての甘さと、国軍の調整不足が呼び水となり。
東のダンジョンの一つで、スタンピード(大氾濫)が起きてしまった。
起こしてしまったと言うべきだろう。

あれは、完全に防げた事故。その氾濫を抑え込む際に起きた、とても悲しい悲劇。
私たちはそれを「アルハイマの悲劇」と記し、胸に刻んだ。

二度とあの様な悲劇は起こすまいと、深く刻んだはずなのに・・・。

私は。私たちは失念していた。召喚者が8人の他にも、生存していたその可能性を。

もっと注意深く。彼らの話に耳を傾けてさえいれば。二度目の悲劇は防げていたと。
彼らも、私たちも激しい後悔をする事となる。


「ジョルディ。私は、無責任だと思うかね?」
「いいえ、お父様。敢えて言うなら、この世界の人類全てが無責任なのでしょう。さぁ、目の前の仕事の山をさっさと片付けましょう」

「そうだな。ジョルディ・・・」
目の奥が熱い。娘に諭される父。実に滑稽な姿であろうな。


-----

あるわあるわ、出るわ出るわ。
2人して掲示板から一歩下がった場所で、おーとかあーとか言って感嘆を並べていると。

「おう坊主共。何やら物色中かね」

「あ、ラングさん。昨日振りですね」
「その内に、またみんなで飲みましょう」

白髭を蓄えた、屈強なおじさん。彼が宿場町であの助言をしてくれた人。
白髭こそ在るが、老人と言ってしまうにはまだまだ早い。若々しく凜々しい佇まい。

「今度な。わしらも今日の所は休暇だ。明日には東海岸に向けて出発。君らも一緒に来るかね?登録はもう済ませたのだろ。君らなら内のメンバーも大歓迎だ」

彼らは護衛隊の任を終え、本拠地のある東海岸の町ルデインへ戻るらしい。
C級メンバーで5人組。残りの4人もエントランスのソファーに座っていた。

一人スレンダー美人さんが居るけど、ラングさんの嫁さん。美女と野獣?
目が合って手を振り返す。正直、用事が無ければ是非ともご一緒したかった。

御夫婦でパーティーは珍しいですよね。と前に聞いた事がある。
でもそれ程珍しくはなく、割りに結構居るらしい。
「喧嘩は多い。細かい事には一々五月蠅い。命の危険は山程ある。かと言って家に居てくれと頼んでも、長旅が多くてつい心配になる。浮気然り、怪我や病気。傍に居て欲しい時に居てやれない。多かれ少なかれ何処も同じ様な理由で稼業を共にするのだよ」

町に居たって、女性や子供を狙った誘拐や性犯罪はあるからなぁ。
ツーザサの町を思い浮かべる。あそこでの犯罪はイメージ出来ない。
強ーいザイリスさんが居るんだし。安心安心。

冒険は別として、キュリオさんとの旅も悪くないなぁ。

「お誘いありがとうございます。でも僕らここで暫く滞在して、色々とやる事があるので」
「いつかルデインに行った時には、ご一緒に」

「そうか、残念だ。では、ルデインでな」
軽く挨拶を交し、彼らは出て行った。

今日は、ギルドへ任務達成の報告と特別臨時ボーナス(王子の護衛)を受け取りに来ただけだったみたい。

どれ位入ってたんだろ。お宿に行った時の楽しみ取っておこう。

再び掲示板に目を戻すと、今度はロンさんが丁度上から降りて来た。

「ほれ手土産」一つの畳まれた紙を握らされた。
「何ですかコレ?」

「坊やたちが今一番知りたい情報さね。ここで開くんじゃない!後でじっくり読んで燃やしちまいな。それまではBOXに置くんだよ」
何だか良く解らないので、取り敢えずBOX内に安置した。

掲示板新情報。

SSSS。大海の覇者、青竜。出た最上級!ブルードラゴン?
北東部の海を通り掛かっただけで襲い来る。凶暴凶悪な水竜。だそうです。
本気で遣り合いたいなら、空母艦持ってこいや!
海に投げ出されたら、あ、これ死んだな、と思うべし。

陸の壁がフェンリルなら、海の溝は青竜。
難易度だけで比べれば、あぁ確かにフェンリルだわ・・・んなわきゃねぇよ!


S+。深き山嶺の守護竜、赤竜。今度はレッド。
天然熊牧場の森から、更に南に下ったトーラス山脈の何処かに居るらしい。
+が付いているのは、【暴走】モードがあるからとか書いてある。
繁殖期に出合ってしまったら最後。
挑む場合には、遺書を書いてから。・・・何とも不吉な。


A。北東の怪力、鬼王。オーガロード。
王都から北東方面の森林地帯で、大抵お散歩しているらしい。
木々を越える程の体格の為、存在を確認出来次第引き返せ!そうするよ!


A。北の門番1、吸血鬼。ヴァンパイヤ。
多種多様な生物の成れの果て。常に集団で移動している。軍隊で押し潰せばイケる!

A。北の門番2、風牙。ウィンドウルフ。
荒れ狂う風を纏った狼。常に集団で移動している。軍隊で押し潰せばイケるって!

A。北の門番3、土壁。ゴーレムキング。
あらゆる鉱物と金属が混ぜ合わされた謎の生命体。魔術師10人以上は必須のこと。
普通の武器では攻撃が通らない。倒す事が出来たなら、一生遊んで暮らせるでしょう。

その場で死んでしまうわ!!

「何だよコレ。ヒオシ、僕気分悪くなってきた・・・」
「奇遇だね。おれも・・・」

絶望的。フェンリルに辿り着く前に、どのルートを辿っても強敵とぶち当たる。
個体で強く、集団で待ち構えている。オワタ・・・。

「なんて情けない声出してんだい。坊やたちならやれる。・・・根拠はないけどねぇ」
んなアホな。


A。東の深層主1、死霊王。デュラハン。
ダンジョンには必ず居るんかーい。首無しは凶暴。首有りは比較的温厚。どの差だよ。
武を好み、一騎打ちが大好物。魔術に弱く、涙脆い。何ですって・・・?
運が良ければ、お喋り出来るかも。
主にも色々バリエーションがあるんだねぇ。


A。東の深層主2、粘液侍。スライムベータ。
狩られる前に狩り尽くせ。狭い場所では戦わないこと。
飲み込まれたら、一か八か核を見つけてぶん殴れ。兎に角頑張れ!最後まで諦めるな!
精神論かよ・・・。


A。北陸の女王蜂。ミストレス。
北方の何処かの奥地に居座る女王様。一定周期で住処を変える為、正確な所在は不明。
働き者の男共を尻に敷く、活発な女王。彼女に対しては火気厳禁。
彼女のハートに火を着けてしまったなら、男は逃げだしたほうがいいだろう。
女の人なら大丈夫なの?


B。陸上の巨大兎。ラビットハードラー。
走るの大好き。人間が整えた街道を駆け抜ける姿を稀に見る。
高速で駆け抜けて行くだけ。まず捕まえられない。
お食事時を発見次第、尻尾か長耳を捕まえてみよう。掴めたなら、きっと貴方は幸運の持ち主。
デカくて速い。馬の代わりになるかも。柔らかそうだし。うん。
何より首肩腰尻が痛くならないなら、いいな。


B。遠洋のお邪魔虫、海竜。シーサーペント。
絵を可愛く書いたって、行かねぇよ!
ラングさんたちの、何か因縁の相手だって言ってなぁ。ふむ。


主要な新上位は、こんな所。他にも中から下級も一杯あるけど、それは出合ってからにします。
今は会いたくない・・・。お腹いっぱい。
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