生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第2章 再会、集結

第9話 旅路

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宿へと帰る道すがら、見覚えのある人とすれ違う。
「「ヒカジさん!」」

宿場町の戦いで、最初に援護してくれた弓の名手さん。
こちらを見つけ手を振って答えてくれた。

「おお、少年たち。奇遇だな」

和名っぽくて親近感が湧いた。
でも全然違う、ヨーロピアンテイストが濃いメリハリの有る掘り深な顔。金髪だし。
さぞおモテになるのでしょうねぇ。

「ヒカジさんも、ラングさんたちと一緒に?」
「ああ、そうなるな。へぇ、ジェシカがこの2人の担当かぁ」

彼は多くを語らない。謎の多いニヒルな人。

旅の目的も、ラングさんたちとは違うと言ってた。それよりも。

「ヒカジさんって、ジェシカさんの知り合い?」
恋人だったりするのかなぁ。

「ええ、同郷の知り合いです。そこまで深くはないですが」
「傷付くねぇ。昔は同じ任務請け負った仲だろ?」

「昔の話です」キッパリ言い切るジェシカさん。格好良い。

「世間は狭いなぁ」
「まったく」ヒオシの言葉に同意する。

「じゃあまた何処かで。生きてりゃ、何処かで会うだろう。ジェシカも、こっちは頼んだぞ」
軽くジェシカさんと、僕らの肩を叩いて通り過ぎて行った。


「どうしたの?ジェシカさん」
ジェシカさんが何故か浮かない表情。

「いいえ。何でも・・・」
冗談でツッコんで良さそうな雰囲気じゃないな。

「さぁ帰ろうよ。今日は何かなぁ」
「そうそう。飯飯ー」

「まるで子供みたいに」少し怖い顔から元に戻って、笑顔で笑ってくれた。


-----

冒険者、と。一口に言っても人に依って、旅の目的も目標も、求められる物は様々。

武に長け、魔術を極めたS級冒険者。
今現在。この世界にはたったの3人。

一人はこのクイーズブランに。
一人は西のドーバンに。
最後の一人は、最後に受けた任の後。
人々の前から姿を消した。

私はその消えた冒険者を探している。
彼を探しているのは何人も居る。
それこそ世界中の国が、彼の行方を捜している。

曖昧な情報を頼りに、法外な前金に釣られ。
後悔しても勝手に契約は破棄出来ない。
前金の返納をしたくても、その国は自滅。
理不尽な依頼任務と莫大な借金だけが残った。

金さえあれば、解約方法は色々あるのに。
共通金貨で5百。国営宿の仕事でなければ、毎月の利子さえ払えなかっただろう。膨らんでいないが、減ってもいない。貧乏ではないが、裕福とは呼べない生活。

大陸大手の商会が、廃国の債務の実権を受け取り、全額返金出来ない私は、返済義務に毎月追われている状態。

溜息しか出ない。

昨夕は監督官兼取立屋のヒカジは私に、念押しと催促をしに来ただけ。
宿の担当している2人とも知り合いだったのには、少々驚きました。
催促されて見つかるなら、誰も苦労はしないのに。

捜している方の手掛かりは、この国の同じS級のゴルザ様が握っている。そう踏んで、私はこの王都に留まっている。

どうして会いに行かないのか。
幾つか理由はある。中でも最も単純で明快な理由。

彼は自分が好む相手としか全く話しをしない。偏屈者。
宿の宿泊客から、ゴルザ様と繋がりのある方が見つかればと期待して。私は日々の業務を熟しているのです。


冒険者のS級とA級には実力に大きな開きが有る。
誰にでも成れる物じゃない。
英雄と呼ばれるだけの実力と、多大な功績が必要。

A級とB級には驚く程の開きはない。
とは言えそれも、誰でも成れる訳では勿論ない。

世界中をある程度自由に旅しているのは、主にC級以下の冒険者たち。

AやBはそれぞれ国からの依頼を受け、特定の場所や町を守護し、若き後人を育てる任に就くのが一般的。

私はC級止まり。自由が無くなるのが嫌で、自分で見切りを付けて辞めてしまった。

私のスキル【忍耐】。
与えられた物は使い用。とは良く聞くけれど。
このスキルは使い勝手がとても悪い。大きな魔物や魔獣を倒すのには不向きだった。

良いも悪いも。これは対人向きのスキル。暗殺者向きのスキルに該当する。

だからこそ冒険者を辞め、今の仕事に就いたのに。
私の人生が私の自由に成らない。

目の前で自由を謳歌する2人の若者。
他の冒険者たちを見ていると。少なくない嫉妬を覚え、心が乱れた。

でも、どうしてだろう。
彼らを見ていても少しも心は揺らがない。

これが正しい。冒険者は、こうであるべきだ。
私の心の奧底から、そんな言葉が聞こえるよう。

特にタッチーと言う、かなり変わった名の彼。

昨日に出会ったばかりなのに。
私の目は彼だけを追い掛けていた。

高価なイヤリングを貰ってしまったから?

昨日は、どうせ別の誰かにあげるのだろうと。
「可愛いですね」と心にもない事を言ってしまった。
まさか私にくれる物だとは露知らず。

男性向きの形のイヤリング。
確かに格好良いとは思いますけれど。
犬好きなのは本当でも、余り適当な事を言うもんじゃないなぁと昨夜は反省した。

熱りが冷めたら売ってもいい。借金の足しにも出来た。
でもやはり、どうしてだか売る気にならない。

今日は少しだけ早起きをして、2人のお弁当を作って持って来た。

2人はアムール王子のご友人で、大切な御客人。
駆け出しの冒険者が「あの」王子とお友達だなんて。

上級部屋まで無期限で貸し出すとは。お金にがめついで有名なアムール様が。最初聞いた時は、とても信じられず宿の従業員は、誰も担当を受けたがらなかった。

彼らの素直で真面目な性格を知り、私は内心とても安堵した。夜まで求められたら断れないから。

国内の国営宿の経営は、アムール様がご担当。
統括経営責任者。詰りは、会長職に当たる。

従業員である以上は、会長の命令は絶対。
その会長の御贔屓の言葉も絶対命令に等しい。


2人だけは特別扱い。この宿外での付き添いも許可は出ている。
時々の助言と、都市内の案内だけで特別報酬が頂ける。
これ程美味しい仕事はない。思わず顔も綻ぶ。


楽しそうに果物の罠を配置する2人。
彼らが何を狙っているかと言うと。

超が付く程の激レア。ラビットハードラー。
出会えるだけでも幸せになれると言う。

どうせ見る事もないだろうと。
外門西側の裏街道の道端で。半ば呆れて眺めていた。


突如、消え去る果物たち。
風に紛れて、薄らと。通り過ぎる、真っ白い影。

「・・・嘘ッ・・・」思わず声が出てしまう。

「え?何、ジェシ・・・」

途端に何かに吹き飛ばされる2人。
それぞれ反対方向の地面に転がって。

「ってぇー」
「あー、全部持ってかれたぁ」

起き上がった2人の後ろ。
罠として置かれた果物が、綺麗に消えていた。

落ち込む事もなく。尻の泥を払いながら立ち。
何やら次の策を相談していた。

「なかなかハードル高いねぇ」
「ハードラーだけに」

冗談交じりに、配置をジグザグに変えた。
余計な軌道を通らせ、時を稼ぐ算段の様です。

配置を変えた所で一瞬で持ち去られては意味がない。

「置く物の大きさも、大小織り交ぜて下さい!」

「なるほど名案。ありがとジェシカさん」
「いいねぇ。満腹で動けなくしちゃろ」

含んだ声でほくそ笑む。そんな暇はないのに。
「後ろです!!」
私もつい熱くなってしまった。

振り向いた瞬間に飛ばされていた。今度は蹴られて。

「グハッ。こ、呼吸が・・・」タッチー様が腹を抱えて。
「クーー。今、チラッとだけ見えたぜ」

-スキル【友愛】発動が確認されました。-

信じられない。今度は私にも姿が見えた。

でっかい白い兎。・・・可愛くない!
元は草食獣でも、あの前歯で頭を囓られたら人間などひとたまりも無いのでは?

2人の動きが同調して速さを増した。
この動きはいったい・・・。

白い兎も、2人の洗練された動きも。私は幻でも見せられているのだろうか。

消える果物。チラりと見える巨大兎。
2度も3度も。繰り返す内に次第に目が慣れてきた。

見える。見えます。
イケると思った途端。突然の終了が告げられた。

「うわぁ。もう果物ないや」
「おれのほうもだ。あいつなかなかグルメだな」

持参した果物が在庫切れを起こしたらしい。

代わりに道に散乱する野菜類。
兎は結局果物しか食べなかった。

丁寧に拾い集めてはBOXに戻す。それだけでも異質。
2人のBOXはどれ位入るのか。

気になって聞いてしまった。聞かなくても良い事を。
「お2人の、BOXはどの位入るのですか?」

「え?僕は無限」
「おれは極大。こっちもまだまだ余裕だね」
「は・・・?」無限とは?

「あ、これ秘密だからね。ジェシカさん」
「ええ・・・。はい」
私の心は其れ処ではないのですが。

「ダメそうな野菜食べちゃうかぁ」
「今日の晩飯は鍋物にでもする?調理場借りて」
「いいねぇ。お米が無いのは寂しいけど」
「贅沢言うなって」

この2人は何を言っているのだろう。理解が出来ない。

「明日も来るからな」
「脚でも洗って待ってろよぉー」

誰も何者も居なくなった街道に向けて手を振っていた。

その光景がとても微笑ましくて。

「それを仰るなら、首でも洗っての間違いでは?」

「ダメダメ。ジェシカさん」
「あれはね。捕まえるのさ」

「明日は絶対テイムするぞー」
「イケそうな気がするぜ」

捕まえる?あれを?倒すのではなく?


出会えるだけでも幸せで。
触れられるだけでも宝物。

捕まえられたなどと言うお話など。私は御伽話でも聞いた事が無い。捕まえてどうしようと。

何となく想像が出来てしまい、恐ろしくなって聞けませんでした。

その怖さすら、この笑い合う2人を目の前にすると吹き飛んでしまう。

釣られて私も、心の底から笑っていた。


昼食に用意しておいたサンドイッチを食べ、都内に戻る。
市場へ寄って明日の仕入れ状況を訪ね、
武器屋や鍛冶屋。ギルドの掲示板を眺めてその日の活動は終了と相成りました。

御夕食を共にし、私が見て来た世界を語り聞かせる。

目を輝かせて少年のように聞き入る2人。

きっとこの彼らなら、どんなに苦しくとも、笑いながら旅をするのでしょう。

私の拙い経験よりももっと沢山の。広い世界を渡るのでしょう。

そこに。その旅に。
私も共に、隣に居られたら。

適わぬ願いと知りつつも。願ってしまう。
私もこうで在りたいと。
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