生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第2章 再会、集結

第13話 初体験

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残金が心許ない。仕事しないと。
当然だよね。

兎捕獲は一旦保留。

地道に地上で魔物狩りもいいけど。
ガッツリ経験とお金を得る為には、近くのダンジョンに潜ればいいのさ。

ってことで。我らが友のアムール君に、ダンジョンの入場許可を貰えるように頼みに来ましたよと。


ダンジョンには勝手には入れない。
ギルドと国の許可が必要。

ギルドの許可は降りてる。足りないのは国のほうだけ。

ロンさんの睨みと舌打ち。
「あんまり奥まで行くんじゃないよ」
全く怖いんだか優しいんだか。


王宮。煌びやか、豪華絢爛。と思いきや。

「意外だね」
「思ったより、質素だねぇ」
「そんなにキョロキョロなさっては。田舎者だと思われますよ」
背後のジェシカさんの小言が聞こえる。

アムールの友達として来ているから、僕らの態度だけでも本人の迷惑になるって訳だ。

スーツの襟を正して、背筋を伸ばす。


全面頑丈な石造りな点はイメージする通り。
質実剛健。華やかさを捨て去り、機能性重視。

年中何処かで戦争なり、討伐なりをしているのだから。見た目よりも中身って事ですな。


案内の兵士に連れられ、アムールの自室に辿り着く。
「アムール王子。タッチーとヒオシを連れて参りました」

「入れ!」
ん?何か怒ってる?

中に入ると。
ギルド本部のマクベスさんみたく、書類の山に潰されそうなアムールがデスクで1人格闘中だった。

「遅いぞお前たち。もう少しで区切りが付く。そこで待っておれ。全く爺も少しは手伝ってくれてもよいのに!」

「アムール様のお勤めを奪い取るなぞ。この爺に死ねと仰いますか?」

「大袈裟だと言うに!」
カリカリしている原因が少し見えた。


「お久し振りです。爺やさん」
「そういやうっかり爺やさんの名前聞いてなかった」

「・・・一応名乗りましたがのぉ。酒でも吞んで忘れられたのでしょうかな。ゴッデス・ローバンと申します。気軽にゴッズとでも呼んで下され」

たぶんそう。自覚あります。酒吞んで記憶無くす事。

「宜しくね。ゴッズさん」
「何か偉そうな名前だな。宜しく、ゴッズさん」
思ってても一言多いぞ。

軽く握手を交して、ソファー席へ座った。
ジェシカさんは僕らの後ろに立ったまま。

「ジェシカさんも座ればいいのに」
「かい…。アムール様がお勤めされている目の前で、私が寛ぐ訳には参りません」

「そっか」
人にはそれぞれ立場があるもんねぇ。

そんな遣り取りをしている間に、王宮の侍女さんが紅茶とクッキー盛りを部屋に運び入れ、テーブル上に並べてくれた。いい香り。

一応待つ。只管待つ。30分位?


「よーし。今日の分は終わった。どうして兄上の分までこちらに来ておるのか…、まぁ良い」
小さな事など気にしない。それでこそ王子。


「4日も待たせおって。本当なら旅の者たちも呼んで、宴でも設けようと思ったのだがな。その様な余裕は微塵も無いわ!と父に怒られてしまってな。金は私が出すと言うのに何とも頭の固い…。今のは内緒だぞ」
冷めた紅茶を啜りながら愚痴ってる。

どっかの企業戦士みたい。知らんけど。

「いいよいいよ、そんなの」
「固っ苦しいのは好きじゃないし」

ロングドレスを着飾った貴族令嬢とか呼んで貰えたり?そこはかとなく残念な気も。まぁいいや。


「今日は何用だ?やはり宴か?」
「おい。人の話聞いてたか?」
ヒオシ。笑いながら怒るなよ。
相手は一応これでも王子だぞ。これでもな。

後ろのジェシカさんがソワソワしてる。トイレ?

「怖い顔をするな。冗談だ。ダンジョンの入場許可だったな。今はここから一番直近のモラシュのダンジョンしか下ろせない。他は先日話した、ある者たちの為に養生中。早い話が、調整中でな」
何か漏れそうな名前だ。

ある者たちかぁ。
ロンさんから貰った書面に依ると。
峰岸、斉藤、鴉州、桐生、岸川、城島の6人であると読み取れた。うん、これ以上の言葉は無いね。
現実は甘くない。委員長たちが生きてる事を喜ぼう。


「魔物のレベルは?」

「詳しい内情までは疎くてな。爺、説明してやれ。その間にリンジーをここへ」
侍女さんに向けて手を払う。偉そうに。偉いんだけど。
リンジーって誰?


「モラシュは、初から中級向け。DからCランクの魔物で占めておりますな。2人には丁度よろしいかと思いますぞ。稀にBランクも出るので、油断は禁物。階層も浅く、主も手頃。日帰りには持って来い、となっていますな」

「へぇ。じゃあそこで」
「他が選べないんじゃな。仕方ない」


通行手形発行と来客を待つ間。雑談に終始した。

「兎狩り?」
「狩りじゃなくて捕獲な」

「かなりデカい奴」

「惜しい所まで行ったけどね」
「餌を買う金が無くなった」


ノックの音が聞こえた。
「リンジーです。入ります」

「おお、来たな。何でもリンジーから2人にどうしても会いたいと申し出があってな」

「お初に…」
長身細身でありながら、腕にはしっかりとした筋肉が見える。出る所は出て女性らしいメリハリ。

ヒオシと目が合い、暫く見つめ合っていた。
「?初めまして」

「そうですか。貴方がヒオシさん、ですね」
「はい。…何処かでお会いしてます?」

「いいえ。初めまして。リンジーと申します。ロンジーの娘で、2人の素性はジョルディより聞いています」

「ロ…」
ロンさんの娘さん?父親似か!身体付きは母寄り。
性格は、性格は。まだ解らない…。

素性は聞いてるなら、態々隠す必要ないんだ。面倒が少なくて済む。


「リンジー。気は変わらぬのか?母上がとても残念がっていたぞ」

「決意は変わりません。直接にも申し上げましたし。ヒオシ殿の目を見て、更に固まりました」
「おれの?目?」

「何でもありません。些細なケジメです。こちらが2人の手形となります」

手渡された手形は、カードと言うより長細い札な感じ。
「おぉ、これが」
「まだ明るいし、偵察がてら行っちゃう?」

「だね。一層位なら直ぐでしょ」

出された札を取ろうとすると、引っ込められた。
なぜ?

「2人だけで、行くお積りで?」
引き攣った顔。美人が台無し。
今、ロンさんが一瞬だけ見えた!

「だって複数組むような知り合い居ないし」
「取り分減るしなぁ」


「そんな事だろうと思いました。これを渡す条件として、私たちも同行します」

「たち?」

リンジーさんが、何とジェシカさんを指名していた。
当人驚き、身を引いている。そりゃそうだわな。

「私のスキルは【適材適所】辺鄙なスキルですが、人員の見極めは得意とする所。【看破】程ではありませんが、下手な嘘は見破れますよ。女の勘ってやつですね」
おー、それって同性にも効くんすか。

物腰と喋り方が柔らかく変化した。
ある程度、信用して貰えたと思っていいの?

「なんかさぁ」
「保護者同伴で、初ダンジョンかぁ…」

正直恥ずかしい。監督官が女性とは。
偏見でも差別でもないよ。たださ。2人とも綺麗な人だからさ。お母さん感は欲しくないんですわ。

どうせなら、格好良いとこ見せたいじゃん。お子様脳の男の子なんで!

時間が勿体ない。
腹括りますか、ヒオシ殿。


「お前は、確かジェシカだったな。2人の面倒を頼む。借金の心配はするな。その代わり、存分に働け。2人のお守りとしてな」
ガックリ来るなぁ。半分事実だから反論出来ない。


彼らの初ダンジョンは、監視付き。

果物も予定していた武器すら買えず。稼ぐしかないと意気込んだものの。やはり何処かに不安は在って。

恥ずかしくとも、経験者が居ると心強い。


やって来ました初ダンジョン。
準備が整ったのは、昼を大きく回った頃。

大きく口を開けた入口。天然の洞窟。
ジメッとした湿気と、微かにアンモニア臭が漂っていた。

脇の小屋に居た番兵に、ギルドと国の通行証を見せると松明を2本貰えた。

証を見せるのは代表者だけでいいみたい。
今後、どちらか1組で潜る事もあるだろうからそれぞれ持ってたほうが便利。

どちらかが死ぬ事だってある。
そんな強敵と当たったら。お互い、ぶちキレて直ぐに後追いそうな気がす。

-スキル【無知無能・大関心】
 並列スキル【索敵】【鑑定】発動が確認されました。-

周囲の気配を探りながら下へと進む。

-スキル【友愛】発動が確認されました。-

疲労感は無い。テンションアゲアゲで感じないだけ?


探っていた圏外から、蝙蝠の集団が飛来した。
洞窟って言ったらコレ!吸血蝙蝠の洗礼。

シックスバット。通常のコウモリよりは大振り。吸血者らしく犬歯が異様に長め。常に6体で襲い来る。
個体はEランク。6体纏めてDの下位相当。

兎に身体が慣れてしまっている所為か、えらく鈍間に感じて僕とヒオシだけでスッパスパ。ご存じ銀鉄鋼でね。

「今日は2層を覗いて帰ろうか」
「そうすっか」

危なげない僕らを後ろから眺めている2人。
「ここは私も初めてですが。私は必要でしたでしょうか?」
「ま、まぁ。まだ、入口ですから」

「おっ」
足元に転がる小さな魔石。リーダー格を倒した時の物だと思う。

「珍しい。暫く放置されていたからでしょう。運がいいですね」
リンジーさんがニッコリ笑ってる。珍しいんだ。

僕が魔石を拾ってる間に、ヒオシが指笛を鳴らし蝙蝠をじゃんじゃん呼び寄せ…。

今度は多過ぎて、しっかり後ろにも流れた。
不意を突かれても冷静に対処している。流石!


蝙蝠の集団を掃討し終え、地面に散った魔石を回収。

「調子に乗らない」
ヒオシがリンジーさんに頭をポンと叩かれていた。若い女教師ぽい。親子だわぁ。

「ごめん。次からは慎重に行こう」
気を取り直し。


スネーカー。コブラのようにエラ張った蛇。Eの上。
心配無用。毒持ち。

スネーカーG。錦蛇並の全長で太い蛇。Dの中。
何を隠そう。猛毒持ち。

キャタピラー。巨大百足。グロい!Dの上。
真っ向勝負は避けるべし。

キャタピラーEX。頭がどっちか解らない百足。吐きそう!
Cの下。轢かれる前に噛まれるな。何処にだよ。


奥に少し進んだ開けた場所で。
気配を探るまでもなく。穴と言う穴から出るわ出るわ。
地面、天井、左右の壁。

ハウスやね、これは。


4人背中合わせで息を切らせる。
「リンジーさん。ここって初心者コースだよね?」
「まだ一層目だし」

「知りません」超クール。

「魔石もゴロゴロしてますし。今日はこの辺りで上がりませんか?」
ジェシカさんに賛成。

「程々に疲れたし。収穫あったから帰ろう」
「多少値は張っても、解毒薬無しでは降りたくないわぁ」

「良い判断です。帰りましょう」
手分けして魔石の回収。EXからは大きめの奴が出た。


「一層でこの数と魔石…」
リンジーが最後尾で洞窟の奥を振り返った。
胸の奥に刺さる違和感。

小さく首を振り、出口に向き直った。


彼の者の呼び声は、遠く離れたここにまで。
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