生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第2章 再会、集結

第12話 防衛戦

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ツーザサの町。氾濫発生後、4日目の夕刻。
生き残る住民と冒険者たちが中央広場で陣を張る。

「キュリオ。お前も1人でやろうとするな。配給班交代してやれ!」
「皆さんが頑張っているのに、私だけ休めません!」
僅かな火種で炊き出しをほぼ1人でやっている。
一緒に店を出していた両親は、もう既に居ない。

「メイといい、お前といい。勝手にしろ」
同じ身重で、2日も寝ていない。母親に成ると言うのは人を強情にさせるのか。


「2班交代だ!1班は休息。3班を起こすなよ」

町に残り、逃げ出さなかった冒険者たち。総勢60名。
経験の浅い若手も居る。
戦力分布を均等化し、3班で分けた。

顔位しか知らない。上等な連携は期待出来ない。


持ち寄った魔道具の大半を消費して、辛くも第1波は乗り切れた。現在は第2波と交戦中。

崩された南外壁から入りきれない魔物たちは、そろそろ東西に分散を始めている頃。


空の上の赤竜は、数発火玉を放っただけで静観状態。まるでこの蹂躙劇を、こちらが悶え苦しむ様を見て楽しんでいるかの様だった。

たった数発で町の5分の1が消し炭と化した。
被害は甚大。連発出来ないのか、しないのか。

前者である事を願う。

今は時期外れ。危険な繁殖期は過ぎたと判断され、この町にA級者は居なくなっていた。

無い物ねだりをしている暇は微塵も無い。
現状冒険者の頭は、高々B級の自分。町に常駐している国の兵士たちまでは手が回らない。


「兄さんも!少しは休んで。指揮は私がやります」
気丈にも振舞う妹。

彼女の股下に出来た赤い染み。あれは、拭い切れるような物じゃない。

だから休めと言ったのに。


怒りが込み上げる。誰に対する物でなく。自分自身への。

もう少し、後少し。俺に力が有ったなら。
西の英雄、ゴルザ様に届かぬまでも。

最初から彼を頼れば良かった。後悔しても手遅れ。
西には逃げるなと言ったのは、自分だ。

孤独な城塞。彼には守りたい場所が在った。
今では小さなサイカル村こそが、彼の心の拠所。

この町、この国の誰もが知っている。

あの村が在り、そこに守りたい人たちが居るからこそ。この国が安定し、強国と呼ばれ、一定の平和を保てている。

だから。それ故に。彼の大切な場所は害せない。多くの魔物を差し向ける真似は出来なかった。


これ以上の魔道具の損失は避けたい。赤竜との戦いが控えている。

アレを天空から引き摺り降ろす手段もこの町には無い。

それを考えるのは、地上の雑魚を片付けてからだ!


「次は、俺も・・・」
踏み出した一歩目が膝から崩れる。
身体が悲鳴を上げている。

限界?それを決めるのはお前じゃない。

-スキル【巌窟】
 並列スキル【開眼】発動が確認されました。-

この俺の本能だ!!

大剣を地面に突き刺し、支えとして立ち上がる。


尚も膝が笑っている。
「無理よ!兄さん。下がって」聞き分けのない。
互いに譲らないのは、やはり兄妹だからなのか。


「ザイリスさん!西より、西門から」
偵察兵がかなり慌てている。
「敵の増援か!」

「来ました。来て、くれました」涙まで流して。
いったい何が。


「久しいな、ザイリス。南西の掃除に手間取った。許せ」
魔物の返り血に塗れたマント。
背負う白銀の大盾。傷一つ見えない長剣。

「ゴルザ様・・・」

「指揮を交代してやりたい所だが。赤竜が沈黙して何日目になる?」
「2日目です」

「少し不味いな。アレの相手は私がやる。もう暫しの間だけ堪え凌げ」
そう言って、彼は幾つかの魔道具を後ろへ投げた。

どれも強力な魔術が放てる物。中には稀少な回復術系の物まで。


英雄は。何時も何処からともなく現われる。
英雄の後ろ姿は、何時も何処か寂しい。

南に向かって走り出す英雄の後ろ姿を、見送る事しか出来なかった。

俺では未だ、あの隣には立てない。


「希望が繋がった!だが助かった訳じゃない。自分たちの命は己が手で守り抜け」

周囲にそう叫んだ所で、俺の意識は途切れた。


-----

胸に空いた空洞。
悔しい。切ない。もう一度彼に会いたい。

子は流れた。流してしまった。
意地を張って、前線に出たばかりに。

立ち止まっていると、悲しみに押し潰される。

二度と子は作れないかも知れない。でも、何時か。

彼ともう一度。何もかも忘れ、冒険の旅をしてみたい。

僅かな希望を胸に。
奥歯を噛み締めてから、私は叫ぶ。

「2班前へ!」


-----

間に合わなかった。
人口千人近く居た町が、数日で3割。

誰かが責任を取らねばならない。それは私の役目。
国がザイリス1人に責を押し付けようものなら、私はこの国を捨ててやろうと決意した。

時期外れの赤竜の出現。その原因も探らねば。

見上げる空には、激しい憎悪に猛る紅き竜が居る。

先ずはアレを町から遠ざける。
地に降りてくれるなら倒してもくれよう。

前線の部隊を飛び越える。
飛翔の勢いを生かし、小型のベアー2体の首を刎ねた。

「ゴルザ様!!」
「英雄だ。英雄が来てくれたぞ」
「ウォォォ」

「喜ぶのはまだ早い!下がって後衛部隊と合流していろ」

「はい!」一斉に上がる声。

士気だけは盛り返した。しかし全員に浮かぶ疲労の影は拭い切れていない。

良くやれている。


崩れた外壁に躍り上がり、右腕を上空に構えた。

-スキル【鉄壁】
 並列スキル【射貫き】発動が確認されました。-

何割かの魔力を込めて撃ち放つ。

停滞していた竜の翼の末端を掠めた。


-スキル【竜】
 種族固有スキル【咆哮】発動が確認されました。-

何かを呼び寄せている。それでいい。


前に出ていた魔物たちが森方面へ引いて行く。

更に空へと一射。
地に飛び降り、魔物の引き潮の波に突入した。

剣を納めて、大盾を前面に出す。

-スキル【鉄壁】
 並列スキル【鏡面】発動が確認されました。-

竜が咆哮を止め、首を高く持ち上げた。

来る。


-スキル【竜】
 種族特性スキル【大炎】発動が確認されました。-

比類無き豪炎は、南の森入口一帯を焦土と化した。

赤竜が引き連れていた魔物の大多数を巻き込んで。


「すぅぅぅ」
周囲の燃える空気を吸い込む。懐かしい焚き火だな。

目の前に広がる光景は、何度も経験している。
成体の竜を狩るのも、10年振り。


さぁ、降りて来い!
戸惑う竜に向けて、追撃の一射。
お前の相手はここに居るぞ。

視線は外さず、BOXからポーションを取り出して飲み干した。

睨み合う事数分。


焦れた竜がトーラス山脈に向かって翼を広げた。

去り行く竜を見詰める。
何度でも来い。何度だって跳ね返す。この命続く限り。



町中の広場まで戻る。
残敵は上手く掃気出来ているようだ。

生き残った住人と冒険者たちが、希望の眼差しで自分をみていた。

「ザイリスはどうした?」

「気絶しています。3日も真面に寝ていなかったので」

ザイリスの妹だったか。股下の染みを見つけた。
男の自分では掛ける言葉も見つからない。

「君も少し休め。指揮は私が執る」

「・・・はい。そうさせて、貰います」


「残念だがこれで終わりではない!竜種の執念深さを侮るな。新たな襲撃に備えろ。武器、薬、食料。町中の全てを根刮ぎ集めろ。赤竜の相手は私がする。北の砦に救援、東の王都に早馬を出せ!」

ギルドの職員たちが、一斉に動き出す。

救援物資が届くのが先か、兵糧が尽きるのが先か。
救援部隊の到着が先か、こちらの全滅が先か。


サイカル村からの食料調達では間に合わない。質も量も稼げない。ここへ持って来るまでに腐ってしまう。

村の心配も多少は残るが、自衛出来る程には鍛え上げている。仮に魔物が流れても、熊程度なら問題はない。

現状で私がここを離れる訳には行かない。


問題があるとすれば。赤竜のあの目。
深い憎しみと悲しみ、怒りに染まる瞳の奧底。

私たちは、お前からいったい何を奪った。


ゴルザは南に聳える山脈を見据えた。


史実には残らない。ツーザサで巻き起こる戦いは。
未だ道半ば。
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