生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第2章 再会、集結

第18話 同一地上のスカイライン

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準備が整ったのは丁度昼前。
軽く朝昼兼用の食事を腹に入れ、とある場所まで来た。

裏街道の更に奥。王都西側の外壁沿い。
共同墓地群が在る丘の、更に西方。

出現頻度が偏る場所がそこには在った。

「やっぱしねぇ」
「やっと見つけたな」

大木の陰に集まる食べ残し。主にメロンの蔕の硬い部分。
幾ら果物好きでも、食べないよね。

周囲に散見出来る大きな足跡。大兎は一体だけじゃない。

家族かな。


-スキル【無知無能・激情】
 並列スキル【索敵】発動が確認されました。-

周辺一帯に意識を集中。
誘き寄せる餌を間隔を空けて配置した。

彼らの好物は、リンゴとメロンとバナナ。
僕らが買い占められると他のお客が買えなくなると、八百屋のおっちゃんが泣くので必要最小限数を持参。

総数2割程度を撒く。


まだ気配は感じない。
草むらに隠れてじっと待つ。

ジェシカさんを参戦させたり、色々と手は尽くしたが。一番惜しかったのは、路上にバナナの皮を敷き詰めた時。

足を滑らさて、後一歩で触れそうだったのに。
別方向からの追突に弾き飛ばされて終了。

今回は女性陣に20m後方に待機して貰い、全体監視をして貰う。リンジーさんが加わってくれたのは大きい。

過去の経験、勘、スキルで的確な配置や動きの指示を出してくれる。謂わば僕らの司令塔。

戦闘で優秀な後衛が居るのと一緒。
こちらは安心して前だけに集中出来た。

ベアーと同じBランク上位の魔獣。
嘗められているのか、手加減されているのか。彼らの攻撃自体は痛くない。在庫か時間が切れるまで、何度でも挑戦は可能。

餌を大量に食べさせ、動きを鈍らせる作戦は失敗。
御覧の様に、相手は複数居て、餌も全てをその場で食べている訳ではなかった。

兎は存外に賢い。僕らはおバカな供給者。猛省。

分析の結果。何処かに必ず安全な餌の保管場所が存在するはずと睨み、姿が多く消え去る位置から、この場所を割り出した。



「昨晩のヒオシさんとのお話は、上手く纏まりました?」
「あぁ、問題無い。ツーザサに行った時に、話し合いの場を設けると約束させたわ」

2人の後方。
木の陰に隠れながら背中合わせに小声で会話。

「年下の男をおちょくるのが、あれ程面白いとは思わなかったな。薬を早々に飲ませて、君の誠意を態度で示せと言った途端に飛び掛かられて…」
「成程。道理で展開が早いなと思いました。こちらは順を追って進めていたのに。先を越されたと思い、正直焦りましたよ」


「ちょっと待って。もしかして、声聞こえてたの!?」

「聞いたのは序盤だけですよ。コレのお陰です」
男物の狼イヤリング?

「それが?」
「これは聴覚を数倍以上にも補正して貰える、優れた魔道具です。元々目と耳は良く利く方ですので、しっかりと拝聴させて頂きました。余り人様と比べた事はありませんでしたが。リンジーって、ふごっ!!」
慌ててジェシカの口を塞いでしまった。

「怒るよ。私も男性とは久々だったから燃えあが…、何を言わすのよ!」

「冗談です。辛うじて聞こえたのは極一部だけです。機密性が高く、防音対策は万全な宿ですのでご安心を」

「安心出来ない…」

「それにしても。あのお薬はもの凄い効果でしたね」

「いやぁ、凄かったな。金貨3枚も出す価値はあった」

「あれよりも上が在りましたし。是非中身の成分が知りたい所です」

「止めておけ。私たちの身が持たないぞ。それより、あの事は伝えたの?」

「まだですね。もし問われたら、お答えしようかと」
「なかなかの策士だな、ジェシカは」

「ウフフッ。リンジーこそ」

男2人にまだ話していない事。最初に結ばれた盟約の解除方法。女性にもしっかり用意されている逃げ道。

一夫多妻制に対し、多夫一妻制。実際に踏み切った例はとても少ない。なぜ?生まれた子供が誰の子なのかで、主に財産分与の面で揉めに揉め。結果幸せになれたケースは極僅かだと聞く。

最後は面倒になり、夫たちを殺し合わせ最後の一人と添い遂げると言う末路。どちらに取っても、又は子供に取っても不幸しか生まない結末。

それらは貴族以上の上流でのお話。一般の身では誰もやろうとはしないし、労力に見合う対価は望めない。

だからこそ一夫多妻には、許可されるまでに色々な障害が設定されている。あの2人なら。

この世界の障害や壁など、軽々と越えて行ける。明確な、希望ではない確信を感じた。

「私たちは、彼らに。幾つかの選択肢を示すだけ」
「重責、ですね」

どの道を選ぶかは、彼らの自由。その果てない旅路に、自分は最後まで着いて行けるのだろうかと。伸し掛かる不安を振り払う。彼らが異世界に帰るのだとしても、それを今から考えるのは時間の浪費。

後戻りの選択肢は、昨晩の内に捨てて来た。


「来ました!正面10時方向」
「よし」
リンジーが前方のヒオシに手合図を送る。

「しかしなぁ。大兎を捕まえてどうしようと?」

「…ご覧になれば解ります。直ぐに」
私たちが狙っているのは、兎種の最上位。中核の大兎などではなく。


やがて近付く足音。あの巨体からは想像も付かない小さく柔らかな音。砂も土埃も一切巻き上げず、餌のメロンに噛付くただ一瞬。黙認出来た、白い陽炎。

「う、嘘!?兎って…」
「はい。彼らが捕まえようとしているのは、ラビットハードラーですよ」

「滅茶苦茶よ。あの速さを捕らえようだなんて…」
「私も、最初は同じ思いを抱いておりました。ですが」

「何?」

「彼らは至って本意気です」

無謀と思うのも無理はない。過去歴史上、偶然に倒せた例を見るだけで生け捕りに成功した事例は皆無。



これまでは2人掛かりで、側面から掴もうと四苦八苦。
失敗の連続。
こちらも相手も傷付かないように。

それではいけなかった。足りなかった。
お互い必死。魔獣としても人間なんぞに従いたくはないだろう。ペットを飼うのも人間のエゴ。

誰も望んでない事を成し遂げる。

ヒオシが大きなメロンを追加で頭上に投げ上げた。

狙いは正解。一度通り過ぎた兎が、行った先でUターンを加えて引き返して来た。

見えてはいる。側面からでは間に合わない。

直撃覚悟で進路上に、両手を広げて立ち塞がった。

-危ないよ(怒)-

「「!!!」」

初めて、声が聞こえた。耳でなく頭の中で。
しかもちょっと怒ってる。

知能の高い魔獣は、特性で念話が使える者が多いそうだ。これが念話かぁ。人間同士も使えたら便利そう。

心の中の声が聞こえっ放しじゃ喧嘩が絶えない。人間たちが使えたとしても、不要だとして捨てたんじゃ…。
何となくね。


「君が欲しい!」

-嫌だよ。僕らを餌付けしようたって、そうは行かないからな-

会話が成立している。一方通行じゃない。
賢い。ちゃんとこちらの意図を読んでいた。

「僕らは、君たちと友達になりたいだけなんだ」

-ともだち??-


聞き慣れないフレーズに振り返り、遂に兎は静止した。
噂通りに薄赤い、まん丸お目目。
興奮状態に入ると、より色が濃くなるんだね。

-ともだち?それ美味しいの?-
別の一体が後ろから現われた。2体以上居るのは解ってたけど、実際目の前にすると軽く感動した。

体格的に同等。成体の番?


「美味しくはないよ。僕らを君たちの仲間にして。その代わりに、君たちの欲しい食べ物を用意する」

慣れない交渉。こちらの手札は僅か。相手の譲歩を待つしかない。今回失敗した時用に、彼らの本当の好物を聞いておこう。

-君らからの食べ物は一通り食べちゃったし-
-久し振りに、あそこのリンゴが食べたいね-

リンゴ?僕らが用意した物ではなさそう。

-あそこは、黒竜様の縄張りだよ。危ないよ-
更に一体加わった。3体目。先に現われた2体よりやや小振り。2人の子供?

にしても黒竜って…。彼らの言うリンゴは黒竜の森に在るみたい。要求されたらどないしょ。

-ちょっと遠いし。途中危ないから行きたくないなぁ-
更に4体目。3体目と同じ位の大きさ。兄弟ぽい。

セーーーフ。行って来いやて言われなくて助かった。


-ならここから近くの、甘い蜜をくれる人のとこ行きたいなぁ-
甘い蜜?何だろう。蜂蜜?

-あの御方は気分屋だから-

-僕らのともだちになりたいなら-
嫌な予感がします!買って来る物じゃ…ダメっぽい。

-あの御方から貰って来てよ-
やっぱそう来たか。

「そのあの御方って?」

-女王様だよ-
-女王様さ-
-ちょうど、近くまで来てる-
-ウフフフ。ご機嫌が良いといいね-
取り敢えず、雄雌の判別が不能。

女王、蜂蜜。蜜蜂確定。しかーし、話通じるん?
お願いすればくれる様な物なの?

疑問は一杯。でもまぁ、乗るっきゃないさ。
失敗すれば交渉なんて二度と出来ないだろうし。

「連れてってくれる?」

-いいよ-
-勇気あるねぇ-

「なんと言えばいいのか…」
「魔獣の類いと交渉してしまうとは」
スキルらしい物を使用せず、人ではない者と交渉出来ている光景。夢でも見ているような。奇妙な情景。

4体が背をこちらに向けている。乗れって事だよな。

-耳はダメだよ。そこ弱いから-
-力抜けちゃうもん-
-首の後ろの毛ならいいよ-
-甘い蜜食べられるなら、我慢する-

彼らの声はみんなに同じように届いていた。
視線を合わせて頷き合う。
自動で僕が交渉役だったみたい。まぁいいや。こんな貴重な経験、誰にも出来る訳じゃない。

ふっとい首後ろにしがみ付く。お日様に干した布団のような香ばしい匂い。あれは確かダニとかの死骸の匂いだったり…。余り考えないようにしよ。

それぞれのペアが出来上がり、体勢を整えた直後。

零スタートで爆発するように走り出す。

乗る者の悲鳴を上げさせる暇さえ与えない。加速が留まる所を知らず。TOPギアで流れ去る景色。

木々の隙間を器用に擦り抜け、見える物全てが緑一色。

スピードが最高潮に乗る手前。兎の頭の長い毛が乗り手の全身を覆い尽くした。

伸し掛かる風圧への対応。兎はこれで空気抵抗を抑えていたと思われる。


方向性は始めに失っていた。僕ら、途中で捨てられたら帰れるのかな…。不安を感じる間も無く。

薄ら見えた隣の機影。兎さんはその目を細めていた。
長い睫毛がゴーグル代わり。何処も彼処も機能的。

全ては早く走る為。飽くなき探究心は、生命の進化先まで変えてしまった。求めるのは速さと、甘いスイーツ。
凄いねぇ。

乗り心地はフワフワで想像通り。雲の上にでも居る気分。着地の衝撃も殆ど感じず油断すると寝てしまいそう。

振り落とされたら重傷、又は即死。スリル満点で寝られやしない。長い毛の束を優しくしっかり掴み、へばり付く。

優しい気性で良かった。興奮状態でなくて助かった。


ヒラヒラ舞い踊る長い耳を目の端で眺めている間に。1時間も経ってない場所で、減速し始めた。到着?

4組同じ速度で横一線。前後に散けると、勝負師の魂に火が着いてしまうのかも知れない。そんな気がします。


-着いたよ-
-この近くに居るみたい-
-他の人間たちも近くに居るね-
-君ら以外は信用出来ないから-

これまでの餌付けが効いているのか、ある程度は信用されているらしい。他にも採取に来てる人たちが居るの?

「ありがとう。蜜取って来るよ」背中を撫でると、実に放し難い。ずっと撫でて居られる。
「また後でね」
ヒオシも撫で撫で。
「フワフワだった。あぁフワフワだった」
リンジーさんもウットリ恍惚。
「貴重な経験。言っても誰も信じないでしょう」
ジェシカさんも大喜びだった。


兎さんたちが姿を消した。
人間たちは敵か味方か。話が通じる相手だといいな。
蜂たちは素直に蜂蜜くれるかなぁ。

少々お高いマップの魔道具を拝見。

「な…」王都より、北西方向。

移動距離が半端じゃなかった。約1時間で、300km程度の移動。新幹線並じゃん!

4人で顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。
これじゃ、もうお馬には戻れないよ…。



-----

進路行程は概ね順調。天候にも恵まれ、後3日程度で目的地の王都センゼリカへ到着可能。

食料の在庫だけが心許ない。
王都に着いたら、先ずは食事で確定しよう。

ミストの機嫌が良好。昨晩俺が襲われた。以上。

俺では制御出来ない彼女の存在。機嫌を損ねて暴れられると厄介極まりないので、俺1人我慢…、甘んじて彼女の愛をこの身に受ければ済む。安い買い物だ。


つい昨晩の光景を浮かべてしまう。
「ん?来客のようだぞ」
妄想を掻き消すミストの忠告。

敵?特に敵意は感じないな。

この様な獣道。ただの行商の類いではなさそうだ。


「総員、警戒。抜刀はするな。俺が対応する」
などと言いながら、駒の兵士たちを表に立たせる。
危険であり、非道だと言われても反論は出来ない。

ミストを超える強敵でなければ、そう簡単には死にはしないから大丈夫だ。万が一でも、回復の魔道具を使える者もこちらには居る。

アーチェが隠し持っていた物。誰に遠慮が要るものか。


彼らはフラリと現われた。
「おー峰岸君!久し振りー」

「…無能君…。來須磨君も…」

「懐かしいねぇ。元気だった?斉藤さん、鴉州さん、岸川さん、桐生君、城島君も元気…なさげだけど。無事で何よりだ。隣の銀髪さんと兵士さんは初見だね」
後ろの5人が警戒を解いて立ち上がり、歓声と手を振り返した。

ミストは俺と現われた4人を見比べ、どうするの?と目で訴えていた。

「大丈夫。彼らが、俺が探していた者たち。本人だ。敵じゃないからな。安心してくれ」

あの日以来、数ヶ月振りに見る彼らは見違える程逞しく成長を遂げていた。後ろに控える女性の顔は知らないが。

「こいつらは、既に操られているのか…。私の役目は必要無かったのだな。峰岸殿、取り敢えずこれらを下げてはくれまいか。このままでは話も出来ない」
軽装の女性兵士。凜々しい美しさ。武の実力はアーチェと同等だろうか。実力排除をしても良いのかと彼女は聞いている。

「すまない。皆下がれ。離れた所で寝てろ」
素直に納刀して退く6人。従属を施してから無口になった。脳を支配したんだから当然だな。


「積もる話は山程あるけど、詳しくは王都でゆっくりと。突然で悪いんだけど、この近辺で蜂の巣見掛けなかった?」
「蜂の巣?」
思わずミストを見てしまう。

「蜂の巣が在るってここまで案内されて来たのに、全く蜜蜂飛んでないじゃん?蜂蜜分けて欲しくて来たはいいけどさぁ…困った」

「ミスト。彼らが困ってるそうだ。蜜を分けてやれないか?頼むよ」

「…其方の頼みなら無下には出来ぬ。良いだろう。我らの蜜は人間には猛毒となる。それでも良いのか?」

「お姉さん、養蜂所の人なの?自分たちで食べる物じゃないから大丈夫だよ。取り敢えず、この壺4つ程。…多い?」

「その程度、問題はない。もっと大量にだと少し時間を要する。私の前にそれを並べよ」

「やったー。こんなに簡単に手に入るとは。代価が必要なら峰岸君に払うよ?」
「不要だ。私には金の価値など解らぬからな」

4つの壺の上に、ミストが手を翳した。想像していた黄金色ではなく、赤みの強いオレンジ色の粘液が注がれた。

俺たちのBOXとは少し扱いが違うらしい。細かい点は解らない。

ミストの時々自分の手首を嘗める癖は、あの蜂蜜を舐めていたのか。

擬態を人型に保つ上で必要なのかも知れないな。

「私のおやつだ。小腹が空いた時に丁度良い」
全然掠ってもいなかった…。

無能の後ろに立っていた黒のロングフレアを着こなした女性が、周囲を見渡し歩み出た。
「タッチー。食料を置いて行くのはどうでしょう」

「いいねぇ。丁度余ってる野菜とかお肉とか有るけど、峰岸君たち要る?」

「それは助かる。在庫が心細くて悩んでいたんだ」
よく気が利く人だな。

「紹介が遅れました。私はジェシカ」
「私はリンジー。私たちは彼らの同行者で、皆の素性は把握済だ。王都でも会う事となる。宜しくな」
「私はミストと呼ばれている。キョーヤの嫁で正妻だ!」
強調しなくていい。


「一応僕ら、特定の人物以外には異世界人だってバラしてないから」
「勝手に素性をペラペラ口外したら、容赦なくまた消えるから。そこんとこよろしくね」
來須磨が口に指を当てて注意を促していた。

「充分注意しよう。みんなも口滑らすなよ」
折角再会出来た命綱。逃して堪るか。

後ろから元気の良い返事が聞こえた。俺たちなら問題ない。この場で出会えた事に感謝しよう。


「ちょっとこれから寄り道して。先に王都に帰って待ってるよ。1人乗りだから連れてけないんだ。ごめん」
1人乗り?馬か何かでここまで来たのか。

「同じ宿に泊まる手筈になってるから、態々捜さなくても自動で出会える。その時にまた改めて」
後の話は全てはそこで。

壺の横に山の様に詰まれて行く大量の野菜、肉、調味料、水筒。

「火だけは自分たちで何とかしてね」
「解った」
正直食べ切れない程。無能のBOXの底が見えない。


こちらの6人と、彼ら4人で硬く握手を交し。彼らは風のように去って行った。

ミストだけ参加しなかったのは、手が蜜でベトベトだったからで、異文化を拒絶した訳ではない。


漸く希望の光が差した気がする。この先も長く続くであろう苦難の旅路に。

「それにしても。あの移動速度、尋常ではなかった。この私が身震いする程に」

気にはなるな。馬ではないのかも知れない。そこら辺も王都へ到着後に確認してみたい点。


「ねぇねぇ。2人とも格好良くなかった?」
「顔はまんまだったけど。身体とかも引き締まってそうだったしね。お金とかたんまり持ってそう」
「ジェシカさんもリンジーさんも可愛かったねぇ。私は誰よりもリンジーさん推しで」
「ズルい。先越されたぁー」
「ほうほう。成程」
いつの間にか女性陣だけの輪が出来て、与太話を始めてしまった。最後にミストまで輪に加わって。

先に貰った食材をどうするのかが大事だと思うが。

「それに比べて、内の男性陣と来たら…」
「見た目だけで、ガッカリ感が半端ない」
「私のペアは凡才だよ!信じられる?私もあっち行ってもいいかな?ね?オオちゃん?」
「ダーメ。抜駆け無し。ノンちゃんは私の心のオアシスなの。ずっと隣に居てくれないと、心の平穏が保てない」
「あの2人やっぱ彼女さんかなぁ…。いいなぁ」
「ほうほう。確かにあの4人は強かったな」
サラリと気になる事を。

会話が所々噛み合ってなかったが、それで大丈夫なのだろうか…?気にした所で理解は出来ん。

諦めて男衆だけで飯でも作るか。味付けに文句を言うようなら自分で作らせる。それがこのチーム内でのルール。


数日後の王都での邂逅が楽しみとなった。澱んでいた気分もかなり晴れ、減退していた食欲も湧いて来る。

女子の話はストレス発散。これまで大分溜め込んで来た物があるのだろう。それで元気になれるなら良しとする。



-----

ついている。異常なまでの激運。
【白倖】のお陰としか思えない。

懸念事項だった峰岸君たちと出会え、女王様っぽいお姉さんから、高貴な蜂蜜まで分けて貰った。

「ミストってやっぱり…」
「ミストレスで間違いないね」
「争わずに済んで助かったな」
「人間の姿に完璧に擬態出来る何て、驚きでしたが」
そんな話は聞いた事が無かったんだろう。依頼書にも記述されてなかったから。

彼女を討伐する。想像もし難い。

リンジーが向き直って注意を促した。
「彼女ともしも相対する時が来たら、相当な覚悟が必要よ」

「フェロモンでしたっけ」

「男は問答無用で操られる。無数の雄の手下も厄介。単体でこそAランクで括られてはいるが、通常の武装では太刀打ちは不可能。総合でSランクの相手となる」
個で強い働き蜂の集団。無闇に挑んじゃダメな奴だ。
峰岸君のお願いだけは聞いてくれていた。是非そのまま女王様のご機嫌を維持して貰いたい。

王都内で暴れられたら…。かなりヤバいね。


ラビ君たちとお別れした場所まで戻った。

4つの壺を地面に並べ。
「おーい、貰ってき…」
言い切る前に、目の前から壺がロストした。底無しの食欲が何だか怖い。

「1人1つだからねー。それ以上はもう無いから、ちゃんと味わって食べてねー」
聞こえてるのか不安です。


-約束守ってくれたね-
-僕らもお返ししなくちゃ-
-ともだち?-
-どうやったら成れるの?-

「うーん」実際にどうやってやるのかまで考えてなかった。

-スキル【テイマー】
 並列スキル【盟約】発動が確認されました。-

「魔獣の付帯契約の知識は薄い。一般的な血の盟約が通用するのかも解らないし」
リンジーさんが頭を抱えている。

そんなに悩まなくても。
「僕らの血を舐めるってのは?」

-うへぇ、野蛮だなぁ-
-折角美味しい蜜食べてるのにぃ-
-それならこの壺に一滴ずつ垂らしてよ-
-我慢して食べるからさ-

草食でよくそこまで巨体に成れたねぇ。疑問はさておき、指先をナイフで薄くカットで血を垂らす。出来るだけ味変わらないように極力少量で。

他の3人も僕を真似て4つの壺に垂らし込んだ。

直ぐに傷薬を塗り、清潔な布で巻く。大袈裟?破傷風を馬鹿にしちゃダメだよ。細菌程怖い物ないんだからさ。直ぐに傷口が洗えないこういう外では特に。

さっき綺麗な水あげちゃったし。

壺の蜂蜜がもう半分位。よくよく考えると、猛毒お食事中の彼らに傷口舐められたらアウトやったわぁ。

嫌そうな顔で血の垂れた所を即行で舐め取っていた。汚くてゴメンよ!

-次は僕らに名前付けてよ-
-可愛い奴ね-
-尻尾触らせてあげるから-
-可愛い奴だよ!-
可愛いを2体に強調された。感じるプレッシャー。
ネーミングセンスが問われる。

-スキル【テイマー】
 並列スキル【名付け】発動が確認されました。-

雌雄の判別しなくて済むような名前。股間を見せてとは言えないし。
言葉遣いもほぼ同一の僕っ子。仲間っす。
性格もとても似ていて難しい。
可愛いを強調して来たのは雌と推測。

「どうしよ、何かある?」
「初手はタッチーに任せる」
「任せるわ」
「任せます」
ああそうですか!丸投げですか!最初に僕が付けた名前をアレンジして行く気だな。

責任重大。早くしないと蜜が無くなっちゃう。

最初の1体の尻尾に触れて唱える。うわモッフモフ!?こういうのは勢いです。
「君はイオラで」電撃みたいな超速度をイメージして。
パクり?呪文じゃないからセーフっしょ。

「お!なら君はライラで」やっぱり乗って来た。

「うん。君はサイラだ」そうですか…。

「はい!君はマイラ」そうでしょう!

-触り過ぎぃ-
-力が抜けちゃう-
-放してよぉ-
-食べられないじゃない-

ライラとマイラはやっぱ女の子ぽいぞ。微妙にだけど個性が見え出した。
イオラはお父さん。ライラはお母さん。
サイラは息子。マイラは娘って感じだな。

リンジーがヒオシの肩に手を置き。
「ライラと交代で」
「はい、喜んで」
乗るのも女同士のほうが安心ですか?何かと。


広がる甘い蜂蜜の香り。ウサちゃんのお食事タイムが終わり、本人は器用に前足の背を使って口端をお掃除中。
僕らはそれぞれの背中に回って毛繕い。

「時間的にまだ早いし。どうする?」
意見を伺いながら、登録証を出して見た。

「新スキル【テイマー】かぁ」
「当然の流れね」
「…もう諦めます。何もかも」
諦めないで。多分悪い事じゃないからさ。

-スキル【幸運】発動後、
 同属上位スキル【白倖】に吸収併合されました。-

僕らは気付かない。白倖に上げられた運気が、ウサちゃんに貰えた幸運で、更に上乗せされている事に。


「ベンジャムの領地まで直ぐだよね。ここまで来たんだし、アレ狩りに行っちゃう?」
「マジでアレ行くの?」
「…何をするにしても、今日は様子見だけにして置きなさい。余り調子に乗らないで」
「正直、私は帰りたい…」

「了解。今日は見るだけにするからさ」

魔道具のマップを展開し、ウサちゃん4羽に目的地を指し示した。

-いいよぉ-
-あの山は怖いのが一杯居る-
-手前までだよ-
-早く行って帰ろう-


走り出す兎たち。乗り手は僕ら。手綱も首輪も巻かない。だって僕らは「ともだち」だから。

国境関所の脇を超高速を擦り抜け、目指すは北の山脈。
勿論フェンリルを拝見する訳じゃない。
狙うは、土壁ルート。

大量の資金が必要となった今、他の魔術師集団にアレを潰させるもんか。横取りなんてさせないぜ。



その日。北に帯びる広大な山脈の1つの袂。
土壁犇めく3番目の谷間から、百体以上を数えたゴーレムキングの姿が忽然と、何の前触れも無く消え去った。

山の一端を監視していた者たちは、白い雲のような陽炎が幾つも地上に漂っていたと、口々に証言していた。



スキル発動限界まで後、残り15個。
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