お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第46話 掃気

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受け入れる物は受け入れ。
与えられる物は飲み下す。

簡単さ。何も考えなければいい。

俺たちの常識の方が間違っているのだと。


現実は厳しい。
小テーブルの上に置かれた紙の山。

「ねぇ。今日は後何枚書くの?」
嫁は愚痴っぽく筆を走らせる。

「あー。後、300くらい」
おいらも負けじと書き殴る。

色紙の山。

全ては、あの雑貨屋から始まった。

私も俺も。
何故!あの店は良くて、家は駄目なんですかぁ!!

どうして!あの子は良くて、私は貰えないんですかぁ!!

世の中は不条理。それは解っている。


ホテルに引き籠もろうと。
続々と授受箱に投げ入れられる。


町は駄目だと、財団管理棟に逃げ込んでも。
お茶請けにどうぞと新たな紙が渡される。


製紙技術が爆発的に上がったのか。
何処かの山がハゲ山になったのかは兎も角。


見紛うこと無き色紙が渡される。


ステータスが高いんだから、そんなん楽勝っしょ。

何を言っているんだ。

こっちの世界の文字は難しいんだぞ!

斜や払いや跳ね1つ間違えば、それは別人になってしまうのだ。

適当には書けない。
1枚1枚丁寧に。自分たちの名を刻む。


人に偉そうに指示を出しておいて。
お前はそれでいいのかとのお叱りは甘んじて受けよう。

そこは広い心で許して欲しい。


仕方ないじゃ無いか。
あの日。雑貨屋でうっかり許してしまった自分が悪い。

大した値段でもない星砂時計を、10セットタダ!
と言われて。簡単に折れてしまう己の貧乏性が憎い。


その波が終わったのが、海軍が動き出す前日。
これだけの為に、きっかり2週を費やした。

ホテルフロントに。
「これ以上持ち込みを許したら、系列全体の品位を貶めてやるぞ!!」

脅してやった。行き過ぎた行為だとの自覚はある。



久々に清々しい朝を迎えて。
浜辺で沖を東に向け走り出す軍艦を見送り、冒険者ギルドの掲示板の前に立った。

程なく依頼をした男性が現われた。
数枚の地図を抱えて。

既に人目を気にする余裕は皆無の様子だ。

どうにかしてやりたいが、軍艦を追い抜かしては待っていた意味が無くなってしまうので。

そこは我慢する事にした。

「どうですか。出来ました?」

「はい。こちらに」

掲示板の前で堂々と地図を開いた。

この町では俺たちはすっかり有名人。
何処に隠れても無駄だ。
俺たちが何をしようとしているのかも全部バレバレだ。


そう!周囲には!既に!

俺たちに期待をする目が!一杯なのです。

自意識過剰では断じてない。

バッチリこっち見てるし。受付の人までな!!


男性に。人を集めてと指示はしたが。
秘密裏にとまでは伝えなかった。

愚かな自分を殺したい。

彼は意外に真面目だった。
真面目過ぎたのだ。

命懸けの情報収集の意味を履き違えてしまった。

町中で!広場で!礼拝堂前で!
高らかに情報求むと叫んでしまえばどうなると思う。

この様だよ。



もういいや。諦めよう。

地図に目を戻す。

「軍船は2手に分かれるでしょう」

陸攻めと島攻めに。

「諸島の方が多いんですね」

人質が捕われているであろう牢獄が。

「島から回ります」

女神様の解除道具は1個しかありませんから。

「宜しくお願いします!」

男性は深々と礼を垂れた。周囲も一緒に。



当初の自己出発予定では、軍船が出てから半日過ぎを構想していたが、ギルド前には人の海。

そんな言葉は出せないさ。


「行こうか」
「行こー」
嫁も開き直ってしまった。

人々の海が勝手に港へ向かって開かれる。


あっと言う間に連絡船へ。
最早俺たち専用艇で財団管理棟前に到着。

波止場ではない。


左手のドックから出されていた俺たちの船に乗り込む。
外装も内装も前より豪華に改造されていた。


キッチンにはお弁当。
ベッドの上には目出し帽が2つ。


手に取って確認してみると、ちゃんと認識阻害が添付。
「「……」」
もうバレとるやないの!!

王都でヘルメンに問われた時に言い訳が。
「俺たちは何もしていない!ホテルで寝ていたんだ!」
立たない為、有り難く着用はする。



沖へ出て、軍船の最後尾を発見。

発見…それは正しくない。

出港した軍船の内、2隻が超低速で俺たちを海の上で待っていた。


接近すると加速し出したので、後ろを追い掛けた。

もうコンパスは要らない。
海図すら要らない。
だってまだ朝だし。


これから何も食べられなくなるので、サンドイッチのお弁当をフィーネにアーンして貰いながら、俺はモグモグと操縦桿を握り締めた。


不真面目ではないのか。緊張感無さ過ぎだろ。
とても心が痛む。色んな意味で。


約3時間後に前方2隻は北と南に分かれた。

南に向かう船に追従。


諸島の拠点は3つ。
最初に近付いた島では既に戦が始まって…。

終わっていた。

救出された顔色の悪い人質たちが、毛布を掛けられ浜辺に横並びで整列。


岸に接岸して、目出し帽を被って外へ出ると。

兵士諸君は全員青空を眺めていた。

「「…」」俺たちは無言である。

決して倦怠期を迎えた夫婦ではない。


人質たちに駆け寄って、彫像を強制発動。
淡い光が周囲を数秒包み込んだ。

使用効果を目で見えるのはいい。
そこは女神様に感謝しよう。

念の為、解除の抜け漏れが無いか1人1人丹念に肩に手を置いて行った。

1発クリア。

後ろで見守るフィーネと、ケージの中のクワンは。
何もする事がないので、ぶっちゃけ暇そうにしていた。

旦那が頑張る姿を見ていて欲しい。

「オッケー」と独り言を叫んで船に戻った。



それからは同じ作業の繰り返し。
何気にスムーズな接岸技術が向上した。

済まない。遊んでいるのではないんだ。

3つの島での作業が終わったのが、大体正午。

小腹が空きましたとは死んでも言えないので、水分だけを補給して大陸側を目指した。

やっとコンパス君の出番かと思いきや。
前方に軍船一隻が背を向けて超低速航行中。

もういい!俺は立派な成人男性だ!
嫁のお尻は追いかけ回しても、軍船のお尻は追いかけたくないのだ。


全ての思考を放棄して追従。


大陸側。初めて訪れる町。ウィンザート。

港の波止場はボロボロ。荒れた外壁に皹割れた道。
ここは世紀末か。

若干の怒りに燃えて、生きていた波止場に乗り入れた。


各所に背を向けて、町の中央方面に指を向ける兵士多数が立っていた。

戦闘は終わっているようだ。


ガイド役に導かれ、中央道を正面突破。

道の端に乱立する要救助者たち。

迷わず発動。

捕われていただけの島とは違い、クリアを掛けた瞬間に何人かの身体から、指輪や足枷や首輪が外れて地面に落ちた。

ロープで拾い集め、誰も居ない平場に寄せ、フィーネにアイコンタクト。

お仕事です。

嫁がハンマーで穢らわしい道具たちを粉に変えている間に状態確認。

後ろの音が五月蠅いのは我慢して頂こう。


累計8回の作業を終え、中央道を町の入口へ抜け切った。

町中を振り返り、兵士たちを確認。

全員空を眺めていた。


終わってしまった。

予想では。戦闘中に割り込みを掛け、解除を掛けて回ると思っていたのに。


男性が懸命に集めた情報が載った地図は…。
全部無駄だった。

しかしそれは彼が悪い。

自分で口外したのだから。


俺たちが!ここへ!呪い解除しに来るって!!


据え膳食わねば男の恥と。
故郷の人は善く言ったもんだ。


全てを平らげ。
折り返しの波止場に着いたのが、大体15時頃。

町を振り返らず。俺たちは全速で飛んで逃げた。

数多くの兵士たちに見送られながら。


目出し帽の意味は…。




---------------

ホテルに戻ると。
予約してなかったコース料理が。

「お夕食を御用意しております」


上で着替えて、少し遅めのディナータイム。


一体全体。ベテラン鳩たちが何羽飛んだのだろう。

王都~ラフドッグ
ラフドッグ~ウィンザート
ウィンザート~王都

そんなしょーもない事を考えながら。

「「乾杯!」」俺たちは現実から逃げた。




---------------

部屋に戻り、フィーネが徐ろに口を開いた。

「今日ってさぁ。私たち、ずっとここに居たよね」
「居たな。何処にも出掛けずに。
ずっと窓から空を眺めていただけだ」

俺たちは思う。
王都に帰るのが怖いと…。


「私って…。どっちに成るのかな」
「どっちって?」
「公爵夫人か、王妃様」
「大丈夫だぞ。まだ手はある」
「それはどんな?」
「ヘルメンから何か褒美授与の打診がある筈だ。
その時俺は…」
「スタンは?」
「聞いた事ないけど。拝命拒否権を要求しようと思う!」
「…それは初耳だね…」



それから俺たちは。
ホテル宿泊最終日2日前まで、現実逃避を繰り返した。

互いの温もりだけが、真実だと信じて。
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