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第63話 ラザーリア王城陥落
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転移後にペリーニャと女性研究者2人を教会に届けた。
そして取り出したのは。
天壌の拡声器と二枚貝。
二枚貝は試した事はあるが、拡声器は初めてだ。
範囲が広すぎて…試せなかったが正解。
二枚貝を俺とフィーネで耳に装着。
形的にはコードレスのインカムが近い。
耳を覆うベージュの貝殻。そこから少し足が生えてる。
「これで声も心も一緒だね」
幸せな二重音声だ。
周囲で沸き上がる喧騒から距離を取り、ぶっつけ本番。
「私はスターレン・シュトルフ。繰り返す。
私はスターレン・シュトルフである。
王妃フレゼリカに穢された王族の末端だ。
王城内外で戦う兵士諸君。
どうか手を止めて聴いて欲しい」
静寂に包まれる広場と、遠く離れた王城。
「王城の地下施設は。この私が粉砕した。繰り返す。
地下の施設は粉砕した。
全ての機材。薬品は破棄して浄化した。
今更掘り返しても何も出ない事を保証する。
マッハリアの正規兵及び所属騎士団諸君。
君たちの足枷は外した。心ある者は武器を捨てて城外に出て欲しい。
薄給で無理矢理従事させられていた従者の皆も同じだ。
地下の施設から救出出来た捕虜はたった五百名弱。
これまでに犠牲になった人員の数からすれば、ほんの一握りだ。
遅くなって済まない」
周りから啜り泣く声がする。
「アッテンハイムの聖騎士諸君。
そこの玉座に座る汚物の首を刎ねる権利は私に在る。
繰り返す。この私の仕事の邪魔をするな。
救出した捕虜を含め、聖女様も。
全員が無事に東本通りの教会前広場に居る。
私もそこに居る。
君たちが早く来てくれないと私が動けない。
出来れば早めに来て欲しい。
それまでここで待つ。
もしも何かしたいならば。フレゼリカに連なる王族と、
地下施設に関わった人物を捕え、城外の兵士に引き渡して欲しい。
最初の伝達事項は以上だ」
拡声器をオフにしてリュックに戻した。
振り返って周りを見渡す。
ペリーニャが拍手をしてくれた。
そこから始まる拍手の嵐。
「喜ぶのはまだ早いです!
近隣の皆さん。使い捨ててもいいシーツや、毛布があったら救助者に与えて下さい。
皆さんを苦しませていた重税も今日で終わらせます。
是非とも協力をお願いしたい」
一層大きな拍手と共に、直ぐに住民たちは動いてくれた。
介助される捕虜たちの姿を眺めながら。
ペリーニャを俺とフィーネの間に立たせて、聖騎士の到着を待った。
それから1時間程が過ぎて。
彼らは現われた。
俺たちの前に跪いた約2百の聖騎士たち。
「お久し振りです。ゼノン。
早速ですが、こちらのスターレン様にご報告を」
ゼノンと呼ばれた男と目が合う。
「スターレン様。聖女様の救出。深き感謝を。
アッテンハイム聖騎士軍所属。第三師団団長のゼノンと申します。
城内に残ったのは、フレゼリカ直属の配下と第二王子の手勢が約千騎。
第二王子に激しく抵抗され。悩みましたが、こちらが優先と考えて放置しました」
「こちらこそ有り難う。千騎か…。
後、俺の声が届いたかは解らないけど。
近場に別動の偵察部隊も来ている様です。
一部を送り、連携は取れますか?」
「ハッ。必ず見付けてここへ連れて参ります。
スターレン様のお邪魔にならぬ様に」
「敵が持っていた転移の魔道具は俺の手中に在ります。
もう聖女様を目の前で奪われる心配はありません。
ここを起点に防衛線を張って下さい」
「はい!あんな失態はもう二度と」
「じゃあ。行こうかフィーネ。正々堂々と正面から」
「行きましょー」
歩きだそうとした俺たちをペリーニャが引き留めた。
「どうかご無事で。スターレン様、フィーネ様」
「もう大丈夫だよ。後は人間相手だし。中には敵しか居ないしさ」
「いえ…。そうなのですが。どうも、…とても嫌な予感がします。油断だけはしないで下さい」
「ご忠告有り難う」
「スタンは直ぐに調子に乗るからねぇ」
「はいはい。肝に銘じます」
聖女様の予感は無視出来ない。
しかしこれ以上何があるってんだ?
「追い込まれた鼠は虎をも噛むと言いますからね。
最後に屑が何かを使うかも知れません」
何かの魔道具か…。有り得るな。
気を引き締めて行こう。
「ペリーニャとはここでお別れかな。終結を見届けたら離脱してね。じゃないと事後処理に巻き込まれるから」
「はい。そうさせて貰います。また何時か…
お二人にお会い出来ませんか」
フィーネと目を合わせ、溜息を吐いた。
「もしも。どうしてもと言うなら…。
俺たちタイラントに帰属してるんで、ヘルメン国王まで召還連絡送って。
ただし。帝国と時期が被ったらそっちが優先だよ」
満面の笑みで頷いた。
「解りました!」
「私たちって…。何時まで休み無いのかな…」
「さぁ?まあ、さっさと糞虫潰して。それからゆっくり考えようか」
「そうね」
---------------
2人と1羽で南中央通りまで来た。
時刻は夕刻前。
王城の上部が見える距離まで南に下がった。
見える正門は固く閉ざされていた。
住民は家に隠れ、通りに人気は無い。
拡声器を取り出して握り締める。
「私はスターレン・シュトルフ。繰り返す。
私はスターレン・シュトルフである。
先程。この声を届けた者だ。
これより。
国王クライフと、王妃フレゼリカの罪状を述べる。
クライフは、国民に払いきれない重税を課し。
フレゼリカは、その集めた血税で私腹を肥やし。
国、内外から集めた多くの民を。
王城の地下に築いた施設に送り込み、人間としての尊厳を奪い取った挙句。
生体兵器へと転換せしめた。
だがそれだけではない。
実験に反対した第二王妃、私の祖母リナディアを殺害。
リナディアの娘であり、私の母リリーナを無実の罪で王家から追放。その後に毒殺した。
2人の殺害に関し、確たる証拠は何も無い。
しかし。
貴様らの犯した罪の数々が、今日のこの結果を招いた。
大多数の兵士諸君が、貴様らに背を向けたこの事実。
この事実こそが確証である。
国内に潜伏する貴様らの協力者たちも、直ぐに粛正される事だろう。
今からそこへ。貴様らの首を刈りに行く。
逃げてもいいが、貴様らの肥え太った身体では。
あの狭い地下通路は通れまい。
大人しく玉座で待っていろ!」
そう言い放った瞬間だった。
ゴンッとした大きな地鳴り。発信源は王城方向。
釣られて目を送る。
聖女の予感は、最悪の形で的中した。
「なに…あれ…」見えた物にフィーネが呟いた。
王城の屋根を突き破って現われた異形の者。
あいつは昔から何でも欲しがる奴だった。
あいつは誰よりも臆病者だった。
あいつは最後に逃げた。手を出してはならない物に。
拡声器をオフにしてフィーネに答えた。
「あの馬鹿を追い込みすぎた。あれは…
あれが、ゴブリンゴッズだ」
その体躯は目測で20m以上。
過去にゴブリンに人間が食われた事例はあっても、人間がゴブリンを食った事例は一つも無い。
私兵や第二王子の部隊千騎も取り込まれたとすると…
単純な武力が数倍に跳ね上がる。
これは通常の沸きじゃない。
「落着いて下さい、智哉。どれ程強かろうと。今の武装であれば、届かぬ相手ではありません」
それは解っている。心配しているのは被害の方だ。
「フィーネ作戦変更だ。今直ぐ正門を突き破ってあの下で湧き出す雑魚を蹴散らしてくれ。
但し、魔力を込めるのはここぞで1発だけだ。
中で枯渇だけはしないで欲しい」
「了解。そんなへまはしないわ。ゴブリンなんかに犯されるのは死んでも嫌よ」
冷静であってくれ。…フィーネを信じよう。
彼女の背を見送り、クワンに指示を出した。
「クワン。君は上空から、赤い弓を持つ奴を探して。
一点突破で排除してくれ。
命中率がアホ程高い弓だ。気を付けて飛んでくれ」
「クワッ!!」
クワンが真上に飛んだ。
「来い!ソラリマ」
『承知』
再び拡声器を握った。
「スターレン・シュトルフだ。
父上。済まない。奴を追い込みすぎてしまった。
王妃フレゼリカは。ゴブリンゴッズを食った。
繰り返す。奴は、ゴブリンゴッズを食った。
城外に出た正規兵諸君。
王城壁に近い近隣住民の避難誘導を願いたい。
出来る限り城から離れて欲しい。
アッテンハイム聖騎士軍。大変申し訳ない。
東通りの防衛線を維持しつつ、城壁から湧き出た雑魚を排除して欲しい。
これは強制ではない。死なない程度の対処を望む。
父上。北門が手薄になっています。
無理を承知でそちらの対処を願います。
我スターレン・シュトルフ。
我の右手には、この世で二本目の聖剣あり。
これより。王城西側からゴッズを食ったフレゼリカの討伐を開始する。
これはマッハリアの恥。
記憶に残しても、決して記録に残すな。
少々奇抜な戦法を執る。そちらも記録はするな。
以降。この声は遮断する」
拡声器を収納し、左手でロープを握った。
全速で駆け抜け、兵士たちの間を抜けた。
閉ざされた正門が破られる轟音。
上空からはクワンの鳴き声が響いた。
ロープを西部頂上に括り、城壁へと飛び乗った。
フレゼリカのがこちらへ向いた。
大口を開いて見せた。
その喉奥からは、紅蓮の炎。
ロープを拡大して弾き返し、西側の城内壁にぶち当てた。
弾ける。ベースの魔力を上げておいて心底良かった。
正門方向では既に戦闘が始まっていた。
フィーネのハンマーの前に隊列などは無意味だ。
どれだけ組もうと所詮は雑魚。
ただ兵士を取り込んだゴブリンは話が変わってくる。
雑魚の中から魔法持ちが現われ出してしまう。
時間は掛けられない。
頭さえ狩り取れば、普通の雑魚に戻る。
狙うはその一手。
「フィーネ。火の魔法が飛んで来ても気にするな。
今の俺たちには通じない。ドライヤー並だ」
「気にしない。気にしないっと」
「クワッ!」
血塗れのクワンが、上空から朱い欠月弓を掴んで飛来した。
それを受け取り。
「仕事が早い!クワンはそのまま西門から溢れた雑魚を頼む!」
「クワッ!!」
離れるクワンに当たらない様に、次々に迫り来る火球をロープで打ち返した。
ホウキで上から落ちてくる埃を払う感じだ。
フレゼリカは移動しない。
奴の足元に解が見えた。
「足が嵌って動けないのか!熟々馬鹿だな、お前は」
打ち返しを止め、ロープの先端を奴のブヨブヨの胸元に深く突き刺した。
絶叫と共に、自棄糞の腕振り。
ゴッズは頭がいい筈なんだが…。
馬鹿に食われて馬鹿に進化したらしい。可哀想に。
太い腕や拳が当たっても、強固なロープは微動だにしなかった。
出来上がった一本道を駆け上がる。
輝く剣を7倍に延長。
掴み、払おうとする腕を容易く剣で弾いた。
弱い…。
フィーネの御父上の方が格段に強かった。
比べる事すら失礼だったな。
終わりだ。糞虫…。
日が落ち、際立つ長すぎる白き大剣は。
遠目から見守る人々の目に焼き付いた。
真っ白な道を駆け上がり、憎き魔を穿つ者。
あれが、真の勇者の姿だと。
ロープを土台に奴の眼前で飛翔した。
最上段に振り上げ。振り降ろす。たった、それだけ。
地に降り立った場所は。
嘗て。母リリーナと歩いた庭園。
ソラリマの刀身を収め、庭園の中心部に向かい、
膝を着いた。
「漸く。仇が取れましたよ。母上」
力を失ったゴブリンを掃気するには、30分も掛からなかった。
国王クライフと第二王子は、フレゼリカの下敷きとなっての圧死が確認された。
圧政を翻さんと勃発した内戦は、誰もが予期せぬ結末となった。
だが。この戦いに終止符を打ち込んだスターレンの願いも虚しく、結果は正確な情報として国内だけでなく、
中央大陸全土に轟く事となってしまった。
そして取り出したのは。
天壌の拡声器と二枚貝。
二枚貝は試した事はあるが、拡声器は初めてだ。
範囲が広すぎて…試せなかったが正解。
二枚貝を俺とフィーネで耳に装着。
形的にはコードレスのインカムが近い。
耳を覆うベージュの貝殻。そこから少し足が生えてる。
「これで声も心も一緒だね」
幸せな二重音声だ。
周囲で沸き上がる喧騒から距離を取り、ぶっつけ本番。
「私はスターレン・シュトルフ。繰り返す。
私はスターレン・シュトルフである。
王妃フレゼリカに穢された王族の末端だ。
王城内外で戦う兵士諸君。
どうか手を止めて聴いて欲しい」
静寂に包まれる広場と、遠く離れた王城。
「王城の地下施設は。この私が粉砕した。繰り返す。
地下の施設は粉砕した。
全ての機材。薬品は破棄して浄化した。
今更掘り返しても何も出ない事を保証する。
マッハリアの正規兵及び所属騎士団諸君。
君たちの足枷は外した。心ある者は武器を捨てて城外に出て欲しい。
薄給で無理矢理従事させられていた従者の皆も同じだ。
地下の施設から救出出来た捕虜はたった五百名弱。
これまでに犠牲になった人員の数からすれば、ほんの一握りだ。
遅くなって済まない」
周りから啜り泣く声がする。
「アッテンハイムの聖騎士諸君。
そこの玉座に座る汚物の首を刎ねる権利は私に在る。
繰り返す。この私の仕事の邪魔をするな。
救出した捕虜を含め、聖女様も。
全員が無事に東本通りの教会前広場に居る。
私もそこに居る。
君たちが早く来てくれないと私が動けない。
出来れば早めに来て欲しい。
それまでここで待つ。
もしも何かしたいならば。フレゼリカに連なる王族と、
地下施設に関わった人物を捕え、城外の兵士に引き渡して欲しい。
最初の伝達事項は以上だ」
拡声器をオフにしてリュックに戻した。
振り返って周りを見渡す。
ペリーニャが拍手をしてくれた。
そこから始まる拍手の嵐。
「喜ぶのはまだ早いです!
近隣の皆さん。使い捨ててもいいシーツや、毛布があったら救助者に与えて下さい。
皆さんを苦しませていた重税も今日で終わらせます。
是非とも協力をお願いしたい」
一層大きな拍手と共に、直ぐに住民たちは動いてくれた。
介助される捕虜たちの姿を眺めながら。
ペリーニャを俺とフィーネの間に立たせて、聖騎士の到着を待った。
それから1時間程が過ぎて。
彼らは現われた。
俺たちの前に跪いた約2百の聖騎士たち。
「お久し振りです。ゼノン。
早速ですが、こちらのスターレン様にご報告を」
ゼノンと呼ばれた男と目が合う。
「スターレン様。聖女様の救出。深き感謝を。
アッテンハイム聖騎士軍所属。第三師団団長のゼノンと申します。
城内に残ったのは、フレゼリカ直属の配下と第二王子の手勢が約千騎。
第二王子に激しく抵抗され。悩みましたが、こちらが優先と考えて放置しました」
「こちらこそ有り難う。千騎か…。
後、俺の声が届いたかは解らないけど。
近場に別動の偵察部隊も来ている様です。
一部を送り、連携は取れますか?」
「ハッ。必ず見付けてここへ連れて参ります。
スターレン様のお邪魔にならぬ様に」
「敵が持っていた転移の魔道具は俺の手中に在ります。
もう聖女様を目の前で奪われる心配はありません。
ここを起点に防衛線を張って下さい」
「はい!あんな失態はもう二度と」
「じゃあ。行こうかフィーネ。正々堂々と正面から」
「行きましょー」
歩きだそうとした俺たちをペリーニャが引き留めた。
「どうかご無事で。スターレン様、フィーネ様」
「もう大丈夫だよ。後は人間相手だし。中には敵しか居ないしさ」
「いえ…。そうなのですが。どうも、…とても嫌な予感がします。油断だけはしないで下さい」
「ご忠告有り難う」
「スタンは直ぐに調子に乗るからねぇ」
「はいはい。肝に銘じます」
聖女様の予感は無視出来ない。
しかしこれ以上何があるってんだ?
「追い込まれた鼠は虎をも噛むと言いますからね。
最後に屑が何かを使うかも知れません」
何かの魔道具か…。有り得るな。
気を引き締めて行こう。
「ペリーニャとはここでお別れかな。終結を見届けたら離脱してね。じゃないと事後処理に巻き込まれるから」
「はい。そうさせて貰います。また何時か…
お二人にお会い出来ませんか」
フィーネと目を合わせ、溜息を吐いた。
「もしも。どうしてもと言うなら…。
俺たちタイラントに帰属してるんで、ヘルメン国王まで召還連絡送って。
ただし。帝国と時期が被ったらそっちが優先だよ」
満面の笑みで頷いた。
「解りました!」
「私たちって…。何時まで休み無いのかな…」
「さぁ?まあ、さっさと糞虫潰して。それからゆっくり考えようか」
「そうね」
---------------
2人と1羽で南中央通りまで来た。
時刻は夕刻前。
王城の上部が見える距離まで南に下がった。
見える正門は固く閉ざされていた。
住民は家に隠れ、通りに人気は無い。
拡声器を取り出して握り締める。
「私はスターレン・シュトルフ。繰り返す。
私はスターレン・シュトルフである。
先程。この声を届けた者だ。
これより。
国王クライフと、王妃フレゼリカの罪状を述べる。
クライフは、国民に払いきれない重税を課し。
フレゼリカは、その集めた血税で私腹を肥やし。
国、内外から集めた多くの民を。
王城の地下に築いた施設に送り込み、人間としての尊厳を奪い取った挙句。
生体兵器へと転換せしめた。
だがそれだけではない。
実験に反対した第二王妃、私の祖母リナディアを殺害。
リナディアの娘であり、私の母リリーナを無実の罪で王家から追放。その後に毒殺した。
2人の殺害に関し、確たる証拠は何も無い。
しかし。
貴様らの犯した罪の数々が、今日のこの結果を招いた。
大多数の兵士諸君が、貴様らに背を向けたこの事実。
この事実こそが確証である。
国内に潜伏する貴様らの協力者たちも、直ぐに粛正される事だろう。
今からそこへ。貴様らの首を刈りに行く。
逃げてもいいが、貴様らの肥え太った身体では。
あの狭い地下通路は通れまい。
大人しく玉座で待っていろ!」
そう言い放った瞬間だった。
ゴンッとした大きな地鳴り。発信源は王城方向。
釣られて目を送る。
聖女の予感は、最悪の形で的中した。
「なに…あれ…」見えた物にフィーネが呟いた。
王城の屋根を突き破って現われた異形の者。
あいつは昔から何でも欲しがる奴だった。
あいつは誰よりも臆病者だった。
あいつは最後に逃げた。手を出してはならない物に。
拡声器をオフにしてフィーネに答えた。
「あの馬鹿を追い込みすぎた。あれは…
あれが、ゴブリンゴッズだ」
その体躯は目測で20m以上。
過去にゴブリンに人間が食われた事例はあっても、人間がゴブリンを食った事例は一つも無い。
私兵や第二王子の部隊千騎も取り込まれたとすると…
単純な武力が数倍に跳ね上がる。
これは通常の沸きじゃない。
「落着いて下さい、智哉。どれ程強かろうと。今の武装であれば、届かぬ相手ではありません」
それは解っている。心配しているのは被害の方だ。
「フィーネ作戦変更だ。今直ぐ正門を突き破ってあの下で湧き出す雑魚を蹴散らしてくれ。
但し、魔力を込めるのはここぞで1発だけだ。
中で枯渇だけはしないで欲しい」
「了解。そんなへまはしないわ。ゴブリンなんかに犯されるのは死んでも嫌よ」
冷静であってくれ。…フィーネを信じよう。
彼女の背を見送り、クワンに指示を出した。
「クワン。君は上空から、赤い弓を持つ奴を探して。
一点突破で排除してくれ。
命中率がアホ程高い弓だ。気を付けて飛んでくれ」
「クワッ!!」
クワンが真上に飛んだ。
「来い!ソラリマ」
『承知』
再び拡声器を握った。
「スターレン・シュトルフだ。
父上。済まない。奴を追い込みすぎてしまった。
王妃フレゼリカは。ゴブリンゴッズを食った。
繰り返す。奴は、ゴブリンゴッズを食った。
城外に出た正規兵諸君。
王城壁に近い近隣住民の避難誘導を願いたい。
出来る限り城から離れて欲しい。
アッテンハイム聖騎士軍。大変申し訳ない。
東通りの防衛線を維持しつつ、城壁から湧き出た雑魚を排除して欲しい。
これは強制ではない。死なない程度の対処を望む。
父上。北門が手薄になっています。
無理を承知でそちらの対処を願います。
我スターレン・シュトルフ。
我の右手には、この世で二本目の聖剣あり。
これより。王城西側からゴッズを食ったフレゼリカの討伐を開始する。
これはマッハリアの恥。
記憶に残しても、決して記録に残すな。
少々奇抜な戦法を執る。そちらも記録はするな。
以降。この声は遮断する」
拡声器を収納し、左手でロープを握った。
全速で駆け抜け、兵士たちの間を抜けた。
閉ざされた正門が破られる轟音。
上空からはクワンの鳴き声が響いた。
ロープを西部頂上に括り、城壁へと飛び乗った。
フレゼリカのがこちらへ向いた。
大口を開いて見せた。
その喉奥からは、紅蓮の炎。
ロープを拡大して弾き返し、西側の城内壁にぶち当てた。
弾ける。ベースの魔力を上げておいて心底良かった。
正門方向では既に戦闘が始まっていた。
フィーネのハンマーの前に隊列などは無意味だ。
どれだけ組もうと所詮は雑魚。
ただ兵士を取り込んだゴブリンは話が変わってくる。
雑魚の中から魔法持ちが現われ出してしまう。
時間は掛けられない。
頭さえ狩り取れば、普通の雑魚に戻る。
狙うはその一手。
「フィーネ。火の魔法が飛んで来ても気にするな。
今の俺たちには通じない。ドライヤー並だ」
「気にしない。気にしないっと」
「クワッ!」
血塗れのクワンが、上空から朱い欠月弓を掴んで飛来した。
それを受け取り。
「仕事が早い!クワンはそのまま西門から溢れた雑魚を頼む!」
「クワッ!!」
離れるクワンに当たらない様に、次々に迫り来る火球をロープで打ち返した。
ホウキで上から落ちてくる埃を払う感じだ。
フレゼリカは移動しない。
奴の足元に解が見えた。
「足が嵌って動けないのか!熟々馬鹿だな、お前は」
打ち返しを止め、ロープの先端を奴のブヨブヨの胸元に深く突き刺した。
絶叫と共に、自棄糞の腕振り。
ゴッズは頭がいい筈なんだが…。
馬鹿に食われて馬鹿に進化したらしい。可哀想に。
太い腕や拳が当たっても、強固なロープは微動だにしなかった。
出来上がった一本道を駆け上がる。
輝く剣を7倍に延長。
掴み、払おうとする腕を容易く剣で弾いた。
弱い…。
フィーネの御父上の方が格段に強かった。
比べる事すら失礼だったな。
終わりだ。糞虫…。
日が落ち、際立つ長すぎる白き大剣は。
遠目から見守る人々の目に焼き付いた。
真っ白な道を駆け上がり、憎き魔を穿つ者。
あれが、真の勇者の姿だと。
ロープを土台に奴の眼前で飛翔した。
最上段に振り上げ。振り降ろす。たった、それだけ。
地に降り立った場所は。
嘗て。母リリーナと歩いた庭園。
ソラリマの刀身を収め、庭園の中心部に向かい、
膝を着いた。
「漸く。仇が取れましたよ。母上」
力を失ったゴブリンを掃気するには、30分も掛からなかった。
国王クライフと第二王子は、フレゼリカの下敷きとなっての圧死が確認された。
圧政を翻さんと勃発した内戦は、誰もが予期せぬ結末となった。
だが。この戦いに終止符を打ち込んだスターレンの願いも虚しく、結果は正確な情報として国内だけでなく、
中央大陸全土に轟く事となってしまった。
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気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
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本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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